第27話 世界は広く、価値観は多様
「何やら楽しそうだな。ルース」
「兄様、衣裳大変お似合いです。こちらは友人のエインです。エイン、こちらレイン兄様です」
「こんにちは」
「こんにちは。ギルドで1度会遇した冒険者の子か。話は聞かせてもらっている。ルースと仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、そんな、こちらこそ仲良くさせてもらってて……、えへへ」
背の高い人だ。全身黒い衣装で首から赤い紐をぶら下げている。ネクタイというやつだろう。見た事がある。顔は仮面をつけているから分からないけど、声は優しい感じだ。
「しかしなぜ、この場にいるんだ?誰が招いた?」
「ルインさんに入っても良いよって言われました」
「ルインか。あいつはまた……。しかし、入ってしまったものは仕方ない。ルインからの招待ならミーシェイを介しているだろう。忠告は聞いているな?」
「はい。口は災いの元って聞いています」
「その通りだ。不用意に発言しないように気をつけてくれ。では、失礼する」
レインさんは何処かに行った。
「あの人が長男の人?」
「はい。長兄のレイン兄様です。とても強く凛々しく逞しく、それでいてかなりお優しく、人としてもかなり尊敬できる人です」
「ふーん」
確かにレインさんが纏うオーラみたいなもの、まぁ、雰囲気は凄まじい。私ですら「この人すごい」と感じられるほどだ。ガイドさんも怒った時はこれ以上のオーラを放ってくるけど、常時レインさんみたいな程じゃない。
「……、これ美味しいね」
そう言って、私はさっき食べたチーズをもう1つお皿に乗せた。
「ふふ、1つずつでなくても、好きなだけ取ってもいいですよ」
「それじゃあ、お行儀が悪いよ。こういうのはお行儀というものがあるからね」
「ふふ、そうですね」
私とルースちゃんはお喋りを始めた。そのお喋りが始まった数分後に、すごく偉い感じのお爺さんが杖を片手にゆっくりと歩いて、1つだけ置かれていた椅子に座った。頭はツルピカで髭は胸くらいまで伸ばしていて、とても優しそうな顔をしている。ずっと目を瞑ってるけど。
でも仮面つけてないのっていいのかな。まぁ、いいか。
椅子は皆から避けられていてとても近づける雰囲気ではなかった。それなのにあのお爺さんは何のけなしに座った。つまり、あのお爺さんはメンタルがとても強い!
「あの人誰?」
メンタルが強い事は分かったものの、誰だか知らないのでルースちゃんに訊くことにした。
「……!……?……!!!」
ルースちゃんは驚いた表情を見せながら私とそのお爺さんを交互に見る。その時に口はパクパク開いていたが、声が出ていないので何を言っているか分からない。
「……、失礼しました。……、あの方は、'フェフェ・バミール'。長きに渡りこの国を支えてくださっていて、今では王宮従事の魔法使いです」
「ふーん」
「エイン、あの方は本当にすごい方なんです!かつては冒険者としても名を馳せました。各都市の魔法能力を飛躍的に高めながら、ギルドの依頼を数々こなし、ついた二つ名が花咲の魔法使い。どの都市においてもかなり有名な方です!」
「そうなんだ」
黒い服を着た執事と思われる人がフェフェさんに近づいた。
「バミール様……、そこは王の椅子でございます故、立席をお願いしたく存じます」
そして、フェフェさんは執事みたいな人に指示されて席を立たされてしまった。
すごい人、立たされちゃった。
「ふぅ……、年寄りは労わってほしいものよのぉ……」
フェフェさんは私たちのところまで歩いてきた。足取りはゆっくりなものの、しっかり歩いているようだ。さっきまで杖をついていたのに、杖を浮かして歩いてるくらいだから。
「ふぃ〜……お主、私の事を知らなんだようだのぅ……?」
フェフェさんが私に目を合わせて話してきた。瞳は私と同じ青色だ。それは良いんだけど、少しニヤついているので何か企んでいるような気がする。
「そ、それは……す、すみません……」
「ほほほ、良い良い。叩き上げの魔法使いが、皆に知られようなぞそんな烏滸がましすぎる事、考えてはおらんのでの」
「叩き上げ?魔法使い??」
