第33話 2つの槍を背負う者
踏み出した一歩目な花畑に穴に開けた。そのまま落ちていった後に、たどり着いた場所は何もない石壁の空間だった。穴が開いた場所から陽の光が差し込んでいる上に、石壁には火が灯っていて空間の様子は見ることが出来る。かなり広い空間で所々植物生えている。そして、遠くの壁に1つだけ別の場所に続くであろうと思われる穴を見つけた。
その穴に集中すると、その穴からツカツカと誰かが歩いてくる音が聞こえる。私は唾を飲み込み、剣を手を取り構える。
(謎の声)「……、餞の子が、また此度も……」
背に槍を2本抱え、猫の被り物を頭に乗せた人が現れた。顔の前には布がぶら下がっており『守護』と書かれている。ゆったりとした服装を身に纏っていて、ワンピースだ。
(エイン)「餞の子?なんですかそれ?」
私は剣を構えながらそう問うた。
(槍猫)「……?おおよそ15前後の子ども……?なぜ……いえ……その前に此処へ来た理由を問いましょう」
(エイン)「あの穴から落ちてきました」
私は穴に向かって指を指す。
(槍猫)「……、そうですか。早く立ち去りなさい。此処はもう、崩れ落ちる定めであり抗う術はない」
(エイン)「え?あ、あの、登れない……」
見たところ、明らかに登れるような高さではない。よくあの高さから落ちてきて無傷だったなと驚くほどの高さだ。私を飲み込んだ穴が点にしか見えないんだから。
(槍猫)「出口へ案内しましょう。ついてきなさい」
(エイン)「あ、ありがとうございます!」
私はその人についていく。背の高さはそんなに大きくなくて、私より少し高いくらいだ。ちょっと気まずいので話しかけてみる。
(エイン)「あの!此処は何処なんですか?ギルドの秘密地下とか!?そういうワクワク展開いいですよね!!」
(槍猫)「……、口を慎みなさい。今ここで貴方を生かしているのは戯れにすぎません」
睨みつけられていないのに、蛇に睨まれた蛙のように私の身体は動かない。
(エイン)「う!ご、ごめんなさい……」
それでも前の人は足を止める事なく進み続けるので慌てて後を追う。
(槍猫)「……、しかし私もここで『生贄でない者』に会うこと自体はあまり無い故、少し尋ねたいことがあります」
(エイン)「何ですか?」
(槍猫)「人は、『守護者』をなんと捉えているのでしょうか?」
(エイン)「守護者?あぁ、ネイチャルエデンの事ですか?いやぁ、私も実はよく知らないんですよね。勇者様伝記には関わるなと書いてあったんですけど、私は自然都市出身でもないし」
(槍猫)「そうですか……、貴方は何も……無駄話でしたね」
(エイン)「??そういえば、貴方は誰なんですか?なんでこんなところに?ギルドの人ですか?」
(槍猫)「ギルドの人ではありません。が、これ以上の開示はいたしませんよ」
(エイン)「ふーん、まぁ、それは別にいいです。ここにずっといるんですか?」
(槍猫)「……、さっきからなぜですか?1度話を断られれば、2度は質問しない事が普通の人間でしょう?」
(エイン)「?そうですか?それは分かりませんけど、私は聞きます!それが私の良いところです!」
(槍猫)「そうですか……それはまた……」
それからは、私たちは話をする事もあまりないまま、出口まで辿り着いた。出口にはこれまたすごい大きな花畑が広がっていて一瞬で心を奪われてしまう。風に揺られる花と、風に攫われる花びらが幻想的でとても綺麗だ。
(エイン)「わぁ……!!すごい……!!」
(槍猫)「……、貴方もこの景色がお好きですか?」
(エイン)「?はい!とても綺麗で大好きです!!」
(槍猫)「……、この景色はいつの時代も人を魅了する。それは、守護者とは関係無しに。……、合縁奇縁、貴方とはいずれ、また会う事もあるやもしれませんね」
(エイン)「?どういう、う!!」
突如として吹いた突風に私は怯んで目を閉じた。目を開けた時にはすでにもうさっきまでいた人はいなくなっている。
(エイン)「……、いなくなっちゃった。……、早く戻らなきゃ」
私はガイドさんたちのところへ戻った後、ガイドさんに酷く怒られた。街の様に安全でないことに加え、未知の場所では街に戻れなくなることそのものが死に直結する事があると。怒られたのは尤もなので何も言うこともない。ただ、自分が悪いと分かっていても、ちょっとしょげてしまう。
