家族6★
★★★
さすがに昨日、怪我した雪くんを見つけてから、看病していた事もあって、眠さに負けそうになってきた。
『食器とか片づけないとなのに……』
みんながどうしたいかは別として、寝床も……、空いてるお部屋をあげて、生活してもらうのがいいのかな?と思うし、やる事はまだあるのに…。
そんな事を考えていたのに、眠気に襲われているのに気がついたのかな。
「片付けは僕らに任せて、ゆっくり休んでください」
雪くんが微笑んで、そんなことを言ってくれる。雪くんだって病み上がりなのに、本当に優しい子だなぁ。
「仮眠したら、後で私も片付けるから、無理はしなくていいからね」
そう伝えると、みんなにこやかに「おやすみなさい」と言ってくれる。
★★★
基本的に家に引きこもって、イラストを描いてるばかり。友達はいるけど、こんな風に誰かと家で過ごす事は、とても稀で幸せだな…と強く感じる。
私は気がつかないふりをしていただけで、ここでの生活は淋しかったのかな。引っ越した場所が山の中なので、そう頻繁に友達とも会えるわけじゃないし。
一緒にいたいと言ってくれる、雪くんや詩紋ちゃんに会って初めて気づいた。自分では慣れたつもりだったし、無理してたつもりはなかったのに。
そんな事を逡巡してると、雪くんが私をフワリと持ち上げたみたい。
「え? 雪くんが??あれ?私重いよ!?」
慌てる私に雪くんは軽く言う。
「こう見えてもあやかしですからね。人よりは力ありますよ。寝室に運んでも?」
にっこりと微笑みながら、そういう雪くん。なぜだろう、ちょっとドキドキする。
このおショタは、天然のタラシなの!?
「ありがとう。でもシャワーも浴びたいかも…」
ドキドキする胸を、宥めるように深呼吸してから、私は言った。
「わかりました。詩紋、着替え持ってきてあげてくれる? 千鶴とロゼは食器キッチンに運んでおいて。火の始末も気をつけてね」
「はーい」「わかった」等の言葉が耳届く。雪くんは子供のように見えるのに、すごく頼りになるなぁ。
「重いでしょう? 無理しないでね」
私がそう言うと、「僕、身長が小さいから……、余計に振動を伝えてませんか?」
「そんな事ないよ!」
そんな会話をしてる内にバスルーム前の脱衣室まで運んでくれる。立派に男の子なんだな。
そうして、私を下ろすと、脱衣室に置いてあった椅子を、私の近くに持ってきた。そして座るようにと促してくれる。本当に紳士だ…。
★★★
「僕を昨日から看病してくれていたから、寝不足でしたよね……。そんな事にも気がつかず、気持ちに甘えてしまいました。ごめんなさい…」
雪くんが、つらそうな顔をしながら、そんなことを言う。
「私はごめんなさいより、ありがとうが嬉しいかな…」
本当の事だから雪くんに伝える。
「そうですね…、樹里さん。ありがとうございます」
はにかむ様にして雪くんがそういった時、詩紋ちゃんの声が響いた。
「樹里さん、着替えとタオル勝手に持ってきた……。これでもいい?」
トタトタと軽い音を廊下に響かせながら、走ってきたらしい詩紋ちゃんから着替えを渡される。
「詩紋ちゃん、ありがとう」
ラフでパジャマ代わりに出来そうな、洋服をあえて見つけてきてくれたみたいで、すごくありがたい。
「シャワーを浴びたら、ゆっくり休んでおいてください。片づけくらいは僕らでも出来ますから!約束ですよ!」
★★★
そう言われたけれど、また部屋を割り当ててない事に気がついた。
「みんなはどこで寝るの?」
そう聞いた私に雪くんは明るく言う。
「今日の所は、買って頂いたケージで雑魚寝します」
「それも雑魚寝っていうんだ……。ふふ…」
小鳥のならではの感覚に、ふと笑いがもれてしまう。私はお言葉に甘えて、シャワーを浴びることにする…。
シャワーを浴びて、体についたバーベキューの匂いを落としてから、雪くんとの約束通りに、ぐっすりと眠ってしまうのだった。