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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
53/62

再戦! エーバー

 


「お昼持ってきたわよー!」


 計算仕事を開始してからそれほど時間が経たないうちにミルテの元気な声が執務室に響いた。入ってきたミルテを入り口で待ち構えていたのは、しっぽをぶんぶん振りながら口周りをペロペロしているコパンだった。今までそんなこと、したことなかったのにどうしたんだろう? と様子を見ているとゴロゴロと野菜の切れ端のようなものが入った底の浅いボウルを、ミルテがコパンの前に置いているのが目に入った。


「あ、もしかしてあれがルシュ? スルメと交換したっていう……」


「うん、そうだよ。コパンのお気に入りみたいで、ミルテさんの足音が聞こえたら入り口で待つようになったの」


 俺が休んでいる間にスルメに目をつけたミルテは、コパンにあげる用のスルメとルシュというオレンジ色のレタスっぽい野菜の交換をカーリンに迫ったらしい。鬼気迫る迫力に断りきれず、スルメを渡したそうだ。

 カーリンいわく、コパンもミルテも、食べた瞬間互いに美味しい! という顔をしていたらしい。

 確かにコパンはとても美味しそうにオレンジの固そうな切れ端を食べている。魔物に栄養バランスなんて関係ないかもしれないが、しっかり野菜を食べてすくすく育ってほしい。


「コパン可愛いわ〜。芯のところ、こんなに喜んで食べてくれるなんて……コパンにも料理作ろうかしら? 魔物じゃなかったらうちで飼えたのに……」


……いやコパンはあげないから! 魔物じゃなくてもあげないから!


 しゃがみ込み頬杖をついてコパンを眺めるにこやかなミルテがいなくなるまで警戒しながら、俺たちも昼ご飯をいただいた。



「今日もありがとうございました。また明日よろしくお願いします!」


「はい、また明日ー!」


 久しぶりにたくさん計算して、たくさん文字を書いた1日だった。身体の疲労ではなく、脳みそが疲れている感じが懐かしい。


「それじゃあカーリン、やってみたい仕事教えてくれる?」


 村を出たら早速カーリンに質問だ。今日はカーリンと獣人村まで、ゆっくり帰ることにした。


「わたしね、オリバーがいなかった日も料理屋のお仕事を手伝ったり、鶏とか豚とか育ててるお家のお手伝いしてたの。色んな人のお手伝いに行って、みんなありがとうって嬉しそうにしてくれたのがわたしも嬉しくて、楽しくて。それでね、1番ありがとうって言ってもらえたのが、料理屋さん。料理を出したらお客さんが嬉しそうに受け取ってくれて、喜んでくれたの」


 獣人村までの道のりを歩く俺とカーリンの間にいるコパンは「走らないの?」と言う顔で俺を見上げ、そわそわした感じだ。

「お料理を出す仕事は給仕って言うんだよ」と教えてくれたカーリンはそのまま話し続ける。


「だから、料理屋の見習いになりたいなって思ったの。それにこないだのフェルカで友達と話したら、みんなもう見習い先が決まってた。わたしも決めなきゃって思って……」


 カーリンは人の喜ぶ顔が好きなんだろう。喜んでくれた人が多かった、という理由で料理屋を選んでいるあたりがカーリンらしい。

 それに俺とエイミーの仲が悪くならないように間に入って取り持ったり、雰囲気が悪そうなのを察知すると和ませようとする、とても気が利く子だ。6歳にしてここまで気を遣える子はなかなかいないと思う。