今は花畑の道をゆっくりと歩いている途中だ。
(ガイド)「……、エイン。先ほどはこちらも怒りすぎました。街に着いたらお祭りなので楽しみましょうね」
(エイン)「はい……」
(ルース)「……、エイン、ガイド様もエインのためを思って」
(エイン)「分かってるよ……分かってるから……何もいえなくてしょげてるの……」
(ルース)「……?」
(ガイド)「まぁ、理由があろうとなかろうと怒られると気分は沈みますよね。ところで、本当に花畑に行っていただけなんですか?」
(エイン)「……実は」
私は穴に落ちて、石壁の空間に着いたこと。そこに現れた人に案内してもらって外に出たことを説明した。
(ガイド)「……、その人の特徴は覚えていますか?」
(エイン)「特徴、んー、槍を2本持っていました」
(ルース)「槍を2本?珍しいですね」
(エイン)「そうなの?」
(ルース)「はい。中々御目にはかかれません。王宮内の手練れの方でも槍を2本使って満足に戦える人は数えられるほどしかいませんから」
あ、それでもいるにはいるのか。
(ガイド)「双槍なら、分かりやすいので人に聞けば分かるかもしれませんね」
(ルース)「ふーん、じゃあ、街に着いたらきいてみよう!」
街に着いた後、人に聞き回ってみるものの双槍の人の事は何一つとして情報を得られなかった。
街そのものは活気にあふれていて人が大騒ぎしている程に人がいるのに。誰1人として双槍の人物を見かけたことがないという。
(エイン)「誰も知らないのかな?」
(ルース)「そんな、双槍ですよ?知っている人がいないなんて事は」
(ガイド)「……、知らないものは仕方ありませんね。祭りを楽しみましょうか。どうします?一緒に行きますか?それとも分かれます?」
(エイン)「……、私はもうちょっとだけ聞き回ってみるよ。気になるし、2人は楽しんできて。後で何かいい出店とがあったら教えてね!」
(ガイド)「分かりました。エインの好きそうな出店を見つけておきます。ルースさん、行きましょうか」
(ルース)「え?あぁ、はい。エイン、また後で」
(エイン)「うん!!また!!」
ガイドさんたちと分かれてから1時間くらい聴き回っているけど、本当に誰も心当たりがないらしい。双槍の人間は誰も見た事がないのだそうだ。
(エイン)「ね、おじいさん。ちょっといいですか?」
(おじいさん)「んー、なんやね?」
私は道端で酒を片手に持ちながら座り込んでいるお爺さんに話しかけた。ヒゲがモジャモジャで服が汚い。こういう人が何か知っている可能性は高いはずだ。
(エイン)「この辺で2本の槍を持っている人って知ってる?」
(おじいさん)「2本の槍?さぁ、そんなの見た事ねぇな」
(エイン)「ふーん、そっか。ありがとう」
(謎の声)「おーい、爺さーん。酒持ってきてやったぜー」
そう言って遠くの方から声をかけてきたのは若い男の人だった。
(若い男)「ん?おまえ誰だ?」
(エイン)「冒険者のエイン・アリスと言います」
(若い男)「へぇ、冒険者か。この辺では見たことない……つまり、エデン祭を楽しみにきたんだな。どうだ?楽しんでるか?」
(エイン)「いえ、祭りの方はまだ。今聞き回っていることがあって」
(若い男)「なんだ?」
(エイン)「槍を2本持っている人を探しているんです」
(若い男)「槍2本?そんな罰当たりなやつがいるのか」
(エイン)「罰当たり?」
(若い男)「あぁ。この都市では守護者ネイチャルエデンの代名詞だからな。神の真似事なぞ、罰当たり以外の何ものでもないだろう。ま、他の都市から来ている人も多いから、一概に罰当たりとは言えないけどな」
(エイン)「……そうなんだ」
(若い男)「そうだ!なんなら、エデン様の像でも見にいくか?」
(エイン)「エデン様の像?」
(若い男)「あぁ、少し離れたところにはなるが。何、そんなに時間がかかるもんでもない」
(エイン)「じゃあ!案内してください!よろしくお願いします!」
(若い男)「おお、いい返事だ!ついてきな」
私はその人の後についていった。
お疲れ様です。
洋梨です。
ネイチャルエデン、個人的にはこの名前、気に入っています。




