第42話 ここで倒していく
私とルースちゃんは診療所から出て、祭りをやっている通りではなく、何もない通りを通りながら宿へ向かっていた。とても祭りの雰囲気を感じられる気分ではなかったからだ。
(エイン)「……シェーラルカさん、大丈夫かな?」
(ルース)「分かりません。ですが、今は何を言っても無意味になるような気がします……」
(エイン)「……、……ね、オークの討伐どうする?早めにしないとだよね?10体全員倒したから、帰ってこないの疑問に思ってるだろうし……」
(ルース)「ですね。とは言っても……あのオークに対して確実に勝つ事が出来る人員を用意するには些か時間が足りないかと……シェーラルカは参加しないでしょうし……今特攻しても可能性は低いかと……」
(エイン)「うん。参加しないって言ってた。……?可能性は低い?絶対無理じゃなくて?」
(ルース)「?えぇ。あのオークを倒すだけなら、私とエインだけでも可能性はあります。シェーラルカが居てくれれば更に。ただそれでも良くて30%程度かとは思いますね。あの鎧さえなければもっと高いのですが……」
(エイン)「30%か……んー……意外と高いね」
(ルース)「……、エインは勝負師ですね?」
ふふふっと笑みを溢して、ルースちゃんは私の頭を撫でてきた。そんなに変な事を言ったのであろうか。よくわからない。
……………
それから私たち2人は何事もなくホテルまで戻ってきた。何もする事はないので2人でボケーっとしながら外を見ている。祭囃子が聞こえ、お神輿を担いだ男の人達がわっしょいわっしょいと言いながら、街の中を歩いているみたいだ。
(エイン)「ここにもお神輿なんてあるんだ。懐かしいな。村で見たものとはだいぶ違うけどね」
(ルース)「……、え?エインの村にもあったのですか?」
(エイン)「うん。でも古いし、使われているところも見たことないけどね」
(ルース)「そうなのですか?宝の持ち腐れといった感じですね」
(エイン)「んー、どうだろね。あんな感じにわっしょいわっしょいしたら壊れちゃう可能性もあるし、あれはあれで良かったとも思うけど」
(ルース)「そう、ですか?」
何かを言いたげにルースちゃんは小首を傾げているけれど、特に気にする事もないかと思い、とりあえず放置する。そしてルースちゃんは目を瞑りながら少し止まった後、首を縦に一度だけ振ってから目を開けた。
(ルース)「しばらくは休憩ですね」
(エイン)「え?あぁ、うんそうだね」
ルースちゃんはそう言ってからベッドに寝転がった。寝息を立て始めたわけではないが、目を開いたまま動かなくなる。私はというと、窓の近くの椅子に座って窓から街の様子を見ていた。街の様子は昨日と特に変わりはなく賑やかだ。
平和っていいなぁ。
ツァービさんやシェーラルカさん達を見ると余計にそう思う。
(エイン)「……、ルースちゃん、大丈夫?」
びっくりするくらい動かないので一応声をかけてみる。
(ルース)「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
返事をする時もびっくりするくらい動かなかった。ルースちゃん的にも大ダメージなんだろうか?元々知り合いっぽいし、そうなのかもしれない。
……………
結局何もする事がないまま、もうすぐ日が落ちそうな時刻まで休憩していた。身体は十二分に休めている。しかし、何処となく気が晴れない。それはルースちゃんも同じようで右に左にゴロゴロしながら落ち着かない様子だ。
王女様もあんな事するんだ。かわいい。
そんな中ガイドさんが帰ってきた。
(ガイド)「ただいま」
(エイン)「あ、おかえりなさい。どうでした?あの後何か変わりましたか?」
私はガイドさんに駆け寄って近づいた。
(ガイド)「いえ、何も好転せず……あれ?シェーラルカさんはお風呂とかですか?」
