第11話 書物の類
ルースちゃんは結構スパルタだ。何をしててもまだいけるまだいけると繰り返すばかりで、私の言うことはちっとも聞いてくれない。
けれど、そんなスパルタだからこそ、私は本日か・な・り・の時間をかけて180°開脚に成功しました。もう動けません。現場からは以上です。
「エイン、大丈夫ですか?」
私は股を押さえて倒れている。
足外れそうだ。死ぬ。
「だいじょばない……」
「……、大丈夫そうですね」
「……今の聞いてた?」
「本当にダメな時は返事も出来ませんよ」
「……、次何するの?」
「お、やる気ですね。そういう所好きです。次は昨日と同じく、筋力トレーニングをしましょうか。ですが、その状態だと身体に負荷をかけるのはあまりよろしくありません。軽くにしましょう」
軽くの度合いがこの人の場合、ずば抜けてるんだよなぁ……私の全力がこの人の100分の1にも満たない気がするくらい。
しかし、結局私はルースちゃんに言われるがまま、筋力トレーニングを行う。ルースちゃんに言われたことは全て乗り切った。
すごいぞ!私!!すごい!!
「さて、最後に今日は魔力操作の練習をしましょうか」
「あれ?模擬戦じゃないの?」
ルースちゃんに誘われるまま、私はカカシの前に来ていた。正直言ってクオリティはすごい低いカカシだ。十字に立てた木の棒に布をぐるぐる巻きにして頭のところに藁をかけてあるだけのカカシ。誰でも作れそうなくらいだ。
「模擬戦でも良いのですが、エインに変な癖がついてはいけません。戦いなれていない間は基礎力向上を目指します」
「了解です!!お願いします!!」
「良い返事です。ではまず、どの位出来るか確認させてください」
ルースちゃんはいきなり変な紙を渡して来た。なんかてろーんとしてピシッとしない紙だ。いくら真っ直ぐにしようとしてもすぐに垂れる。
「……、変な紙」
「ふふ。その変な紙を真っ直ぐ綺麗に、一直線にしてみてください」
「……、どうやるの?」
そもそもやり方が分からないのでどうしようもない。とりあえずやり方を訊く。
「あぁ、そうですね。えっと、その紙を魔力で包みます。その魔力を真っ直ぐにすれば良いです」
「ふーん」
やってみる。簡単にできた。紙は綺麗にピンとしている。
「まぁ!すごい!簡単にできましたね!」
「え、あぁ、うん」
「ここまでそつなくこなしてしまわれるとは。お見それしました!」
「えぇ、いやぁ、そんなにぃ褒められても」
やたらとルースちゃんに褒められたのでちょっと顔が緩む。にへらとしているのが自分でも分かるほどだ。だけど、これはそんな難しいものじゃない気がするのだが……
「そんなに難しくないよね?」
「……、初めてで出来る方は多いですが、やはり何処かよれてしまう人が多いので。ここまで真っ直ぐなのは珍しいです。魔力操作は才能があるようですね!!」
なんか棘があるような言い方だった気もするが、褒められたのでよし。それにルースちゃんはとびきりの笑顔で嬉しそうにしてくれている。それが何より嬉しい。
「では、技を覚えてみましょうか。いえ、まず何か技を覚えたりしていますか?その技をどのくらい扱えるかをみましょう」
「技」
「はい、技です」
「技って何?魔法のこと?私は魔法の類は何も知らない……」
「……、初歩魔法もですか?」
「魔法とは無縁の生活をして来ました」
「……勇者様伝記は目にされておりますよね?」
「うん。だから魔法の名前は知ってる。鬼神傀儡とか、一点破局とか」
「……あぁ、発動方法が分からないのですか?」
「うん」
「……、ではまずギルドの図書館に行きましょうか。ついて来てください」
ルースちゃんに連れられて私はギルドの図書館に来た。大きな本棚がいくつも等間隔に並んでいて、分厚い本がいっぱいある。その本たちは空中を浮いて誰かの手に渡ったり、地面を歩いて本棚に戻ったりしている。少し不気味なところだ。
「本が1人でに動いてる……」
「魔法本には意志が宿りますからね。自分を求める人の元へ勝手に動いていきます」
「へぇ。変なの」
「……、そういえばエインは昨日の腕相撲の女性とどういった関係ですか?」
「ガイドさんのことかな?ガイドさんとは……なんか急に現れて勇者様になれとか言ってきた変な女とその被害者という関係かな?」
「随分変わった関係ですね」
「口に出してみるとそうかも。でも、そんな変な女でも私に期待してくれたのは事実だから……頑張りたいんだ」
自然と強く拳に力が入る。
「……、良い関係です。そのガイドさんは何か魔法をお使いにはなられませんか?」
「魔法……、指パッチンして遥か向こうの魔物をドカンって吹き飛ばした魔法は見たことあるよ。あ!!あと!!呪い!!!」
「呪い?」
「うん!!!あの人本当はというか多分隠すつもりなさそうだけど!!本当にドスケベなんだ!!!私!!勇者様にならなかったら人前で全裸にするとかいう呪いかけられてる!!!思い出した!!!思い出したらなんか腹たってきた!!!」
「……え、忘れてたんですか?その呪い」
「……、忘れてた」
「……、全裸になってみます?」
「……、ルースちゃんもそういうことしたいの?やっぱりエッチな子なんだ?スケベ」
「な?!ち……!!ちがっ……!!私はそんなつもりじゃ!!!というかやっぱりってなんですか?!」
「……、それよりさ。魔法の練習を」
「待ってください待ってください!!本当に違うんです!!」
なんかやけに必死に否定するなぁ。目もちょっとうるうるしてるし、訳ありかな?
