第36話 喧嘩ともども、あられもなし
ルースちゃんが丸太の前で剣を構えて立っている。
(エイン)「ねぇ、ガイドさん。そういえば鎖とか吹き飛んだのに丸太は倒れもしなかったけど、あの丸太は何なんですか?」
(ガイド)「倒れなかったのはただ丸太が地中に埋まっているだけですよ。壊れなかったのはあれが『女神の大木』である事が理由ですね」
(エイン)「女神の大木かぁ。なるほど。そういえばさっき言ってたね」
女神の大木は勇者様伝記にも出てきた事があるし、何なら私の村でも話に聞いた事があるほど有名だ。その強度はこの世にある物で最も硬いものとまで言われ、何をしてもほぼ壊れないほどの硬さだという。けど、かなり貴重な物でこんな所にあるとは思わなかった。
(シェーラルカ)「でも不思議だよな。女神の大木がこんなに丸太になってるなんてよ。誰がこんな芸当出来んだよ」
(ツァービ)「遥か昔の勇者様ならあるいは……くらいね」
(シェーラルカ)「ほんと、勇者様は何でもありだな」
その時突如、ルースちゃんは息を深く吸い込んで、足に力を込めた。そして勢いよく飛び出す。
(ルース)「王家一閃!!!!」
ルースちゃんは丸太に向かい全力で剣を振った。丸太に刃が少し食い込むものの、到底斬れるまで迄には程遠い感じだ。
ルースちゃんはとても悔しそうな顔をしている。
(シェーラルカ)「アレで無理なら、大半は無理だな。けど……お前、やってみろ」
(エイン)「……、え?私?」
(シェーラルカ)「あぁ。おまえの実力が知りてぇからな」
(エイン)「えぇ……」
言われるがまま私は丸太の前に立つ。私は青い石が嵌め込まれた仮面をつけた。
どうしようかな。まぁ、なるようになるか。
(エイン)「冒険者のエインです!よろしくお願いします!」
そして、丸太から少し距離を取り剣の構えを取る。
(エイン)「付与・風」
私は剣の周りに風を集める。少し身体を捻り、その捻りを勢いよく返した。
(エイン)「鳶玉・檸檬!!!」
技は綺麗に発動した。丸太に直撃したが傷一つも付いていない。
(エイン)「んー、やっぱり無理か」
私たちはルースちゃん達のところへ合流する。そこではルースちゃんとシェーラルカさんがまた火花を散らせていた。何がそこまで2人をそうさせるのかは分からないけど、2人とも機嫌が悪い。私はそっと仮面をしまう。
(シェーラルカ)「だけど、王族ってのもたいした事ねぇな」
(ルース)「傷一つもつけられないのに、良くもそのような事を宣えましたね?」
(シェーラルカ)「あぁん?」
(ツァービ)「いい加減にしなさいよ。全く……」
(シェーラルカ)「何だよ、ツァービ。こいつの肩持つのかよ?」
(ツァービ)「2人とも頭が固いの。いい呪文を教えてあげましょうか?」
(ルース)「良い呪文、ですか?」
(ツァービ)「……ふふ、シェーラルカは『お願い、友達になって』、姫は『いいよ、友達になろう』、これだけ」
(シェーラルカ)「ふざけんじゃねぇ!!!!誰がコイツなんかと!!!」
(ルース)「そうです!!!誰がこの人と!!!」
なるほど。ツンデレなんだ。ルースちゃんは友達が欲しいとか言ってた割には、友達がいたんだ。ただ、自分から行くのは恥ずかしいといったところだろう。アレッタさん達はこの事は知らなそうだな。多分。一見は明らかに仲が悪いし……いや、分かんないけどね。
(エイン)「ルースちゃんは友達欲しいんじゃなかった?」
(ルース)「それは!!そうなのですが!!鬼娘は!!」
(シェーラルカ)「その呼び方をするんじゃねぇつってんだろ!!!」
その時ガイドさんが手を2回叩いた。
(ガイド)「はいはい。そこまで。いい加減にうるさいですよ。他人の迷惑を考えなさい。お祭りは【楽しく騒ぐもの】です」
