第16話 変な人たち
私とルースちゃんは芋葡萄がなっているという畑まできた。畑は街から少し外に出たところにある。なので、自然豊かで草原が広がっている。しかし、そこまで遠くもなく街の建物も肉眼で見えるくらいだ。そんなところで私は葡萄を掘っている。ルースちゃんもまずはこっちを手伝ってくれるそうで、一緒に葡萄を掘っていた。
少し日差しがキツくて、麦わら帽子を被っている。
「やぁ、すまんね。人手は足りんし、魔物は出るしで僕みたいなおじぃにはちとキツくてな」
「いえ、仕事ですから。それに楽しいです!」
「んなら、よかった」
この畑はおじぃさんが1人で切り盛りしているようだ。最近は魔物が増えて、芋葡萄が荒らされているらしい。私たちは葡萄掘りと同時に護衛というか魔物の駆除も目的で依頼されたようだ。
依頼書には書いてなかったけど、まぁ、別に良い。
「エイン!!!大きいの取れました!!見てください!!」
ルースちゃんは大きな芋葡萄を持ってくる。私の顔よりも房が2倍くらい大きい。
「わぁ!大きい!!」
「これはでけぇな。流石王女様ったい」
「えへへ、楽しいですね!芋葡萄掘り!!」
屈託のない笑顔でルースちゃんははしゃいでいる。
ま、眩しい。眩しすぎる。
それから2時間くらいは葡萄掘りを続けた。流石に2時間も掘り続けていると、腰や足が痛くなってくる。その痛さを和らげるために私は思いっきりを伸びをする。
「んんー!!はぁ……!ふぅ……」
「んだ?ちと、休憩するか?流石に疲れたな」
私たち3人は畑の近くにあった椅子に腰掛けて、おじぃさんが持参していたお茶を飲み始める。かいた汗で失われた水分の渇きが、癒やされていくように感じる。仮面はこの時初めて外した。おじいさんは特に仮面には触れてこない。
「どだ?うめぇだろ?」
「おいしいです!!」
「王女様はどだ?うめぇか?」
「はい。とてもおいしく感じられます」
「そかそか!働いた後の飯もうめぇが、働いてる途中の茶もうめぇ。王女様はそんがわかるか!なはは!!」
おじぃさんはとても楽しそうに笑っている。ルースちゃんもそれにつられて笑っていた。長閑な時間が流れる。
「あ、ちょっと失礼」
私は仮面をつけ、剣を持ってからその場から少し離れる。畑には入っていないが、入ってこようとしている魔物を見つけた。あれは"バージボア"というやつだ。2本の大きな横に突出した牙を持つ大きなイノシシで、その牙で相手を蹂躙とすると言われているやつだ。特別強くはないが、牙の攻撃だけは受けてはいけないとガイドさんから聞いている。
「でらあぁあああああ!!!!!!」
少し遠くから、剣を振り翳しながらイノシシめがけて私は走っていく。それに気づいたのか、イノシシは前足で2回地面をかいてから猛スピードでこっちに向かって走って来た。威嚇は失敗だ。私は剣を腰のあたりに戻し、スピードを上げてイノシシに向かって走る。
正面衝突するちょっと前に、私は軽く跳び空中で身体を捻って、イノシシの突進を躱し後ろにつけた。イノシシは方向転換しようとしてこちらを向こうとしてる。
「一本斬!!!」
私はイノシシが突進してくる前にイノシシを上半分と下半分に真っ二つにした。
一本斬は魔力によって腕に地力以上の力を込め強引に相手を切り裂く技だ。自分の腕力を強化して強く剣を振る。ただそれだけの技。けど、それでも、イノシシの1体くらいは簡単に斬ることができる。この技は初級魔法の本に書いてあった。
「よし、完了!お肉お肉!!やったぁ!」
お肉は実は高価な食べ物で、ガイドさんはあまり買いたがらない。その為、いつもは少ないお肉を食べているのだが、今日は思う存分食べられそうだ!
