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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
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部分強化の練習

 

 今日はシュティローおじさんに属性鎧とデコピンエアガンをお披露目する日だ。

 休んでいたこの数日で俺は密かに技の習得に(いそ)しみ、愚かなことに自分で家を抜け出していたことをばらしてしまったが、デコピンエアガンを開発した。

 朝ごはんを食べるシュティローおじさんは、どことなく楽しそうな雰囲気を出しているように見えるが、気のせいだろうか。

 みんなを送り出し、俺たちは森へやってきた。


「それじゃあオリバー、まずは属性鎧を見せてもらおうか」


 森に着くやいなやシュティローは俺に期待の眼差しを向けた。犬のような耳がいつもより立っており、明らかにワクワクしているのがわかった。


「うん、わかった」


 俺はいつも通り、全身に火や水、風をそれぞれ纏う。

 さっきまでワクワクしていたシュティローは、わかりやすくぽかーんとしていた。


「話には聞いていたが、実際に見ると驚くな……それに魔力も増えてないか?」


「うん、魔力は増えてる感じがする! たくさん使ってたからかな?」


 自分でも魔力を入れる器が大きくなったような、そんな感じがしていた。どうやらシュティローおじさんから見てもやはり魔力量が増えているらしい。


「そうか……魔力の増え方は人間の特徴を受け継いでたんだな。オリバー、人間は成人する頃までしか魔力量が増えないらしいぞ」


「獣人は魔力量って増えないの?」


「獣人たちも魔力量は増えるが、成人してからちょっとずつ増え始めるんだ。そこが、人間と大きく違うところの1つだな」


……へえー。獣人と人間でそんな違いあったんだ。成人ってことは15歳かな? っていうか獣人って成人してからまだ強くなるの?! 羨ましい……


 どうやら俺の魔力量は成人までしか伸びないようだ。それに対して獣人は成人してから魔力量が伸び始める。成人してからの方が人生は長いんだから、獣人の方がオトクだと思うのは俺だけだろうか。


「成人してから魔力が伸び続けるなんて、ずっと強くなり続けるんだね。かっこいいなあ……」


 俺に尊敬と羨望を込めて見つめられたシュティローおじさんは、俺の言葉を聞くと目をパチクリさせ、くしゃっと嬉しそうに笑った。


「そう言ってくれたのは、オリバーで2人目だよ。実はな、魔物も死ぬまで魔力が増え続けるんだ。魔物の特徴を受け継いでいる俺たち獣人を蔑む人々が多い中、お前の母であるアルトルート様も、オリバーと同じように俺たちの特徴が羨ましいと言ってくださったのだ」


 なんと俺はオリバーの母親と同じ感想を持ったようだ。俺にとってアルトルートという人が自分の母親という意識は薄いが、オリバーの慕わしい気持ちは蘇ってくる。きっと、獣人に友好的な人だったのだろう。

 強さに憧れる女性だったのかな、と記憶の中のオリバーの母さんを思い出すも、線が細くて綺麗な女性にしか見えない。人間だから、ここの獣人よりも遥かに細身の印象だ。実は隠れ細マッチョだったのだろうか。


……俺の母さん、何目指してたんだ?


「俺の母さんも、今の俺みたいに強くなりたい人だったの?」


 シュティローおじさんは何かを懐かしむような遠い目を浮かべたあと、俺に笑いかけ、頭をぽふっと優しく叩く。


「アルトルート様はとてもお強い方だったよ。そうだな……オリバーが50人いても勝てないだろうな」


 にししと笑いながら言われた冗談に、俺は条件反射的に「俺だって強くなってるよ!」と反発した。反発心が出たせいで、今さっき抱いていた疑問は吹き飛んでしまった。

 腕を払いのけられたシュティローは、おもしろがるような目で俺を見る。


「ほほう? じゃあ、その属性鎧でどうやって戦ってるんだ?」


「敵を掴んで火で焼くんだ。水属性は戦闘では使ったことはないけど……風属性は攻撃にも防御にも使えるかもって思って、最近練習してるよ」


「うーむ、ということはオリバーの基本的な戦い方は近接なのか? そんなに細くて小さい身体なのになんと無謀な……」


 苦笑いしたシュティローおじさんを見上げて、俺は首をぶんぶん横に振る。俺もこの戦い方は、自分に合っていないと思っているのだ。


「違うよ。本当は属性鎧は防御に使って、中距離攻撃ができるデコピンエアガンを使って、距離を取った戦い方をしたいんだ。属性鎧は、出したいときに出したい部分をスムーズに覆えるようになりたい!」


 ローセルと会敵したとき、死にものぐるいだったからかもしれないが、手から二の腕に火の属性鎧を出すことはできた。多分、手から魔力を出すことが多かったから他の部位よりは慣れていたのかもしれない。だができるのはそこだけだ。俺は色んな部位でスムーズに属性鎧を出したい。


