第30話 ダブル勇者様
その後、他のノルヴァルタスの人に「貴様はグルエルに忠誠を誓っていたはずだが?」とかヴァイアロンの人に「世界一美しい人間は?」とか色々訊かれたけど、全てレインさんが追い払ってくれた。レインさん曰く「何も力での支配を完全否定したいわけではない」との事らしい。でもこれだけは言わせてほしい。世界で一番美しくて可愛い人間は私の妹であるリンダだ。これだけは譲れない。絶対にだ。
という話をガイドさんにした。王宮内であった事も含めた全て。
「大変だったんですね」
「そ、大変だったんです」
私たちはお風呂屋に行った後、すぐに宿屋に戻ってきて私はベッドに転がり本を読んでいる。真面目に中級魔法の本だ。ガイドさんとは言うと、椅子に座って目を瞑っている。「眠らないんですか?」と訊くと、「まだ起きています」というだけだ。
「ねぇ、ガイドさん。ルースちゃんは私のパーティーに入るって言ってたけど、それってなんでだと思いますか?別にルースちゃんのパーティーでもいいですよね?」
「んー、分かりませんね。そこは本人に訊いてみなければ」
「……、今更なんですけど、ガイドさんは良かったんですか?ルースちゃんと旅するの」
「エインが決めた事なんでしょう?だったら問題はありません」
「……、ガイドさんはさ、私と一緒に来るんですよね?」
「?そうですよ?」
「だったら、別に我を出しても良いですよ。嫌な事は嫌って言ってほしいです」
「!!では!胸をまた10回!揉ませていただいても?!」
「それはダメです!」
「何故ですか?!今我を出しても良いって!」
「それはそれ!これはこれ!です!!」
「そんなぁ……、……、でもとりあえず……ルースさんと旅をする事については特に嫌だとかはありませんよ……、安心して下さい……」
ガイドはゆっくりと私の上に倒れてきた。すぐに起き上がると思ったら全然起き上がらない。それに寝息が聞こえ始める。
「?ガイドさん?おーい、ガイドさん?寝ちゃった……、私も眠たくなってきたや」
私はガイドさんをゆっくりとガイドさん用のベッドに戻し、私も眠りに入った。
その翌朝、ガイドさんにゆすって起こされた。
「んもぅ……なにぃ……」
「なにぃ…って、あなた。今日はパーティーの申請をするんじゃないですか?後、明日から自然都市に行くんですよね?」
「……、そうだ!そうだった!!早く行かなきゃ!!」
私は慌てて身支度をする。顔を洗って、服を着替えて剣を持って、仮面をつけると準備万端だ。
「こら、朝ごはんはきちんと食べていきなさい」
そう言ってガイドさんが部屋にある丸テーブルの上に焼いたパンと湯気が出ているスープを置いてくれた。
「わぁ!ありがとう!!いただきまーす!!」
私は用意してくれたご飯を食べ始める。スープは野菜がこんもり入ってて、野菜の味が効いていて美味しい!それにパンもいい焼き加減だ!流石ガイドさんだ!
「……、ここに来てもう何月経ちましたかね?」
「んー、どのくらいだろ?半年くらい?」
「そのくらいですか……、ちょっとは強くなりました?」
「……、ちょとは、ね」
「あはは、御免なさい。ここ1ヶ月ほどはまた鍛錬に付き合っていましたけど、村を出た頃よりはかなり強くなっていると思います。この調子で頑張りましょう」
「……ねぇ、勇者様ってどのくらい強かったの?」
「今のエインなど、足元にも及ばないほどです」
「そっか。そんなに強いんだ」
「はい。でもエインもそのくらいはなれますよ」
「……?ほんと?才能がないないって言ってるくせに?」
「はい。才能はありませんけどなれます。そういうものですよ」
「ふーん。そっか」
それから私は朝食を食べ終わった後、すぐに宿から飛び出した。急いでギルドへ向かう。ギルドには既にルースちゃんがいた。慌てて出てきてしまって仮面は宿に忘れてきた。それをこの時気がついた。
「おはよう!ルースちゃん!!」
「あ、エイン。おはようございます」
ルースちゃんは受付の前でソワソワしながら待っていたらしい。アレッタさんやミドルさんの顔がニヤニヤしているから、おそらく内容は伝わっているだろう。手間が省けて助かる。
「話した?パーティーのこと」
でも、一応確認しておく。
「はい!エインのパーティーに入るという事は伝えています!!」
「……、それなんだけどさ。私でいいの?ルースちゃんのパーティーとかの方がいいんじゃない?名声とかその辺」
「……、色々と都合がいいんですよ。エインの方が」
