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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
48/62

フェルカ 前半

 

「よし、そろそろ浜に行こうか。オリバー、ゆっくりでいいから行くよ」


「うん、わかった」


 俺はカーリンに支えられながら、浜に向かっているところだ。

 昨日しっかり寝たからか熱は下がり、ベッドから降りられた。まだ身体は痛むし、額に巻いた布はまだ取れないけどこうして歩くことはできている。


 収穫祭や新人式に参加していたディータおばさんが家に帰ってきたのが儀式終了の合図だった。エイミーもカーリンも待ってましたと言わんばかりのテンションで準備を済ませ、いつもより綺麗に着飾ったディータおばさんをいつもの服へ戻す着替えを手伝っていた。シュティローおじさんは儀式後すぐに、使徒神官とハイス山へ行ったらしい。


 小型犬サイズのコパンも一緒に浜まで向かっている途中、ケバルトたち信号機チームと合流し、よっと手を振り合う。


「オリバー、動けるようになったんだな。昨日見舞いに行ったら寝てたから、今日出れんのか心配してたんだ」


「まだ本格的に動くのは難しいかな。だから今日はフェルカ出れないんだ」


 ケバルトと話していると、ニクラスとライナーは俺の傷を見て痛そうという顔をしていた。


「え、そうなのか? そうなると今回のフェルカは俺たちカルツェ族がもらったも同然だな!」


 エイミーに向かって挑発的にニヤッと笑ったケバルトは、一昨日かなりの長距離を走ったにも関わらずとても元気そうだ。


……体力ありすぎだろ。それにしても俺への評価、高くないか? 俺、エイミーが投げたスライム取れなかったんだけど……


 エイミーと互角にやりあえるケバルトも、エイミーと同程度の球速でスライムを投げてくるだろう。俺なんて絶対一発アウトだ。


「ふっ……オリバーなんかいなくても今年も勝つのはトゥルフ族よ。例えあたししか残らなくても全員ぶちのめす」


 スライムを投げ合うドッジボールみたいな競技なのに物騒な物言いをするエイミーの目はガチだ。カルツェ族のみんなも俺と同じくビチャビチャにする気だろう。


「去年俺のスライムを取れなかったくせによく言うぜ! ま、今年も正々堂々やろうな!」


 スポーツマンシップ溢れるエイミーとケバルトはがしっと握手を交わす。若干だけど、肩に力が入っているように見えた。


……なんだろう、2人とも笑顔だけど手に力が入りすぎてるような気が……ま、きっと宿敵同士なんだろうな。


 来年ケバルトが本気で投げてきませんようにと祈りながら歩みを勧めて浜に到着すると、砂にガタガタの線で長方形が2つ連なって書かれていた。その連なりが1セットで、距離を置いて計3つ。


……あれがコートになるのかな?


 そのコートらしきものから、人がたくさん集まっている方へ視線を動かすと、さらに奥に巨大なカニの残骸が見える。あれがきっと討伐したロートレグだろう。近くの砂浜は一部えぐれている部分もあり、激しい戦闘の跡が残っていた。


「あんなに大きいんだ、海の主って……」


 足やハサミの部分がついていれば日本の大阪で見た、あのカニの看板くらいの大きさはあったんじゃないかと推測できる海の主は、今は立派な甲羅だけになっていた。


「そうよ。今は解体されて調理されてるわ。フェルカが終わったらみんなで食べるんだって。今日の晩ご飯はカニよ!」


……おお! カニを食べられるんだ! 楽しみー!