「そうか。それで部分強化を習得したいんだな?」


「そう!」


「6歳でここまで考えるとは……」


 指で顎を撫でながら納得したように頷くシュティローおじさんがなにか言ったが、俺には聞き取れなかった。シュティローおじさんは俺に向かってデコピンのジェスチャーをする。


「じゃあ次にデコピンエアガン? ってやつを見せてくれ」


 シュティローおじさんは目標にする木を指差した。俺は指に風を溜め始める。自分の頬を風が滑っていくのを感じながらもう片方の手のひらに土属性の弾丸、略して土弾丸を浮かせて構える。シュティローおじさんが口と目を大きく開けているのを視界の端で捉えながら、指差された木目掛けて指を弾く。


「おぉ!!」


 ばひゅんと勢いよく土弾丸は飛んでいったが、貫通した様子は見られなかった。シュティローおじさんは木にどのくらい深く刺さったかを走って確認に行くので俺もつられて後を追う。土弾丸は木の幹の途中で止まっていたようだ。


「素晴らしいじゃないか! 子どもの遊びをどう改良したら技になるのかと思っていたが……風属性を使って小石を弾き出すんだな! もうちょっと頑張れば実戦でも使えるぞ!」


「……やっぱりタメが長すぎだよね?」


「うーん、まあ、そうだな。風を集める時間が長すぎて、その間に相手から先手を取られると思うぞ」


 シュティローおじさんはちょっといいにくそうにしているが、俺もこのタメ時間の長さが1番ネックだと思っていた。心の中で数えたから正確じゃないかもしれないが、今撃ち出すまでに多分10秒以上は確実にかかっていたと思う。


「だけど、そのタメの時間も部分強化の練習をすればおそらく短くできるぞ。やろうとしてることは一緒だからな」


「そうなの?!」


「部分強化は、自分が集めたい部位に魔力を集めて強化することだからな。指先に集めるのも要領は一緒だ」


 ……部分強化もデコピンエアガンも速くできるようになるってこと?! 一石二鳥じゃん!


「シュティローおじさん、早く教えて! できるようになりたい!」


 それから俺は部分強化について教えてもらい始めた。

 と言ってもやることは(いた)ってシンプルで、全身を身体強化をした後、部分強化したい部位に多く魔力を集めるだけだ。これを繰り返して練習すれば部分強化ができるようになるらしい。

 話を聞く限り「なんだ、簡単じゃん」と思ったのだが、この魔力の移動が俺にはめちゃくちゃ難しかった。


「いいか? 攻撃する瞬間、防御する瞬間に限りなく速く魔力を移動させるのだ」


……はやっ!


 シュティローは説明しながら、風切り音とともに腕を前方に突き出す。シュティローを覆う赤いモヤみたいな魔力が拳に多く集まったのが見えたが、いつ拳に集まったのかは全く見えなかった。


「最初はゆっくりでいいからやってごらん。指先に風を集める感覚と似ていると思うぞ」


 俺もシュティローおじさんと同じく拳を前に突き出したが、魔力の移動が追いついていない。

 とてもゆっくり、カタツムリがぬるぬると這うように前へ前へと魔力が移動し、拳を覆ったのは10秒以上経ったころだった。


「うぐぐ……はぁっ……はぁっ……風を集めるよりも疲れる……!」


「人間に身体強化を教えたことがあるが、ほとんどがそんな感じだったよ。この村に住んでるやつらは物心ついたころには身体強化ができていたし、もっと言うと部分強化も自然にできていた。きっと獣人は身体強化に特化した身体の作りなんだ。オリバーは混血児だが、きっと人間寄りなんだろう。獣人の血も入っているから普通の人間よりは習得しやすいと思うが、身体強化は難しくて当然と思っておいた方がいいぞ」


 シュティローは励ますように声をかけてくれた。身体強化は人間にとっては難しいことなんだと聞いて少し気が楽になり、しゃがみこむシュティローと目を合わせる。


「逆に俺たち獣人は、オリバーのさっきのデコピンエアガンのように、風や火を自在に操ることがとても難しいんだ。その年で身体強化も属性の操作も覚えようとしているが、オリバーはまだ幼いんだからゆっくり鍛えていったらいいさ。部分強化も冒険者見習いになったら教えようと思っていたことなんだぞ」


「そうなんだ……」


 焦っているわけではないけど、ローセル戦での反省は活かしたい。でも部分強化の習得がここまでもどかしいものだとは思っていなかった。

 あまりの大変さでシュティローの言葉に甘えて、冒険者見習いになる7歳になってから本格的に部分強化の練習をするか一瞬悩んだが、さっきの拳までの魔力移動の遅さを見ると実戦で苦労する気しかしない。


