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勇者様ってなんですか!?  作者: 洋梨
第1章 勇者様の基礎
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第4話 私の思う勇者様

 翌日、起きた朝にはガイドさんはしくしくと泣いていた。泣くほどのことかと思ったけど、無視した私も酷いことしたとは思うので、とりあえず謝ろう。



「ガイドさん……、すみません。眠たかったんです」



 嘘であるがそう言っておく。眠らないといけないのは事実だし。



「いいですよぉ……いいんです……エインにとって私なんて結局そんな存在なんです……」



 どうしよう、否定しようにもその材料がないや。どういったもんかな?



「……そこはねぇ!!嘘でも『そんなことないですよ、ガイドさんは素敵な人です』とか言って欲しいなぁ!!!」


「自分で嘘でもとか言う人にそんなこと言っても……って感じですかね?」


「あ!!またそんなこと言う!!エインってほんと性格悪いですよね?!」


「お互い様ですよね?」


「……たしかに?」



 肯定するのか。いやまぁ、双方とも性格はたしかに汚いんだけど……、肯定しちゃうんだ。


 そんな感じで朝は少し騒がしかったが、朝食を終え、また歩き始めた頃には落ち着きを取り戻した。



「今日もずっと歩くんですか?」


 

 私は目的地の場所を知らない。リンダたちが健診でずっと行っていた街だけど、私はいつも留守番をしていたから何も知らないのだ。その点、ガイドさんは各地を旅していたそうで主要都市の距離は大体だが、推測できると言う。



「いえ、今日は3時間ほど歩けば街に着きます。しかし、最近妙な話を聞きました」


「妙な話?」



 私たちは立ち止まらずに話している。特に急ぐ必要もなければ、体力をつけるために走るわけでもない。むしろ、いざという時の為に体力は温存しておくこととガイドさんに言われているので、あまり体力の消耗が激しいことは出来ないのだ。

 その為、会話は簡単に出来る。



「ここ最近の話らしいのですが、"ゴブリンライダー"が出るらしく、危ないそうで」


「ゴブリンライダー?」


「えぇ」



 話は見たことがある。勇者様伝記に登場していた魔物だ。確か、緑色の不細工な上裸の小人が、馬の魔物や犬の魔物に乗り機動力を得た魔物だという。強さはその辺の魔物よりは若干強いらしいが、それほどでもないと書いてあった。

 でもおかしい。ここ最近もリンダたちは街に通っていた。ゴブリンライダーの話があるなら、そう言っている筈なのに。



「何年前の話ですか?」



 人は歳を重ねるごとに『最近の幅』が長くなると聞いたことがある。何百年も生きているガイドさんならここ最近を数年前と思っていてもおかしくはない。



「はて、何年前でしょうか?10年は前だったかと思いますが……私が前この辺に来た時が確かそのくらいだったので」



 やはりだ。この人の時間の感覚は少しおかしい。もはやお婆さんの域に達している。年齢的にはお婆さんどころか化け物ババアだが、見た目は20代半ばぐらいの、1番良いとされる肉体年齢だろう。それくらい若々しい。



「まぁ、いいです。とりあえず何も出ないことを祈りましょう」


「経験値を積むことは大事ですが……まぁ、特に危険を犯す必要もありませんからね。それで賛成です」



 ガイドさんは優しくふふッと笑う。私のことがそれほど好きなのだろうか?嫌な女でも好かれるのは悪い気がしないと思ったけど、やっぱりそれは嫌だ。


 それからしばらくは特に何もないまま、歩いていたのだが、歩き始めて少し疲れが見えた頃に、少し先に誰かが倒れているように見えた。


 私たちはその誰かに駆け寄る。その人は女の人で、綺麗な衣装を身に纏っていた。如何にもなお金持ちそうで、おそらく貴族とかそういった家がいいところの人だと思わせるほどだ。

 しかし、おかしい。周りには誰もいない。この人以外誰もだ。普通こんな家系が良さげな人のところなら護衛の1人や2人や100人いてもおかしくはないだろう。それでも誰もいないのだ。


 疑問は色々あるもののとりあえず安否確認をしようと私は女の人の顔をよく見る為にしゃがみ込もうとする。その瞬間私の身体は勢いよく、後ろに飛んだ。ガイドさんに引っ張りながら持ち上げられたのだ。それにも関わらず、私の僅か数センチメートル目の前には大きくて歪な歯が並び、その周りには花の花弁がいくつかくっついた化け物が涎を垂らしていた。


 私はダラダラと汗を垂らしながらもピクリとも動けない。今、ガイドさんがいなければ確実に死んでいた。目の前にいるのは明らかな化け物だ。今までの私が相手をしてきた魔物とは桁違いの完全な化け物だ。人を幾度と喰らっているだろうと思える化け物だ。私はそんな化け物に完全に萎縮してしまった。



「これも経験ですね。あまり不用心に近づいてはいけませんよ。何があるか分かりませんからね。これくらいは反射で躱せるくらいになれば近づいていいですけど」


「……」



恐怖という感情か、どういった感情かは分からない。ただ何も答えられなかった。今の現状がぐるぐると渦を巻いて、悪いことばかりを想像してしまう。死んだ、確実に死んだ。その事実が目の前まで迫った感情は、私をぐちゃぐちゃにする。