 俺はウキウキしながら大勢の人が集まっているところへ歩いていく。続々と人が増えていき、この村にこんなにたくさんの人がいたんだと妙に感心してしまう。自然とカルツェ族とトゥルフ族で分かれているようだが、俺たちはカーリンやケバルトたちと真ん中あたりに立つ。

 カーリンやエイミーたちは他の子どもたちと楽しく話しているが、俺は誰にも話しかけられないのがちょっと傷ついた。俺にひどい言葉を浴びせたあのニクヒルおばさんの侮蔑的な視線のようなものは感じないが、どことなく距離を取られているようには感じた。

 森で俺に声をかけてくれた子どもたちは見当たらないし、多分、この空気感が今までのオリバーには当たり前だったのだろう。混血児だから、というだけで。


……だから行事にもなかなか参加しなかったんだな。


 オリバーの行事関係の記憶が少ないことに納得していると、人が増えなくなった。いかにも漁師という風貌でガタイの良いおじちゃんが前方に立つと、拡声器なしでも響き渡る大声でフェルカ開催の旨を話し出す。


「ねえカーリン。あのおじちゃんって誰?」


「え?! タギノさんだよ? あ、オリバーはタギノさんと会ったことなかったんだっけ?」


……あ、あれがタギノさんか。実は知らなかったんよね、タギノさん。


 周りのみんなが驚いたように俺を見るが、オリバーの記憶を探ってもタギノの顔は浮かんでこなかった。話にはよく聞いていたが今日が初対面だ。

 今まで俺が獣人村で会った人の中で1番年を取っているように見えるタギノさんは、年齢を感じさせないよく通る大きな声で、そのまま話を続ける。


「今年も大人の男、大人の女、子どもの3つの部門で2試合に分けてフェルカをやるぞ。どっちの試合にどう人員を分けるかは自由だが、1試合に出る両陣営の人数は等しくなるようにすること。フェルカが終わったら賞品の授与だ。今年の賞品も大人の男部門が肉! 大人の女部門が魚! 子ども部門は塩だ!」


 賞品の説明が終わると、周りから大きな歓声と雄叫びが上がり、あまりの声量に俺はビクッと身をすくめる。


「総合成績で勝った族の方にはさらに肉を贈呈! おめえら、正々堂々勝負してうめえ肉を手に入れろ!」


 コール&レスポンスがすでに出来上がっているようで、タギノが何か言うたびに歓声が沸き上がる。ライブのような盛り上がりがお祭りのようでさっきまでへこんでいたのも忘れて、俺のテンションも上っていく。


「そんじゃあそれぞれのフェルカ場で第1試合に出るやつを選べ! 準備ができ次第、試合開始だ!!」


 周囲の人々は大きな雄叫びを上げながら、自分の部門のフェルカ場へと走っていく。どうやらさっき見たコートっぽいのがフェルカ場というものらしく、俺たち子どもは海を背にして1番右側のフェルカ場を使うようだ。ケバルトたち信号機チームも他の子どもと動揺に勢いよく走って行くが、エイミーとカーリンは俺に合わせてゆっくり歩いてくれる。


「1つの部門で2試合あるんだね。引き分けもあるの?」


「あろわ。例えば、第1試合はカルツェ族、第2試合はトゥルフ族が勝ったらその部門は引き分けよ。でもそれぞれの試合で勝った人たちには賞品が出るの。全部門引き分けになったら、賞品はカルツェ族とトゥルフ族で山分け」


「そうなんだ。別に山分けでもいいと思うんだけど……」


「それじゃあ面白くないじゃない。しかもお肉が出るのよ?! 分け合ったら取り分がさらに減るわ!」


 家で出る肉は干し肉が多いが、滅多に生肉にはありつけない。どんな肉が賞品として出るかわからないが、エイミーの必死さからしてきっと美味しい肉が出るのだろう。


 子ども部門のフェルカ場に着くとすでに両陣営分かれて話し合っており、カーリンはカルツェ族の方へ混ざりに行った。どうやら第1試合に出る者たちを決めていたようで、どんどんフェルカ場に人が入っていく。第1試合の年齢層はエイミーよりもお兄さんお姉さんの年齢層が多めのようだ。