……痛いのはもう味わいたくない。


 獣人のように頑丈な身体を持たない自分がこの獣人村で冒険者になるには、何を学ぶにも早いことに越したことはない。生まれた時点で周りの獣人たちと差ができているんだから、練習量でカバーするしかないんだ。


……それにボロボロになってカーリンたちに心配をかけるのは申し訳ないからね。


甘えたい気持ちを振り払うように首をぶんぶん左右に振り、俺は決意を固める。


「俺は他の獣人に比べて体力も力もないから、今のうちから頑張る! シュティローおじさん、毎日稽古つけてくれない?」


「冒険者見習いになったらやることだってさっき言っただろう? 一緒に依頼をこなしながら教えることならできたが……俺は帰りが遅いから毎日は無理だ。それに、部分強化はさっきやった魔力移動を繰り返しやるだけだ。あとは日常的に部分強化をやってみろ。そうすればそのうちできるようになるから」


「部分強化の練習って、さっきのを繰り返すだけ?」


「そうだ。腕も足も同じように繰り返して覚えていくんだ……ってもう昼か。昼ご飯を食ってから続きの練習をやろう」


 練習したり話していたら結構時間が経っていたようだ。もうお昼の時間らしい。

 俺とシュティローおじさんは一旦家に戻り温めたスープを食べた。シュティローおじさんとは同じ家に住んでいるのに、一緒にご飯を食べることが少ないからお昼から一緒にテーブルに座っているのはなんだか新鮮だった。


「そういえば、シュティローおじさんは貴族に身体強化を教えてたの?」


 食事中、話が切れたときに俺が質問した途端、シュティローおじさんは急にむせ始めた。


「な、なな、何を言ってるんだ急に? 貴族に教えたなんて言ったか?」


「言ってはいなかったけど、身体強化できるのって魔力を持ってる人たちでしょ? ブロックドロフ村や街の人たちは魔力がないし、そうなると貴族に身体強化を教えてたのかな? って思ったんだ……もしかして、魔力がなくても身体強化ってできるの?」


「あ、ああ。よその村や町の人たちは魔力を持ってないから身体強化はできないな……」


 そう言うと表情を引き締めたシュティローおじさんは、俺をまっすぐ見据えて話を続ける。


「オリバーの言う通り、俺は貴族に身体強化を教えてたことがある。だが、昔のことだ」


 俺を見つめる赤い目は据わり、もうこれ以上この話に触れるなと言ってる気がした。シュティローおじさんにとっては触れられたくない過去なのかもしれない、と思った俺はあまり話題を深堀りせず話を変えてその場を乗り切った。


 お昼を食べ終わってから、シュティローおじさんに見てもらいながら部分強化の練習に戻る。

 脚! 腕! 腹! と指示を出されたところを強化するというシンプルな練習方法だ。

 だが、ジムの個人インストラクターのようなシュティローおじさんからアドバイスをもらいながら練習できたから、1人で練習するよりも習得を早められた気がした。


「あ、もう魔力が出ないかも……」


 何度も部分強化を繰り返していたが、もう体内の魔力を感じない。出し切った感じがする。デコピンエアガンの練習よりも疲れた上に、そんなに長い時間、練習ができなかった。かなり腹ペコだ。多分まだ、晩ご飯の準備をする時間よりも早いと思う。


「今日はこのくらいにしておこう。オリバーは明日……は安息日だから明後日以降、部分強化の練習をするんだろう? ブロックドロフ村まで走るとき、脚だけ部分強化するのをやってみなさい。最初は大変だと思うが、慣れたら効率よく身体強化ができるようになる。きっとブロックドロフ村まで自力で走れるようになるぞ」


 獣人村の子どもらは遊びながら身体強化の加減を覚えていくらしいが、俺はツァールトに読み書きを教えてもらっているから遊びに参加できない。だからブロックドロフ村まで走る間、シュティローおじさんといる時間に部分強化の練習を見てくれるらしい。

 まだブロックドロフ村まで走りきれたことはないので、ぜひ部分強化を習得したい。


「わかった! 部分強化、がんばるよ!」


 俺が宣言したと同時に鳴ったお腹の音が、シュティローおじさんにも聞こえたようだ。笑いを堪えきれない様子で俺を見ている。


「頑張るにはまず飯を食ってからだな。今日はオリバーの快気祝いにディータがうまい飯を作ってくれるってさ。楽しみだな」


 その夜、フェルカでゲットした肉をディータおばさんが美味しく調理した料理を腹いっぱい食べた。

 腹も痛くならず、久しぶりに満腹になるまで食べられたことに満足しながら、俺は眠りについた。



シュティローが1日くっついて修行をつけてくれました。

「俺もデコピンで火を弾き飛ばせるんじゃないか?!」とシュティローがこっそり練習していたのは秘密です。


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