閑話2 ルインとグルエルの密会、そして邪魔者
ある男が暗闇の中、城の中を足音も立てずに走っていた。その男は赤髪でルインという名の男だ。彼は誰にも見つからず、気配も悟らせず、城の中を行き来する術を身につけていた。そして今夜もその方法を使用してある部屋の前に到着する。
ルインは部屋のドアを叩いてから静かに部屋に入った。
(ルイン)「ふ、待たせたな!王子様、参上!」
(グルエル)「『待たせたな』って。貴方、今何時だと心得ているの?」
(ルイン)「1時だが?」
(グルエル)「そう時刻は1時、月の下のね。誰もが眠りについている時間よ」
(ルイン)「固いこと言うな。これだから王族ってやつは」
(グルエル)「貴方、直系の事忘れてない?」
(ルイン)「まぁまぁ、今日は10冊持ってきたぜ。この前の続きもある」
(グルエル)「やった!続きが気になっていたの!」
そこからルインとグルエルは【マンガ】を読み始める。互いに会話などせずに、黙々と呼んでいた。
グルエルが前の続きの本を1冊読み終えた。その本を閉じてから深呼吸した後、ルインに話しかける。
(グルエル)「ねぇ、ルイン。……、その……ルースは私の事をどう感じているのかしら」
(ルイン)「ん?どう感じてるってなんだ?」
(グルエル)「……、私は、ルースに対して嫌な態度を取っていると思うの」
(ルイン)「まぁ」
(グルエル)「……、別にルースのことが嫌いなわけじゃない……でも……危険性の度合いを考えても……あの子の夢は応援出来ない……」
(ルイン)「……、気持ちはわからんでもないがな。俺も……ルースの夢を両手万歳で応援できているわけじゃねぇ。ルースは俺たちと比べて身体が弱いからな。俺たちですら危険な目に遭ったことがある冒険者というものを、何も言わずにお勧めできるとは言えねぇよ。ただ、ルースは本気だからな」
(グルエル)「本気なら……何をしても良いと言うの?」
(ルイン)「悪いことじゃない限りな。応援出来る理由にはなる」
(グルエル)「……、そう、……ね……」
(ルイン)「……、まぁ、おまえが間違ってるとも思わん。強い者に弱い者の考えは分からんし、【弱いからこそ感ずるもの】もあるだろうからな」
(グルエル)「……、はぁ……、どうすればいいのかしら」
(ルイン)「さぁな。マンガでも勧めてやれよ。『グルエル姉様が教えてくださいました』って喜んで俺に言いにくると思うぜ」
(グルエル)「こんな下劣な作品は淑女として勧められないわ」
(ルイン)「は?下劣なわけあるか!これも!これも!これも!全部俺のバイブルだぞ!」
(グルエル)「バイブル多すぎるでしょ!」
そんな些細なやり取りはいつもの事だが、この日は一ついつもと異なる事が起きた。この些細なやり取りの真っ最中にグルエルの部屋の扉がコンコンと鳴らされたのだ。
ルインがグルエルを下がらせ扉を少しだけ開ける。このようにした理由には様々あるが、一番重要な理由としてはグルエルの安全確保と不審者を捕獲することだ。
皆が夢の世界に誘われた夜に城内を出歩く者がいるとすれば、それは不審者か余程の阿呆又は変わり者以外考えられない。この時間に城内を彷徨いている人間の目的が暗殺である事も考えられる。仮に暗殺目的の人間がこのように扉を鳴らしたという事は、自分の腕に相当な自信がある程の手練れであることも考慮に入れなければならない上に、余程の奇人の可能性もある。つまり、相当な曲者である事を想定した上で、それでも尚、ルインなら対処可能と判断。それに加え、相手はおそらくルインがいる事を想定していないと予想し、半ば奇襲目的で扉を開けることにしたのだ。
そのはずがルインは一瞬で扉を閉めてしまった。
(ルイン)「……、まずい!これはヤバいぞ!」
ルインは青ざめた顔で扉の前に座り込み、手を招きグルエルを側まで呼び、小声で話す。