「違うんです!!!エイン!!あれはほんの出来心で!!!」
「あれって何?」
「あれ……、……、そういえば魔法のことですけどね。お勧めの本が」
ルースちゃんはそそくさと違う今いる場所とは異なる本棚へ移動しようとする。しかし、私はそれを手を取って止めることにした。ルースちゃんの秘密聞きたい。
「逃すと思う?」
「エイン、魔法の説明と私のあれ、どっちが聞きた」
「あれ」
魔法の説明はガイドさんやアレッタさんに聞けばなんとかなる気がするけど、ルースちゃんの秘密はここを逃せば2度と聞けない気がする。
「……、……、……」
とてつもない苦悶の表情を浮かべている。苦虫を噛み潰した顔とは聞いたことあるけど、まさにそんな感じだ。
そんなに言いにくいのかな?
「ごめん、そんなに言いたくなければ別に……」
「昔……、兄様の部屋に入った時にとある本を見つけたのですが……、その見入ってしまって……」
「うん」
言うんだ。
「その後も寄寄……兄様の部屋に忍び込んでは……それに似た本を……嗜んでいる……といった感じで……」
予想よりも遥かに聞かない方が良かったかもしれないと思うなんて初めてだ。多分、話の流れ的にエッチな本だと思う。
よし、忘れよう。はい、忘れた。
「……ここにある本の中では何がお勧め?」
話題を変えよう。本当世界はスケベばかりだ。この国大丈夫かな?
「私のお勧めは、【ドキドキ!ビーチサバイバル!】です」
「……、それは魔法の本?」
「……、……、魔法の本なら魔法入門編の本が良いかと」
「ありがとう」
ルースちゃんは汗をダラダラかきながら微笑んでいるが、明らかにやってしまったという顔をしている。ドキドキビーチサバイバルという本も一応探してみよう。
私は本を探そうと1歩だけ足を前に出す。すると、前から蝶々のように羽ばたきながら本が飛んできた。私もそのまま本に向かい歩いていく。その本は私のところで止まり、受け取ると普通の本に戻った。本の表面には魔法初級編と書いてある。
「わぁ!これがさっき言ってた!!勝手に動く本!!すごい!!」
「エインなら魔力操作の巧みさもありますし、魔法はすぐに実践してみても良いかと思うので、訓練場で練習してみますか?」
「うん!お願いします!」
「では行きましょうか」
「あ、待って。これも借りる」
私はふと目を横にした時に見つけたドキドキビーチサバイバルの本をひょいっと引っ張り出した。ルースちゃんはひどく驚いたような顔をしている。
「あ、あの、それはですね、魔法とは関係が……」
「でもお勧めって聞いたし、読んでみたくて」
「……、あ、あの……、読んでみたら……、感想聞いてみても良いですか?」
「なんで?」
「お恥ずかしい限りなのですが……、その本の感想をアレッタやミドルには言えませんし……他に友人はいないし……で」
「……1人で嗜む人も珍しくないと思う」
「でも……!とても良い……本なので……!他の方がどう思うかを……聞いてみたくて……」
「うーん、分かった。いいよ」
「!ありがとうございます!!……、では訓練場に戻りましょうか」
「うん」
変わり身が早い。さすがに王族だ。変態の王族。面白い響きだ。
お疲れ様です。
洋梨です。
この世界に出てくる人は大概変態です。
よろしくお願いします。




