第35話 異名持ちの冒険者
私たちが借りた宿は、街中にある大きな宿らしい。高い建物の中にいっぱい部屋があって、その中の一室を借りたそうだ。曰く、【ホテル】という施設らしい。
ホテルに着くと、綺麗な花が道沿いに植えられていて、その花に案内されているみたいに歩みを進めると受付まで到着した。受付に挨拶をして私たちは部屋に入る。
部屋の中には大きな花が部屋の隅に飾られていてベッドが2つあった。
そう、2つしかない。3人もいるのにだ。まぁ、細かいことはいいかな。一緒に寝ればいいだけだし。
(ガイド)「エイン、外見えますよ」
(エイン)「ほんとだ!!」
窓から祭りの明かりが見える。私たちが借りた部屋は3階にだからか、祭りの様子が簡単に見える。とても楽しそうだ。
(ガイド)「……明日は、祭だけ楽しみましょうか」
(エイン)「え、でも仕事しないと」
(ルース)「安心してください。他の都市から来た冒険者が仕事を貰える事が出来るのは、最短でも5日かかります。つまり、4日間は自由時間ですよ」
(エイン)「え?そうなの?ふーん、じゃあお祭りに行こうかな」
(ルース)「!はい!!一緒に楽しみましょう!!!」
その夜、日常の訓練をした後、ルースちゃんはすぐに眠ってしまい、私は椅子に座って窓から星を眺めていた。星は祭りの明かりとホテルの明かりで見えなくなっていて、英雄都市と対して変わらない気がするほど、星は見えない。
ガイドさんはというと、私の隣で椅子に座りながら本を読んでいる。そう、ガイドさんは意外と読書家だ。
(エイン)「空……、楽しみだったんだけどなぁ……」
(ガイド)「……、あまり良くありませんか?」
私とガイドさんは目を合わさず、身体も向かい合わさずに会話を続ける。
(エイン)「うん、英雄都市と変わらない気がする」
(ガイド)「それはそれは」
(エイン)「他のところもこんなものなんですか?」
(ガイド)「それは、行ってみなければ分かりませんね」
(エイン)「そっか……」
(ガイド)「……、今日は辛い事を思い出させてしまいましたね」
(エイン)「ほんとだよ……デリカシーなさすぎる……」
ポロポロと大きな涙を流す私の頭を、スタスタと歩いてきたガイドさんはグイグイと頭を揺らす勢いで撫でてきた。なんてデリカシーのない撫で方だと思うけど、この時は逆にそのくらいの方が気持ちが良かった。
(ガイド)「忘れたい記憶ほど忘れられないものですね……」
(エイン)「……?ガイドさんもそういうのあるんですか?」
(ガイド)「私はだって、貴方よりは断然長く生きていますから。そういう事も経験済みです」
(エイン)「そっか……そうだよね」
(ガイド)「……つまり、力になれる事も多いという事です。この先、何か辛い事が起こる事は当たり前に起こります。その時、どうしても自分では何もできない、何もしてあげられないなんて事もあった時は……きちんと助けてあげます」
(エイン)「……うん。ありがとう」
それから私たちは少しの間沈黙を置いた後、各々勝手に眠りについた。順番は私が先にベッドに入ったから私が先だ。その後は眠っていたから何も知らない。
そして次の日、私はルースちゃんの『きゃー!!!』という叫び声に起こされた。声に反応してパッと目を開けるとそこには、目を血走らせながら私の顔を覗くガイドさんの姿を見る。
なんだか久しぶりに感じるな。この感じ。
(ルース)「あ、あれ?エイン?起きてますよね?」
(エイン)「うん。今起きたよ」
(ルース)「じ、実は朝起きたらガイド様がこんな事を……」
(エイン)「大丈夫だよ。たまにこうなるんだ。スケベな欲望を抑えてるんじゃないかな?」
(ガイド)「……」
(ルース)「う、動きませんよ?」
(エイン)「……仕方ない。……うりゃあああ!!!!!」
私はガイドさんに向かって、渾身の蹴りを放つ。しかしガイドさんはそれをわかっていたかの様にゆらりと躱し、ベッドから飛び降りて綺麗に着地した。
避けられた……だと!?