(エイン)「え?戻ってませんよ?」
(ガイド)「おかしいですね?先に帰ると言って診療所から出ていってしまったんですけど……」
(エイン)「うーん、自分の宿に戻ったのかも?」
(ガイド)「あ、そうか。宿違いますもんね。話したい事があったのですが……」
(ルース)「でしたら、シェーラルカの泊まっている宿にいきますか?」
(エイン)「?場所知ってるの?」
(ルース)「いえ、知りません。ですがシェーラルカ達は街の端の方の宿に泊まる傾向がありまして……その周辺を探せば見つかるかと」
(ガイド)「だったら魔力探知しながら探しましょうか。その方が早いと思いますし」
(エイン)「賛成!お願いします!」
というわけで、私たちは街の端の方まで歩いてきた。ガイドさんは魔力探知を使いながらシェーラルカさんを探しているみたいだけど、全然見つからないらしい。
(ガイド)「おかしいですね。見当たらない……」
(エイン)「街の外に出てるのかな?」
(ルース)「そんな事は……!!……!……あり得なくはない……!!ガイド様!!オークの!!オークの住処を範囲に含め!!探知して下さい!!!」
(ガイド)「え、えぇ。分かりました」
ルースちゃんはいきなりガイドさんにくってかかるのかと思うほどの勢いでお願いした。ガイドさんはその勢いに若干引いてたけど、魔力探知を始める。ガイドさんは今まで以上に集中して魔力を探っているようだ。目を瞑りながら、こめかみを人差し指でトントンと叩いている。
(ガイド)「……、見つかりました!!オークの巣窟にいます!!ですが何故場所を……、東門の情報しか知らないはずなのに……」
(エイン)「そんな事より!早く行かなきゃ!!」
(ガイド)「そ、そうですね!あなた達は一旦待機!私がまず行ってきます!!」
(エイン)「た、待機?!で、でも!!」
(ガイド)「転移門・開!!!」
ガイドさんの目の前に渦を巻いた黒い扉が突如として現れた。扉が開き黒い渦が顔を見せる。そこにガイドさんは入っていく。ガイドさんが入るとともにその黒い扉は消えた。
(エイン)「い、いっちゃった……そっか、転移門繋いでたんだっけ?ど、どうしよう?」
(ルース)「……、待機……するしかありませんね。下手に動いてしまっては……、いえ。診療所の方へいきましょうか。もしシェーラルカが負傷していた場合、直ぐに診察できた方が?!」
これまた突如として黒い扉が開いた。そしてその中から出てきた腕がルースちゃんを引き摺り込む。急に引き摺り込んだからか、ルースちゃんは声が裏返っていた。
(エイン)「……、……!ど!どうしよう?!え、えっと!し、診療所?!で、でも!引き摺り込まれちゃったし!!え!引き摺り込んだのガイドさんだよね?!ど、どうし!わぁっ!!!」
私も急に何かに引っ張られて黒い渦に飲み込まれていく。その時の意識はなくて、気がついたら目の前にガイドさんとルースちゃん、そして項垂れて壁にもたれかかかっていたシェーラルカさんがいた。シェーラルカさんは服が汚れているし、髪留めは取れていてポニーテールではなくなっていた。そして何より、目に光がない。
場所としては、洞窟の中だ。松明が等間隔に置かれていて薄暗いけど皆んな見えるほどには明るい。何処か開けた空間のようで道が2つに分かれている。
(エイン)「シェ、シェーラルカさん……?」
(ガイド)「エイン、ルースさん、ちょっと良いですか?」
(エイン)「?なんですか?」
ガイドさんが近づいてとばかりに人差し指を細く振るので、私とルースちゃんはガイドさんにかなり近づいた。
(ガイド)「……!……♡!」
(エイン)「……、何か邪な事考えてる?こんな時に!このスケベ!!見損なった!!!バーカ!!!」
(ガイド)「え!?ち、ちがいます!!だって!今は安全タイムですし!!」
