第12話 今はまだ焦る時じゃない
本を借りた私たちは訓練場まで戻って来た。人はちらほらいたけど、カカシの前は空いていたので、カカシの前に行く。私は本を手に持ちながら開いて準備万端オーケーな感じだ。
「では魔法について。魔法と言っても特別な何かは必要ありません。絶対的な魔力量やその系統に得手不得手はありますが、全て魔力操作の延長線上にあります」
「なるほど」
「一度実践してみますか。火」
ルースちゃんが指パッチンしたら火がついた。指先が赤い火に包まれる。ルースちゃんはすぐに手を払って火を消したが、確かに火が出て来た。すごい。
「このように火の場合は、指を弾くまたは擦るなどして、摩擦の熱を起こします。その起こした熱を魔力を用いて増幅させ、発火させる。これが火の発動方法です」
「それってさ、極論熱があれば何処でも火を出せるの?」
「極論を言えばそうなりますが……、熱は誰でも何処でもあります。もちろん人体にも。それらを発火させる為にはそれらが持つ魔力の流れを見極める必要があるので、簡単に出来るとはいきませんね」
魔力の流れ。昔、父から聞いたことがある。人体は勿論、生物無生物関係なく、魔力を持つ個体には必ずある魔力の循環システムのことらしい。魔力の流れを掴むには、まず魔力の源泉を突き止める必要があるらしいが、基本的には一定のリズムで止めどなく流れ続ける上に、何処かピンポイントで魔力が濃いとか薄いとかはなく、全て一定の魔力量で動くため、魔力の源泉を見つけることは、ほぼ不可能だと言ってた。それに魔力の源泉は人によって場所が異なるからそれが余計に不可能を加速させるとも言っていた。
つまり、無理ということだ。
「あ、でもさ。自分で出した摩擦には魔力の流れはないの?」
「その答えとしては、若干流れる、ということが正しい答えです。しかし、何かこちらで意図的に起こした行為、つまりは能動的に起こしたものについては、魔力が分散される為、自分とは別の魔力の流れを持つことになります」
「????つまり?」
「指パッチンしたり、指を擦ったりして出した熱は自分の魔力ではないということです」
「へぇ、ま、なんかとりあえずちょっと熱を出して魔力操作すれば良いんだね」
「……、そうです」
「よし、やってみるか!」
指パッチンをしてみる。その時の魔力を感じ取ると、確かに私が持っている魔力とは別の魔力だ。野良魔力とでも言うべきかな。よくわからないけど。
「……、出来ませんか?」
「ううん、出来ると思う、ちょっと確認しただけ」
もう一回指パッチンする。出て来た熱の魔力を増幅させて熱を出させ、発火させる。
よし、きちんと出来た!
「おぉ、やはり魔力操作はお手のものですね。では少し応用編を見せましょう」
「?どういうの?」
「例えばです。指パッチンしてドカンを見たことがある、とエインは言っていましたがそれはあまりに隙が大きいと思いませんか?」
「??まぁ、大きいとは思う」
「ですよね。そういったやり方は隙が大きいだけではなく、『今攻撃しますよ』と相手に教えているようなものです。では、どうすれば悟られずに出来るのか。見ててください」
そう言ってルースちゃんは剣を鞘から少しずつ出していく。その出している途中で刃を鞘に軽くぶつけた。少し火花が散る。その火花が燃え上がり、ブレードのところに螺旋状に火が揺らめき始めた。鞘から剣を全て抜いてもその火は消えずに、むしろ大きく燃え上がってブレードの部分を包み込んでいる。
「うおおお!!!カッコいいぃ!!!!!」
「ふふ。この様に【動作の中で悟られない様に魔法を使う】ことが、重要です。ちなみにこれは付与という技です。武器や防具に今見せているように魔法の力を与え、強化します。この場合は、発火させた魔法の火を魔力操作で風で空気や塵を制圧することで、持続的に剣を燃え続けさせています」
「ずっと燃える……ということは!!これで切れば相手は燃えるの?!」
「いえ、『熱っ!』となるくらいかと」
「そのくらいなんだ」
「はい。ただ燃えている剣に斬られるだけですので」
「魔法ってすごいんだね」
「そうですね。小さな魔法も組み合わせ次第では大きな技となりますから」
「じゃあ!もっと勉強しないと!!」
「ふふ、そうですね。でも今日はもう終わりです」
「え?もう?」
まだ日は落ちていない。後少しくらいは出来ると思うけど。もうちょっとくらいやりたい気もする。
「焦らず、ゆっくりと。魔法というのは急に詰め込みすぎると良くありません。火の魔力操作法で風を操作してしまったり、その逆をしてしまったり。【確実に適した方法で魔法を使える】、これが魔法を使う上で1番重要なことです。基礎を疎かにしてはいけません」
「……分かった!!」
「しかし、どういった魔法があるのかを知っておく事は良いことです。本は読んでいても良いですよ」
「はーい」
……………
ルースちゃんにきちんと挨拶してから宿に帰って来た後、私はすぐに自分の使っているベッドにダイブした。
「ふゆぅ……身体が沈んでいくぅ」
「今日はそんなに疲れていないですね?」
そこにガイドさんが来る。
「はい。今日は最後に魔法の練習をして、ちょっとだけ体力が回復してます!!」
「そうですか。それは良かったです。ところでエイン?約束は覚えていますか?」
「約束?」
「胸10回」
「……、覚えていますけど」
「昨日は非常に疲れていそうだったので、やめておきましたし、特訓も実戦形式が多いかと思っていましたので、当分は無理かなと諦めていましたが、そうではなさそうなので」