魔法使いは聞いたことあるけど、魔法使いと名乗る人には初めて会った気がする。魔法使いは確か魔法を使う人だ。当たり前だと思うのだが、これ以外的確な表現方法がないらしい。それに私が使用する魔法とは少し違うと聞いた。私が使用する魔法は、熱や風といった、【存在するもの】に魔力を流して増幅や変換を行い、操るという事に対し、魔法使いは魔力そのものを熱や風に変換することが出来るらしい。つまり、魔法使いの力量は魔力の多さに比例することが多いと聞いた。誰から聞いたかといえば、ガイドさんだ。あの人も多分、魔法使いだと思うんだけど、ちがうのかな?まぁ、いいや。
「何?魔法使いを知らんのか?」
「いや、初めて会ったなって」
「何、初めてとな。ほほぅ、田舎もんかの?」
「……、この人失礼じゃない?」
私はルースちゃんと視線を合わせる。
「……、偉い人ですから」
ルースちゃんは苦笑いしてそう言うだけだ。
「……」
なんか、微妙な空気が流れている。
「あ、でもよく知らないって知ってたね。なんで?まさかここで会話してたこと聞こえたの?」
「ほほほ、わしは叩き上げじゃからの。そうでもないと生き残れんかった」
「???、そうなんだ。大変だ」
よく分からないけど、大変なんだろう。
「ところで姫や」
「はい?」
「このお嬢さんは誰かの?とても良家の出の雰囲気ではないが……」
本人を目の前になかなか失礼なお爺さんだ。
「アルダンという村の出身らしいですよ。一般家庭の人です。そして私の友達でもあります」
「……、アルダン。そうか」
フェフェさんは少しだけ頷いた。
「知ってるの?」
「いやぁ、まったく。いつかに聞いた気はするがの」
「テキトーだなぁ……」
「またあなたは失礼な態度を……」
ルースちゃんは軽くを息を吐いて私の頬を揉み始める。後ろから両の手を回され左右交互にぷにぷにされているのだ。
「それにしてもエインは世間知らずですね」
「そうかな?」
「花咲の魔法使いといえば、知らない人の方が少ない程ですよ」
「ふーん。そういえばルースちゃんの二つ名ってあるの?最初に会った時にアレッタさんがある的な事言ってたと思うんだけど」
「一応頂いています。私の二つ名は桃戦姫と言うんですよ」
「桃戦姫……、かっこいいね!」
「ふふ、ですよね!」
「……、わし、お邪魔かの?」
「あ!いえ!そんなことは。……、それにしても遅いですね。もうそろそろかと思うのですが……」
「何かあるの?」
「今回この場でとある発表があります。とはいえ、王族の中での話なので、エイン達に何かあるというわけでもないですが」
「ふーん、ま、何でもいいけどね」
私はその場で仮面を被り直す。その理由は何か視線を感じたからだ。私に向けられる怖い視線。仮面から出る髪の毛が白色をしている。つまり、勇者様伝記に出てきた【白髪の王族】だと、思う。たぶん。
ちなみにルースちゃんは私と会ってから1度たりとも仮面を外していない。
「ねぇ、ルースちゃん。白髪とか青髪の王族っているの?」
「?、おられますよ」
「じゃあさ、あのもはやガン飛ばしてるよね?くらいの視線を向けてくる人も王族の人?」
「うぇ!ね、姉様!!」
うぇ!っていうのはたぶん、げっ!のお上品な言い方なんだろう。たぶん。
「ふふふふふふふふ」
気味の悪い笑い方でなおかつ、手をわしゃわしゃした姉様が嬉しそうに軽く駆け寄ってきた。
「ご機嫌よう。お初にお目にかかります。私、'グルエル・レインヴァース'と申します。そこにいるルースの従姉妹にあたります。以後、お見知りおきを」
グルエルさんは手を胸に当てて軽くお辞儀をした。しかも私にだ。私もぺこりと頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします!私!エイン・アリスと言います!」
「まぁまぁ!可愛いお名前ですこと……!」
かわいい名前か。そういえばガイドさんにカッコいいって言われたな。
「失礼ながら、先程仮面を外していらっしゃった折に、ご尊顔を拝見させて頂きました。ふふふふふふふふ、あなた、私の付き人になりなさい。ならないのなら、打ち首にします」
「え」
え?付き人にならなかったら打ち首?え、横暴すぎるんだけど。何それ?え、本気かな?
