第18話 鬼人
私とルースちゃんはゴブリン達の足跡を追って、洞窟の入り口まで来ていた。林の中にあった洞窟で、その入り口の周りだけ切り開かれたかのように木があまりない。断崖絶壁の石壁の中に作られているようで、別の入り口等はなさそうだ。
「これは……、ゴブリンの巣ですかね?」
「だとしたらさっきよりも多い数のゴブリンがいるよね?」
「そうですね。中の様子を探ってみましょうか」
「?どうやって?」
「魔道具を使います」
そう言ってルースちゃんは鞄の中から、小さな蜂を取り出した。作りというか見た目は完全に蜂だ。しかも蜜が美味しい系の蜂だ。私はその蜂が結構好き。かわいいから。
「わぁ!かわいい!!でもこれどうするの?」
「ふふ、魔力を込めることでこの蜂を飛ばすことが出来ます」
ルースちゃんが蜂に魔力を込めると言った通りに蜂は羽を揺らして飛び始めた。ルースちゃんの周りをくるくる回っている。
「この飛んでいる蜂と視覚、嗅覚と言った五感を繋ぎます」
「あぁ!なるほど!それで洞窟を見るんだね!」
「はい」
ルースちゃんの蜂は洞窟の中にふよふよと入っていった。蜂を見送った後、少し移動して木の上に登った。ゴブリン達が出てきた、または帰ってきた時に見つからないようにするためだ。
「少し思ったんだけど、感覚繋げちゃったら攻撃された時にこっちもダメージとか受けないの?」
「あぁ、跳ね返りですね。特にはありません。感覚を完全に繋いでいるのではなく、繋いでいる物の感覚を覗いている感じなので」
「ふーん。ちなみにさ、それって私も使える?」
「そうですね。エインほど魔力操作が巧みであれば使えるでしょう」
「そうなんだ!買ってみようかな!便利だもんね!」
「ふふ、今度一緒にいきましょうか。未来都市には、こういった探索型魔道具の専門店があるらしいですよ」
「へぇ!」
「あ!エイン、静かに」
そう言うと、ルースちゃんは目を瞑って静かになる。風の音も聞こえないほど、当たりに音はない。自分の心臓の音が聞こえるほどだ。
「これは……、'鬼人'……!!?」
「鬼人?」
鬼人も勇者様伝記に出てきたことがある。角が頭の上の方に1本か2本生えている大型の人間に近い魔物だ。すごく力が強く、凶暴で残忍な性格らしい。臆病者は会っても逃げることを勧めると書いてあった。
「ゴブリンはいないの?」
「いない訳ではありませんが……、今鬼人に蹂躙されています……、う!!!」
「どうしたの?!大丈夫?!」
「はい、すみません。少々驚いてしまっただけです。飛ばされた斬撃により魔道具が壊されました。偶々か、狙ったのか……」
「……帰る?」
正直行きたくはない。私はゴブリンの集団に殺されかけている。その集団をルースちゃんの様子を見るに、一方的に仕留めているようだ。ルースちゃんですら、私からみてもかなり怖がっているように見える。
「……、そうですね。一旦戻って兄様達に」
「ゔぉあああああああああ!!!!!!!!」
大きな声が聞こえる。そして大地が響いた。その響きが木々にも伝わり、私たちにも伝わってくる。
「エ、エイン……!!逃げます!!!」
「う!うん!!」
私たちは木から飛び降りようとする。その瞬間、周辺の木々ごと私たちの登っている木は薙ぎ倒された。木の根本からスパッと切られている。おそらく斬撃が飛んできたのだ。目の前にいる赤い目をした魔物から。身体は勇者様伝記に書いてあった通りに大きく、筋骨隆々な感じだ。牙も角も生えている。角は1本だけだけど、それが寧ろこれほどの威圧感を作っていると感じられるほど、禍々しい。
「おぅおぅ、変なのがいるじゃねーのぉ……?」
持っていた刀を振りながらこちらへ近づいてくる。その刀には血がべとりとついていて、振るたびにその血が周りに跳ねる。おそらく、今しがた、ゴブリンを葬ってきた刀だろう。
私は構えをとる。
「おぅ、そのやる気の目、いいねぇ。ここは雑魚しかいなくて退屈だったんだ!!楽しませてくれや!!!!」
鬼人が刀を横に振り抜いた。斬撃が飛んできたが、私とルースちゃんは何とかそれを剣で受け止める。
おもっ!!!!
私はたった一撃受け止めただけで、腕がプルプルと震えてきた。けどまだ、剣は振える。
「付与・風!!!」
私は剣の周りに風を纏わり付かせる。そしてそのまま剣を縦に振って斬撃を飛ばした。しかし、鬼人はそれを切り裂く。しかも、「はははははぁ!!!」と笑いながら。
「く!!!やっぱりこの程度じゃ」
「あぁ!!!満足できねぇなぁ!!!!もっと楽しませろや!!!!」
鬼人は無数の斬撃を私の方めがけて飛ばしてくる。私はそれを身体を捻って躱したり、剣で受け止めたりするが、鬼人に近づけない。どうにかして近づいて『一本斬』を決めたいけど、近づこうとすると斬撃が飛んでくるし、遠くに居ても斬撃が飛んできて、それをその場で凌げればいい方で、ジリジリと後ろへ下がる他ないくらい数が多い。
「王家三閃!!!!」
「ルースちゃん!!」
ルースちゃんが鬼人に飛びかかった。ルースちゃんは強い。
これでもう勝ち確だ!
「……え?」
ルースちゃんの剣は鬼人の首をとらえている。しかし、刃が少し入っている程度のところで止められていた。それも、首の筋肉だけでだ。
「速い技だな。両腕も一応斬られてる。見事だ」
確かに両腕から血が少しだけ出ているが、傷はあまりに浅く、ダメージなどほとんどなさそうに見えた。
「だが!!雑魚がしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ!!!!」
「がはっ!!!!」
「ルースちゃん!!!?」
ルースちゃんは腹部を殴られて吹っ飛ばされた。近くの木の幹にぶつかり、その木に背をつけたまま座り込み動かなくなる。
「ははははぁ!!!雑魚に用はねぇ!!!さぁ!!!続きをやろうぜ!!!!」
先ほどまで感じていた重圧感がさらに増した。自然と身体が重くなるように感じるが、全身に力を入れて抵抗する。
「ルースちゃんは雑魚じゃない……!」
ルースちゃんが雑魚なら私は一体なんなんだ。
「戦場は覚悟の溜まり場だ!!!覚悟のねぇやつが雑魚以外のなんだってんだよ!!!!」
その時鬼人は雄叫びを上げる。私は震え上がった。それはルースちゃんも同様で、目を丸くして動けないでいるようだ。後ろに木があるにも関わらず、それでも後退りをしてしまうほどだ。つまり、正常な判断も出来ない程、萎縮してしまっている様子だった。
「これ以上の説明はいらねぇだろ?」
鬼人は剣を振りながら高笑いを上げている。怖いことは何も悪いことじゃない。それで動けなくなってもそれも悪いことじゃない。それを乗り越えれば良いだけだ。私は1回、死にかけたことがある。ルースちゃんはそれがないのだろう。これはただの経験の差で、それが覚悟があるかないかの証明にはならないはずだ。
しかし、ルースちゃんが動けないのもまた事実ではある。
だったら
「だったら、私が君を倒すだけだ。調子に乗るな」
私は再度、鬼人に向かい構えをとった。
「いいねぇ、覚悟のあるやつの目はキレイだぜ……」
お疲れ様です。
洋梨です。
鬼人って、響きがかっこいいですよね。