 エイミーは焦る様子もなく俺に合わせて歩いていくと、トゥルフ族で冒険者見習いのレーゲンがこちらに視気づき、手招きしてくれた。


「第1試合はいつも通り、10〜14歳だ。カルツェ族も同じだってよ。俺たちは2試合目だね」


「やっぱりそうよね。ありがとう、レーゲン。あと、今日オリバーはフェルカに出ないから」


 エイミーに礼を言われ嬉しそうにしているレーゲンの目に、俺は写っていないようで俺との挨拶もほどほどにエイミーとの会話に戻ってしまった。


……ほほう。もしや、エイミーに恋してる? おっけーおっけー、俺は邪魔しないさ。それよりも結構知らないルール、ありそうだなあ。


 これは後から聞いた話だが、子ども部門の参加者は5〜14歳と体格差が大きいので、1試合目には大きい子ども、2試合目には小さい子どもと分けるのが暗黙の了解らしい。みんなが楽しめるように、そういった配慮をしているとエイミーが言っていた。


 レーゲンが嬉しそうにエイミーと話しているのを横目に見ていると、審判らしき人が早速開始の指笛を鳴らす。ジャンプボールでカルツェ族がスライムを弾くと白熱のフェルカが始まった。


……はえぇー!! そしてみんなすごい上手だ!


 全員身体強化をしているので避けるのも投げるのも俊敏だ。高くジャンプしスライム投げの応酬を2,3回続けるカルツェ族とトゥルフ族の若者たちもいれば、上手く力を逃してスライムをキャッチしている人もいる。しなやかに身体を使うみんなを見ていると、来年俺がこの戦いに参加できるのか不安になりつい苦笑いが漏れた。


「オリバー。フェルカおもしれえだろ? 来年は一緒にやりてえな」


 ざしざしと砂を蹴り、声をかけに来てくれたのはケバルトだ。今周りを見て気付いたけど、やっぱり俺の周りには全然子どもたちがいない。寂しそうに見えて声をかけてくれたのだろう。


「おもしろいけど、みんなうますぎだよ……それに、スライムを上手く取れなかったらもう試合に参加できないんだね」


「あぁ。だから退場しないようにみんな必死なんだ」


 フェルカが開始してすぐにキャッチしたスライムが弾けた人は、とても残念そうにフェルカ場から出ていく。まるで来年の俺を見ているようだった。


「外野がいればもっと長く遊べるのに……」


「なんだ? フェルカがもっとおもしろくなる方法、あるのか?」


 俺がぼそっと呟いたのを聞き逃さなかったケバルトは興味津々という顔をしている。

 俺は自分の知っているドッジボールのルールを、地面に絵を描きながら説明する。気付けばエイミーもレーゲンも絵を覗き込んでいた。


「内野と外野に分けて、内野の人は相手の外野が投げたスライムに当たっても退場にするんだ。そうすれば当たった人もその試合、ずっと参加できるだろ? 今よりもずっとテンポの良い試合ができるし、戦い方の幅も広がると思うんだ」


「それならすぐ退場したヤツもその試合、楽しめるな! すげーおもしろそう!」


「ケバルトォー!! そのルール、俺にも教えろぉー!!」


 ケバルトが目をきらきら光らせて俺の話を聞いていたかと思ったら、突如ケバルトを呼ぶ大きな声が聴こえた。声のする方、子ども部門から最も離れた大人の男部門の方から砂を巻き上げ走ってくる人影が見える。


……あれは……タギノさん?!


「じっちゃん、聞いてくれよ! すげーおもしろいルールをオリバーが考えたんだ!」


「おう、ちょっとだが風に乗って話が聴こえたんだ。 オリバー、一昨日はお疲れ様! で、ルールを詳しく教えてくれ」


……地獄耳!!


