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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
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コパンは待て

 

 安息日でもブロックドロフ村での物々交換はあるらしく、いつも通り俺たちの仕事をこなす。イェンスは一緒に行動するようで、いつも通り壁際で俺たちの様子を見守っている。

 安息日にはいない俺たちが今日いるのを村人たちは珍しがっていたが、大半の人はカーリンに会えて嬉しそうにしていた。


……なんだろう、握手会みたいになってるぞ。


 ひとりひとりと楽しそうに話しながら物々交換をするカーリンの前には、列ができてしまっている。安息日に会えるカーリンが物珍しいのだろうか。もしくはいつもよりちょっとかわいらしい服装のカーリンがレアなのだろうか。


 そろそろ剥がしのスタッフが必要なんじゃないかと思い始めたころ、イェンスがおもむろにカーリンの横に立ち、代わりに野菜を受け取る。


「はい、交換完了! 今日は急ぐからカーリンと話したい人はまた明日にしてね! 次の人ー!」


 回転率が上がり物々交換がスピーディに終わったら、すぐ移動だ。街まで走らなければならない。

 道中でやはり力尽きた俺は、部分強化の練習をしながらコパンに揺られる。以前街に向かっていたときは、景色を楽しむ余裕なんてなかったなあと思いながら辺りや空を眺めた。

基本的に林とか草むらしかないから、景色にあまり違いを感じないけど。


「そろそろ街だぞ。カーリン、コパンから降りてくれ。オリバー、コパンを小さくしてやってくれ」


 体力が尽きたカーリンとコパンに乗るのを交代していた俺は言われた通りコパンを小さくし、みんなに遅れてついていく。道を曲がると門が見えた。前に1回、街に来ているけど外側から門を見るのは初めてだった。兵士の休憩室と同じ石造りの門の上には鐘がついていて、まだ距離のあるここからでもとても目立って見える。


「ブロックドロフ村より大きい門……」


 カーリンの驚嘆に同意ながら徐々に門に近づく俺たちは、門の前で門番たちに止められた。

2人の門番のうち、1人はこの間ケバルトと来たときに話した門番だ。シュティローおじさんと仲がいいらしく、とてもフランクに挨拶を交わしている。


「やあシュティロー。いつも通り冒険者証を提示してくれ。今日は子連れなんだな」


「今日はこの子たちがオドール商会から招待されてるんだ。オリバー、木板を」


「こんにちは、門番さん。これが招待状だよ。あと、この間はありがとうございました」


「この間……? お嬢ちゃんとははじめましてじゃないか?」


……ん? 俺の見間違いか? つーかお嬢ちゃんじゃないんだけど……


 門番は「何を言ってるんだ?」という気持ちと「俺の勘違い?」という不安が入り混じったような顔で、マントのフードをかぶった俺をジロジロ見ている。視線を感じている俺はまず何から言おうかと悩み首をもたげる。

 お互いに首を傾げているとシュティローおじさんが耐えかねたように笑い出した。


「はっはっは! オリバーはちゃんと覚えてたようだな。カール、その子はこの前、休憩室で寝かせてもらった子どもだ。ちなみに男の子な」


「えぇ?! あの子なのか? 全然違う子じゃないか!」


……あぁ、前は小汚かったもんね、俺。


 前に街に来たときはローセルの体液を浴びて汚れていたし、いたるところに怪我をしていた。もしかすると顔も腫れていたのかもしれない。頭も布でぐるぐる巻きだったなあと思い出しながら門番を見上げる。

 俺の頭から足先まで何度も視線をキョロキョロさせてる門番は、俺の隣のカーリンと見比べ始めた。

 多分顔立ちや身長的に、女の子に見えたんだろう。俺はカーリンより頭1個分くらい小さいから、余計にそう見えるのかもしれない。


「いやあ、驚いた。あんなにボロボロだった子がこんなきれいな顔立ちだったとは。傷、綺麗に治ってよかったな。はい、招待状の提示ありがとう」


 返された招待状をバッグにしまうと、今度は俺とカーリンに腕を出すよう指示が出された。


「はい、これをつけてくれ」


 そう言って俺とカーリンの手首まで通されたのは、とてもブカブカの黒い腕輪だ。魔石らしきものがついたシンプルなこの黒い腕輪は、街に入るときにつけなきゃいけないやつだと、前回も腕輪をはめていたことを思い出す。