(シェーラルカ)「なんだよ!!入ってくんなよ!!!」
(ツァービ)「シェーラルカ、落ち着いて」
意地の張り合いって怖いな。そうだ
(エイン)「ガイドさん、丸太壊しやらない?」
(ガイド)「?何ですか?急に」
(エイン)「唖然とすれば頭が冷えるかなって」
(ガイド)「ショック療法ですか?効きますかね?」
(エイン)「大丈夫ですよ!丸太を壊せば唖然とします!!」
(シェーラルカ)「?何言ってんだ?あんなもん壊せるわけねーだろ!!」
(ガイド)「壊せるかどうかでいえば壊せますよ」
(シェーラルカ)「え?マジか?じゃ、じゃあ!壊れなかったら!ちゃんと謝れよ!!」
(ガイド)「良いですけど……では、壊せたのなら3サイズ教えてくださいね。これでおあいこです」
(ツァービ)「わっかりましたあ!!」
え?返事するのそっちなんだ。しかも何で元気よく返事したんだろ?シェーラルカさんは口がポカンと開いてるし。まぁ、いいや。
ガイドさんは丸太から少し距離を取り、深呼吸した。位置的には私の時と変わらない。
(ルース)「エイン、ガイド様は壊せるでしょうか?勿論強さを疑っているわけではありません。レイン兄様よりも強いかとは思っています。だからと言って……」
(エイン)「んー、まぁ、壊せなかったら壊せないで良いんじゃないかな?頭冷えたでしょ?」
(ルース)「……そうですね。ありがとうございます」
(ガイド)「それじゃあ!始めます!!近づいて消炭になっても自己責任でお願いしますね!!」
ガイドさんは身体の前で手を叩いて大きな音を出した。その瞬間膨大な魔力がガイドさんから放出される。
(ガイド)「黒炎魔術!!獄炎の不死鳥!!!!」
ガイドさんの足元から黒い炎が噴き出してきた。その炎がガイドさんの掌で鳥の姿を形作る。その鳥を作って尚、足元から噴き出る炎は弱まらない。
(ガイド)「さぁ!いってらっしゃい!!」
ガイドさんは黒炎の鳥を丸太目掛けて投げ飛ばした。凄まじい勢いで鳥は丸太へ向かう。丸太にぶつかる寸前、ガイドさんは「バン!!」と言った。そしてその瞬間、鳥は爆発し、鳥の半径2メートルくらいが球体の中に閉じ込められた。球体が消えるとその中にあった何もかもが消え去った。爆発風がこちらへ来ることもないまま、本当にその場のものだけが消えた感じだ。それが証拠に包み込まれなかった丸太は、綺麗に形が残っている。
私の思惑通り、私を含めたその場にいた人達は全員唖然としていた。
(ガイド)「本気出しちゃった!さあ!3サイズお願いします!!」
(シェーラルカ)「……、あ、その……ほんとに言わないとダメか?……ここでは恥ずかしいというかさ……」
(ガイド)「全く仕方がないですねぇ……!そこの陰でこっそりと……!!」
ガイドさんとシェーラルカさんは一瞬にして少し遠くの路地裏へ入って行った。
(出店の主人)「嬢ちゃん、これ景品。渡しといてな」
(エイン)「はい。ありがとうございます」
私は出店のお爺さんから木槌を貰った。
(エイン)「エイン一行は木槌を手に入れた!!パッパッパーン!!!」
(ツァービ)「ところで、姫の所はレイン様がいたよね?どこに居るの?」
わぁ、私の発言完全無視だ。
(ルース)「ここにはおられません。私はこのエインのパーティーに所属している身ですので」
(ツァービ)「ふーん、そう。というか姫のパーティーじゃないんだ?ま、良いけどね。頑張りなさいね」
(エイン)「うぇいや」
いきなり頭をぐしぐしと撫でられたので変な声を出してしまった。でも、意外と心地が良い。優しい撫で方だ。
お疲れ様です。
洋梨です。
ガイドさんははちゃめちゃに強い設定なんです。