(グルエル)「……!ルインですら……!何者?!」
(謎の声)「もしもーし!はっはー!!今扉が開いた事は確認しましたぞー!!グルエル殿!!起きておられるのではないか?!はっはー!!」
(グルエル)「……!'ミルバート'……!何故こんな時間に?!」
ミルバートは、ヴァイアロンの血族つまりは青髪の王族の1人だ。年齢はおおよそ20代半ばでルイン達と歳は変わらない。そして夜にも関わらず、サングラスをしている。
(ミルバート)「それに今見えたのはルイン殿ではないか?!私の目は誤魔化せませんぞ!!」
(ルイン)「……、やり過ごすぞ……」
(グルエル)「うん……」
(ミルバート)「……、なるほど……そうかそうか……二人は……逢瀬中であったか!!今流行りの【お家デート】という」
(グルエル)「な!!何のようかしら!!?ミルバート!!」
グルエルはルインを足元で隠しながら扉を開ける。ルインもそそくさと扉の裏に隠れた。
(ミルバート)「いやなに、少し話がしたくてな。ルイン殿もおられると都合が良いのだが?」
(グルエル)「居られないわよ。分かっているでしょう?ノルヴァルタスは他の王族に対して興味なんて召されないのだから。こんな所に来られるわけがないの」
(ミルバート)「ふむ。だそうだ、ルイン殿。他のノルヴァルタスなら兎も角、貴方方兄弟妹御三方はそのような事もないように思うのだが?」
ルインは答えずに息を殺したままやり過ごそうとする。
(ミルバート)「ふむ。あー、そうそう、グルエル殿。私、つい先日の事、未来都市へ招待されましてね。その暇の時に良き本を見つけたのですよ。とても良き本であったから紹介したいのだが、如何であろうか?」
(グルエル)「え、えぇ、ありがとう。でもまた次の機会にお願いしたいわ」
(ミルバート)「それは良かった。実はルイン殿もその本がお気に入りらしく、名を『ドキ』」
(ルイン)「やぁ!!!ミルバート!!!奇遇だな!!俺もグルエルに話があったんだよ!!丁度おまえとも話したいと思ってたんだ!!!」
(ミルバート)「やぁ、ルイン殿。やはり気が合いますな。貴殿とは」
それからミルバートを部屋にあげて、3人で話し合いを始めた。グルエルはベッドに座り、ルインは床で胡座をかき、ミルバートはずっと立っている。
(ルイン)「で、話ってなんだ?こんなはた迷惑な時間に」
(グルエル)「貴方は人のこと言えないでしょうが!」
(ミルバート)「ふむ。なんて事はない。ノルヴァルタス、ヴァイアロン、レインヴァース、血は違えど我らは一族の代表だ。その代表同士少し話したくてな。お邪魔させてもらった」
一族の代表とはどういう意味か。それは王族であるノルヴァルタスから数名、ヴァイアロンから数名、レインヴァースから数名が選出されこの城に住んでいることに起因する。というのも、各一族の中からその一族の顔であるつまりは一族の象徴である人物が城に住むことになっているのだ。それ以外は城から少し離れた屋敷に住んでいる。
とどのつまり、城に住んでいる人物の意見はその一族の意見として相違ないと考えていい。
(ルイン)「その前に。俺がいる事がなんで分かった?あの一瞬じゃおまえにははっきりとは認識できないはずだが?」
(ミルバート)「はっきりではなくとも、あらかた認識できたのいう事が理由の8割を占めるが、残りの理由としては簡単だ。あの一瞬で絶対にグルエル殿ではないと分かったからだ」
(ルイン)「なぜだ?」
(グルエル)「あの一瞬で扉を閉められるような力をレインヴァースは持っていないでしょう」
(ルイン)「だとして、なぜ俺だ?」
(ミルバート)「というよりもだ。あの速さで扉の開閉を行う事が出来るのはノルヴァルタスかヴァイアロンなのだが、流石に速すぎた。あの速さで行なえる人物は我らヴァイアロンの中にもそうそういない。それにグルエル殿は仲の良い王族は少なく、特にヴァイアロンは私くらいのものだ」
