第29話 権力と暴力
ルースちゃんと私とグルエルさんが話し始めてから数分後にルインさんとレインさんも来た。一応事情を説明する。そして、そういう理由なら私だけが側にいるのでは不自然すぎるという理由でフェフェさんがやってきた。
余計に不自然すぎる。
「ほほほ、その理由ならわしがいたらもっと不自然なのではないかの?」
全くその通りだと思う。もっと言ってやって。
「いえ、そんな事は。フェフェ様も一応従者のお一人の扱いなので、エインと立場は同じなのです」
「……、それ故に不自然というとる」
「ですが、言い訳は可能です。言い訳さえ可能なら後は如何様にも出来るかと」
「……、グルエル。変わったのぅ。牙を折られた獣のようだの。……しかしそれもあの王によるものか」
フェフェさんがグルエルさんを見て悲しい顔をする。それを見たグルエルさんからも悲しそうな雰囲気が漂う。
「それってどういう」
「王が入ります!!皆様!!!お迎え下さい!!!」
私がフェフェさんが言ったことの意味を問いただそうと声をかけた瞬間に部屋に入ってきた執事の人が大声をあげた。その声に会場にいた人たちは皆んな片膝をついて手を胸に当てる。私も慌てて皆の真似をする。
王と思わしき人が入ってきた。辺りに緊張が走っている気がする。
「皆、面をあげよ」
その瞬間会場にいた皆んなが顔を上げた。流石に王は仮面をしていなかった。ルースちゃんたちと同じでつり目の赤い瞳だ。でも短くてチリチリとしている髪の毛は白いし、髭も白い。髭は長くて胸の辺りまであり、モジャモジャしている。
あれが王。ヒゲモジャなんだ。切ればいいのに。
「さて、此度皆に集まってもらったには理由がある。と、その前に皆に1つ問おう……我の食事に毒を混ぜた者は誰だ?」
ただの言葉に物凄い威圧感が含まれている。しかしそれよりも、気になるのは毒を混ぜた者は誰と問いただしてきた事だ。お腹を壊していることはルースちゃんから聞いているから知っているけど、毒のせいということか。そしてそれを誰かが混ぜたということだろうか。それをよりもよって、会場で訊くことに意味があるようには思えないけど。名乗り出るわけないし。
「王よ、王の腹痛は拾い食いのせいにございます。毒のせいではありません」
王の横にいた人がそう言った。私はその発言にひどく驚く。
待って!!拾い食い?!え?!何を?!
「貴様は想像力が足りぬ。あのような場所に馳走を置けば誰であろうと手につける事が世の理。誰にも抗えぬ」
「王よ。廊下に落ちていたどんぐりを食べる者はおりません」
「ブフッ!!」
何処かで笑い声が聞こえる。私も笑いそうだ。あの執事の人も随分と人が悪い。
「今、笑い声が聞こえたが?誰だ?縛り首にせよ」
横暴が過ぎるんじゃあ……
と思っていたら、衛兵の人が笑い声の主を突き止め取り押さえた。
「す、すみません!!!お!お許しください!!」
たった今のでもダメなのか。でも見過ごすわけにはいかない。私が立ちあがろうとした瞬間に、横にいたルースちゃんが私の腕を掴んで立ち上がらせようとしなかった。
「何をするつもりですか……?」
「何って……助けに……」
ルースちゃんも私も小声で会話を続ける。
「なりません。ここでは王が全てです。王が右と言えば右、左と言えば左という世界です……」
「横暴が過ぎるよ……」
「……申し訳ありません。しかし、それが最善なのです」
ルースちゃんの苦虫を噛み潰したような表情は、私には悲鳴に聞こえた。助けあげたくても助けてあげられない。そんな悲痛な声だ。
「王様!!!私も笑いそうになりました!!!!」
私はルースちゃんの腕を払って立ち上がりながらそう言った。そう言った瞬間、ルースちゃんに頭を床に叩きつけられてしまった。
「王よ!!申し訳ありません!!冗談が好きな者の過ちです!!しかし!!実際には笑っておりません故!!どうぞお見逃し下さい!!!」
「ルース……ちゃん……!」
「何を考えているのですか?!王に逆らえば!!全ての世界を敵に回す事になりかねません!!」
