第21話 荒療治
私はルースちゃんのお兄ちゃんに連れられて、王宮内に入っている。大きいお城で、ただの廊下なのにもはや出店が並んでいてもおかしくないと思える程だ。多分、廊下の横幅が20メートルくらいはある。
こんなに大きくて意味あるのかな?
「そういえば、おまえ、名前はなんて言うんだ?ルースが話すからエインとは知ってるんだが。姓の方は知らなくてな」
「エイン・アリスっていいます。お兄さんはなんて名前ですか?」
「俺はルイン、'ルイン・ノルヴァルタス'だ。以後よろしく」
本当に俗物みたいな話し方だ。なんでなんだろ?もしかしてアホなのかな?
私たちが廊下を歩いていると、おそらく執事の人とメイドの人たちとすれ違う。その人たちは、すれ違う瞬間に立ち止まり、深いお辞儀をしてから横をささっと通っていった。対して、ルインさんは軽く会釈する程度で立ち止まらずに歩いている。そんな様子から分かったが、やはりこの人は偉い人だ。でも、俗物みたいな話し方をしているのは不思議なところではある。しかし、気にするのも良くないので、忘れよう。
「そういえば、他の王族の方々はいらっしゃらないんですか?」
「あぁ、今はいない。確か、自然都市で今後の政治について話し合うそうだ」
「え?ルインさんは参加しなくて良いんですか?」
「俺とルースは政治の権を兄上に一任しているからな。よほど意見が食い違わない限り、兄上の支持する考えを支持している。だから、兄上が会議に出れば問題ないわけだ」
「あれ?でもこの前ルースちゃんは会議に参加したと言ってましたよ?」
「それは王宮内で行う会議じゃないか?それは全員参加必須だからな」
「へぇ。でもでも、王宮を留守にするって良いんですか?」
「あぁ、何も全員が全員会議に参加するわけじゃないからな。残ってるやつもいるし、問題はないだろ」
なんか、色々とテキトーにしてるな。こんなもんなのかな?
「あらぁ、ルイン、そのかわいい子は誰でしょうか?もしかして、ルインの情事のお相手でしょうか?」
白髪の長い髪の人が、トコトコと歩いてきた。とてもにこやかだし、優しい声をしている。瞳の色は青く透き通っていて、汚れなど見えないくらいだ。優しい雰囲気はどことなく、ルースちゃんに似ているが、ルースちゃんと同じつり目というわけじゃない。
「いえ、母上様。この者はルースの友人であるエイン・アリスさんです。本日はルースの見舞いに来てくださっています」
な!なんか!急に丁寧になった!!!というか!!母上様って言った?!ということ!!もしかしてこの人!!王妃様なのかな?!あ、でもやっぱりじゃあ、ルースちゃんのお母さんさんなのは確定だ。雰囲気にも似てるし。
「あらぁ、そうでしたか。それはよく来てくださいました。ありがとうございます」
ルースちゃんのお母さんは嬉しそうな、でも、ちょっと悲しそうな目をして私の肩に手を置いた。そしてポンポンって肩を叩く。その後、どこかに歩いていった。私たちもまた歩き始める。
「あの人、王妃様ですか?」
「ああ。良く分かったな。現王唯一の妻だ。そして、俺ら兄弟妹の母でもある。でも、俺たち上2人とは血が繋がってない。義理の母だ。ルースとは血の繋がりがある実母だけどな」
「へぇ。色々あるんですね」
「おまえ、今の聞いてそれだけで済ますのか。少しはしんみりしろ」
「何でですか?詳しい事情を聞いても私には分からないです、たぶん。なので、しんみり出来ません」
「えぇ……、おまえ、えげつない肝の座り方してるな」
「えへ?それほどでも?」
「褒めてねぇよ。アホ」
「あ!また悪口言った!!」
「なんでそこは気にするんだよ。そこも寛大になれ」
「えぇ……、自分勝手すぎる」
「それおまえが言うの?」
「兎に角!早くルースちゃんのところに行きたいです!」
「そうだな。それはそうだが、もうそろそろ着く。慌てるな」
