第41話 記憶の蓋
(シェーラルカ)「ツァービィィ……うぁああ……!」
オークの処理をしてからガイドさん達の所に戻ると、シェーラルカさんがツァービさんを抱いてポロポロと涙を流していた。
私はガイドさんに目線を合わせる。するとガイドさんは両手で大きな丸を作って笑顔になった。どうやら成功したみたいだ。良かった。
……………
ツァービさんを連れて街の診療所まで来た。流石にガイドさんだけでは、応急処置で命を取り留める事がやっとだったらしく、完全回復にはお医者さんの力が必要との事だった。お医者さんはお医者さんでルースちゃんの白髪の王族の回復魔法を見てみたいと好奇心旺盛な人で、結局その3人でツァービさんを治療することになったらしい。
つまり、私とシェーラルカさんは2人っきりになったのだ。
(シェーラルカ)「良かった……よかったぁあ……!」
シェーラルカさんは胸の辺りで拳をぎゅっと握りしめて、とても嬉しそうに綻んだ笑顔を浮かべている。
(シェーラルカ)「エイン、ありがとうな!エインがいなきゃ私たちはツァービを救えなかったかもしれない……本当にありがとう!!」
(エイン)「え、えへへ。どういたしまして!……ところでその……」
(シェーラルカ)「なんだ?」
(エイン)「こんな時になんなんですけど……、オークの事どうしますか?討伐しないとですよね?」
(シェーラルカ)「……、討伐……か。そうだな。冒険者としてそれはやらないといけない……が……私は降りたいと思ってる……」
(エイン)「え?!そ、そんな!!なんでですか?!」
(シェーラルカ)「……、私が異名持ちなのは知ってるよな?」
(エイン)「は、はい」
(シェーラルカ)「異名ってのは強くて活躍した冒険者に与えられるんだが……、其れ相応の実力を持っているにもかかわらずごく稀に異名を持ちたくないってやつがいるんだ。理由としては色々あるけど、ツァービの場合は同じパーティーである鬼娘を【より目立たせる為】らしい」
(エイン)「!!じゃ、じゃあ!!ツァービさんも異名持ちくらいには強いんですか!?」
(シェーラルカ)「……、少なくとも私よりは断然強い。そんなツァービが負けるような相手に……さ……勝てるわけないだろ……?」
そう言ったシェーラルカさんの拳は固く握られていて、身体も小刻みに震えている。それが怖くて震えているのかどうかは分からなかったけど、言える事は一つだけある。
(エイン)「……、でも!私はシェーラルカさんがいないと勝てるものも勝てなくなると思います!!」
(シェーラルカ)「??」
(エイン)「討伐は万全の体制で挑むらしいので!!シェーラルカさんが参加してくれないと万全じゃなくなっちゃいますよ!!」
(シェーラルカ)「……、それでも……私は……」
シェーラルカさん、きっと自信を喪失している感じだ。なんとかしないといけないけど……そうだ。
(エイン)「……、ツァービさん、オークに嬲られた感じでしたね」
(シェーラルカ)「あ?」
食いついた。
(エイン)「あの様子じゃあ、オークに散々好きにされたんですよ。でなきゃ、そんなに強いツァービさんがあんなに死にかけているなんて、うぐ……!」
(シェーラルカ)「やめろ。それ以上何も言うなよ」
シェーラルカさんは私の胸ぐらを掴んで持ち上げた。私はなすすべなく持ち上げられ、若干苦しいがまだ続ける。
(エイン)「別に……!シェーラルカさんがいいならいいですよ……!ツァービさんの仇を取りたくないなら……!私は取りたいと思った……!だから私は……是が非でも参加します……!」
(シェーラルカ)「煽ってるつもりか?……浅はかだな」
(エイン)「はい……!煽ってます……!でも……!事実です……!!ツァービさんがされた事も……!私がそう思った事も……!!シェーラルカは……!何も思わないんですか……!?」
(シェーラルカ)「……ちっ……!!」
シェーラルカさんは私を壁に投げつけた。壁って投げつけられるとかなり痛い。真似しちゃダメだよ。
(エイン)「……っ!」
(シェーラルカ)「口車には乗らねーよ。私はツァービが治ったらこの都市を離れる。そもそも予定があるしな……、エイン……自分より遥か強い奴に無謀に立ち向かう事を勇気とは言わねーからな……よく覚えておけよ……先輩からの忠告だからな……」
そう言って、シェーラルカさんは何処かに行こうとする。私はそれを食い止めるべくシェーラルカさんの前に出て大の字で道を塞いだ。
(エイン)「逃しません!!」