「たまげたなぁ。こんなちぃこい子がなぁ」
「怪我はありませんか?エイン」
2人が私のところは駆け寄ってくる。
「うん!大丈夫!!」
「にしても、そのお面はつける必要あるんけ?」
「ちょっと思惑ありまして」
そう、実はちょっと思うことがある。私ははっきりいってパッとしない見た目をしている。とてもかわいいのはそうなのだが、パッとしない。普遍的なかわいい子だ。つまり、忘れられる可能性がある。この仮面をつけることで、私が活躍したことを忘れないようにさせるという感じだ。
「……、エインだけでも大丈夫そうですね。私はゴブリンの討伐に行ってきます。なので、ここはお任せしますね」
「王女様だけじゃあゴブリン討伐は危ねぇや。芋葡萄は僕だけでなんとかなる。おまえさんも行ってやれな」
そういっておじぃさんは私の肩を叩いた。
「いえ、私1人で大丈夫ですよ。民の仕事を豊かに。これも王族の務めですから」
「けんどなぁ」
「いや、私もいく。ゴブリンは群れなんでしょ?1人では多勢に無勢になるよ。人は多い方がいい。友達が危険な所に行くことを私は黙って見てられない」
「ですが……、それでは芋葡萄が……」
「気にせんでえぇ。本当は1人でやろう思ってたんや。依頼は出しはしたんやけど受けてくれるとは思わなんだくらいや。今日は楽しく仕事できて満足やがな」
「おじぃさん、また明日来ます。明日もまた一緒に掘りましょう!」
「おぉ!それはえぇな!今日の分は明日手伝ってもらえば万々歳や!王女様も後腐れなくてえぇかな?」
「それでしたら。ふふ、ではまた一緒に美味しいお茶を飲みましょう」
「よし!じゃあお開きや!」
……………
私とルースちゃんはゴブリンの群れが出没する回数が多いというポイントに来た。辺りには木などの遮るものは何もなく、辺り一面草か砂だ。時折砂が飛んでくるので仮面をつけていて良かったとちょっとだけ思う。それと実は芋葡萄畑との距離はそんなに離れていない。街と畑の距離を1とするなら、街とここは1.3くらいで、ここと畑は0.8くらいだ。
「見当たりませんね?風も……、……特に気にする必要はないでしょうか」
ルースちゃんは深呼吸しながら目を瞑る。魔力が動いているので何か魔法を使っているのだろう。
「あ、ねぇ。そういえばなんだけどさ」
「何でしょう?」
「魔族って何?魔物と違うの?一緒なのかなって思ってずっと話を聞いてたんだけど、やっぱり違うよね?」
「……、魔物は何か分かりますか?」
「うん。魔力を持った人以外の生物という認識」
「正解です。そう定義されていますね。では、魔族とはですが、魔族は魔物の中でも高度な知能を持った生物、もっといえば、【人と言葉を交わせる魔物】と定義されています」
「話せるってこと?」
「はい。意思疎通がはかれます。ですが、基本的にはこちらの言葉など受け入れず、結局は戦闘になる事は多いです」
「ふーん。そのさ、魔族って人以外なんだよね?でも魔王って魔族の王なのに、人がなった事があるっておかしくはないの?」
「……、その辺は少し複雑でして。『闇堕ちした人間』は、人とは一線を画す魔力を得るとされています。そうなってしまった人間は、人間と見做されず、魔族と見做されます。ただ、どうしても外見は人間で、元魔力も人間なので判別が難しい現状ではありますね」
「そうなんだ。大変」
闇堕ち……、ということはガイドさんはそれを絶対に1度は経験しているということになる。一体どんな経験をしたのかは分からないけど、触れない方が良いかもしれない。今後の会話は気をつけよう。
「エイン!!何か来ます!!!」
「え?」
ルースちゃんが剣を構えた瞬間、大きな影に私たちは覆われた。頭上にはなんか大きな鳥がいる。羽を含めた全身が黒色で、爪は鋭くテカテカしている。嘴も身体の大きさに比例してバカみたいに大きい。嘴だけで私の大きさを超えている気がするほどだ。そんな鳥が私たちの所に降下してくる。
