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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
43/62

できることを全力で



 ボスダンゴムシの背後から唸り声とともに覆いかぶさったのは、コパンだった。

 背中には噛みつけないと判断したのか、横から回り込みボスダンゴムシの脇腹に勢いよく噛み付いた。


「グルルルル!!」


 コパンは険しい顔つきで唸りながら、俺からボスダンゴムシを引き離そうとズリズリ引っ張ってくれている。俺から見てボスダンゴムシは横方向にスライドしていった。

 きっと急いで来てくれたのだろう。身体で大きく呼吸をするコパンはボスダンゴムシに果敢に攻撃している。


……コパン! ナイス! さすがだ相棒!


 コパンの登場に俺のテンションはぐんぐん上がり自然と口角が上がる。そのおかげか呼吸も楽になり、身体に力が入るようになってきたがまだ立ち上がれない。俺はみっともない腕立て伏せのようなポーズのまま、コパンの戦いを見守るしかなかった。


 ボスダンゴムシは脇腹に噛みつかれまいと必死だった。丸まろうとすると、コパンが負けじと牙を立てわさわさとした足を噛みちぎる。暴れながら横転させられたボスダンゴムシはお尻の方を魚の尾びれのようにバタバタさせて攻撃するが、コパンは瞬時に避けて攻撃に再度転じる。しばらくその攻防が続いている間に、俺の足にも力が入るようになった。


……あれ? なんでそんな方向に?


 足元にいると思っていたダンゴムシたちは、俺を見失うようにあべこべの方向を向いていた。


……まあいいや! チャンスだ! あいつらは後回しにして今はボスダンゴムシをぶっ倒す!


 足にぐぐっと力を入れ立ち上がり、ボスダンゴムシの背中側に回り、尻尾の動きを盗み見ながら戦うコパンに声をかけた。


「コパン、お腹を上にするぞ!」


 俺はタイミングをはかりボスダンゴムシのお尻側を捕まえる。もうこいつも体力の限界のようで、暴れる力は弱まっていた。


……タイヤで殴られてるみたいに痛いけどまだ耐えられる! さっきよりは弱いぞ!


 何度かバシバシ叩かれながらコパンと力を合わせて腹側を上にすると、俺は尻尾を抱えたまま、綱引きのような体勢で地面にくっつきそうなほど後ろに体重をかける。


「これで、丸まれない、はずっ!!」


 尻尾がロデオマシンのように上下に動くが俺も力を振り絞って下に引き続ける。ちなみに持った感覚は太いタイヤにとても似ていた。跳ね返ってくる感じや、グリップ効いてる感じがパンパンに空気が入った自転車のタイヤのそれだった。


 攻撃の手が緩まりコパンは、ボスダンゴムシの首らしき位置に牙を食い込ませている。正直、寸胴なダンゴムシの首を俺は見分けがつかないが、青汁みたいな体液を噴き散らしながら左右に激しく揺れているから苦しんでいるに違いない。きっと最後の一暴れだろう。

 掴んだ体から痙攣するような揺れを感じながら、尻尾を下に引っ張り続けていると急に動きが止んだ。


「うわ! げふっ!」


 想定していなかった急停止に反応が間に合わず俺はどてっと地面に尻もちをつくと、ボスダンゴムシの尻尾が俺の上半身にバチンと被さり変な声が出てしまった。


……いってえ……重たいなこいつ……


 タイヤの太い自転車に踏まれてる気分になっていると、コパンはボスダンゴムシに牙を立てるのをやめ、俺の方に駆け寄ってきた。


……ん? もう終わったのか?


 コパンはボスダンゴムシの下に潜り込み俺が出やすいように隙間を作ってくれた。ずるりと身体を引きずり出し、俺はコパンを見上げる。


 誇らしげなコパンは「褒めて」の顔で尻尾を振り、俺を見つめるがまだ2匹残っている。もうちょっと我慢してもらおう。


「コパン、まだ2匹いるんだ。あいつらも倒せそう?」


 俺が草むらに入ろうとしている2匹のダンゴムシを指差すと、コパンは耳をピンと立てて走り出す。甘えたい顔つきから急に戦闘モードに切り替わるスピードが速い。


 コパンは勢いよくダンゴムシに飛びかかると、容易にぶんぶん振り回した。防御の体勢で丸まったところにコパンが歯を入れると、いつものスルメを食べるようにアニアニと噛み始めている。足がぶちぶちと噛みちぎられたダンゴムシはだんだん体が開いていき、コパンは首元らしきところに牙を入れていた。

 遠くから見てもわかるくらいダンゴムシは脱力している。きっと絶命したのだろう。残りの1匹も同じように討伐された。


 その間に、俺はボスダンゴムシの生死の確認をする。背中をコンコンと蹴ったり、頭の方を叩いてみたがピクリともしない上に生気も感じられなかった。どうやら息の根は止まっているようだ。


……コパンってこんなに強かったの?


