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勇者様ってなんですか!?  作者: 洋梨
第1章 勇者様の基礎
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第13話 基礎は叩き込むもの

 それから私は3ヶ月ほど、ずっと初級魔法の練習をしていた。種類としては【ファイヤウォーターウィンドエレクトロアースシャインダーク】だ。ルースちゃん曰く、それらを反射レベルでも正確に使えないといけないらしい。ガイドさんもその意見には同意のようで、私がしている特訓については何も言わないでいた。もちろん、柔軟や筋力トレーニングも欠かさず行っている。それどころか、「魔力操作は疲れていても正確に」という理由で、ヘトヘトになるまでやらされているし、自主特訓と称して、夜のお風呂入る前に体力づくりのマラソンをやらされている。

 今はそのマラソンが終わった直後だ。



「はぁ……はぁ……はぁ……死ぬ……」



 私は終わった直後にその場で倒れた。もう限界だ。死ぬ。



「よし。今日も目標はクリアですね」



 このマラソンにはガイドさんが付き合ってくれている。ルースちゃんは夜には必ず家に帰らないといけないらしい。



「ガイドさぁん……おんぶしてぇ……」


「もう。自分で歩きなさい」


「ひぇぇ……」



……………


 その後、私はヘトヘトになりながらも、お風呂屋さんまで来ていた。今日はもう寝ると言っているのに、ガイドさんが「今日は行きましょう」というので、渋々ついて来たのだ。特になんの約束もしていないので、スケベなことはさせないけど。



「エイン、今日は良いことを教えてあげます」


「良いこと……?」



 お湯に浸かりながらガイドさんはそう言ってきた。私はもう疲れているので、お湯の中で力を限りなく抜いている。そうすることでとても気持ちが良いのである。



「はい。見ててください」



 そう言ってガイドさんは、手を少し丸くしてお湯の中に入れた。そして手の中に入っていた空気をお湯の中で開放する。当たり前だがその空気は上に向かって浮かんできた。ガイドさんはその空気を静かに見つめている。そして数瞬の後、その空気が回転し始め、お湯は渦を巻き始めた。



「これは?」


「渦巻きです」



 それはそうなんだけど……



「この渦は今の空気が引き起こしています」


「……?ふーん」


「エイン、なぜそんな回りくどいことしたと思いますか?」


「なんでだろ?水でも出来るってことですよね?」


「そうです。これは水でも出来ます。むしろ水の方がわざわざ空気を送る必要がないので、簡易的です。ここまで言えば分かりますか?」


「まるで分かりませんが?」


「まぁ、そうですよね」



 そうですよね、なんだ……



「渦、例えば水のみでこの渦を作った場合、魔力の流れって何処から調節する必要があると思いますか?」


「え?ここからじゃないんですか?」


「はい。正解です」


「……?」


「ここから渦を巻きますよね。ですが、水自体に魔力が流れている場合、水そのものを扱うと、そこにある水全ての魔力にこちらの魔力が干渉します」


「はい」


「一方ですね、空気を送りこの空気を動かすことで渦を作る場合、水に私の魔力は干渉しません。つまり、結果として起こる現象が同じでも、自分で操る魔力が異なります」


「へぇ、でもそれって何か違いがあるんですか?」


「……、エイン、例えばです。遠くから魔力感知できる人がいたとして、ここの空気だけに干渉する魔力と水そのものに干渉する魔力では、どちらが見つけやすいですか?」


「……水です」


「そうですね。同じ現象でもどの魔力に干渉するかを考えることは、かなり重要です。とは言え、実戦の中でそこまで考えながら動くことは難しいでしょう。正確な魔力操作をしようと思えば尚のこと。だからこそ、反射的の段階でも正確な魔力操作が出来るように、この初期の段階で叩き込んでいる。その分、今言ったようにどの魔法を使えば良いか、適切に考える時間が増えますからね」


「魔法ってすごいんですね」


「……そうですね。エイン、まだあなたは歩み始めたばかりです。悔しいのも分かりますが、自分を卑下する事ありませんよ。だから、泣かないで、ね?」



 そう言って、ガイドさんは私の目に浮かぶ大粒の涙を指で優しく拭ってくれた。私は結局何も分かっていない。そんな悔しさが表に現れてしまったのだ。



「でも……、こんな事も……自分で気付けないなんて……うぅ……私は結局……何も分かっていないんです……ぐす……」


「ならばこそ、ここで教えてもらえたのは僥倖じゃないですか?」


「僥倖……?」


「はい。自分で気づいた事も誰かから教えられた知識もそれは同じ知識です。実戦の中で相手の隙を見つけて攻撃、なんてところは教える云々は出来ませんから、あなた自身に頑張ってもらう他ありませんけどね。……、話を戻しますね。自ら学んだ知識も他人から学んだ知識も、身につけなければ全て意味を為しません。学んだ知識を如何に糧にするか、これが重要です。エイン、あなたが何も分かっていなくても、分かるまで私が教えてあげます。その為に隣にいるんですから。今のあなたがすることは、自分を卑下せず、ただがむしゃらに強くなること。これだけです」


「……、分かった。でもガイドさん、どさくさに紛れて胸触るのはやめてね?」



 そう、このドスケベ。私を励ましてくれている最中に抱きしめてきた。それは良い。暖かいし、癒されるのでむしろ嬉しい。しかし、その反動だとは思うんだけど、胸に手を回している気がする。



「え?!そんな!!?私良いこと言っていると思ってたのに!!」


「……、良いことは言ってました。ありがとうガイドさん。また明日からも頑張れそうです」



 胸触られたような気がしたのはしたのだけど、それでも私はガイドさんを抱きしめ返す。この人は本当に私の事を思っていてくれる。そんな気がする。少しくらいの過ちは許してあげよう。仮にも勇者様志望だし。



「……、エイン、お礼は胸10回でいいですよ」



 前言撤回。許さん。



「……今日はこのままにしてください」



 でも私はガイドさんに抱きついたままそう言った。まだちょっとだけ引っ付いていたい。



「……仕方ありませんね」



……………


「ふしゅぅ…………」



 私たちはお風呂屋から出た後、近くの長椅子に寝転がっていた。私たちというよりかは私なのだが。



「エインは相変わらずお風呂弱いですね」


「お世話様です……、……ガイドさぁん、リンゴジュース欲しいなぁ……」


「全くこの子は……、そこ動かないでくださいよ?」


「はーい」



 久しぶりのやりとりだ。前にこれをやった時はここに来た日にやったから、もう3ヶ月くらい前か。相変わらず空は汚いけど、少しは街の様子にも慣れたように思う。ここは変な街だ。良い人がいるかと思えば悪い人がいたり、事件がよく起こるかと思えば平和な日が続いたり、とても不思議だ。でもそれがここでは普通で、それが日常として過ごしている。他の街もこんな感じなのだろうか?



「何感傷に耽っているんですか……」


「あれ?早い」



 ガイドさんはすぐに戻ってきた。リンゴジュースの瓶を私の頬にピタッとくっつける。冷たい。



「お風呂屋さんに売っていました。最近売店を始めたそうで」


「あぁ、そういえばありましたね」


「さ、帰りますよ。明日からも頑張ってくださいね」


「うん。頑張ります!」

お疲れ様です。

洋梨です。


3ヶ月ほどの期間は微妙に長いのか短いのか分かりませんが、1週間くらいで初級魔法をエインは体得しているので、そこからずっとそれの練習しかしていません。以上です。

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