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ゼロの花火  作者: あずき
8/9

8話

続きます。

 かつて藍川は、懐かしいねと言った。何が懐かしかったかは、覚えていない。でも僕は彼女に同意した。望郷の念に駆られたあの日も、結局家族に会うことはなかった。


 愛織が死んだあの日から、僕たち家族は顔を合わせることを避けてきた。元より別居していたため会う機会も少なかったけれど、月に1回は必ず顔を合わせる約束になっていた。でも、その約束は終わった。僕は壊れ、母さんは心の病気にかかり、父さんは逃げるように仕事に没頭した。


 家族は家族であって、それ以上でもそれ以下でもない。いつかは必ず顔を合わせるし、今後何があっても、きっと葬式には出る。そんな、いつかどこかで噛み合うように作られている運命そのもの。それが家族だった。両親が言えば幼少期からそれは正しく、もっとも優先されるべきことだと信じて疑わなかった。ある意味では、呪縛なのかもしれない。


 夢はここで終わった。中途半端に追憶し、何か大切なものを掴み損ねた気がしたが目が覚めた。どうやら藍川が起こしたみたいだ。着陸は──していない。


「紫苑、大丈夫?すごい(うな)されてたから起こしちゃったよ」


「あぁ、藍川。助かったよ。あんな夢、見たくないからさ」


「あんな夢?──ぁ、ごめん」


 きっと、余計なことを言ったと思っているのだろう。藍川が申し訳なさそうに謝る。


「全然構わないよ。元より僕から振った話だ。でも、代わりと言っちゃなんだけど、少し聞いてくれるか?」


 藍川が軽く頷いたので、話を続ける。


「覚えてるかな、去年の冬くらいだったと思う。藍川が僕に、懐かしいねって言った時のこと」


「んー、あったかなそんなこと。……あ、あれだ。昔は家族でよく遊んでたよねって話。私が家族とよく模擬化学実験したねって言ったら、伊織がそんな物騒な家族いてたまるかー、って。あれは久々に声上げて笑ったよ」


「そうだ、それそれ。でも、なんでそんな話になったんだ?」


「さてね。そこまでは覚えてないよ。私にとっては、日常のありふれた話題でしかなかったし」


 それもそうだ。僕だってさっき夢で見るまでは、藍川とそんな話をしたことを忘れていた。家族、家族、やたらと家族の夢を見た気がする。ナカセンが言っていたあの、どうしようもないことに逆らうな、という言葉。子供たちにとって、親というのはどうしようもない()()でしかない。


 生まれた時から親は決まっているし、親のすることに子供は一切の抑止力を持たない。親がやれと言えばやるし、やめろと言ってもやめてもらえることもなかなかない。だから、変にナカセンの言葉が頭に残る。


「……なあ、藍川」


「ん?なに」


「藍川は、自分の両親のこと、どう思ってる?」


 我ながら抽象的な質問だ。これ以外に言葉を付け足すと、何やら答えを縛ってしまいそうで、自分の答えを否定してしまうようで、少し怖かったから。


「両親、ね。育ててくれたことには感謝してる。私も高校生になったし、海外に行って働くのも両親の自由。願わくばもう少し一緒に暮らしたいとは思ったけど、結局子供の言うことなんて聞き入れてくれはしないし。だからまあ、感謝も恨みつらみもあるし、全部引っ括めて私は好きだよ」


「そうか……。サンキュ、藍川」


「そういう紫苑はさ、両親のことどう思ってるの?色々複雑だとは思うけどさ……お互い両親と別居してるってことで、少し話聞かせてよ」


「僕は……両親は、両親だとしか思ってない」


「ん?なに、それ」


「親っていうのは親でしかなくて、感謝も何もかも、全部親だからこそ抱いてる感情なんじゃないかとか思ってる。愛織の件については、両親に非があったとは思ってない。でも、僕と愛織が、両親と別居する決意をした原因については、なんだかまだ許せていない気がする。だけど──どうしようもなく僕は両親を恨めない」


 ……そう、とだけ藍川は言い目を伏せた。きっと何を言っても蛇足になることを理解してのことだろう。


「でもまあ、次会ったら散々に言ってやるよ。辛い時期に子供を支えてやれないなんて、親としてどうなんだってさ」


「うん。それが良いよ。例えば私も、このままずっとこの時間が過ごせれば良いなって思う。でも、それは無理。だからこそやりたいことはすぐにやるべきだと思うよ」


 そんなこんなで結局大した話はせずに、上空1万メートルの旅は終わった。





 ◆◇◆◇◆


「さて、お前ら自由行動だ。厳密には俺が仕切るらしいがめんどくさいから自由で良い。門限だけ守れよ」


 あちこちで歓声が上がる。他の教師陣は悲痛な叫びをあげる。藍川は──呆れてる。


「伊織ー!自由だってさ。さっさと遊びに行こうぜ。折角だし葵もどうだ?」


 真っ先に拓斗が駆けつけてくる。……紫藤と一緒に。ぴえん。


「私も?別にやることもないし良いけど。紫藤さんもそれで大丈夫?」


「えぇ、藍川さんがいる分には問題ないわ。……こいつがいるのは反吐が出るけどねッ!」


 こっちのセリフだクソビッ──ゲフンゲフン。人様の彼女をそんな言い方してはいけないな。


「だそうだ拓斗。僕は適当にカフェで時間潰してるから、時間になったら落ち合おうぜ」


「えー、いや。俺、陽花にも伊織にも仲良くして欲しいんだけど……」


「いくらタクのお願いでもそれは無理ね。こんなやつと一緒にいたらクズが移るわ」


 こんのあまァッ!言わせておけば酷い言い草だな!


「じゃあな、拓斗。誘ってくれたのは嬉しかったよ」


 そのまま背を向け、その場を離れる。さて、僕に1人でカフェに入る勇気なんてあるかな?

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