天敵11 (雪 視点)★
一人で気分転換にと、樹里さんが、外に出てすぐの事。何やら奇妙な気配を感じる。
「……まさか…?」
焦った様に立ち上がる僕と詩紋。
僕を狙った奴らがまだこの辺りにいるとしたら…、樹里さんが危ない…。
樹里さんの気配を、探しつつ脚をすすめる。結界を抜けて、すぐ闇の気配が濃くなっている場所に、彼女の背中を見つけた…。
足首にはくっきりと、ハクビシンの腕で掴まれていて今にでも闇の空洞に、引きずり込もうとしている。時間がない!
『雪くん!!』
彼女の声が頭に響き、風の妖力で彼女が倒れ込もうとしている、方向を変えさせる。そして後ろに向かって、倒れそうになっている、樹里さんを受け止める。脚を掴んでいる手をかまいたちの様な風の刃で切り裂く。
「樹里さん!大丈夫ですか!?」
僕は闇の中に蠢く奴らを見やる。
少し遅れて、詩紋、ロゼ、千鶴叔父さんも到着した。
「ちっ」
そんな舌打ちが聞こえたかと思うと、その場の禍々しさが嘘のように消え去った。
「………まだここでは…、危ないかもしれません。強い結界のある屋内に移動しましょう」
今回は間に合ったけど、樹里さんを一人で歩かせるのは、危険かもしれない。
樹里さんを横抱きにし、僕はそう声をかけた。
「うん……。まさか樹里さんに目をつけるなんて……。あいつら許せない……!」
「安全なとこに行こ?」
詩紋、は怒りを抑えきれない様子だし、ロゼは樹里さんを、心配している。
叔父さんも、澱んでいた空間を睨めつけ、何やら考えているようだった。
「ありがとう…。何が起こったのか理解はできてないけれど……、助けてくれたのはわかる気がするから」
心配かけないように、無理して笑う樹里さんを見るのが辛くて、黙って彼女を屋内と連れて行く。
泣きそうなのに…、不安そうなのに、僕らのために笑おうとする彼女を守りたくて、僕はアイツラと対峙しようと思った。
恐らく、おじさん達も同じ気持ちなんだろう。いつもより空気が黒い。大切な彼女を傷つけた報いは受けさせてやる……!
それからの樹里さんは、僕、詩紋、ロゼの誰かが、いつも側にいる様になった。千鶴叔父さんには、別の方向で交渉事を頼んでいる。
樹里さんの、仕事の邪魔をしないように、気になる物を見せてもらっていたら、それぞれに好きな物を見つけて、ハマっている僕等がいた。
僕らは趣味を楽しみつつ側にいるのに、樹里さんは笑っていても元気がない。僕らに守られている事を引け目の様に感じているみたいで、僕も苦しくなる。多分、僕が傷ついて倒れていた時の事を知っているから、余計にそう思うのだろう……。
★★★
お料理やお菓子の作り方を、樹里さんのやり方や、本を見て覚えた。彼女を笑顔にしたい。その一心で彼女の為に僕は腕を磨く。
少しでも前みたいに自然に笑って欲しくて……。
彼女のせいじゃない。むしろ僕たちの問題に彼女を巻き込んだ形なのに、彼女は申し訳無さそうに過ごしている。
以前の彼女の笑顔を取り戻すためにも、アイツラは叩き潰しやる……。思わず、黒い笑みがこぼれてしまう。
僕を襲った奴らのファミリーは、12匹だとわかったから。後は捕まえてコザクラにでも預ける…。彼らはかなり好戦的だし、積年の恨みからアイツラに対する恨みがとても深いから。
僕たちが手を下したら、樹里さんはもっと傷ついてしまう気がする…。本当はこの手で僕の主を狙ったアイツラをずたずたにしてやりたいけれど……。
僕自身の持つ、あやかしとしての残虐性は否めない。でも、彼女のために飲み込まなきゃ。
彼女のそばにいる為には、怒りに振り回されては、多分駄目なんだ…。
猛る本性を抑え込みながら、僕は樹里さんの笑顔の為に、お菓子を作る。
少しでも気が晴れますように。
僕たちにとって、貴女は大切な存在だから守りたいんだ…。だから、勝手に守りたいエゴを押しつけてる、僕らを許して……。
★★★
明日には捕獲を実行する。もうすぐだ。
黒い笑みを浮かべながら、僕は樹里さんの為にワッフルを焼き、実験台として千鶴叔父さんとロゼに食べさせる。
「こうした方が美味しくなるのでは!」
なんて議論を交わし、完成した物を樹里さんと詩紋の元へと届ける。少しでも笑顔になって。
いつもみたいに、キラキラと笑っていて……。