(ルース)「?違わないのでは?」
(ガイド)「ルースさん?!」
(エイン)「それで、何なの?何かあるんですか?」
(ガイド)「……、あぁ、えっと、流石に異名持ち?なだけはあって、【あのオーク】と【転移門を使える子】の魔力以外は消えています。残りのオークを葬ったのでしょう。……、心を乱していたせいか、怪我をしていましたが治癒したので大丈夫です」
(エイン)「そっか、治ったんだ。良かった!」
(ガイド)「はい。さて、ここからが本題です。ものはついでです。ここで彼らを倒してしまいましょう。私は転移門の子を抑えます。あなた達はオークを倒して下さい」
(エイン)「え、オークを?私たちだけで、ですか?」
(ルース)「……、本気……ですか?」
(ガイド)「もちろん。だって、あなた達3人なら勝率は100%ですよ」
(エイン)「ルースちゃんは30%って言ってなかった?」
(ルース)「はい。そのくらいだと思いますけれど……」
(ガイド)「ルースさん、ルースさんだけでも五分五分です。そのルースさんに近い実力者がもう1人いて、それにエインもついています。油断さえしなければ勝つ事は簡単ですよ」
ルースちゃんは少し沈黙した後、顔を両手で顔を叩いて大きな音を鳴らした。
(ルース)「承知しました……!」
ルースちゃんの目は先ほどよりもギラついた目をしているみたいだ。優しい目から鋭い目に変わっている。
(ルース)「シェーラルカも呼んできますね。作戦を考えねば」
ルースちゃんはそういってシェーラルカさんのところまで離れて行った。
(エイン)「ね、本当に100%勝てるの?」
おそらくルースちゃんには聞こえないであろう距離と声量で私はガイドさんに話しかけた。正直な話、100%は嘘くさく感じる。
(ガイド)「あら?信じられませんか?」
(エイン)「うん。ガイドさんやルースちゃんそれにシェーラルカさんにも、申し訳ないですけど」
(ガイド)「まぁ、嘘です。30%は低すぎますけどね。大体50%です。つまり五分五分ですよ」
(エイン)「え、半分?」
(ガイド)「はい」
(エイン)「そんな嘘ついていいの?」
(ガイド)「……、見たところあの子は自信が足りないように思います。おそらく鬼人に殺されかけてからでしょうけど。……自信は強さになります。あなたみたいに【自信があろうとなかろうとやれる事をやる】みたいな人はそういうものはいりませんが……弱い意識では身体が思った以上に動かない人は結構多いんですよ?」
(エイン)「でもルースちゃん、お兄ちゃんにいい構えだって言われたらしいよ?」
(ガイド)「それは覚悟の話なのでは?命の取り合いになってしまった時に、恐怖に呑まれて動けなくなるなんて事は当たり前に起こります。その事だと思いますね」
(エイン)「何か違うの?」
(ガイド)「全然違いますよ。まぁ、その辺はおいおい話しましょうか?」
そう言った瞬間、ガイドさんは後ろを向いて何もない空間に軽く手を振った。バチンッという音が鳴った後、辺りは静まり返る。おそらくそこには何かいる。しかし、私にはその何かが見えない。
(ガイド)「あ!逃げた!!兎に角!!このまま真っ直ぐ逆に行きなさい!!そこにオークがいます!!待ちなさい!!'ビリカ'!!!!」
ガイドさんは叫びながら洞窟の奥にまで進んでいった。
いっちゃった……最後名前っぽいの呼んでた気がするんだけど……もしかして知り合いなのかな?まぁ、元魔王ならそういう悪の手先?みたいな人も知り合いにはいるんだろう。
(エイン)「何はともあれ、作戦会議だ!」
お疲れ様です。
洋梨です。
無謀にも程があるだろな感じだし、無謀は勇気とは言わないんだぞと言ったのはシェーラルカ、貴方だぞ、と言いたくもなりますが。それほどまでに本人的には許さないものがあったんでしょうね。