(グルエル)「余計なお世話よ!!」
(ルイン)「まぁまぁ。それより話が噛み合ってねぇよ」
(ミルバート)「まだ話は途中だ。まぁ、ここまではただレインヴァースでなくヴァイアロンでもない。それ故のノルヴァルタスとしか分からないだろう。しかし私は知っていたのだ。ルイン殿が稀にグルエル殿と逢瀬を交わしていた事を」
(グルエル)「逢瀬じゃないっつってんでしょうが!!」
(ミルバート)「初耳だ」
(ルイン)「仮にだ。それを知っていても今回俺だとは分からんだろ?」
(ミルバート)「ふむ。今のグルエル殿の反応を見たであろう?これが答えだ」
(ルイン)「どういう事だ?」
(ミルバート)「何か大事な事があるだけなら、ただ来ていると言えば良いだけ。それを隠した。グルエル殿本人の意志でだ。つまり、何かやましい事をしているに違いない」
(グルエル)「してないっ!!!」
(ルイン)「そうだそうだ!!」
(ミルバート)「話を聞け。やましい事と言っても種類はあるが、簡単に言えば、大事な話ではないという事だ。そんな大事ではない話が出来る相手はそうそういまい。私とてグルエル殿とルイン殿、後は若干名くらいだ。私よりそんな人物の少ないグルエル殿の場合、ほぼ間違いなくルイン殿である事は分かる」
(グルエル)「人の傷抉ってそんなに楽しい?ルイン、やっちゃいなさい!」
(ルイン)「やだよ。でもミルバート、早計だな。大事な話すぎたら隠しもするだろ。絶対にくだらない話だったという事はないはずだ」
(ミルバート)「言っただろう。グルエル殿本人の意志で隠したと。それ程大事な要件であればただ、グルエル殿は相手の指示に従うはずだ。というよりもレインヴァースの人間は必ずそうする。しかし、少し逢瀬をしていると揶揄われた程度で扉を開けたのだ。くだらん話に決まっているだろう?」
(ルイン)「……、グルエルのせいかぁ……」
(グルエル)「なんで私だけよ!貴方も出てきたでしょうが!というか!隠そうとしても私知っているからね!ルースがこれ良い本ですって持って来たことあったから!『ドキドキビーチサバイバル』!!兄様から借りましたって!!」
(ルイン)「なにぃぃ!!!!??ホントか!!!?」
(ミルバート)「この際だから伝えておこう。城内のほぼ全員が知っているぞ。ルイン殿が猥本を隠し持っている事は」
(ルイン)「なんだと?!!」
(ミルバート)「それより私の話なんだが」
(グルエル)「あ、そうね。何か用件があったのよね」
(ミルバート)「私のことを今後暫くは、アメイジングメトリーと呼んでくれ……!」
ミルバートはその場で一回転し、髪をかき上げてみせた。
(ルイン)「は?呼ばない」
(グルエル)「右に同じ」
(ミルバート)「何故だ?!良いだろう!!少しくらい!!」
(グルエル)「というか何?アメイジングメトリー?」
(ルイン)「最近、巷では歌劇ってものが流行っててな。その歌劇の舞台でよく使われる話に出てくる主人公の名前がアメイジングメトリーって言うんだ」
(ミルバート)「流石ルイン殿!分かっているじゃないか!」
(グルエル)「え、何それ?そんな話昼間でも出来るでしょうが!!」
(ミルバート)「いやなに。少し月あかりに照らされたくて外に出ていたら、ルイン殿を見かけてな。この近くで確認したからもしやと思い、訪ねてみた」
(グルエル)「バレたの9割貴方のせいですけどぉ?」
(ルイン)「俺のせいにするな!俺の技は完璧だ!!」
(ミルバート)「確かに技は完璧であった。実際には気のせいだと思い帰ろうと思ったくらいだ。ただ、逢瀬の噂があった事を思い出し、訪ねてみた」
(グルエル)「……、ねぇ、その逢瀬の噂ってどのくらい広まってるの?」