……こんなブカブカのやつ、どうやって手首につけるんだ? 肩までいきそうなんだけど……


 門番さん、俺らに渡すサイズ間違ってるよと思っていると、黒い腕輪はしゅるしゅると小さくなっていき俺の手首にピッタリはまった。カーリンの手首にも同様にはまったのが見えた。


「なにこれ?! おもしろい!」


 カーリンが楽しそうな声を出し、手首をまじまじと見つめている。


「カーリン、それは魔力を封じる腕輪だ。街に入ったら魔力が使えないからな」


 シュティローおじさんの説明を聞き魔力を出そうと試しているカーリンを横目に見ながら、俺は外し方を聞いておく。


「外すときは街を出るときだ。門番が持ってる魔石をかざさないと外れないからな。無理に取ろうとしても外すことは不可能だから、自分の腕輪を殴らないように」


「……誰かやったの?」


「ケバルトだ」


……あぁ、うん、やりそう。


ケバルトが懸命に腕輪を殴っている想像をすぐにかき消し、俺はシュティローおじさんもイェンスも腕輪をしていないことに気づく。


「シュティローおじさんたちは腕輪はつけなくてもいいの?」


「冒険者証にその腕輪と同じ効果が付いているんだ。オリバーも見習いになったら腕輪をつけなくて良くなるからな」


……へえ、冒険者証って身分証明以外にもそんな機能がついているんだ……ファンタジーだねえ。


「シュティロー、その魔物も街に入るのか? 確か従魔契約はまだだったよな?」


 カールと呼ばれた門番にそう問いかけられたシュティローおじさんは、「コパンは今日は街に()れない」と断言した。


「え?! コパン(はい)れないの?!」


「招待状に魔物も一緒にどうぞなんて書いてなかっただろう? 従魔契約がまだなら基本的には街に(はい)れない。この前休憩室に入れされてもらったのは特別だったんだぞ」


 コパンは街に入れないことを察したようで尻尾を落とし、耳を垂らす。お留守番をするにも待つ場所がないなんて、コパンが可哀想すぎる。


「コパンは俺たちの仕事に連れてくから安心しろ、オリバー。ほんのちょっと、ここで待たせるだけだ。なあいいだろ、カール」


「あぁ、かまわないぞ。俺の隣にいる分には問題ない。なにか悪さをしても、こんだけ小さいなら俺でも倒せるし」


 冒険者ギルドで依頼をもらってくるまでの短い間、コパンは門で待機だとシュティローおじさんは言う。


……従魔契約、すぐにでもやりたい! でも7歳にならないとできないんだっけ? あー、コパンも街にいれてあげたいのに!


 俺が頭を抱えて悩み悶ていると、門番から中に入るよう促される。約束の時間まであとどのくらいかわからない焦りもあり、今回は諦めてコパンに声をかけた。


「コパン、ここで待っててくれ。絶対に悪さをしちゃだめだよ。門番さんに倒されちゃうからね」


 俺は持っていた干し肉を、耳を垂らして座るコパンに渡す。後ろ髪を惹かれる思いで門番の隣からずっと俺を見ているコパンと別れた。


「わぁ……!」


 俺がいまだにちらちら後ろを振り返っている隣で、カーリンは道の両脇に並ぶ露店と店を眺めて目をキラキラと輝かせている。前回露店に吸い寄せられてしまったケバルトを引き止めるのに苦労したことを思い出し、俺はカーリンの手を取った。どこかにふらふらと歩いて行かれたら4の鐘に間に合わないかもしれない。

 カーリンの手をぎゅっと握った俺は、即座にシュティローおじさんに従魔契約について聞いた。


「シュティローおじさんがコパンと従魔契約するのはだめなの?」


「だめだ。従魔契約だってタダじゃないんだぞ。従魔契約をすると、主人が魔力を持ってたらその魔力に魔物が馴染んでいくんだ。俺に慣らして、そのあとオリバーに主人を変更したらコパンも大変だ……それとな、2回も従魔契約をできるほどうちに金はない」


「いくらなの?」


「大銀貨1枚だ……って言ってわかるか? ツァールトから習ったか?」


……たっか!!