ルースちゃんの押さえつけから抜けられずにジタバタしているとこちらに近づいてくる足音が聞こえる。足取りはゆっくりで尚且つ重い。この足音はヒゲモジャ王だ。
「ルース、手を退けよ」
「……、出来ません……!」
「理由を問おう」
「この者は私の友人であり恩人です。お見逃し下さい」
「ほう、件の……。分かった。今回のみ見逃そう」
「……、ありがとうございます」
王は自分の椅子へ戻り、偉そうに座った。にもかかわらず、ルースちゃんはずっと私の頭を押さえたまま離そうとしない。
「ル、ルースちゃん。い、痛い……」
「……、は!すみません!!」
ルースちゃんは慌てて手を放してくれた。ルースちゃんも私も片膝をついて手を胸に当てるポーズを再度取る。ルースちゃんの顔を確認すると、酷く強張っている様な感じだった。汗も、別に部屋が暑いわけでもないのに滴り落ちるほど、流れている。
さっきの人は衛兵に捕えられて王の横に座らされていた。
「ふむ、我は今気分が良い。許そう。放してやれ」
よく分からないけど、解放されたみたいでよかった。
解放された人はすぐに元の場所に戻り、私たちと同じ構えをした。
「さて、今日は重大な発表をしなければならん。心して聞け」
辺りに緊張が走る。生唾の音が聞こえるほどに静けさが走っていた。
「我が妻、ヴィーナスから政治上の権利を剥奪する。以上だ」
政治上の権利?何それ?
私はよくわからなかったけど、周りの人達はざわついている。王族の人は予め知っていると言っていたから、驚いていなかった。当然と言えば当然だ。
「王様!理由を聞かせていただいても構いませぬか!?」
「……、良かろう。政治は面白くあらねばならん。以上だ」
「???それはどういったことでしょうか?!」
「つまらぬ詮索はよせ。どの道、主らは従うという選択肢しか持たぬ。理由を知って何になる?」
「……!……お答え頂きありがとうございます」
「他に。……、なければ終わりだ。後は好きにいたせ。以上だ」
王様は会場から出て行った。出て行った瞬間ルースちゃんが思いっきり飛びついてきて思いっきり抱きしめてきた。
「い!!痛いぃ……!」
「なぜあの様な事をしたんですか?!一歩間違えていれば!!死んでいた可能性だってあるんですよ?!」
「……、ごめん。でも、ルースちゃん。あれを見て見ぬ振りは良くないと思う」
「……、申し訳ありません」
「エインさん、お許しください。王に歯向かう事は周囲への飛び火を理解しなければなりません。ルースには守るものがあるが故に、見捨てる事もまた、選択肢に入ってしまいます」
グルエルさんが私の頭を撫でながらそう言ってきた。
「守るもの?」
私は気になったので聞き返す。
「えぇ。貴方含めた友人やルースに憧れ関わりを持つ者、仲良くなった依頼主等、色々あります」
「??それが何なんですか?」
「……、以前1度、王に異を唱えた者がいたのですが、その行為の見せしめにその者が大事にしていた人たちを皆殺しにされてしまいました。その者には一切罰を与えずに。それ以来……、逆らう事は大事な者を失う事を意味するようになってしまいました」
「そ、そんな……だ、誰も抵抗できないんですか?!あのヒゲモジャぶっ飛ばすとか!」
「王との戦いに勝てるとすれば、レイン兄様とルイン兄様しかおられません。逆らったところで……誰も何も出来ないのです……」
「じゃ、じゃあ!お兄さん達に頼んで!!」
「いや、それは良くねぇ」
ここでルインさんが口を挟んできた。しかしレインさんはずっと黙っている。フェフェさんはレインさんにおんぶされて眠っていた。
「何でですか?」
「逆に訊く。王に勝って何をする?」
「何を?そう言った横暴をやめさせる?」
「そうだな。だが、力でねじ伏せる事は父上様とやっている事は同じだ。そんな奴が、『権力を使った横暴をやめましょう』って言って誰が納得する?」
「……!それは……」
誰も納得はしないだろう。でも、従わせる事ができるのならそういう選択肢があってもいいんじゃないかと思う。