(シェーラルカ)「え?あの、いや、話を聞いてくれ?」
(エイン)「そうやって逃げていいんですか!?強い者に蹂躙される事が怖い事は知っています!実は私の左手は義手なんです!!」
(シェーラルカ)「え、あぁ、そうなのか……」
(エイン)「ちょっと前に鬼人に斬られてしまって……その鬼人は強くて、私はもちろんルースちゃんにとっても厄介な相手だったんです!!!」
(シェーラルカ)「あ、あぁ、そっか……そうなのか……」
(エイン)「……私はその時死んだと思いました。あぁ、ここで死ぬんだって……ルースちゃんが助けてくれなかったら私は確実に死んでた。だからと言う訳じゃないけど……、強いからって逃げてしまったら……あの時の事を裏切ってしまう気がして……」
(シェーラルカ)「……、それはおまえの話だ。私には関係がない」
(エイン)「……!バカ!!シェーラルカさんはそれでいいんですか?!」
(シェーラルカ)「いやだから!良いって言ってるからな?!」
(エイン)「本当に後悔しませんか?!あのオーク達に一方的にされたままで!!それでも後悔しませんか?!!?」
(シェーラルカ)「エイン、さっきも言ったけどな。それは勇気とは言わねぇんだぞ……生きててこそのさ、人生だろ?後悔したって……それは生きてる証拠じゃないか。後悔が何もかも悪いわけじゃないんだ」
そう言って私の頭を撫でながら、シェーラルカさんは少しだけ涙目になる。そんな目を見て私は何も言えなくなってしまった。
(エイン)「……、……!……」
(シェーラルカ)「分かってくれたか?」
(エイン)「私は……参加しますよ……」
(シェーラルカ)「……、私がそれを止める事はない。好きにやれ」
(ルース)「シェーラルカ!!エイン!!」
その時、ルースちゃんが慌てて駆けてきた。ツァービさんが目を覚ましたらしいのだが、どうも様子がおかしいらしく、シェーラルカさんに来てもらいたいのだそうだ。私も様子が気になるのでついていく。
ツァービさんが治療されていた部屋に着くと、ツァービさんはベッドの上で上半身を起こしたまま目を瞑っていた。ルースちゃん曰く、瞑想しているらしい。
(シェーラルカ)「様子がおかしいってなんだ?」
(ルース)「それが……えっと……」
(ガイド)「一度話しかけてもらえれば分かるかと……」
(シェーラルカ)「話しかけたら分かる?……?まぁ、話してみるよ」
そう言って、シェーラルカさんはベッドの横にあった椅子に座り、ツァービさんより少し視線を下に持ってきて話を始める。
(シェーラルカ)「ツァービ、身体の調子は如何だ?どこか痛むのか?」
(ツァービ)「……いえ、痛みは特にありません。……あの、すみません……どちら様でしょうか?」
ツァービさんは微笑みながらそう言った。私が見ても分かるほどの【初めましての雰囲気】を纏いながら。
(シェーラルカ)「……は?じょ、冗談よせよ……な…ぁ?シェーラルカだ……!一緒に旅してる……!パートナーだよ!」
(ツァービ)「パート……ナー……うっ……!」
ツァービさんは急に頭を抑えて蹲るようにして固まってしまった。
ツァービさんの事はとりあえずお医者さんに任せて、シェーラルカさんと私は別室でガイドさん達の説明を受けることにした。
(ガイド)「端的に言えば……記憶喪失です。余程辛い目にあったのでしょう。記憶に蓋をしてしまっています」
(シェーラルカ)「じゅ、術のせいとかじゃねーのか?!重要な情報知ってしまったとか!!」
(ガイド)「魔力が感じられませんでした。自ら潜在意識の中で蓋をして開かないようにしているんだと思います。第一、それ程の情報を知っているのなら……間違いなくその場で殺されてしまっています」
(シェーラルカ)「そ、そんな……!じゃあ……ツァービは……!私の事をずっと忘れたままなのか?!!」
(ガイド)「……、一時的である事を望むしかありませんね」
(シェーラルカ)「……!……、治る方法は……ないのか……?」
ガイドさんは首を軽く横に振った。治る方法はないということなのだろう。シェーラルカさんは壁に拳をめり込ませたまま固まってしまう。
(シェーラルカ)「なんで……なんでだよぉ……」
(エイン)「シェーラルカさん……」
(ルース)「エイン、今はそっとしておいてあげましょう……」
私がシェーラルカさんの方へ歩こうとするとルースちゃんに止められた。そして手を引かれて私たちはこの場所から離れた。
お疲れ様です。
洋梨です。
記憶喪失、王道ですね。