そう言って、ルースちゃんは瞬きしながら微笑んだ。
「都合?」
「エインちゃん、パーティーはね、旗振りの名前が広く知れ渡るの」
そう言って、アレッタさんが口を挟んできた。
「はい?」
「簡単に言うとエインちゃんがそのパーティーの代表になれば、そのパーティーはエイン一行と呼ばれて、名声もエイン一行の名声になるの」
「??はい?」
「……、ルース一行になっちゃったらさ、『げ!ルース王女のパーティー?!仕事の依頼やめようかな……』とかにもなりかねないし。それ以外にも色々とね、王族は名前を前に出さないほうがいいのよ」
「ふーん、大変だね」
「ふふ、まぁ、大変なんです。でもこれでエインのパーティーで決まりですね!」
「わかった!よし!頑張る!」
「うんうん。よしそれじゃあ、この書類にサインしてね」
アレッタさんは何枚か書類を渡してきた。よく読んでみると、契約書や誓約書だ。色々とルールが書かれている。要約すると【仁義を軽んずるものは罰する。人の世の理を愛せ】といった感じだ。
ふむ、とりあえず普通に生活する分には何も気にしなくても良さそうだ。
「書けました!!」
書類にサインした後、アレッタさんに返す。
「はい。受理します。……、これであなた達は一心同体ね。大変な事も辛い事もあるだろうけど、支え合って乗り越えていくのよ。頑張りなさいね」
「はい!!」
「肝に銘じておきます……」
「じゃあ行こっか。準備しないとだし」
「そうですね、その前に1ついいですか?」
「?何?」
「エインに技を2つ、伝授しようと思うのですが……練習しませんか?今のエインなら1日で2つとも覚えられるかと思いますので」
「え!!やる!!やったぁ!!!」
と言う事で、私たちはルンルンで訓練場まで来た。端っこの方にあるカカシが空いていたのでそこまで行く。
「さて、それでは始めましょうか」
そう言ってルースちゃんは剣を鞘から抜いた。凄まじい闘気を身体に纏わしている。思わず、身体が強張る。
「ルースちゃん……!なんか!強くなったみたいだね!なんか!なんか!!オーラがすごい気がする!」
「え?そうですか?……?そういえばルイン兄様も何もない私を見て『いい構えだ』とはおっしゃっていたのですが……よく分からなくて」
「なんか!!すっごい!!」
「ふふ、そうですか?貫禄というやつですかね?ふふ、あ、そうではなくて。エイン、技です。技」
「うん、技」
「はい。1つ目は、鬼人が使っていた鳶玉・檸檬です。斬撃を螺旋状に飛ばす技ですね」
「え?鬼人の?そんなの出来るかなぁ……?」
「技自体は簡単なので出来るかと。付与・風が出来るなら少し練習すれば大丈夫です」
鳶玉・檸檬はルースちゃんが話してくれたvs鬼人の時に出てきた技だ。なんか強そうな技。出来たら良さそうではあるけど。
「とりあえずお手本を見せます。よく見ていて下さい」
ルースちゃんは剣を両手で持ち、腕を捻って剣先を下に向けながら、剣の柄を顔の近くに持ってきた。そこから剣を回し、剣先を腕に向けた瞬間、縦に剣を振った。渦を巻いた斬撃がカカシに向かって飛んでいく。斬撃が直撃したカカシは真ん中が丸く穴が空いた。上半分が下に落ちる。
「うわ……、すご」
「片手でも出来ますよ。軽く捻ってその捻りを戻し、戻した反動を利用する感覚です」
「捻りを戻すか」
身体でも大丈夫かな。
私は剣を普通に持ち上半身を後ろに向ける。そして一気に前を向いた後に剣を横に振った。かなりの速さで斬撃が飛んでいき、カカシの残りの部分を真っ二つにした。しかし、螺旋を描いた斬新ではない。
「……、それは……、違いますね」
「違ちゃったか」
「丸を描く様に捻って、その捻りを返す感覚ですね。半円でも描ければ良いかと思います」
「ふーん、やってみる」
とは言っても、どうやるのかちょっとピンと来ないな。ルースちゃんの真似しよ。
さっき見せてくれたルースちゃんの動きを真似てみる。剣を振った後、ものすごい衝撃で私は後ろへ少し飛ばされたが、斬撃は渦を巻いてカカシを襲った。カカシは何故かビクともしなかった。
「あれ?出来たと思ったのになぁ……」
「出来ていますよ!すごいです!!」
「え、でもカカシが……」
「あぁ、あのカカシは特殊な魔法が掛けられています。下の方は誰が何をやっても傷はつきません。それに頃合いです」
ルースちゃんがカカシを見る様に視線を誘導してきた。それに従い、カカシを見る。カカシは下の棒から新しく生えてきた。
ちょっとキモい。
「ちょっとキモい」
