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仕合わせ  作者: おでき
3/10

 伊織の元に身を寄せてから、菖子は多くの装飾品を手にした。が、装飾以外の目的で贈られた物は今日が初めてだった。二人きりのディナーで左手を見遣れば、目に映る紫色が燭台の明かりに反射して美しい光を揺らめかせる。伊織に抵抗を示すように思えて、菖子は大人しく指輪を嵌めていた。

 何時にも増して豪勢な夕食は、晩餐という名に相応しい。指輪を贈られた特別な日に、特別な夕食。此の後に何が待つのか、経験が皆無である菖子とて理解出来た。差し迫る時間に、怖く悔しく、施設で共に過ごした意中の人の姿を想う。

 大して料理を口にせず、菖子は食事の手を止めた。伊織は食事を終えて彼女に近付き、顔を逸らした彼女の頬に片手を添えて表情を窺った。彼女は羞恥の色を浮かべている。笑みを零した伊織は、菖子の額に口付けを贈り、何も言わず部屋を出て行った。

 夜を迎えると、菖子は女中に連れられ、早々に風呂へ入れられた。ネグリジェの姿で寝室の鏡台に招かれ、濡れた髪を乾かし梳かされる。恐怖と嫌悪に支配された菖子の身体は力み、呼吸が浅い。肺を内側から絞られる様な圧迫と胸の苦しさは身体中を駆け巡り、頭から爪先まで伝染していた。

 訳の解らぬ緊張状態に吐き気すら催すというのに、女中は仕事を済ますと無情にも一礼して部屋を出て行く。退出時の、扉の閉まる音が自棄に耳障りだった。思わず菖子は鏡台に倒れ込む様に肘を付き、掌で口元を押さえる。次に其の扉が開く時、彼女に告げるのは否応無しに訪れる「夜」の始まりであった。


 暫くして伊織は訪れた。彼は菖子をやおら抱き寄せる。乙女子と女性のあやふやな境目に佇む少女は、得も言わぬ香りを立ち込めさせていた。

 伊織は我慢ならず彼女を寝台に導いた。体を震わせた菖子は涙を流し、全く興奮が鎮まらない様子である。

 天鵝絨(ビロード)の窓掛けが風に揺らぐと、庭に植わる紫木蓮を連れ立った夜気の香りが薄らと部屋に運ばれて来た。室内に漂った匂いは蠱惑的で、体躯を投げ出した菖子と其れを上から眺める伊織の鼻腔を擽った。羞恥を煽り立てる匂いに混ざっては、菖子の嬌羞に一層の拍車を掛ける。

 伊織は俄かに色めき立つ、全身を纏う欲情に支配された。

「嗚呼、抱かせてお呉れ」

 艶めく彼女を前に、伊織はそっと声を漏らした。返事を聞く暇も無く覆い被されば、嬌声とは程遠い小さな悲鳴が上がった。

 伊織の相好は欲に歪み、狩りの目を見せ付ける。菖子は普段から伊織の熱い視線を感じていたが、今にして漸く理解した。

 此れが男か、と。

 顎に添えられる指。輪郭をなぞる指。唇に触れる指。其の指が離れた瞬間、伊織は菖子と口付けを交わした。

 懸命に開けまいとする彼女の唇に、難無く割って入る異物の感触。菖子の体は硬直し、懸命に拒絶した。伊織は彼女の一条の涙の糸を指先で拭っては唇を触れ合わせる。

 嚥下し切れぬ唾液が菖子の口の端から滴り落ちていく。彼女の紅涙を絞る姿は扇情的で、伊織の箍を容易く外した。伊織は幾許も無く快楽の世界へ踏み込み、菖子は屈辱の破瓜を迎えた。

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