めちゃめちゃ嬉しそうな顔してる。
そんなに揉みたいか?このドスケベが。
「……、10回ですよ……、どうぞ」
私はその場で上半身だけ裸になる。別にもう一緒にお風呂入ってるし、毎日覗かれてたし、この人に裸見られたところでもう別になんとも思わない。
「あぁ!ここで見ると全く別の感情が!!やはり!!こういう場にこそ!!」
……、やっぱり服着とこう。
「あ!あ!なんでまた着るんですか?!今から揉ましてもらおうと思っていたのに!!」
「……、別に。服着てても揉めるので。どうぞ」
「……、エインはイジワルです……」
そう文句垂れながらも、ガイドさんは私の後ろに回り、胸に手を当てて来た。しかも、服の中に手を入れて直にだ。
「あはぁ♡やはりモチモチしてます♡手が中にどんどん沈んでいくようです♡」
「……」
「もみゅんという表現が1番しっくり来るモチモチさと柔らかさ♡好き♡」
「……」
「いえ、ですが♡何も柔らかさだけが魅力だとは言い難く♡」
「いいから早く10回揉んでくださいよ!!」
「いやです♡出来るだけ長く触っていたいです♡」
クソォ……!回数制限じゃなくて時間制限にすれば良かった!!あ、でもそれじゃ逆に、時間内にこれでもかってくらい揉まれそう。そんなのになったら、私の方がスケベになりそうだから却下で。
その後約20分くらいまた揉まれた。非常に長いと感じた。そして当のガイドさんはそれはそれはとても満足そうな顔をしている。
「そう言えばエイン、今日は何の魔法を習いました?」
「火と付与です」
「なるほど。火ですか。勇者様に相応しい系統の魔法ですね」
「……、ガイドさんはやっぱり、私に勇者様になって欲しいですか?」
「何ですか、唐突に」
「……、焦っています。ルースちゃんにはゆっくりと確実にと、は言われましたけど。それで良いんでしょうか……?もし、今魔王が現れてしまったら……」
「そうですね。魔王が今現れる、その可能性はないことはないですが。その時はその時です。私が何とかしましょう。エインにはエインが頑張るべき時があります。それはまだまだ先になるはずなので、今はきちんとルースさんのいうことを聞いて、鍛錬に励んでください」
「なんでそんなこと分かるんですか?いくら元魔王だからって、私が頑張るべき時が分かるなんて……」
「……、元魔王。自分で言うのも烏滸がましいですがね、それは伊達ではありません。魔族の頂点に立つ、それが魔王です。今現在、魔族の数は少なく、人前に現れるなんて事も稀です。ミドルやアレッタからそう聞きました。つまりまだ大丈夫です。魔族が活性化し、人の土地を奪い、人の命を葬って、世界が混沌としている中で生まれる王、それが本物の魔王です。なので、まだまだ先の話ですよ、魔王が現れるなんて」
「でも!現生していると言ったいたじゃないですか!!」
「現生していますよ。ただ、今はまだ力が乏しくその器ではありません。今のあなたと同じ未熟者です。だから、焦らずに力を身につけなさい。必ず自分のものとする為に。焦って手に入れた力は、いつかボロが出ますよ」
嘘はないのだろう。ガイドさんは表裏がそんなにない人だ。じゃなきゃこんなにドスケベじゃないし、ズケズケ言ってくる事もないはずだ。でも、それでも、内心は取り残されている気がしてならない。いくら強くなる時期だと言われても、目標とする壁が高すぎる気がする。追いつける気はまるでしない。
「エイン、あなたに良い事教えてあげます」
「良いこと?」
「はい、これだけ覚えれば大丈夫です」
私は生唾を飲み込んだ。
「人は急に強くなれません。以上です!」
「……え?」
「……、エイン、私は勇者様を選別できる権利をもらいました。だったら、魔王と勇者様が対決する時に、勇者様が魔王を倒せるようにするまでには、どのくらい鍛える時間が必要なのかも、考えることは可能です。つまりですね、今の弱いあなたを強い勇者様にするまでの時間を確保しているということです。そんな私がゆっくりでいいから焦らずに強くなりなさいと言っているのは、そんなにおかしいことですか?」
「じゃ!じゃあ!!今現れるという可能性があるというのはなんですか?!」
「可能性はあります。しかし、今現れる魔王の器など、たかが知れていますよ。魔族が力をつける前に現れる魔王の力など、私の指一本で勝てます。その魔王は後に現れる魔王にその座を奪われるでしょう。あなたにはその後の魔王を倒してもらう必要があります」
「その後……」
「強くなる時間はまだまだ十分あります、頑張りましょう」
ちょっと歯切れが悪いけど、強くなる為の時間が今なのだということは理解した。それにガイドがそこまで言うのなら、それに従うまでだ。
「あ!!でも!!私!!呪いのこと許してませんよ!!」
「え?!あれはもう時効かと!?」
「現在進行形でかかっている呪いに時効なんてものありませんよ!!」
「そんな!あ!でも!エイン!!それはそれ、これはこれという話なので!また機会があれば!!胸10回お願いします!!」
「お断りします!!」
お疲れ様です。
洋梨です。
ふと思いましたが、ルースは王族なのに護衛もつけずにフラフラ出歩いている理由を考えていませんでした。なんか設定考えておきます。
ルースが火花を散らせた様子をエインがとらえることが出来た理由は、エインにも分かるように大袈裟にしたからです。
ガイドさんは元魔王ですが、それ以上の気もします。何者でしょうか。まぁ、分かりやすいですね。