(ミルバート)「……、良いではないか。王族といえど名が違えば血の繋がりなどほとんどないぞ!」
(グルエル)「いやぁ?そんな話はしてないのよ?」
(ルイン)「……、相当広まってそうだな……」
(ミルバート)「グルエル殿なら王も許してくれるだろうな。頑張ってくれ!」
(グルエル)「勝手なこと言うな!!私があの王に対してどれだけ……!は!違うのルイン!!別に貴方に対しては何も!」
(ルイン)「落ち着け。分かってる」
(ミルバート)「……、グルエル殿。満更でもない様子ですな」
(グルエル)「うるさい!!!おだまり!!……、婚約や結婚云々は個人の話ではないでしょう……」
(ルイン)「そうだなぁ。父上も実はその辺気にしてるしな」
(グルエル)「あら?そうなの?あの王が?」
(ルイン)「よく言ってるぜ。母上と結婚したのは良くなかったかもって」
(グルエル)「……、ヴィーナス様でも?」
(ルイン)「いや。でもというよりも、だからって感じだな。母上はああ見えてかなり自由人だからな。相当無茶苦茶してるらしいぜ。最初に会った時には父上に噛みついたらしいからな。物理的に」
(ミルバート)「いやだ!物理的に?!」
(グルエル)「……?なにそれ?どういう驚き方?」
(ミルバート)「グルエル殿の真似」
(グルエル)「……!……!……!!」
グルエルは立っていたミルバートの足を払い地面に叩きつけた後、馬乗りになる。そしてビンタし始めた。
(ミルバート)「良くない!良くないぞ!グルエル殿!暴力反対!せめて何か話してくれ!助けてルイン殿!」
(ルイン)「自業自得だ。とりあえず夜も更けて来たし、そろそろ解散するか。ちゃんと布団かぶって寝ろよ。風邪引いちまうぜ」
(ミルバート)「あぁ!待って!グルエル殿!!ほら!伴侶殿が帰られますぞ!!」
(グルエル)「……!……!……!!!」
(ルイン)「分かった分かった……ほら、グルエル。腕痛めるぞ」
ルインが後ろからグルエルの脇に手を回してグルエルを持ち上げる。
(グルエル)「まだ後100回残ってる……」
(ミルバート)「ふ、まだまだ」
(ルイン)「いい加減懲りろ。何回目だこのやりとり」
(ミルバート)「今回のでそうだな。6回目だな」
(グルエル)「600まで増加……」
(ルイン)「……だそうだ」
(ミルバート)「ルイン殿!お嫁殿は元気有り余る素晴らしい方ですな!はっはー!!アディオス!!!」
ミルバートは部屋から一目散に立ち去った。
(ルイン)「それはおまえもだろ。ミルバート……」
(グルエル)「次会ったら700回しばいたる……」
(ルイン)「増やすな」
そして翌日……
ミルバートはグルエルに追いかけられていた。
(グルエル)「コラー!!!待ちなさいつってんでしょが!!!」
(ミルバート)「はっはー!!止まったら平手打ちされる事が分かってとまる人間はおりますまい!!昨日のことなら気に召されるな!!ルイン殿は器の大きい男だ!!」
(グルエル)「今ルインは関係ないでしょうがぁああ!!!」
(城内の声)「え、昨日って何かありましたか?」
(城内の声)「いえ、何も。やはり逢瀬の噂は本当なのでは?」
(城内の声)「しかし……そもそも逢瀬の事はミルバート氏から伺ったものですしねぇ……」
たまたま近くにいたルインには気が付かずにその声達は飛び交っていた。その会話を聞いてルインもミルバートを追いかけ始めた。
(ルイン)「噂の原因てめぇじゃねーかぁああ!!!ミルバートォオオ!!!待てコラァアア!!!!」
お疲れ様です。
洋梨です。
なぜミルバートが逢瀬のことを知っていたかはさておき、ノルヴァルタスやヴァイアロン、レインヴァース間の婚約は認められています。その為、普段から仲の良いルインとグルエルは良からぬ噂を立てられることもしばしば。