「ふふ、ですよね」
それから少ししてカカシは完全に復活した。私たちは復活する迄の間は暇だったのでジャンケンして遊んでいた。10回ジャンケンして、その結果は私の全勝。
「ふ、天才ここに現れり」
「そ、そんな……も、もう1回だけ!!お願いします!!」
「え、しょうがないなぁ。いいよ」
それでも尚、私の勝ちだ。
「な、なぜ?こんな事がありえますか?11連敗?ジャンケンで?そんな……」
「私は逆に新しい扉を開いちゃったなぁ、ふ」
「エ!エイン!次は!!……あ、カカシが元に戻っていますね。次の技を練習しましょうか」
「よろしくお願いします!!」
「ふふ。次は王家一閃を教えますね」
「王家一閃」
王家一閃といえば、大きな鳥の頭を斬り落とした技だ。たしかものすごい速さで斬り落としてた。唖然とするほど。
「多少疲れてしまいますが、強い技なので覚えておいて損はないかと思います」
「はい!1つ質問!!」
「はい、なんでしょう?」
「王家ってついてるけど、それって王族以外にも教えていいの?」
「1つ条件はありますが、それを満たせば教えても構いません」
「ふーん、私はその条件を満たしてるって事だよね?」
「それはそうですね」
「条件って何?」
「……、勇者様だと王族が認める人には教えても良いという規則です」
ルースちゃんはこの時、ちょっとだけ寂しそうな顔をした気がした。
「……、勇者様かぁ。それなら教えてもらっても問題はないか。ルースちゃん、ダブル勇者様だよ。にひ!」
「ダブル……勇者様?」
「うん!!何も、勇者様が1人だけじゃないといけないってわけではないでしょ?」
「……!それは……そうですが……」
「誰かを助けてくれる、困っている人を見捨てない……私はそれが勇者様の資格だと思ってる。ルースちゃん、ルースちゃんは鬼人を見て……腰抜かしてたし、もう無理だとかすぐに諦めて本当に、怒りたくなるくらいに情けない姿を見せてたけど」
「エ、エイン……?」
「でも私が倒れてしまった後には……諦めずに戦ってくれて、助けてくれたんでしょ?ルースちゃんとっての勇者様が私なら、私にとっての勇者様はルースちゃんだよ。頑張ろうね!にひ!」
「エイン……、そ、そうですね!ダブル勇者様!!いい響きです!!一緒に頑張りましょう!!!」
「よし。それで王家一閃はどうやるの?」
「あぁ、えっと。エインはもう基礎は出来ています。鬼人戦の時に、全身を使って『一本斬』を使いましたよね?」
「うん」
「あれに一手間加えるだけです。見ていて下さい」
そう言って、ルースちゃんは少しカカシから距離を取った後に、カカシに向かい剣を構えた。一呼吸置いた後に、カカシに斬りかかった。途轍もないほどの速さで私にこの技を使われた場合、為す術なくやられてしまうと感じられるほど。
「まずは全身の力を魔力を持って強化します。その後、斬りかかり相手を仕留める事になるのですが、ここに1つ手間を加えます。それは風。一直線に飛び出した自分の背中を風で押しつつ、向かい風の抵抗は最小限に。そして、斬りかかる時もこの風を使い剣を振る腕の速さを上げます。それが王家一閃です」
なんかとても簡単そうに言ってるけど難しいよね?風を操って風を最大限に生かすってことかな?既に魔力操作は肉体でも行ってる上で、風も操るのか。よし、頑張ろう。
結局私は王家一閃を習得するのに半日を費やした。
「や、やったぁ……」
全身に力を入れて風を操る。身体はきついし、何回もやっているから魔力消費も大きい。1回の魔力消費はそこまでじゃないけれど、それでも数をこなせば数少ない魔力はすぐにカラカラになる。そういうわけで、私の魔力はもう残っていない。
だから、私はカカシの前に倒れ込んでいた。
「よく出来ました!思ったよりも時間がかかりましたが、何はともあれ!1回出来てしまえばもう大丈夫でしょう!あ、でも。鍛錬は毎日欠かさず行うようにしてください。【身体に覚えさせる】、これがこの技の強化法です!」
「は、はーい……」
お疲れ様です。
洋梨です。
エインの「にひ!」っていう表現はエインが笑っている事を示しています。
エインは結構簡単に技を習得してそうに見えますけど、簡単にしています。理由はあります。それは基礎が上がっているからです。
例えば
あやとびを跳びたくて、あやとびを跳べるようになるまで痩せたら、こうさとびも出来た、みたいな感じです。
まぁ、あやとびを跳びなくなるくらい太るにはどれくらい太る必要があるかは分かりませんが。