 さらっと労いの言葉をかけられたことに面食らったが、話が早くて助かる。俺はケバルトに説明したように再度ルールを説明すると、そのルールに沿ってタギノとケバルトは細かいルールを詰め始める。気付けば応援そっちのけで周りに子どもたちが集まっていた。


「……なるほどな。確かにこりゃフェルカがさらにおもしろくなりそうだ。よぅし、採用!! 第2試合はそのルールでやるぞ!」


「えぇ?! いいの? 収穫祭の後にやる歴史ある競技なんじゃ……」


「はっはっは! 歴史なんざないない! まだやって5年くらいか? そんなもんだからどうやったらおもしろくなるか常々考えてんだ。オリバーの案ならスライムが当たっちまったやつでも長く楽しめそうだしな!」


……歴史浅っ! というか柔軟すぎるだろこの人!


 まさか俺が言ったドッジボールのルールが即採用されるとは思わずぽかんとしていると、タギノは大声で全体に呼びかける。


「第2試合はルールを変えるぞー! 第1試合が終わったらみんな集まってくれ!!」


「どうしよう、エイミー。俺のルール採用されちゃった……」


「おもしろそうなルールでいいんじゃない? タギノさんが1番フェルカに熱い人だし、あんなに上機嫌なの滅多にないからよっぽど気に入ったのよ。あたしたちもどう戦うか決めなきゃ!」


 エイミーが第2試合に出る子どもたちを集めて作戦会議を始める横で、ケバルトはカルツェ族に改めてルールの説明をしている。


……えぇ……即対応できるのすごすぎない?


 勝ちにこだわる2人の眼差しは真剣で、とても茶化していい雰囲気ではなかった。

 俺は第2試合に参加しないので話し合いには参加できない。まばらな応援が聞こえる第1試合を見学していると、遂に決着がついたようだ。最後まで陣地に残っていたのはトゥルフ族だった。


 第1試合が終わり再び全員集合すると、俺の提案したルールをタギノが説明し始める。第1試合に出たらしいビチャビチャの人は少し落胆しているように見えた。反対に第2試合にこれから出る人は、待っていられないというようにソワソワしている。特に子どもはぴょんぴょん飛び跳ねている。みんなどんだけフェルカが好きなのだろうか。


「ルール変更は以上だ。みんなもおもしろいルールを思いついたらぜひ教えてくれ。それじゃあ第2試合の準備、開始!」


 タギノの号令でみんな散り散りに自分の部門のフェルカ場まで戻っていく。第2試合はエイミーもカーリンも、そして信号機チームも出るから、俺と一緒に歩いてくれているのはコパンだけだ。マイペースに歩きながら前を走るみんなへがんばれと叫ぶが、本心ではやはりトゥルフ族に勝ってもらいたい。


「コパンも応援頑張ろうな。トゥルフ族が勝てば明日のご飯がきっと豪華になるぞ」


 首を傾げて何のこと?という顔をしているコパンと砂の上に座り、試合を見守る。エイミーがジャンプボールのスライムを自陣に押し込んだら試合スタートだ。

 エイミーを中心に外野へうまくパスを回して続々とカルツェ族の内野を減らしていく。他にも年上っぽい身体の大きい子がいるのに、積極的に動いてボールを取りに行っているのはエイミーだった。一方カルツェ族の陣地ではケバルトが奮闘中。力加減が上手いようで、相手がスライムを受け取ろうとすると高確率で割れるのだ。ちなみにカーリンはすぐにスライムを当てられ、ニクラスとライナーはスライムをうまく受け止められずずぶ濡れで外野に行っていた。


 最後まで残っていたのは、やはりケバルトとエイミーだ。

 飛び上がったエイミーがケバルトにスライムを投げると見せかけ外野へパスを回し、逃げ遅れたケバルトへスライムが当たり試合終了。外野制度のおかげかわからないが、第1試合よりも熱のこもった試合展開となり、勝負がついたところで一際大きな声援が上がっていた。

 子ども部門は2試合ともトゥルフ族の勝利という成績を収めた。


徐々にこちらの世界の文化を知っていくオリバー。


ちなみにフェルカの審判になるには指笛が吹けることが絶対条件です。


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