 きっと接客業が向いているし、ブロックドロフ村でのお手伝いを通じて本人もそれを理解できてきているのだろう。


 でも、料理屋はきっと料理への探究心がないと先が厳しいんじゃないだろうか。接客が好きだから料理屋に勤めたいというのは、ちょっと違う気がする。


「カーリンは料理好きなの?」


「んーん。普通。家で当番だったら作るくらい」


 ということは料理が好きなのではなくやっぱり、人と接するのが好きなんだ。

 周りの子が見習い先を決めて焦る気持ちもわかるが、好きでもないものを仕事にするのは、今後大変だと思う。


……シュティローおじさんたちだって毎日街に行ってるんだから、街でも働けると思うんだよなあ。俺からすると通勤が大変だけど、獣人のみんなはそんなことなさそうだし……


「焦って決めないほうがいいよ。忙しくて料理ばっかり作る業務をすることになったらカーリン、いやにならない?」


「……いやかも。野菜は笑わないもん」


 おもしろい観点だなあと小さく笑いながら俺は、カーリンに提案をしてみる。


「今度街に行くじゃん? そのとき街の仕事を見てから決めてもいいんじゃない?」


 周りの子が見習い先を決めて、やはり焦っているようだ。カーリンは視線をさまよわせ、少し間をおき頷いた。


「でも、やってみたい仕事の方向性がわかってよかったじゃん。人と話す仕事がしたいんだね、カーリンは。今やってるみたいに、色んな人を手伝う何でも屋さんがあったらぴったりなのにね。そしたら俺も石けん売ってきてーってお願いするよ」


「あー、本当にそんな見習い先があったらいいのになあ。わたし、オリバーのお願いだったらなんでも受けてあげるよ。石けんをうる? のもやってあげる!」


 なんでも受けてくれるとはさすがに言いすぎだと思うけど、その気持ちが嬉しい。

 俺もカーリンが望みを叶えるのを全力でサポートしてあげたい。余計なお世話かもしれないが、今からやっておくと良いことを、思いつくまま言ってみた。


「もし料理屋で見習いになるとしても、計算が速くできたり字が読めた方が良いと思うんだ。料理屋って代金の計算もするでしょ? 計算もできたら給仕の仕事を任されやすくなるかもしれないし、字も読めたら街に買い出しをお願いされるかもしれないよ。知ってる? 街の屋台には肉が棒にたくさん刺さった串焼きってやつが売ってるんだ。買い出しの護衛を俺ができたら一緒に食べれるよ!」


 まだ見ぬ串焼きを思い浮かべているであろうカーリンは、キラキラした目でこくこく頷いている。しっぽがふよふよと左右に揺れていて、好奇心が滲み出ていた。

 勉強はしておいて損はないだろう。俺は肩掛けバッグから手習い板を出してカツカツと字を書く。


「だから、はい。まずは自分の名前を覚えるところからだね」


「これがわたしの名前……わかった! がんばる!」


 手習い板に書かれた自分の名前を嬉しそうにじーっと見つめているカーリンと歩き続けて、獣人村とブロックドロフ村の中間地点あたりにきた。


 そろそろ走って帰ろうか、とカーリンに言おうとしたとき、コパンの長い耳が何かの音を拾っているようでピンと張る。俺には草木が風で揺れる音しか聞こえないが、多分コパンにはなにか別の音が聞こえているのかもしれない。


……なんだろう? まあでもコパンがいればたいていの魔物は襲ってこないって……あ!!


 俺とカーリンは見習い仕事の話に夢中になっていて、コパンが小さいままなことに気づかないままここまで歩いてきてしまった。カーリンもコパンの様子を見て、辺りを警戒し始めている。


……コパンを大きくするの忘れてた!


 辺りを警戒しているちょこんとしたコパンの額に慌てて魔石をくっつけ、魔力を流していく。もう何かが起こり始めてる気がするけど。だってガサガサって音が近づいてきてるし。


「なんか来てる! オリバー、コパンさがって!」


 5歩程度離れたところに立つカーリンは周囲をよく見ていた。ガサガサと音を立てて近づいてきていた何かが、麦畑と麦畑の間の草むらから俺たちに突っ込んでくるのを察知し早口で声を出す。

 狼神サイズになったコパンと急いで後ろに飛び退くと、突進するように立て続けに何かが飛び出してきた。


……あれは……エーバー? しかも3体?!


