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ゼロの花火  作者: あずき
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2話

短めですが、2話目です。

「杠葉先輩、もしかしてこれって逢い引きってやつですか?」


 カジュアルなカフェにそぐわない重苦しい雰囲気に耐えかねて、仕様もない軽口を叩いてしまう。場所を変えようと提案した杠葉先輩の表情は真剣そのもので、声色にも圧倒されてしまった。


「私とあなたは相思相愛ではないもの。俗に言う逢い引きではないわ」


「そうですか、それは残念です」


「心にもないことを言わないの。今日は私が出すから、好きなの頼んで良いわよ」


 こうして改めて見ると、本当に美人だ。学校で浮いているにも関わらず、告白する男子生徒が後を絶たないのも納得してしまうほどに。


「じゃあ烏龍茶だけお願いします。……それで杠葉先輩、こんな場所まで連れてきたってことはあの日記はただの創作ではないんですよね?」


「…そうね。創作ではないわ。それより後輩くん、あなたは知っているようだけど自己紹介もまだじゃないかしら」


 露骨に話題をそらされたような気もするが、実際に杠葉先輩は僕の名前を知らないようなので素直に名乗る。


「2年B組の紫苑伊織です。これといった特技はありませんが、読書とかは好きですね」


「そう、伊織ね。わかったわ」


 久々に女性に、それもこんな美人な先輩に名前を呼ばれ不覚ながらドキッとしてしまう。


「私は3年B組の杠葉美桜。特技は……勉強は人並み以上に出来るかしら。趣味はピアノを弾くことね。それで伊織、まずその杠葉先輩ってのを変えましょう。私はあなたの先輩でもないし、杠葉って長いでしょう」


「学校の先輩、ではありますけどね」


「ただ1年先に生まれてきただけじゃない。別に先輩でもなんでもないわ」


 随分と合理的な考え方をする先輩だ。その方がこちらとしても楽なので従わせてもらう。


「じゃあ美桜、さっきの───」


「年上にはさんを付けなさい」


「じゃあ美桜さん、さっきの話の続きなんですけど創作じゃないってのを詳しく聞かせて貰えますか?」


 何を考えているのか、少し俯きながら話し始める。


「私はね、周りの人に忘れられてしまうの。過去に4回忘れられたことがあって、1回目の記憶はあまりないのだけど、2回目からははっきり覚えてる。1回目はほとんど違和感ないくらいしか忘れなかったみたいなの。2回目は、両親すらも私のことが一瞬分からなかったみたいで名乗ったら思い出してくれた。日記を付け始めたのはその頃からね。両親は両親で日記を付けてくれて、3回目も何とか記憶を思い出してくれた。4回目はもう、駄目だった。日記のおかげで私が娘という認識はしてくれていたけれど、私が娘という記憶は思い出してくれなかった。一緒に生活してても両親はどこか他人行儀で、学校の友達は私という存在ごと全てを忘れてた。年々私に関する記憶の消える程度が高くなってるのよ」


 どう、信じられる?そう自嘲気味に言って彼女は口を閉じた。普段なら面白い冗談だな、と笑い飛ばしているところだが先輩の様子をみてそんなことは出来ない。どこか悟ったようで、はたまた何かに縋るような表情で。


「信じるかどうかと言われたら、自分でもわかりません。ただ非現実な話に頭がついていかないので……」


「それもそうよね。別に私は誰かに信じて欲しい訳ではないもの、忘れて良いわ」


 代金はこれね、と言って美桜さんは席を立った。本当に行かせても良いのだろうか。──基本的に僕は、藍川の言うことを疑わない。彼女は僕なんかより余程頭が良いし、何より彼女は物事に理屈を付けることが得意だから。


「……美桜さん待ってください。僕も考えてみますから、ギリギリまで諦めないでくださいね」


「別に諦めてないわよ?でもこれは私の問題、かわいい後輩を巻き込むわけにはいかないわ。私とはもう関わらないようにね」


 それだけ言って再び歩み始める。一般的な女子高生よりも少し高いその背格好も、今はとても小さく見えた。どこか寂しげなその後ろ姿は、とても諦めていないひとの背中には見えなかった。







 ◆◇◆◇◆



「今何時だと思ってるの」


「2時」


「わかっててかけるな。もう寝るから、おやすみ」


「ちょまて!訳もなくこんな時間に電話をかけるほど僕が非常識だと思ってるのか?!」


「割とそれくらいはしかねないと思ってる」


 失礼な。


「あのな、今日……いや、昨日か。学校で記憶喪失の話しただろ?あの話、実は美桜さ──杠葉先輩のことでさ」


「……紫苑の様子から何となく察してたけど、やっぱり本当の事だったんだ」


「あぁ、原理はわからないが先輩の様子を見るにどうやら本当のことみたいだ。そこで藍川、お前にお願いがある!」


 そのお願いに対して、藍川が少々食い気味に答える。


「無理だよ。どうせ紫苑のことだろうから先輩を助ける協力をしてくれとか言おうとしてるんだろうけど、私だって考え無しに有り得ないって言ったわけじゃない」


「そこを何とか!!」


「はぁ、まあ話くらいは聞いてあげるけどさ。それで何、人に頼もうってのに何も聞き出せずのこのこ帰ってきたわけ?」


 何とも図星すぎて口篭るが、必死な言い訳を試みる。


「いや、だって、あんな重苦しくてしんみりした空間で質問なんて出来ないさ」


「私はその場にいなかったからわかんないけどさ、今日の学校でちょっと情報を集めてきなよ。私ももう少し考えてみるからさ」


「……ああ、助かる」


 感謝を述べて電話を切ると、ベッドに横たわる。


 あの頭の良い美桜さんや、藍川が解決できない問題を僕だけで解決できるのだろうか。

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