天敵13★
★★★
今日は雪くんたちの、天敵と相対する日。私には危ないから外に出ないでと言い含めて、私の大切なあやかしさん達は外へと出ていった。
何もできないから、祈るしか出来ない。何もできない事が不安でしかない。
けれど、私が不安にならないようにとみんなは気遣ってくれる。
「十分、安全を考えた上での罠を張ってあるから、危険はないよ」
千鶴さんが、色々罠の性能や作戦の手順を、説明してくれた。
★★★
みんなが笑顔で、出ていったのだから私は信じて、お祝いの準備をしよう。
あやかしの木のそばに行くのもだめよね……。いちごや生クリーム欲しかったけど……。
なんて思ってたら、サラリと雪くんのあやかしの木が届けてくれる。
「………。気が利きすぎじゃないかしら……。ありがとう」
そういい、運んでくれた枝を撫でると、スルスルと戻っていく木の枝。
いちごのデコレーションケーキと、何を作ったら喜んでくれるかな。
クーベルチュールのチップもオレンジリキュールもあるし、製菓用のくるみもあったはず。トリュフも作ろう!
そういえば前に作った、アイスボックスクッキーも冷凍庫に寝かせてある。
豆乳で作ったアイスクリームもあったな……。
私は、落ち着かない気持ちを、誤魔化す様にお菓子を作る。
アイスボックスクッキーを切り分け、保温しておいたオーブンに入れ焼き上げる。
抹茶味とアールグレイの2種のクッキー。
そうやって、お菓子づくりに没頭していく。
クッキーが焼き上がる前に、分量を測っておいた小麦粉をふるいにかけ、メレンゲ作り。
いつもは自分で混ぜちゃうけれど、時短で電動の泡立て機使ってしまおう。
アールグレイの茶葉を100㏄程度のお湯につけて、濃厚な紅茶エキスを作る。
メレンゲの泡を壊さないように、材料を混ぜ合わせ、ケーキの型に入れる。クッキーが焼き上がったら天板をだし、クッキングシートごと、クッキーを取り出し冷ます。
温度を調整し直してから、ケーキの生地をオーブンに入れ、次は生クリームを作ろう。少し分量より少なめのお砂糖と生クリームを冷やしながら、泡立てて生クリームを作る。こちらも紅茶のエキスを柔らかくなりすぎない程度に、ゆっくり数回に分けて混ぜていく。
黄桃の缶詰といちごを、スライスして水気を切っておく。
くるみを出し、みじん切りにしてお皿にわけ、沸騰直前まで温めた生クリームを流し入れ、クーベルチュールチョコレートを湯煎にかけて溶かしていく。
「そろそろくるみ入れても平気かな?」
混ざったように感じるから、リキュールを混ぜて、今度は氷水で冷やしながら固めていく。
「よし!固まってきたら形作ればいいし。スポンジは冷えてきてるかな…」
焼き面を薄く切り落とし、中央で切り分け、軽くリキュールを塗りつけたあと、生クリームと果物とを挟んでいく。
「絞り口は…」
そう言って、食器棚に向かおうとした瞬間、後ろから雪くんが「無事に終わりました~!!」と抱きついてきた。
★★★
「良かった……。みんなが絶対大丈夫って言ってくれたから。作戦成功のお祝いしようと思ってお菓子作りながら待ってたよ」
そう私が笑うと、「樹里さん好き~! 詩紋もお手伝いできる事あるかな??」
「僕も……やりたい…」
詩紋ちゃんとロゼくんが、そう言いながら手を洗いに行ったみたい。
「ケーキの飾りつけですか??僕もやってみたいです。手を洗ってくるので、残しておいてくださいね!!」
そう言って雪くんまで、手を洗いに洗面所まで走っていってしまった。
「みんなへの感謝のお礼なのに……」
私がポツリとつぶやくと、あとから来たらしい千鶴さんが言った。
「みんなで作ってお祝いした方がきっともっと楽しいよ。私にもか手伝わせてくれるね?」
そう言って、千鶴さんまで、洗面所の方へと歩いて行ってしまった。
不安だった気持ちも、淋しかった気持ちも、彼らのおかげで吹き飛んでしまったみたい。
優しくて温かいあやかし達と、私達の生活はまだ始まったばかり。だけど、きっとこれからも温かく、それぞれを思い遣りながら、生きていけるんじゃないかな。
そんな予感を胸に、私達はこれからの未来を生きていく。