「……、それにだ。父上様の振る舞いは決して認められていないわけじゃねぇ。俺も兄上も小さな頃は父上様と同じ様な性格だった。ノルヴァルタスの血は戦いと蹂躙を好むからな。そのノルヴァルタスは王族の中でも半数を占めている。父上様の振る舞いに賛同する者が半数もいるという事だ」
「???」
「この現状を無理やり変えようとするなら、ノルヴァルタス全員との対立になりかねない。それだけは避けたいんだ」
「他のレインヴァースの人やヴァ……ヴァー……」
「ヴァイアロンよ」
「ヴァイアロンの人たちを味方につければ良いんじゃないですか?」
「ヴァイアロンは兎も角、レインヴァースは巻き込めねぇよ。いざ勢力争いに巻き込まれた時に身の保障が出来ねぇ」
「はぁ……」
「……簡単に言うとだな、平和的にこの現状を変えるにはノルヴァルタスからこいつになら任せてもいいという信頼を得る事だ。力で抑えたところで次には繋がらねぇからな。無理やり王になると、暗殺すらされかねないからな」
「それまでは……見て見ぬ振りですか?」
「……、そうなるな」
「……ルースちゃんはそれでいいの?」
「良くありません……!ですが……私1人の行為が大勢の人を傷つけてしまう可能性がある限り……私は……私は……目の前の1人を見捨てるしか……出来ません……」
ルースちゃんが苦しそうな顔をしている。私はそれを見て黙ってしまった。そんな私を見てグルエルさんがまた頭を撫でてくる。なるほど。意味が分かった。人の限界、見向きもされない人……、必ず見捨てなければならない人がいる。王族にはそういうしがらみがあるのか。
「……、グルエル。いつまでも気に病むなよ。おまえは立派にやってるよ。おまえの付き人を見ていればわかる」
「あら、ルインはいつからそういうこと言える男前になったのかしら?お子様のくせに」
「あぁ?!おまえと歳同じだろうが!!」
「そういうとこ気にする事がお子様の印ですよ。……、エインさん、また会える日もあるでしょう。その時はよろしくお願いいたします。では、失礼いたします」
そういって、また私の頭を撫でてからグルエルさんは会場から消えた。でも、私はいまだにルースちゃんに抱きしめられていて動ける気はしない。
あの人頭撫でるの好きだな。
「ルースちゃん……、今出来ることを目一杯やろうね。全力でやって助けられないのなら……それはもう……何も出来ないんだよ」
「勇者様が諦めのいいこと言うなよ」
「え?!せっかく良い感じに言ったと思ったのに!?」
「おまえはそういう事思ってねぇだろ?」
「……、私は目の前の助けてを全部拾おうと思ってるだけだし、ルースちゃん達みたいに未来の事を考えてないだけです。ルースちゃん達のようなしがらみもないし」
「それで良い。ルースに夢を見せてやってくれ。それがルースの励みになるからな」
「兄様……、エイン……私は……、……」
「……、じゃあさ旅出ようよ!一緒にパーティー組もう!そうして各都市でさ!頑張って依頼こなして!皆んなに認められたらさ!!ルースちゃん達の考えも認められるようになるよ!!我ながらいいアイディアだ!!」
「悪くはねぇ考えだ」
「!!ですが兄様!!」
「パーティーの件については俺らから父上様に話しておく。そもそも、冒険者はおまえの希望でなったんだ。おまえの自由にしたら良い」
「……、レイン兄様?」
「私もルインに賛成だ。私達は世界を見て回った事がある。おまえはまだ見て回っていない。友人と世界を見て回った後に、考えが変わらないとも限らない。世界を見て、考えてきなさい」
「兄様……、分かりました」
そう言って、ルースちゃんは片膝をついた。
「ルース・ノルヴァルタス、これよりエイン・アリスのパーティーに所属する事を謹んで承諾いたします。エイン!よろしくお願いしますね!!」
「え、あぁ、うん。よろしく!!」
お疲れ様です。
洋梨です。
本当は王様も性格が良いというか、権力を無闇矢鱈に振るわない人物にしようとしていたんですが、設定的におかしいので横暴君主にしました。