……………
ルインさんがある部屋の扉の前で止まった。扉はそこまで大きくないが、重そうな扉だ。
「ここがルースの部屋だ。俺がいたら邪魔だろう。ここで待ってる。何かあれば言ってくれ」
「じゃ、じゃあ、入ります」
私はノックしてからルースちゃんが眠っているという部屋に入った。大きな部屋で、ダブルベッド?が端の方においてある。ルースちゃんはそこで眠っていた。綺麗な顔している。呼吸の音や気配は感じられるので、死んではいない。ただ普通に眠っているといった感じだ。そして、窓から日が差し込み、ルースちゃんを照らしている。
「ルースちゃん……」
私はベッドの横に置いていた椅子に座る。そして、布団の中に手を入れてルースちゃんの手を握った。
「久しぶり。目が醒めないって聞いた。まだ、ずっと寝てたい?私はまた一緒に葡萄掘り行きたいな。約束だもんね。おじぃさんも楽しみにしてるよ」
ルースちゃんはピクリとも動かない。
「あー、ダメか」
うーん、何したら良いんだろ。傍にいてくれって言われたっけ。よし、なら。
「お邪魔します」
私はルースちゃんのベッドに入る。ルースちゃんと一緒に寝る事にしたのだ。こうやって実際ベッドに入ってみると、いかに良いベッドを使っているかということが分かる。ふかふかで気持ちいい。
「なんで起きないのかな?お寝坊さんなの?」
なんかちょっと眠たくなってきた。おやすみ。
……………
「おい、起きろ。何眠ってんだ」
「んあ?」
んー、んー?
「寝ぼけてんな。ルースは……、起きないか」
「んぁ、そうだ、ルースちゃん……」
私が寝てから何時間経ったかはちょっとわからないけど、日も暮れているようで、相当な時間は経ってそうではある。
「起きない……、もう、ねぼすけさんだな」
「おまえでも無理か……」
ルインさん右手を額に当てた。苦しそうな顔をしている。ルースちゃんのことをとても気にかけているのだろう。それはそれとして、気になることがある。
「何勝手に入ってきてるんですか!?女の子の部屋に!!!このスケベ!!!!」
「んな!?おい待て!!!おまえが全然出てこねぇから!!様子見に来たんだろうが!!!!」
「ノックすれば良いじゃないですか!!!」
「何回もしたけど出て来なかったんだろ!!!アホ!!」
「そ!それは、すみませんでした!!」
「え、あぁ、おう。こっちも悪かったぜ。でも別に別に妹とその友達になんかしようなんてハラは元々ないんだが」
「言い分けがましい……」
「なんでだよ。兎に角、おまえでも無理なら強行するしかないな……、やりたくはなかったんだが……」
「何するんですか?」
「魔法を使って起こす。その際に、精神にもちょっと負荷を負わせる事になる。あまりいい技じゃない。精神の負荷は簡単には治らないって言われてるからな」
「あ、じゃあちょっと待ってください」
私はそういってルースちゃんに上に跨ってルースちゃんと向かい合う。そして腕をぐるぐると回す。
「え、何してんだ?まさか……」
「ルース!!!!起きなさい!!!!」
私はルースちゃんを思いっきりビンタした。
「なにやってんだぁああああ!!!??!?おま!!王女様だぞ!!!いやそれ以前に!!!嫁入り前のうら若い乙女に傷がついたらどうするんだ?!!」
「?何言ってるんですか?冒険者に傷云々なんてつきものです。……、まだ起きない」
「……、お前の言うことも尤もだな。だからっておまえ、いきなりビンタは……」
「ルース!!!!起きなさいってば!!!!!」
私は再度ビンタする。
「いやおまえさぁ!!!!人の話聞いて?!!頼むからさぁ!!!!」
「ルインさん、肉体の傷ならば簡単に治ります。精神に負荷を与えることと、どっちがいいですか?」
「……、だからといってなぁ……大事な妹がこうもビンタされているのをみるのは……」
「じゃあ方法変えます。ルース!!!!起きなさい!!!!」