「縛り首でも構いません」
グルエルさんの声はひどくまっすぐで、私を打ち付けるような声をしている。嘘は言ってなさそうだ。つまり、本気っぽい。
怖いよぉ……
「ね、姉様!それは専横な振る舞いがすぎるのでは?」
「あら。これがまさに『王族の権利』じゃなくて?人を買うのも、命を奪うのも、何もかもが自由な当然の権利でしょう?甘い事を言うところは変わらないようね。レイン兄様達といれば、そうなって当然でしょうけれど」
この時、フェフェさんは「やれやれ」と言いながら、この場を離れていった。
見捨てやがったな!!!ジジィ!!!!!!嘘ごめんなさい!!帰ってきて!!!!!
「で、ですが、エインは……」
「エインは何なのかしら?」
「……、エ、エインは!わ、私の!!こ、恋人です!!!!未来の伴侶です!!!」
「え!!!?」
急に変なことを言い出すものだから、びっくりして大きな声出しちゃった。でもルースちゃんの方が声は大きかったし、それは良い。問題はその声が大きすぎて、会場全体に届いているということだ。皆の視線がこちらに集まっている。
「……、本人、とても驚いてらっしゃるようだけど?」
「は、初めて言いましたので!そこまで考えているなんて事は!!で、でも!やる事はやってます!!」
やってないやってない。何もやってないよ、ルースちゃん。
「おまえら、そうだったのか。だからあの時あんなに慌てて」
その時ルインさんが口を挟んできた。なんか、いつのまにかそばにいた。確かフェフェさんがいなくなってから、入れ替わりくらいのタイミングで来たと思う。
絶対今来ちゃいけない人だよ。話ややこしくなるもん。
「あの時とは?」
ほら、グルエルさん食いついてきた。
「実はな」
「待って、答えなくていいです」
私はルインさんが何か言おうとしているところを、ルインさんの前に立ち、止めた。たぶん、ルインさんが言いたいのはキスしようとしてたところだと思う。そんなの言ったら話が拗れる。
「付き人にはならないです。それでも打ち首や縛り首は嫌です。それでこの話は終わりです」
「いや、終わらないのだけれど……」
終わってくれなかった。
「私は勇者様になるので、グルエルさんと一緒にいてあげられないんです」
「勇者様?ふふ、ふふふ、あっはっはっは!!!!!」
グルエルさんの笑い声を皮切りに、これでもかというくらい会場は爆笑の渦に包まれた。ルースちゃんは悔しそうにしているし、ルインさんは笑っていない。レインさんは……、何処にいるか分からないや。
この笑い方は、他人を馬鹿にした時の笑い方だ。故にちょっと気分が悪い。
「ルースが好きになるわけね。勇者様だなんて。この平和な時代に一体何をするの?世界が不幸になることがあるって事?ふふ!」
「……、何がなくても」
「??何?」
「……、この先に、何もないことが1番いいのは分かってる。平和な時代が続くことが何より尊いことも分かってる。それでも、こんな平和な時代でも困ってる人はいる。助けを求める人はいる。どんな時代でも、どんな場所でも、誰かの助けての声が届く場所なら助けに行く。それが勇者様だ。世界を不幸から救おうなんて、ちょっと思ってるけど。……、仮にそれが理由だとしても……、勇者様になる事の何がそんなに可笑しいの?」
「可笑しいわよ。どんな場所でも?声の届く場所なら?人には限りがあるってご存知?口先でも何とでも言えて楽よね?2人の中から1人しか救えなくても、1人救えただけ立派だもの。それを声高だかに自慢するだけでしょう?見捨てた方には見向きもしないくせにね?」
「……!」
「見向きもされない人達がどうなるかご存知?『あぁ、自分は助けられる価値もないんだ』って、さらに闇に堕ちていくのよ。あなた達『偽善者の身勝手』でね。あなたにその覚悟はおあり?人を闇に堕とす覚悟も、それを背負う覚悟も」
「……、だからと言って……、目の前の人を見捨てる理由にはならない。闇に堕ちたとしても私は助けに行く。助けを求めた手を離さないようにする。それが勇者様だと私は思ってる……!」
