出逢い 雪視点4★
何やらとても不思議そうに、あやかしの木を眺めてる樹里さん。
確かに普通なら、パインは地面になるし、木にはならないのかな?
あやかしの木の特性は、育成者が望んだものを瞬時に生み出す。あやかしの木の感知する育成者のテリトリー以内だと、食物は劣化しないし品質は極限まで向上する。
例えば、樹里さんがここから引っ越してしまったとする。そうしたら、品質は下がるだろうし、普通に日が経てば劣化する。
樹里さんがここから離れない限りは、品質は下がらないし傷まないと言うことだ。
★★★
親戚の白文鳥である千鶴叔父さんなどは、衣類を作ることに意識が行ってるからか、あやかしの木からは望んだデザインや質感の生地ができるらしい。
あの叔父さんは、自分の意志で種を生むし、自分で育ててるから、ある意味チート的存在だ。
黙ってれば格好いい部類に入るだろう。あの人、女癖悪いけれど……。
尊敬をしてる部分はあるけど、樹里さんには会わせたくない。そんなことを考えていると樹里さんの声が聞こえてきた。
「なんで違う果実が同じ木になってるのかな?しかも、パインって地面に生えるやつじゃ??」
樹里さんが、混乱してるのはわかるんだけど、取り乱し方が可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまった。
★★★
「これはあやかしの木と言って、あやかしと恩人としての絆を、結んだ人しか手にできない植物です。穢れた土地ではあまり育たないので、ここまでなるのは凄い事ですね」
僕はそう言いニコリと笑う。
「しかも樹里さんは、龍脈の上に植えられた。その直感力とセンスは素晴らしいです!それに人間界と共存共栄しているあやかしにしか生み出せない種なのです。それをものの数分で育ててしまうなんて…!おかげで失ってた妖力も、回復出来たのでこんなに回復できました」
思わず思いのたけを、熱く伝えて樹里さんを見つめていると、頬が熱くなる。
心做しか、樹里さんの頬も赤くみえた。
僕が『何でかな~?』なんて見つめていると、困惑したような顔をしながら頭をなでてくれた。撫でられるのは気持ちいいし嬉しい。僕の主大好き。
しばらくされるままになっていると、樹里さんは深呼吸をして、僕に質問を投げかけてくる。
「雪くん、それじゃなんでいろんな種類の果物がなってるのかな?」
「あやかしの木は、授けられた人の思いに反応するので、なにか食べたい!とか思わなかったですか?あとは与えるあやかしの気質によって、はえるものが違うらしいですが……」
一度言葉を切って、また言葉を紡ぐ僕。
「多分、黒毛和牛食べたいと念じたら、最高級の出てきますよ?僕は食べるのが大好きなので生えてくるのは食材なのです。ただ仕上げの料理をしないといけないもの。でもチーズや、バター、ベーコンや生ハムといった食材カテゴリでも認識されてるものは、生えてきますね、多分ですけど…」
「雪くん!なにそれ!すごく便利じゃないです?いや……、でもそれ他所の人に見つかると、不味いものなんじゃ……?」
やはり彼女は敏いな。
僕が狙われたのもそのせいだ。
千鶴叔父さんが自由に、種を生み出すあやかしなのは、周知の事実だし、その血が流れてる僕らの一族が生み出せることは知られてしまってる。
「僕の眷属や友人にしか、この木は見えませんので…」
樹里さんはすごくワクワクした顔してた…。料理好きなのかな?僕の木が役に立つと嬉しいなぁ。
★★★
「唐揚げとか食べたいけど、雪くん共喰いになっちゃうかな」
ふと、意気消沈したように僕に聞いてくる樹里さん。作った料理を振る舞ってくれる気なのかな??すごく嬉しい!
「僕、鳥に見えるかもだけど、あやかしなので鶏肉食べますよ。食べ飽きた粟とかよりずっといい……!」
伝えたことは本当だし、普通の文鳥だって栄養が足りなければ、自ら生んだ卵だって食べるわけだし、あやかしの僕らにとってはおかしな話ではない。
「そっか。じゃあ鶏肉で唐揚げ作りたいな~!あとサラダ用にトマトときゅうりと……、水菜とか、いりごまとかほしいな。それで遅くなったけど、お昼の準備しよう??」
そう言ってメニューを、少し考えた樹里さん。少し立ってから聞かれた。
「雪くんは、雀さんとかのお友達いるの??」
「何故ですか?」
「今日から粟のご飯で、看病しようと思って買ってしまったの。もしお友達がいたら、食べてもらえないかなって思って」
「樹里さん、ありがとうございます!なんて優しいんでしょう!」
擦り寄るようにそう言うと、ニコリと笑う樹里さん。
「わかりました。ちょっと待ってくださいね」
僕は仲間に『近くにいるみんな少し来てくれる?』高く声を上げ話しかけた。