私はルースちゃんを抱き起こし、思いっきり揺さぶる。結構揺さぶったつもりだが、起きる気配がない。
「ダメか……」
「今のは起きてても気絶するんじゃないか」
「ルースちゃんはそんなヤワじゃありません」
「……、それもそうだな。しかし、おまえがここまでして起きないとなるとやはり……」
「あ、後1つ、試したいことが。いいですか?」
「ここまでやったんだ、激しい損傷を伴わないものであれば構わない」
「よし。ルース、早く起きないと、忍び込んで本を勝手に拝借したことバラすよ?」
「勝手に拝借?あぁ、そういや何冊か本が消えている期間があるな、それか?」
その時私の身体はかなりの勢いでルインさんの方へ飛ばされた。ルインさんはそんな私を最も簡単に受け止める。
「な、ナナナナな、なんの話をなされているのですか!?兄様!!!これはその!!あの!!!違います!!!違うんです!!!」
「落ち着け、起きてそうそう焦る内容なのか?」
「は!!い、いえ……、あれ、私どれほど眠っていたのでしょうか?随分と空気が違うような……」
「1ヶ月以上は眠ってたらしいよ。私、ルースちゃんを起こす為に呼ばれたんだ。起きてよかったね!にひ!」
「エイン……、ありがとうございます……しかし、一月以上も眠っていたのですね。兄様、申し訳ございません」
「いや、いいんだ。無事にいてくれるだけでいい。起きてよかった。ありがとうな。エイン」
ルインさんは、この日初めて優しい顔をして見せたような気がした。それもそうか、ルースちゃんが起きないという不安に苛まれていたんだから。きっとリンダが起きなくなってしまったら、私ならここまで気丈に振る舞えるか怪しい。きっと、強い人なんだろう。
「いえ、私もルースちゃんが起きてくれて嬉しいです!また一緒に鍛錬とかも出来るし!」
「エイン……、本当にご迷惑をおかけしました。後日改めて御礼をさせて頂きたいのですが……、兄様、いつ頃が宜しいでしょうか?」
「そうだなぁ。少なくとも父上や兄上が帰ってからだろうな。あの御二方もかなり心配されていた。父上や兄上も御礼がしたいと言い出すはずだ」
「では、その頃に。エイン、また誘いますので少し待ってていただけますか?」
「え、いやいらないよ、お礼なんて。私だってルースちゃんには命を救われたんだし、お互い様だからね」
「そういうわけにも……ではこうしましょう。初めてお友達をお家に招待します、それでいかがですか?」
「えぇ……食事付き?」
「図々しいな、おまえ」
「だって、『お礼したからはい解散』はちょっと気まずいです」
「食事するのも気まずいと思うけどな。まぁいい。食事付きだ。おまえだけが知るルースも知りたいしな」
「あ、兄様!!それは聞かなくてとよろしいかと!!」
「なんだ?聞かれたくないことでもあるのか?」
「私だって年頃ですから、そんな話の1つや2つは……」
「まぁ、話せる範囲でいい。その時にまた聞かせてくれ。エイン、せっかく来たんだ。とりあえず今日も食事はしていけ。その後、ルースと2人でじっくり話でもしてやってくれ。楽しい話でもすれば、心の傷も少しは癒えるだろう。俺は戻る」
そう言って、ルインさんは部屋を出ていった。
「いいお兄ちゃんだね、俗物みたいだけど」
「ふふ、兄様は作家を目指されているので庶民と同じ目線に立つことを意識しておられるが故かと思います」
「そうなんだ。意外だな」
「ふふ、兄様が言った通り、今日はお食事をしていってくださいね。その後は自由にしてくれて構いませんので」
「分かった」
お疲れ様です。
洋梨です。
作家を目指すきっかけは、今後書くか書かないかは分かりませんが、その辺は設定があります。
目覚ましビンタって、痛いんですよ。
ちなみに側室制度はあるにはありますが、現王はあまりそういうのはよろしくないという考えです。




