第28話 そんなことはいくらでもある
グルエルさんを探し回っているが全然見つからない。何処かの室内にいるわけではなさそうだ。全部屋覗いてきたから間違いないと思う。という事は、外にいるはず。そう思い、王宮内でも高いところに位置する風の当たる廊下に来た。
そして予想通り、グルエルさんはいた。欄干に手をついて風に吹かれている。仮面は外している。白い髪のショートヘアだ。横顔が既にかわいい。
「グルエルさん、ルースちゃんが戻ってきなさいって言ってました」
「……、戻りません。それよりエインさん。すみません、意地悪な事を言ってしまい」
「え、い、いえ、そんな」
「分かってはいるつもりです。エインさんの志が立派なことも。勇者様を目指す事が、何も悪くはない事も。ルースには散々嫌な事をしてきた事も分かっています。正直なところ、あの子の夢を応援したい。ですが、レインヴァースの人間はそんな事をしてはいけない。ふふふふ。まぁ、言い訳ですね」
「なんで応援してはダメなんですか?」
「……、その前にこんな話を信じてくれますか?」
「……、1人で泣く程抱え込んでいるものが、嘘だとは思いたくありません」
グルエルさんは今現時点では泣いていない。しかし、目が赤く腫れている。今まで泣いていた証拠だ。ちなみに瞳は金色。
「甘いですね。……、レインヴァースは弱いんです」
「弱い?」
「はい。その言葉通り力がほとんどありません。『回復魔導の一族』と言えば聞こえは良いですけれど、ただ単に弱い魔法も使えないほど、身体が貧弱なんです。その代わり回復魔法を研究し続けてきた。その回復魔法があるからこそ、王族でいられるだけです」
「???、よく分かりませんけどそれが何で応援しちゃダメ理由になるんですか?」
「力がない者は力が強い者に支配される事が常。それは例え王族とて例外ではありません。レインヴァースはノルヴァルタスとヴァロアインには逆らえない。逆らえば、逆賊の汚名を着せられ、追放されてしまう」
「え?!そ、それは何かの間違いなんじゃ?!ルースちゃんたちがそんな事!!」
「……、聞いた事はありませんか?あの3兄弟妹は優しいと」
「……、あります」
「それはまさにその通りです。ノルヴァルタスの血の中でもあの兄弟妹は異質なんです。それは王妃様である'ヴィーナス'様の側にいたからでしょう。レイン兄様、ルイン、ルース、あの人たちが王族では異質なほど優しいのは王妃様の人徳が故。特にレイン兄様は色濃く継いでいます」
グルエルさんは膝を崩して座り込んだ。そしてボロボロと涙を流す。
「ヴィーナス様は私の憧れです。私もあの人みたいになりたかった……、でも私は弱いから……、人を虐げてでも自分を守る事に必死にならざるを得ない……、私は人を守る資格もないんです……」
よく分からないけど、グルエルさんはルースちゃん達以外のノルヴァルタスやヴァロアインという人たちに逆らえないのだろう。それがなんで人を虐げる必要があるのかは分からないけど、自分可愛さに他人を蔑ろにする事なんていくらでもある事だ。なら
「グルエルさん、実は困ってたりしますか?」
「??何を?」
「その王族の事についてです」
困っているなら助けてあげる。それが勇者様だ。有言実行してみせる。
「……、別に困っていません。話は終わりました。早くお戻りなさい」
「嫌です。そもそもグルエルさんを連れ戻しにきたんです。1人では戻りません。引き摺ってでも連れ戻します」
「……、頑固な。ほら、見逃してあげるから早く」
「グルエルさん、私は勇者様志望です。王族でも何でも困っていたら助けてみせる。その機会をくれてもいいですよ!にひ!」
「お黙りなさい。今の話は全部嘘です。理解出来ましたか?帰りなさい」
「帰りません!!」
「んな!帰りなさいってば!!」
「……、打ち首とは言わないんですね」
「……、それが何でしょうか?」
「会場の時より、打ち首の理由にはなりますよ。王族に何の敬意も払っていないので」
「自分でそれを言ってしまってはお終いでしょう……」
「兎に角!会場のあれは他のノルヴァルタス用って事ですね!」
「あれは気分だっただけです。今も気分で打ち首にしないだけ。調子に乗ると痛い目を見ますよ」
「頑固な……」
私とグルエルさんが睨み合いをしていると誰かがここまで走ってきた。鎧を着た男性のようだ。顔もきちんと鎧をつけている。
「ここにおられましたか!!グルエル様!!探しました!!」
「'キーリ'!!何故ここに?!あなたには会場の警備を命じていたはず!」
「グルエル様が飛び出してしまったと!他の者から知らされまして!!居ても立っても居られず!!申し訳ありません!!」
「その通りです!!早くお戻りなさい!!会場にはどれだけの人間がいると思っているのですか?!誰か1人でも危険に晒されれば!!あなたが責任を問われる事になる事は分かっていますか?!」
グルエルさんが今までにないくらい怒っている。まさに鬼の形相だ。普通に怖い。
「御言葉ですが、グルエル様。我々の責任など大したものではありません。むしろ我々付き人にとっては、グルエル様に何か起きる事の方が深刻な問題なのです」
「我々?1人じゃないんですか?」
「!?まさか!!」
「お察しの通り、私をはじめ、'ヒュー'、'シュロン'、'テトイ'がグルエル様を探しております」
「〜っ!!会場に戻ります!!ヒュー達にもそう伝えなさい!!!」
「では、お供します」
「バカ!!!早く伝えてらっしゃい!!!私はエインと戻ります!!エインは勇者志望!!!身の安全は保障してくれるらしいですから!!!」
「え?!……、分かりました!!お任せください!!!」
そういうわけで、私はグルエルさんと廊下を歩いている。グルエルさんは歩く速さがなかなか速い。しかし、やはりこんなに廊下は広くなくていい。今度来る時は屋台でも頼もうかな?