(ガイド)「……落第点ですよ、エイン。私に襲われても良いならそれで良いですが」
(エイン)「良くないです」
(ルース)「?ガイド様はなぜあのような事を?」
(ガイド)「エインの特訓の為ですよ」
(エイン)「絶対違うと思う!」
(ルース)「え?」
(ガイド)「まぁまぁ、それは後で。ほら早く行かないと。お祭りが楽しめませんよ?」
なんかサラッと流されちゃった。まぁ、いいや。
お祭りに行くと既に人で賑わっていて、混雑していた。それでもこういうのはやはり楽しい。私達はウキウキで出店を見て回っている。
(ルース)「エイン!ありました!リンゴ飴という食べ物です!」
(エイン)「リンゴ飴?」
(ルース)「リンゴを飴に包んでいる食べ物だそうです!」
(エイン)「美味しいの?」
(ルース)「美味しいです!!」
(エイン)「そうなんだ!食べようかな?食べる?」
(ルース)「私は昨日頂いたので遠慮しておきます」
(エイン)「そっか。ガイドさんは?」
(ガイド)「私もやめておきます。その食べ物は少し苦手で……」
(エイン)「ふーん。じゃあ私だけだね」
私はリンゴ飴なる物を買って、食べながら祭りを見て回る。食べ歩き可能な祭りらしく、何があってもお互い様の精神で他人の服を汚してもきちんと謝罪をすれば、それ以外にはお咎めがないのだそう。なんでも祭りを最大限楽しむための策だそうだ。
(謎の声)「なるほど!コレが『女神の大木』で作られたという丸太か!」
私はその声に引っ張られて、その声がする方に少しだけ寄った。そこで私の目に入ってきたのは、3メートルくらいの丸太が縦に置かれていて、倒れない様に鎖で繋がれている光景とその横にある出店のお爺さんに女性2人が嬉々として話しかけている様子だ。片方は金棒を持っていてポニーテルの黒髪、片方は2本の剣を持っていて長髪の金髪だ。
その2人がいる店の看板には【丸太壊しの店】と書いてあった。
なんだそれ?
(ポニテの黒髪)「では主人!挑戦させてもらう!」
(出店の主人)「良かろう……すきにせい……」
お爺さん、眠たそうだ。
(ルース)「エイン?どうしました?」
(エイン)「んーん、何でもないよ」
(ガイド)「あ、丸太壊しですか?丁度挑戦者もいますし、見ていきましょうか」
(エイン)「……、いい?」
私はルースちゃんと目を合わせて確認をとる。ルースちゃんはニコニコと頷いて、頭を撫でてきた。
何故か分からないけど、とりあえずはよし。
(ポニテの黒髪)「……全力でやらせてもらう!!」
女性は持っていた金棒を右肩に担ぎ、左手を前に出し、腰を低く構え、そして息を吐き出す。その瞬間、強烈な威圧感がその場を包み込んだ。
身体が!重い!!
(ポニテの黒髪)「鬼の一撃!!!」
挑戦者の女性が振り抜いた金棒を丸太に叩きつけた。その拍子に丸型を固定していた鎖などは千切れ、吹き飛んでいった。しかし、丸太には傷一つもついていないし、倒れてすらいない。
(エイン)「な、なんて衝撃……」
(ルース)「もしやあの方……、鬼娘?」
(鬼娘)「誰ダァ!!!!私をその名で呼ぶやつぁ!!!!!ん?……、桃姫?何でここに?」
(ルース)「……桃戦姫です!」
(鬼娘)「んなぁ、細けぇことしにたら老けるぞ」
ルースちゃんとおにこは視線を合わせてバチバチとしている。
誰なんだ?知り合いかな?
(双剣の女性)「ごめんね。あの子、姫を見るといつもああなの」
(エイン)「え、あぁそれは別に。あの人誰なんですか?ついでに貴方も?」
(双剣の女性)「あの子は冒険者なの。名前は'シェーラルカ・オーガニック'。異名持ち。鬼娘で知られている子だよ。『ついで』の私も一応冒険者で名を'ツァービ・ビーチ'、異名は持ってないよ。ふふ……」
(エイン)「す、すみません……」
(ツァービ)「貴方は?姫と一緒にいるという事は冒険者でしょ?」
(エイン)「わ、私は……!エイン・アリスと言います!よ、よろしくお願いします!!」
ツァービさんの目が怖いよぉ……鋭くて冷たくて……まるで今にも食べられそうな気分だ。
(ツァービ)「貴方は?貴方もでしょ?」
(ガイド)「私は冒険者ではありませんよ」
(ツァービ)「そう?それは失礼」
(シェーラルカ)「おーい!!桃姫がコレに挑戦するってよ!!どうせ壊せねーのにな!!」
(ルース)「……、貴方よりは可能性があります」
(シェーラルカ)「……ほう、言ってくれるねぇ」
仲は、良くなさそうだ。
お疲れ様です。
洋梨です。
今後特には描写しませんが、エインとルースは毎日鍛錬している設定です。