 勢いよく麦畑から飛び出してきたのは立派な牙を生やしたイノシシの魔物、エーバーだった。

 大きさはコパンに負けてない。体長はコパンより短そうだが、牙が鼻よりも前に突き出ているため圧迫感があった。

 なにより肉がパンパンに詰まったあの体でぶつかられたら、牙が刺さらなくても骨がバキバキに折れると思う。

 ちなみに後から飛び出してきた2匹は前に立つエーバーより小さめだ。


 俺がその3体を見て気になったのは、それぞれの額についた黒い魔石だった。


「なんで闇の魔石が付いてるんだ?」


 エイミーから属性によって魔石の色が変わると以前教えてもらったことがある。

 確か闇属性は……


「そんなのわかんない! 闇属性は凶暴で強いんだよ! 速く逃げよう!」


「魔石の色なんて今どうでもいいでしょ」とでも言いたそうな表情のカーリンがちょうど説明してくれた。そう、闇属性は凶暴で強いらしい。


「でも逃げるにしても帰り道が……」


 獣人村へ進むのを阻むようにエーバー3体が立ち塞がっており、逃げるとしたらブロックドロフ村に向かうしかなかった。だが、瞬時に俺の頭の中にはある心配が沸き起こる。


……ブロックドロフ村に行ったところで魔物と戦える人、いるのか?


 ブロックドロフ村の住人を思い起こしてみるも、戦えそうな人は鍛冶屋のがたいの良いおじさんくらいだ。それに村にエーバーが入りでもしたら、倒せたとしても村の至るところを壊してしまいそうだなという不安もある。


……コパンに注意を引いてもらっている間に、麦畑から回り込めば獣人村まで行けそうだけど……


「グルルルル……ガァァァァルルル……!!」


 俺は隣のコパンに目を向ける。戦う気満々だ。

 コパンは唸り声を出しながら今まで見たことがないくらい牙をむき出し、鼻にシワを寄せていた。いつもは優しい赤い目をつり上げ、エーバーたちを睨んでいる。今にもやつらに飛びかかりそうな表情のコパンを見て、俺は出会った頃を思い出す。


……そうだ、コパンの親はエーバーに殺されたかもしれないんだった。


 コパンと初めて会ったとき、ハイス山で赤い大きな魔石を大切そうに守っていたコパンはエーバーに追われていた。状況的に、コパンの母親がエーバーに殺されたのだろうとシュティローおじさんが言っていたのを覚えている。

 そして、きっとシュティローおじさんの仮設は正しかったのだろう。親の仇を睨むような目をしたコパンの顔には凄みがあり、ただの威嚇以上の気持ちを感じた。

 いつもとの様子の違いに驚いた俺は、コパンを落ち着かせようと触れるのを思わず尻込みしてしまう。


……コパンは怒り心頭って感じだけど、正直あんなでかいエーバーに勝てる気がしない……ここは逃げるべきか?


 逃げるとしたらどっちに逃げたらいいんだろう? と必死に考えている隙に、コパンと睨み合っていたエーバーは突進し始めた。残りの2匹も追従するように、ワンテンポ遅れて動き出す。エーバーが動いたことを皮切りにコパンも勢いよく走り出し、俺の考えはまとまらないまま戦闘が始まってしまた。


 突然始まった魔物同士の戦闘に驚いたカーリンは俺の腕をぎゅっと握る。


「カーリン、畑に入って回り込もう。獣人村まで走るんだ!」


……獣人村ならみんな強い! そっちに逃げよう!


 怯えるカーリンの手を握り、俺たちは麦畑に走った。今は種を植えたばかりのようで土しか見えない畑に入らせてもらう。エーバーの動きを見ながら走っていたから(うね)をいくつか踏んでしまった気がする。


……わー! 踏んじゃってごめんなさいごめんなさい!


 心の中で何度も謝りたおしコパンとエーバーの戦闘を避けるように回り込みながら、畑の中を走る。すると、小さいエーバーの1匹が俺たちに気づいたようだ。方向転換してこちらに走ってくる様子が見えたが、畑を目前にしたところで急ブレーキをかける。


……なんで麦畑に入らないんだ? ……あ! 魔力の加護か!


「カーリン、待って! 俺の後ろにいて!」


 繋いでいたカーリンの手を離すと、デコピンの構えで風を中指に集め始める。

 畑に魔物避けとなる魔力の加護を収穫祭のときにかけたんだったと思い出した俺は、エーバーが畑に入ってこないと見込み、足踏みしているエーバーを狙い撃つことにした。小ぶりなエーバーだったら俺でも倒せるかもしれない。

 風でひらひらとマントがはためき、突然吹き始めた風に驚いたカーリンは、俺の後ろで「なになに?! なにするの?!」と狼狽えているが、説明する余裕はない。


……そのまま止まっててくれよ!