「本当にどいつもこいつも……!私のいう事を聞かないんだから!!!」
「まぁまぁ、それ程グルエルさんが大事だったという事なのでは?」
「大事なものは他にもあります!!優先順位を間違ってはいけない……」
「……、別に間違ってないと思いますよ。言ってたじゃないですか。グルエルさんに何かある方が深刻な問題だって。1番優先される順位だったという事ですね!」
「……屁理屈です」
「もう素直じゃないですね!!」
「次言ったら打ち首にします」
「そういうのはツンデレっていうんですよ!!私の妹のリンダも実はツンデレなんです!!お見送りの台詞は悲しかったですけど、私は愛されてます!!!」
そう私はリンダに愛されてる。
あ〜!久々に会いたいなぁ!!でもでも!!今戻ったら勇者様断念したと思われても幻滅させるのも嫌だし!!我慢しないとね!!
「……、腑抜けただらしのない顔」
「?!失礼な!!リンダを愛する顔と言ってください!!」
「同じ事です。さて会場の扉が見えてきました。エインさん、あなたの幻想通り、ノルヴァルタス用の私になります。ですが、覚えておいてください。ノルヴァルタス用の私も、本物の私です。……如何に悔いても、自分の行いに嘆こうとも……、私が行った事に変わりはありません……」
グルエルさんはそう言ってから、深呼吸した後に扉の取手に手をかけた。しかし、扉をなかなか開けようとしない。
「ま、なるようになります!いざという時は!グルエル権力で守ってくればいいですからね!!にひ!」
「なぜあなたはそんな、あぁ!ちょっと押さないで!!これ外開きなんですから!!!」
グルエルさんの頭は扉と共にゴンっという大きな音を鳴らした。その場で座り込む。
「ご!ごめんなさい!!すみません!!」
「いったぁぃ……、……、あなた、とりあえずこの場だけでも付き人になりなさい」
「え?なんでですか?」
「付き人なら私やルースと一緒に行動していても、多少は問題ありません。仮にも王族、王族以外に接点を持つ行為は怪しまれます。付き人になるのであれば、今の愚行も見逃してあげましょう」
普通に話してたら怪しまれるんだ。ルースちゃんはそんな事言ってなかったし気にする様子もなかったけどなぁ。
「返事は?!」
「は、はい!!!」
「よし。付き人なら命令には従う事。これが絶対条件です。まず初めの命令を言い渡します」
「はい」
「部屋に入ったら、片膝をついて私の左手の薬指にキスをなさい。それで付き人の証明になります」
「皆んなに見せるんですか?それだとその後が……」
「明日以降はあの付き人は使えなさすぎて解雇したと伝えれば良い事です」
「はぁ、分かりました」
私たちは部屋に入った。会場はまだザワザワとしていて皆が皆話し合っている。こちらの様子にはあまり気が付いていないようだ。
「変ですね。もう始まっていると思っていましたが……」
「同じくです」
グルエルさんが左手を出してきたので、片膝をついて薬指に唇を当てた。なかなか恥ずかしいなこれ。
そしてそのすぐ後、近くでお皿の割れる音が聞こえる。
「そんな……、エイン……」
ルースちゃんが仮面をつけているにも関わらず、口を抑えるようなポーズを取っていた。
「姉様の付き人になってしまわれたのですか?」
「え、いや、きょ」
「そうよ。何かいけなかったかしら?」
グルエルさんは私の耳を引っ張ってきて、私にだけ聞こえるような小声で話しかけてきた。
「ここで今日だけや今だけというと、明日以降の言い訳はどうするつもりですか。付き人になったという事実以外は伏せておくべきです」
「は、はい」
私も小声で返事をする。
「そ、そんな……、エイン……!勇者様の夢はどうなるのですか?!諦めるんですか?!」
「えぇと……」
「それよりルース、王はまだお見えにならないの?」
「姉様とはもう話したくありません!!!見損ないました!!!」
「まずいですよ。ルースちゃんだけには話しておいた方がいいのでは?」
「……、仕方ないですね」
私とグルエルさんはルースちゃんにあらかた流れを説明した。グルエルさんはバツが悪いのか、ルースちゃんへの想いは口にしていなかったけど、ルースちゃんの反応を見るにルースちゃんからの好感度は低くはなさそうだ。苦手というくらいだろう。嫌いという感じじゃない。
「それでルース、王は何処へ?」
「あぁ、それが……、お腹を下されているみたいで」
「え?!それだけ?!……、心配していたのに。とは言え、何もなくて一安心というところかしら」
「とは言いますけど。相当なものらしいですよ。もしや誰かが下剤を食事に混ぜたなんて噂も広まってしまっています」
「え?グルエルさんを連れ戻しに行ったこんな短い時間でそんなに広まったの?」
「はい」
「情報のさ、管理はきちんとやった方がいいと思うよ」
「……、ぐうの音も出ません」
「……、それは後々強化する事にしましょう。それよりはまず今のエインさんの状況です。この状況を他者に知られることは非常に危険ですから、気をつけなければ。お二人とも口には気をつけるように」
「はい」
「承知しました」
お疲れ様です。
洋梨です。
グルエル様も実は葛藤しているという事を知らせたかっただけです。