「しっかりしなさい」


「い!!」



 ガイドさんはいきなり背中をつねってきた。私は痛さで我に帰る。ようやくガイドさんの顔を見ることができた。



「初めは誰でもこんなものです。だから、皆教えを乞います。どうやったら死なないか、どうやったら勝てるのか、生き残れるのか。自分だけでそこに至れる強者などごくごく僅か、何も恥じる事はありません」


「こ、これは……何ですか?」



 私は半泣きになりながらというか、もう既に泣いていたのだが、涙を拭いて今目の前にいる化け物の名を問うた。私だって、強者になりたい。



「お見事です。これは"マンイーター"の一種でしょうね。マンイーターとは、主食を人とする魔物のことを指します。植物や動物といった垣根はなく、全範囲に存在すると言われています。このマンイーターは植物タイプですね、俗には"食人植物"という言い方が合っているでしょうか?」


「マン、イーター……しょくじん、しょくぶつ……」



 初めて見る化け物は、一向にこちらを襲ってくる気配はない。それどころかは少し身体を引いて離れようとする構えだ。それを分かってか、ガイドさんはこのタイミングで私を地面に降ろした。



「エイン、この植物、非効率だと思いませんか?」


「非効率?」


「はい。ここは人通りもさほど多くはありません。しかし、街の近くではあります。こんな所で構えていては人など食えず、寧ろ討伐の危険性すらあります。それがどうでしょう?こんな所に根を生やし、獲物を待っている。どう考えても非効率です」


「……たしかに」


「そんな事を考える知能がないと言えばそれまでですが。この植物には面白い特徴があります」


「特徴?」



 その時、マンイーターは根っこを地面から抜き出し、どこかに向かって走っていった。根を器用に使って足みたいにしているのだ。私はそんな動きに固まってしまった。怖い怖くない云々以前に、正直走り方がキモかった。もう忘れたいほどに。



「あのように動いて場所を変えることができるのです。そしてまたどこかに根を張り、獲物を待つ。時にはあの歩いている時に獲物を捕食することもあります。純粋な強さはそこまでありませんが、エインが引っかかったように擬態は高性能です。次の被害者がいない事を願うばかりですね」


「はい……」



 本来なら追いかけなければいけない。追いかけて倒して、少しでも被害を減らさなきゃいけない。全ての魔物を倒して被害を無くしたいとかそんな傲慢な事は考えてない。けれど、仮にも勇者様だ。目の前にある危険因子は取り除くことが、役目なのではないだろうか?成り行きは成り行きだが、なると決めた以上、やれることはやるべきだ!



「私、あれ追いかけて仕留めてきます……!」


「ダメです」



 私がマンイーター追いかけようとするとガイドさんは私の首根っこを掴んで止めた。それでも私は追いかけようと前に進もうとする。



「ダメって言ってるのに……」


「アレのせいで被害が出たらどうするんですか?!」


「被害はいつでもどこでも出てしまうものですよ。今更アレを追いかけても、あなたじゃ追いつけませんし無駄です」


「やってみないと分かりません!!すぐ側で根を張ってまた待ち伏せしているかもしれないし!私はアレを倒してきます!!」


「死んでもですか?」


「……、勇者様の伝記にはこう書いてあります……!勇者たるもの恐るべからず……!死の恐怖に怯えたとして……!誰かを助けるために怯えるべからず……!と!!行かせてください!!」


「今回だけです……」



 ガイドさんがそう言いながら私を掴んだままその腕とは反対の手で指をパチンと鳴らした。遠くから大きな爆発音と共に断末魔が聞こえてくる。煙は少しだけ見えている。離れている距離はおそらく私たちが2時間はかけて歩いた距離よりも向こうだ。

 そんな距離をこんな短い時間で移動したのか、あんなキモい走り方で。

 それに私は愕然としてしまう。走って行った距離もそうだが、それをこの場から仕留めてしまう【元魔王】の強さにだ。こんなドスケベがこんなに強かったなんて、なんかちょっと、悔しい。



「さて、あなたの勇者様像は少し重いですね、もう少し楽に考えましょうか?」


「楽に?」


「はい、楽にです」



 楽にと言われてもそんな簡単に楽に考えられない。私だって勇者様したいのに。なるからには応援されたい。



「助けられるものは助けられるものとして、助けられないものは助けられないものとして割り切る事が重要かもという話です。決して、悪いことではありません。見捨てることの強さも、考えてみては?」


「それで強くなれたとしても、そんな事するくらいなら……私は全裸の村人のまま生きていきます……成り行きで勇者様になりましたけど、曲がりなりにも勇者様を勉強しました。本物はかっこいい人だと思います……だから……本物にはなれなくても……本物に近づく努力はしたいんです……」


「……、分かりました。あなたの勇者様像は。なら、出来る限り協力しましょう。それにエインには誰よりも強くなって、この世界の女性を守ってもらわなければいけませんもんね!」


「それはあなたの目的であって、私は別に……」


「……まぁ、後は街で話しましょうか。お腹が空きましたね」



ガイドさんは頭を撫でてきた。やはり優しい温かい手だ。これだけは嘘じゃないと思える。



「そうですね」



 私たちはまた街に向かって歩いた。その後の道中は特に何も起こることなく、街まで到着することができたのだった。


お疲れ様です。


前の後書きでは容姿のことは書かないと書きましたが、やはりどこかで書くことにしました。それまでは脳内でかわいい子を想像してください。


さて、最近また見たのですが、単位が異世界とどうのこうのという話がありました。

この世界では、お金の単位以外全てこちらの世界と統一します。なぜなら、いちいち余計なこと考えるのが面倒だからです。

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