表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/49

天敵11  (雪 視点)★

 一人で気分転換にと、樹里(じゅり)さんが、外に出てすぐの事。何やら奇妙な気配を感じる。


「……まさか…?」


 焦った様に立ち上がる僕と詩紋(しもん)

僕を狙った奴らがまだこの辺りにいるとしたら…、樹里(じゅり)さんが危ない…。


 樹里(じゅり)さんの気配を、探しつつ脚をすすめる。結界を抜けて、すぐ闇の気配が濃くなっている場所に、彼女の背中を見つけた…。


 足首にはくっきりと、ハクビシンの腕で掴まれていて今にでも闇の空洞に、引きずり込もうとしている。時間がない!


(せつ)くん!!』


 彼女の声が頭に響き、風の妖力で彼女が倒れ込もうとしている、方向を変えさせる。そして後ろに向かって、倒れそうになっている、樹里(じゅり)さんを受け止める。脚を掴んでいる手をかまいたちの様な風の刃で切り裂く。



樹里(じゅり)さん!大丈夫ですか!?」


 僕は闇の中に蠢く奴らを見やる。


少し遅れて、詩紋(しもん)、ロゼ、千鶴叔父さんも到着した。


「ちっ」


 そんな舌打ちが聞こえたかと思うと、その場の禍々しさが嘘のように消え去った。


「………まだここでは…、危ないかもしれません。強い結界のある屋内に移動しましょう」


 今回は間に合ったけど、樹里(じゅり)さんを一人で歩かせるのは、危険かもしれない。

樹里(じゅり)さんを横抱きにし、僕はそう声をかけた。



「うん……。まさか樹里(じゅり)さんに目をつけるなんて……。あいつら許せない……!」


「安全なとこに行こ?」


 詩紋(しもん)、は怒りを抑えきれない様子だし、ロゼは樹里(じゅり)さんを、心配している。



叔父さんも、澱んでいた空間を睨めつけ、何やら考えているようだった。


「ありがとう…。何が起こったのか理解はできてないけれど……、助けてくれたのはわかる気がするから」


心配かけないように、無理して笑う樹里(じゅり)さんを見るのが辛くて、黙って彼女を屋内と連れて行く。


 泣きそうなのに…、不安そうなのに、僕らのために笑おうとする彼女を守りたくて、僕はアイツラと対峙しようと思った。


 恐らく、おじさん達も同じ気持ちなんだろう。いつもより空気が黒い。大切な彼女を傷つけた報いは受けさせてやる……!



 それからの樹里(じゅり)さんは、僕、詩紋(しもん)、ロゼの誰かが、いつも側にいる様になった。千鶴叔父さんには、別の方向で交渉事を頼んでいる。


 樹里(じゅり)さんの、仕事の邪魔をしないように、気になる物を見せてもらっていたら、それぞれに好きな物を見つけて、ハマっている僕等がいた。



 僕らは趣味を楽しみつつ側にいるのに、樹里(じゅり)さんは笑っていても元気がない。僕らに守られている事を引け目の様に感じているみたいで、僕も苦しくなる。多分、僕が傷ついて倒れていた時の事を知っているから、余計にそう思うのだろう……。



 ★★★


 お料理やお菓子の作り方を、樹里(じゅり)さんのやり方や、本を見て覚えた。彼女を笑顔にしたい。その一心で彼女の為に僕は腕を磨く。

 少しでも前みたいに自然に笑って欲しくて……。


 彼女のせいじゃない。むしろ僕たちの問題に彼女を巻き込んだ形なのに、彼女は申し訳無さそうに過ごしている。


 以前の彼女の笑顔を取り戻すためにも、アイツラは叩き潰しやる……。思わず、黒い笑みがこぼれてしまう。


 僕を襲った奴らのファミリーは、12匹だとわかったから。後は捕まえてコザクラにでも預ける…。彼らはかなり好戦的だし、積年の恨みからアイツラに対する恨みがとても深いから。


 僕たちが手を下したら、樹里(じゅり)さんはもっと傷ついてしまう気がする…。本当はこの手で僕の(あるじ)を狙ったアイツラをずたずたにしてやりたいけれど……。

 僕自身の持つ、あやかしとしての残虐性は否めない。でも、彼女のために飲み込まなきゃ。

 彼女のそばにいる為には、怒りに振り回されては、多分駄目なんだ…。


 猛る本性を抑え込みながら、僕は樹里(じゅり)さんの笑顔の為に、お菓子を作る。


 少しでも気が晴れますように。

 僕たちにとって、貴女は大切な存在だから守りたいんだ…。だから、勝手に守りたいエゴを押しつけてる、僕らを許して……。



 ★★★


 明日には捕獲を実行する。もうすぐだ。

 黒い笑みを浮かべながら、僕は樹里(じゅり)さんの為にワッフルを焼き、実験台として千鶴叔父さんとロゼに食べさせる。


「こうした方が美味しくなるのでは!」


 なんて議論を交わし、完成した物を樹里(じゅり)さんと詩紋(しもん)の元へと届ける。少しでも笑顔になって。

 いつもみたいに、キラキラと笑っていて……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