第17話 深い傷
私たちポイントを移動し、少し木の密集した所、つまりは林のようなところまで来た。風が強く吹いていて、木々の枝が強く揺らいでいる。
「……、何かの気配がします」
「何かの?」
私にはそう言われても、風で揺れる葉が鳴らす音しか聞こえない。
「―――」
いや、何か聞こえた気がする。なんだろ?
「ルースちゃん、何か聞こえる?」
「微かに……、ですがはっきりとは……」
その瞬間ガサガサと木の枝が揺れ、上から槍が降ってきた。
「槍?!」
しかし、降ってくる槍は目に見えて数本程度で大して数は多くなく、私でもなんとか避けることができた。ルースちゃんも慌てていたが、難なく避けている。
「何これ?」
私は不用心にも地面に刺さった槍を引っこ抜く。少しした後地面がガタガタと揺れ、体勢を保てない。私はすぐに地面に手をつけて伏せる。
「うおあああ!!!!なになに?!」
「これは……!!エイン!!!無茶をします!!!お許し下さい!!!」
「え?!なに?!」
「いきます!!!そーれ!!!!」
「うあああああ!!!!!」
そう言った瞬間ルースちゃんは私を空高くぶん投げた。私はというと急に投げられたもんだから、叫ぶことしか出来ない。
あー、空が近ーい。
わぁ、すごい勢いで落ちてるぅ。
まずい!!!まずいまずい!!!どうするのこれ?!!
「風!!!!」
私は風を使い、周囲の風を自身の周りに集めた。その風を身体に纏わせ、私は回転する。服に風を浴びせ、落下の速さを少しでも和らげる。そして、落下直前に私は回転の勢いをこれでもかというくらいあげた。そのうえで落下。回転の勢いそのままに私は自分でも分からないほど、どこかに転がっていく。
「うべどら!!!!」
そして何かにぶつかり、私は止まった。辺りを見渡すと、先ほどと同じ林だ。違う点があるとすれば、ルースちゃんはいない。その代わりに上半身が裸の小人が複数いるだけだ。ゴブリンというやつだろう。それぞれが棍棒を持っているので、ほぼ間違いないはずだ。
私はそのゴブリンから、距離を取る。
「ウォオオオオオ!!!!!」
「うっ!!!」
うるさ!!!
私は思わず手で耳を塞いだ。
ゴブリンはその隙に私を囲む。ゴブリンの数はざっと数えて10人にも満たない。それでも多勢に無勢には変わりない。
「オンナダ!!!トラエロ!!!」
「コロスナ!!!ミヤゲニスルゾ!!!」
「殺す気でこないと、痛い目みますよ……!!」
私は剣を両手で持ち、前に突き出すオーソドックスな構えをとる。ゴブリン達はいつでも襲いかかりますよと言わんばかりに、距離をジリジリと詰めている。
これはまずい。いきなりの超級実戦だ。
今の距離感では、相手からしても飛び掛かるにはリスクがある距離だ。かといって、このまま距離を詰められると逃げる隙間も隙もなくなる。
なら!!こちらから距離を詰めるだけ!!!
私は1人のゴブリンに急接近した。そのゴブリンは特に驚く様子もなく持っていた棍棒を力任せに、私を叩き潰すつもりだったのか縦に振ってきた。私はそれを身体を捻って躱す。そしてその捻りを跳ね返す反動と魔力で増幅した腕力で剣を振う。
「一本斬!!!!!」
ゴブリンが上半身と下半身に真っ二つに分かれた。
今のうちに逃げなきゃ!!
「ぐっ!!!!」
急に頭に強烈な衝撃が走った。内部からでなく、外部からだ。私はその場で倒れる。目の前には血がべとりとついた棍棒が転がっている。頭がガンガンする。身体が熱い。
そうか、これが……当たったの……か
「キヒヒ!!コンボウ!!」
「ゔあ!!!!!」
「コンボウ!!!」
「ゔお!!!!!」
私は思いっきり棍棒を背中に振り下ろされている。それを見た他のゴブリン達の下卑た笑いが聞こえるが、どうにも出来ない。
まずい……まずい……、殺される……死ぬ……
「フルコンボウ!!!!!」
「王家三閃!!!!」
突如私の目の前にはゴブリンの顔が3つ落ちてきた。棍棒は私の背中に落ちてこない。
「鬼神傀儡……!!」
「グゥ……!テッシュウシロ!!テッシュウ!!!」
ゴブリン達の逃げる足音が聞こえる。ルースちゃんの声が聞こえてきたから、ルースちゃんが追い払ってくれたんだろう。
「エイン!!エイン!!!!しっかり!!!!!今回復しますから!!!回復魔法」
暖かい空気が私を包む。私の背中の傷はみるみるうちに消えていく。しかし、頭の傷は完全には回復しなかった。しかし、十分には回復したので、動けるようになる。
「いつぅ……、ありがとう、ルースちゃん」
「はい。すみません、完全に回復して差し上げたいのですが、完全回復では反動が激しく、この場においては得策ではないので……」
「ううん。動けるくらいまで回復してくれたし、むしろ気を遣ってくれて嬉しいよ。ありがとう!」
「エイン……」
ルースちゃんは少し優しく微笑んだ後、持っていた小さな鞄から包帯等を取り出して、頭の傷を手当てしてくれた。私は、片目が隠れたような包帯の巻かれた方をして、重症の人っぽく見える。仮面は邪魔なので、ルースちゃんの鞄の中に入れてもらった。
「ところでルースちゃん、さっきさ、なんで私投げられたの?」
「槍を引き抜いた時に地面が揺れましたよね?」
「うん」
「あれはこの付近に生息する火山亀が動いた時の反動です。普段は地中で眠っていることが多い上に性格は至って温厚なので、滅多には姿を見せません。しかし、今回のように稀に動く時に遭遇する時があります。それは餌を探しにくる時です。餌をとる時は辺り一面を地面ごと丸ごと吸い込んでしまいますので、一旦上空に避難することが推奨されています」
「槍は?」
「関係ありませんね。おそらく、誰かの罠でしょう」
「え?じゃあ引き抜いた時に地面が揺れたのは偶然?」
「どうでしょうね?槍の刺さった時とそれを引き抜いた時の刺激が獲物が飛んできたという刺激として伝わったのならあるいは、という程度です」
「そうなんだ」
「それよりも、ゴブリン達が何処かに行ってしまいました。依頼にあったのはおそらくこの群れでしょうね。……、依頼は失敗として今日は帰りましょうか」
「ううん。追いかける」
私は身体に少し重さを感じながらも立ち上がる。傷も治してもらったし、動きにそれほど支障はなさそうだ。
「しかし、エイン。その傷では……」
「これより深い傷だとしても逃げられない時だってあるでしょ。その訓練にもってこいかな。それに今度はルースちゃんもいるし、後4人倒せば終わりだし。依頼完了して、明日葡萄掘り頑張ろう!」
「……、良いのですか?」
「いいよ。頑張る」
「分かりました。なら、いきましょうか」
お疲れ様です。
洋梨です。
最近、眠たい日が続きますね。
今回は3話一気に更新したいと思います。
ちなみにフルコンボウは
振る棍棒、フル(full)棍棒、フルコンボ、のトリプルミーニングです。