「大黒鷲!!!??!何故ここに?!」
大きな鳥は私たちを啄もうとして、嘴を伸ばして来た。ルースちゃんは簡単そうに避けたが、私は避ける事は無理と悟り、嘴の前に剣を出し、防御する。その結果、嘴と剣が当たり私はその衝撃で後ろへ身体はのけぞり、足はよろけた。
「紅焔の結び(プロミス・フレア)!!!!」
ルースちゃんが剣を鳥の翼目掛けて振り上げたと同時に大量の火の粉が飛び散った。鳥は後ろへ跳ね、避ける。それでも、ルースちゃんは一気に近づき、距離を離さない。
「紅の大羽!!!!」
大量の火花が一気に燃え上がり、ルースちゃんの剣に纏わりつき、大きな剣の形を模した炎になる。その大きな炎の剣をルースちゃんは横に振り抜いた。炎の大きな剣は鳥に当たるものの当たった瞬間飛散して大きくは無くなってしまう。しかし、炎が今度は鳥に纏わりつき、鳥は燃え始めた。
「す、すごい……!」
私はただ見ているだけで、身体が震え、魂が揺れる。
大きな鳥は炎を消す為に大きな羽を羽ばたかせる。しかし、完全には消せないようだ。だからなのか、空に飛ぶ素振りで少し浮いた。
「王家一閃!!!!」
その少し浮いた瞬間に、ものすごい勢いで突っ込んできたルースちゃんに首を斬られた。鳥の頭がボトっとその場に落ち、鳥の身体はずっと燃えている。
「……はぁ……」
ルースちゃんは大きく肩を入れた呼吸を一回だけした。
「さて、今宵は焼き鳥ですね。先ほどのバージボアも合わせて沢山ありますし、ギルドで人を集めましょうか?」
ルースちゃんは剣を鞘にしまって私のところは歩いてくる。
「大丈夫?疲れてない?」
いつも見ているルースちゃんより少しだけ身体の動きが鈍い。少し身体を重そうにしながら歩いているように見えた。だからそう訊いた。
「……、大丈夫です。……、いえ、少しだけ疲れました。いついかなる時も、疲れを悟られぬようにすること。これが冒険者の鉄則です。なので、隠していたつもりだったんですが、隠せきれていなかったのですね」
ルースちゃんはにへらとして笑った。
「うん、まぁ。でもすごいね!あんな大きな鳥倒せるなんて!!」
「ふふ、あれは大黒鷲と言います。本来はこの大陸にはいないはずですが……」
「そう、いないはずですよねぇ?」
急に私たち以外の誰かの声が聞こえた。その声の方を向くといつ現れたのかも分からない黒いローブをかけ、目も口もない縦と横に一本ずつ線の入っただけの変な仮面を被った変な人がいた。
「誰ですか?」
「んん?おやおや?御仲間がいますね?誰です?」
「訊いているのはこっちなんですが?」
「エ、エイン……、ちょっと抑えて……」
「いやぁ?もしかして見当違い?記憶の片隅にもいない方ですし、もしやただの変人?」
この人だけには言われたくない。ただ、この人は普通の人間じゃない。異常だ、異常なまでの圧力を感じる。明らかに私じゃ手も足も出ないと思える程の圧力だ。
「だったらなんですか?」
だからと言って、無抵抗になるわけにもいかない。私は剣に手を添える。明らかな敵意を相手にぶつけた。
「ふーむ、愚かですねぇ。ここで殺しても構わないのでしょうが……、ふーむ。よく見ればかわいいお面をしている。それに免じて見逃してあげましょうかね?」
「……」
その変な人はその場で右足を軸に横に一回転した。
「では、ご機嫌よう。また会える日までお互い生きていられるように」
そう言った瞬間変な人は無数の蝶々に変わってその場から消えてしまった。
「何だったんだろ?」
「……、それよりもゴブリンが見当たらないので、ポイントを変えましょうか」
「そうだね」
お疲れ様です。
洋梨です。
技の詳細は今度まとめて、後書きの方に書いておきます。