 土弾丸をポケットから取り出し、畑を目前に足踏みしているエーバーに向かって、俺は中程度の強さのデコピンエアガンを放つ。焦りでタメの時間が短かったが、土弾丸は勢いよく飛んでいきエーバーの額にダイレクトヒットした。エーバーはぐらりとその場に倒れ込む。土弾丸は突き刺さらず、どこかに弾け飛んでいくのが見えたが威力は十分だったようだ。


「よし! 逃げやすくなった!」


「オリバーすごい! そのまま大きいのもやっつけられる?!」


「無理! でかすぎ! 逃げる!」


 カーリンに即答しながら畑の中からコパンとエーバーたちの戦闘を見て、コパンに「逃げるよ」と声をかけるタイミングをはかる。


……このまま麦畑にいて獣人村の誰かが通りかかるのを待っててもいいんだけど……エーバーが草むらから出てきたってことは、魔力の加護がかかってても麦畑に入れるってことだよね?


麦畑にいれば絶対安全ってわけじゃない。それにカーリンがとても怖がっている。早く村まで帰らせてあげたい。


 カーリンと手を繋ぎながら、戦闘を見守る。大きいエーバーは何度も牙を突き刺そうとしているがコパンはそれを避けていた。

 もう1匹の小さいエーバーもコパンにアタックを試みるが、コパンは避けると同時にそいつの首根っこに噛みついた。突進してきていた大きなエーバーに向かってそれを放り投げ衝突させると、小さいエーバーはビクビクと痙攣して立ち上がらなくなっていた。

 残るは大きなエーバーだけという状態になりカーリンはコパンに「もう逃げるよ!」と何度も声をかける。だが、その声に反応はない。


「カーリン、4足で走れる? エーバーたちに追いつかれない?」


「多分大丈夫……でもコパンが全然こっちに来ないよ?」


 逃げると決めたら獣人村まで走ることになる。部分強化もまだろくにできない俺が走ると足手まといになるから、コパンに乗るのは俺で確定だ。カーリンには全力で走ってもらうしかない。もし追いつかれそうになったらデコピンエアガンでエーバーを威嚇できるだろうと、さっき倒したエーバーに視線をやる。

 残る問題はコパンだ。かなり興奮していて俺とカーリンの声に反応することなく、エーバーを果敢に攻めている。まさかここまで声が届かなくなるとは思ってもいなかった俺は、コパンを呼び戻す方法を必死で考える。


……干し肉を見せるか? ってまずこっちを見ないし……おすわりなんてどこかの半妖じゃないと効かないし……あ、コパンによくしてる命令だったら聞いてくれるかも……!


 あることを思いついた俺は、カーリンに2つのお願いをする。


「カーリン、ここにいて!」


 1つ目をカーリンにお願いすると、俺は麦畑を出て道の真ん中に立つ。背後には獣人村への道が続いている。

 すぅーっと息を吸い込み、俺は大声でコパンに声をかけた。


「コパン! カーリンを守れ!」


 すると、今まで何も反応してくれなかったコパンが耳をピクリと動かした。


……よしよし! やっぱり反応した!


 エーバーと一旦距離を取り、俺の方を見るコパンと目が合う。その瞬間を逃さず、俺はカーリンを指差しながらもう一度コパンに強く命令する。


「カーリンを守るんだ!! こっちに来い、コパン!」


 俺の指の動きに合わせて視線をカーリンに向けたコパンは、エーバーの突進をかわしてカーリンの元に走り出した。


 俺がコパンに1番命令しているのは、カーリンを守ること。ご飯に夢中だろうが耳だけはこの命令を聞いていたコパンにとって、カーリンを守ることはとても大切なことなんだと、感心した。


「カーリン! 村まで走って!」


「わかった!」


 これが2つ目のお願い。カーリンが畑から飛び出すと、それを追うようにコパンが走り出した。横を通ったコパンにタイミングを合わせて俺は飛び乗る。


……やっぱり追いかけてくるよね。でも、獣人村まで走れば俺たちの勝ちだ!


 後ろを振り返り、大きなエーバーが俺たちを追いかけてくるのを確認しながら、俺達は獣人村を目指した。



復帰初日から魔物に遭遇するオリバー。

本能的に大きなエーバーに勝てないと思ったオリバーは、逃げることを選びました。



明日は祝日ですが、更新はありません。

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