 俺の希望通り、石けんが1つ銀貨1枚で10個売れば従魔契約できなくもないが、いくらかは家に入れるつもりだ。しかもカーリンと分け前は半分にするから俺の手元に残る分はさらに減るだろう。

 家の財政が厳しいのはわかっている身としては、従魔契約の金を出してほしいなんて言えない。


……よし、交渉頑張ろう……! 


「うん、お金のこと習ったよ。従魔契約ってそんなにするんだね。俺、頑張って金を稼ぐよ!」


「門で待たせても別にいいだろう?」


 人々のにぎやかな声でシュティローおじさんの声が少し聞こえにくい。ついマントを外しそうになるが、ぐっと堪えてもう一度聞き直す。

屋台から漂ういい匂いをかぎながら、俺たち4人は広場まで歩いていく。今日はあんまりジロジロ見られてない気がした。周りに溶け込めてる気がして安心するのは、俺が日本人だったからかもしれない。


「あんなに可愛いんだよ? 盗まれたらどうするの?」


 カーリンはうんうん首を縦に振り俺に賛同してくれているがわかったが、大人2人は首を傾げている。


「テレピコトゥルフは確かに珍しいけど、あんなに小さいと気づかない人もいるんじゃないかな? 盗む人なんていないと思うよ」


 シュティローおじさんはイェンス派のようで、こくりと頷いた。小さいコパンの可愛さは強さなんて概念を吹き飛ばすと思うんだけど違うのだろうか。


「ま、何事も頑張るのはいいことだ。お金もいっぱい貯まるといいな。あぁほら、もうそろそろ広場だぞ。まだ4の鐘は鳴ってないからオドール商会には入らないようにな」


 広場まで歩いてくると、ここで大人2人とはお別れだ。


「コパンのところに早く戻ってね! 絶対だよ! 寄り道しないでね!」


「わかったわかった。俺の帰りは6の鐘が鳴る前……だから、あと3回鐘が鳴ったら今来た門のところで待ち合わせよう」


 そう言い残したシュティローと、イェンスは少し駆け足で大きな白い壁が見える方向へ走って行った。2人の背中を見送っていると、「ぐー」と腹の音が隣から聞こえてきた。カーリンはお腹を抑えながら今来た道の方へ視線を向ける。


「すごくいい匂いがするから余計にお腹がすいちゃった……」


「そうだね。早く4の鐘、鳴ってほしいね」


 特にカーリンは俺よりも長い距離を走ってきたから、お腹はペコペコだろう。今度は俺のお腹が鳴り、2人で笑い合った。


 俺たちはオドール商会が見えるベンチに座り、シンプルな装飾で囲われた、ロウソクの絵が書いてある看板を指差す。あれがオドール商会の看板だ。


「あれがオドール商会かあ。いろんな人が入ってくね。あ、獣人の人もいるんだ! お店にはなにがあるのかなー?」


「あとでお店の中見せてもらえるといいよね。俺も中には入ったことないんだ」


 他愛のない会話をしていると、どこからともなく鐘の音が聞こえてきた。カーリンはビクッと身をすくめ、キョロキョロと辺りを見回している。多分、俺もファルクの前でこんな感じの反応をしていたんだろう。

 鐘の音が4回鳴り終え、辺りには余韻が響いている。


「これが4の鐘ってやつだよ。さ、お店に行こう!」


 自然とカーリンが俺の手を握りベンチから降りると、2人でドアマンに話しかけに行った。



以前街に来たとき、コパンがオリバーから離れようとしなかったため、見かねた門番が「こんなに小さいなら暴れないだろうし、中に入れていいぞ」と休憩室にコパンを入れてくれました。


今日のバッグは色々入ってて重たいので、コパンに乗る方がバッグを持っていました。

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