 森で一緒に虫の魔物を倒したり、コパン1匹で狩りをしていたがここまで強いとは思っていなかった。俺がぽかんとしてしまっていると、コパンは嬉しそうに駆け寄ってきた。

「褒めて褒めて!」と言いたそうな顔でこちらを見ているコパンには、さっきまでの険しい様子は見えない。


「すごいぞコパン! 偉い! 天才! さいこ……って、わーーー!!」


 俺が走ってくるコパンを受け止めようと腕を広げてまま褒め称えているとき、あるものが目に入り思わずぎしっと動きがとまってしまった。

 嬉しそうにすり寄ろうとしているコパンの黒い体毛にまみれて数本ダンゴムシの足がくっついていたのだ。エプロンにも口元にも足の残骸がある。


 衝撃の姿にびっくりしたがそんなものはぺぺっと取ってやり、今度こそハグをする。ちょうどコパンの頭の高さが俺の顔の位置に来る。コパンの尻尾がブンブン振れていて可愛い。いまだに大きく呼吸をする身体を撫でまくってやる。


「コパンすごいよ! 俺1人じゃ死んでたかも。助けにきてくれてありがとう」


 俺は笑顔を向け、首を優しく撫でるとコパンは目を細めて頭を擦り付けてきた。お互い青汁のような緑の液体まみれだが、もう今更だ。


「おーい! オリバー!」


 シュティローおじさんがケバルトをおんぶしてこちらに走ってくる姿が見えた。正確にはおんぶの状態のまま4足で走ってきている。すさまじいスピードだ。


……よかった。シュティローおじさんに早く村に帰ってもらわなきゃ!


 シュティローおじさんを見つけるミッションを達成したことと、魔物を全部倒せたことでほっとしたら力が抜けてしまい、俺はコパンのそばにへたり込むとそのままもたれかかった。


「オリバー、大丈夫か?!」


 ケバルトがシュティローおじさんから飛び降りると、大げさだと思うくらい大きな声量で声をかけてくる。というか、今にも泣きそうな顔だ。


「あぁ、大丈夫。安心して力が抜けたんだ……」


「あとは俺に任せろ。残りは倒してやる。ところで魔物はどこだ? どこにも見当たらないんだが……」


双剣を構えながら周囲を警戒しているシュティローおじさんに、俺はコパンに寄りかかったまま報告する。


「魔物は全部倒したよ。それよりもシュティローおじさん、早く村に帰っ……」


「全部倒した? ……オリバーが?」


「そ、そうだよ。最後の3匹はコパンが倒してくれたけど、あとは全部俺が倒した。だから村に帰っ……」


俺の話を遮るように「んえぇ?!」と素っ頓狂な声を出しながら、顎が外れそうなくらい口が開いているシュティローは「これを全部……1人で? ありえない……」とぶつぶつ呟いている。一方ケバルトは俺の身体の状況を見るやいなや、目から涙をポロポロ流し始めた。


「こんな全身ボロボロになるくらい無茶させちまって……俺が頑張らなきゃいけないのに……うぅっ……」


……え、俺そんなボロボロ?


戦いに集中していたせいで身体の状態を確認していなかった俺は、自分の体を視界に収める。身体中確かに擦り傷切り傷だらけだが、骨折はしていない。

兄貴肌な性格のケバルトは、余計な責任を背負ってしまったんだろう。俺の目にはそんなケバルトが健気な男の子に映り、気にすることはないと伝えたくなった。


「俺は俺のできることを頑張っただけだよ。ケバルトはシュティローおじさんを探し出して来てくれたじゃないか。ケバルトだって十分頑張ったんだ。お互い様だよ」


ケバルトの頑張りを称えると、シュティローおじさんがケバルトの頭をぽんと軽く叩いた。


「そうだ、ケバルトもオリバーも頑張ったな。だが、オリバーは1人で無茶しすぎだ。子ども1人で対応できる魔物じゃないぞ、ローセルは。それにそんなに額と鼻から血を出して。あぁ、擦り傷もこんなに……だが1人で倒せたのはすごいぞ、オリバー。これは冒険者になるのが楽しみだな」


 ニッと笑いながらそう言うとリュックから布を取り出し、なにかの液体を染み込ませる素振りを見せたシュティローおじさんは、俺の額にそれを押し付けた。


「いたっ! すげえ染みる!」


「止血効果のある薬だ。まずは血を止めるから暴れるな! ケバルト、泣いてないでオリバーを押さえてくれ」


 涙を拭いたケバルトに両腕を抑えられながら染みる痛みに悶え、額から離された布を見て俺は目玉が飛び出そうになった。


「なにその血の量! え、俺の血?!」


 布の中心部は赤黒い血でまみれていた。シュティローおじさんは「今更何を言ってるんだ?」と言いたそうな呆れ顔で布の空いているところに再度薬を染み込ませる。


「そうだ、全部お前の血だぞ。こんなになるまでよく頑張ったな」


……そりゃケバルトも心配するわ! こんなに血流してたら大怪我じゃん!


