第3話 油断ならない旅の共
数日後私たちは旅立つことにした。
「じゃあ、行ってくるよ。辛くなったら勇者様辞めて戻ってくるから、その時は怒らないで迎えてね?」
「あぁ!いつでも戻ってこい!世界は広いからな!色んなところを見て回るといい!」
父は溌剌な人だ。父がまだ若い頃、世界を旅したんだそう。だからなのか、私のこの旅には父はすごく賛成していた。ガイドさんがいるからなのか、何の心配もしてないように見える。
「ガイドさん、また戻ってくる?」
「えぇ、戻ってきますよ。なので、ここでいい子に待っていてくださいね?」
「わかった!」
「リンダァ♡私も戻ってくるよ♡」
「お姉ちゃんは別にいい」
……………
旅に出てから、数時間私の涙はまだ止まらない。
「リンダァ……何でお姉ちゃんにそんなに冷たいのぉ……」
「日頃の行いじゃないですか?」
「あなたには言われたくないよ!!このドスケベが!!毎日毎日風呂覗きやがって!!!」
そう、この女。村一番にかわいい私のお風呂を毎日覗いていた。ついでに言うと、何で名前を知っていたのかも訊いたら、「かわいい子がいたので村の人に名前を聞きました」と言っていた。普通にストーカーだった。くたばれ。
「あれはあれですよ、ほら。私は欲望の権化じゃないですか?」
「ビックリするくらい何の言い訳にもなってない」
「やだぁ。言い訳なんてしませんよ。だって、私は元魔王、欲望には忠実です!」
なんて嫌な女だ。なんでこんなのと旅なんかに出なきゃいけないんだ。いつか独り立ちしてやる。
……………
旅に出た日の夜、私たちは目指していた街には到着せず、野宿する事になった。この日の食事はその辺にいた猪だ。勿論、魔物だ。私はその辺の野生の魔物を狩れるくらいには強くなったと言う事だ。
「エインもちょっとながらも腕を上げましたね」
ガイドさんはふふっと言った感じで優しそうに笑った。でも少なくとも、ここまで強くなれたのはこの人のおかげなのは間違いない。
「この前まで、ビービー泣きながら戦っていたのに」
一言余計なのはずっとだが。ただまぁ、ビービー泣かなくなったのも、この人のおかげだから少し感謝しておく。
「どうも。でも、ガイドさんのおかげだって分かってますよ。私は何にもしてません」
「ん?それは違いますよ。私は教えただけです。教えをものにできるかはその人次第。エインはきちんと頑張っています」
「んぼぉは!!」
あまりにもビックリして私は食べ物を喉に詰まらす。ガイドさんはあらあらと言いながら、私の背中をさすった。手は優しく温かく、少しホッとするような感じもする。
「ま、まぁ。何の才能もないって言われたし?少しくらいはね、頑張らないと」
「そうですね。頑張ってください」
「……ねぇ、ガイドさん」
「何ですか?」
「……、魔王に勝てる人なら私以外の人の方がよかった筈ですよね?名前がカッコよかったからなのは、分かっています。ですが、カッコいい名前で、才能ある人なんてこの世にはごまんといます……私……勇者様になれるでしょうか?」
「エイン……勇者様ってなんですか?」
「勇者様……?それは……」
勇者様ってなんだろう?確かに分からない。魔王は何となく世界を無茶苦茶にする奴らだということは分かったけど。勇者様はそれを止めるだけの存在なのだろうか?
「分かりません……」
「そう、それでいいのです」
「???」
「エイン、かつての勇者様、インカはこう言ってました。『僕が忘れられても必ずまた勇者は現れる。僕らはそうやって繋がっていく。人は悪に恐れる。だから、勇者は悪に立ち向かう』と」
「悪に立ち向かう?それが勇者様ですか?」
「さぁ?悪に立ち向かうのは勇者様でなくても出来ますけどね?」
「だったら……」
「エイン、今無理に答えを出す必要はありません。かつての勇者様の彼もそうだったように……きっと旅をしていれば見つかります。あなたはあなたの勇者様を目指せばいいんです」
「そうです……ね」
でもよくよく考えれば、勇者様って成り行きでなる羽目になったわけだし、そこまで重く考えなくてもいいのかな?よし、決めた。勇者様には成り行きでなる。それ以下でも以上でもない。勇者様は成り行きでなるものだ!
「ところでエイン、ものは相談なのですが……」
「何ですか?」
もじもじして、ガイドさんは言ってきた。このドスケベが考えていることなんて容易に想像がつく。なので、考えることをやめた。
「やっぱりやめときます。おやすみなさい」
「あぁ!そんな!起きてください!ちょっと、ちょっとだけ!ちょっとチューしてください!」
……おやすみなさい。
主人公、エインはかなりのシスコン設定です。