「手を離さない?それが出来なかったから、闇に堕ちるのではなくて?幻想を追うことも構わないけれど……、現実を見た方が良いでしょう。あなたには何も出来ないのよ」
私の鼻を摘んで、すごく蔑んでいるような目で見下してきた。仮面から微かに見える目がそう見える。それ程までに、私の事を見下しているようだった。そんな微かにしか分からない目に私は、萎縮してしまう。
「ふふふ、最後の機会を与えましょう。私の要求を飲み、付き人になりなさい。そしたら私の下で思う存分やりたい事が出来るようになります。『人助け』も例外ではありません」
「いや。要求を飲む必要はない。エイン、貴方は貴方のやり方で勇者を目指す方が良い」
背の高い人がゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。レインさんだ。
「邪魔をしないで下さる?レイン兄様」
「グルエル。『潰えた夢』の憂さ晴らしは辞めなさい。同じ志を持つ未熟者が民の中から現れた事は、おまえにとっても喜ばしいことのはずだ」
「……、憂さ晴らしではございません。これは現実を見せるための」
「現実を見るべき時は今ではない。それは夢を追い終えた時の話だ。今夢を追っている『彼女たち』に、夢を終えた話をする事に何の意味がある?」
「意味?意味はあるではありませんか……!叶わない夢を追う時間ほど!!無駄な時間はありません!!!その無駄な時間をいかに有意義に使用するか!!それを考えて生きていく方が大事なのでは?!」
「ではなぜ、自分の下で出来る事に人助けという言葉を用いた?エインの勇者像を完全に否定できなかったのは何故だ?」
「そ、それは……」
「グルエル、夢を託すということは恥では無い。人はそうやって過去、現在、未来へと繋がっていく。歯車になる事に誇りを持て」
ガイドさんから聞いた勇者様と同じようなこと言ってる。
「……!!レイン兄様のバカ!!アンポンタン!!マヌケ〜!!!」
グルエルさんは罵詈雑言を吐き捨てながら、何処かに行ってしまった。
「どこでああいった言葉を覚えてくるのだろうか……」
「俺の貸してる『漫画』のせいだと思う」
「悪影響だ。今後は控えなさい」
「兄様!グルエル姉様も!勇者様を目指されていたのですか?!」
ルースちゃんが食い気味でそう訊いた。実のところ私も気になる。仮に目指していたのなら、それを潰えた理由も知りたい。
「いや、グルエルは勇者になりたかったのではない。人助けがしたかったんだ。それを許す環境ではなかったという事が、最大の不幸ではある」
なるほど。だから、私にあんなに突っかかってきたのか。
「悪いな、エイン。グルエルは嫌なやつだが、悪い奴ではないんだ」
「嫌なやつは悪いやつです」
「えぇ……、相変わらず肝の座り方がえげつないな」
「……、だがそうだな。それが事実だ。今度会う時は優しくしてやってくれ。心根は優しい子のはずなんだ」
「それはあちらの出方次第というか、なんというか」
「……、エインの言う通りです。如何様な理由であれ、してしまった行いの責任は大いにあります。エインが優しくする必要性はありません。しかし、参りましたね。すぐに連れ戻さなければ」
「なんで?」
「もうすぐ王から発表があります。その場にいなかったから聞いていませんでした、という事は許されないので」
「?でもさ、王族は内容知ってるんでしょ?」
「そうなのですが、補足事項があるやもしれませんし」
「ふーん、じゃあ私が探してくるよ。探してる間に発表が始まっちゃったら本末転倒だもんね」
「良いのですか?あのグルエル姉様ですよ?」
「まぁ、私もちょっとだけ訊いてみたいこともあるしいいよ。大丈夫」
「では、お願いしますね」
「うん!」
お疲れ様です。
洋梨です。
世間は休みですね。私もです。
この章は王族の話、つまり今やっている話で終わります。その次は自然都市編、エデン祭の予定です。
この作品を読み返してみました。設定忘れてるところありました。まぁ、いいやって感じです。
平和な世界に勇者様は必要か不必要か、それはその時代が決める事。
エインは果たして勇者様になれるのだろうか。