 シュティローが空いている手の方で俺の肩を撫でる。いつもの豪快なふれあいではなく、いたわるような触り方が俺の身体の重症度を知らせる。


 布を額に押し付けられ、びりっとした痛みを感じた途端、急に身体の至るところが痛んできた。


「あれ、なんか色んなところが痛い……」


「こんだけの数を相手にしたら色んなところが痛むに決まってる。それに身体に相当な負荷がかかったはずだ。ほら、鎮痛薬。これ飲んどけ」


「うん、わかった……んぐぅっ!!」


……まっず! これ飲んでも大丈夫なの?!


 受け取った木製の筒に入れられた鎮痛薬を口の中に入れると、広がるのは猛烈な苦味だった。のどがヒリヒリして痛い。一口飲んで「うえぇ」と顔を歪めているとシュティローおじさんが筒を左右に振り、「あと半分は飲んでおけ」と飲み口を俺の口に押し付ける。


「ちょっと待って! 自分の気持ちが決まったら飲むから! まだ待って!」


 苦くて仕方のない薬を飲む覚悟を決めると、一気に流し込む。筒を緩く振ると、だいたい半分くらいだ。よし、ノルマ達成。


「少しそのままでいろ」と指示され、コパンに寄りかかりながらで色々手当を受けていると、だんだん眠くなってきた。身体も重たい気がする。


「シュティローおじさん、俺の手当が終わったらすぐ帰ってね。家を海の主が壊しちゃうかもしれないんだ」


「ケバルトから状況は聞いた。海からみんなの家まで距離があるし、多分タギノが距離をとって浜にあげるはずだから大丈夫。もちろん、すぐ帰るさ」


 余裕の表情でシュティローおじさんが言う大丈夫を聞けて俺はふぅっと溜息をつく。


……すぐ帰ってくれるってさ。よかった。


 俺の額に布を当ててくれているケバルトを見上げ、微笑む。ケバルトも安心したように笑い返してくれた。


……なんだか痛みが収まってきたかも。それに眠気も……もしかして、死ぬ?!


「シュティローおじさん、俺眠くなってきた。もしかしたら死ぬかも……」


「おい、縁起でもないこと言うな。飲ませた薬は眠くなる効果もあるんだ」


……それならそうと先に言ってよ。痛みも引いて眠くなったら死を疑うわ。いやー、それにしても効果が出るの速いな、この薬。


「なあに、村のことはもう心配しなくていい。俺がすぐ片付けるよ」


 俺は薬の効果を実感しながら、優しい表情のシュティローおじさんに視線を向ける。


「絶対に海の主を倒して。約束だよ」


 俺が小指を差し出すと、シュティローおじさんは不思議そうな目で俺の小指を見る。ここの世界の人は知らないであろう、大和時代の小指を絡め合わせて約束のポーズを取ろうとしたことに気付き、指を引っ込めようとしたが、それより先にシュティローおじさんが俺の小指に自分の小指を突き合わせた。


「あぁ、約束だ。大丈夫。安心して寝ていいぞ」


……そうじゃない! 心の交流ではあるけど! 俺のやりたいことと違う!


 宇宙人と子供が主役の映画みたいになっちまったと心の中で思うも、まぶたが重たくて開けていられず、口も動かしたくなくなってきた。


「お前がここで踏ん張ったおかげで、俺も力を溜めて帰れる。よくやった。後のことは大丈夫だから今はおやすみ。オリバー」


 シュティローおじさんに頭を撫でられると、俺の意識は落ちていった。





「おにぃーちゃーん! これで遊ぼー!」


 小さい妹に急かされ家を出る。陽菜の右手にあるのは水鉄砲だ。俺はなぜか何も持っていない。

 腕を引っ張られながら庭まで来ると、くるりとこちらを向いた陽菜は突如俺の顔面に水鉄砲を放ち始めた。


「おい、やめろ! 人の顔に向かって打っちゃダメだって母さんに言われたろ!」


 手で防いだり顔をそむけてもしつこく俺の顔面を狙う。しかも、なぜか鼻の下ばかりを狙ってくる。

「なんでそこ?! ピンポイントすぎだろ!」と叫びたいが水圧に負けて口が開かない。わけのわからないことをしている陽菜は、とても上機嫌だ。ニコニコしながらどんどん俺の方へ近づき、それにつられて水圧も強まる。


……くそ、なんで俺には武器がないんだ! やめろって!


 陽菜の右手をがしっと掴むと、なぜかさらに水圧が増した。目も開けていられないし口も開けられない。楽しそうな笑い声と水鉄砲を浴びせ続けられながら、俺は魔力を使って水を出せばいいことに気づく。


……そうだ。俺、水出せるじゃん。……ふっふっふ。魔力を得た兄の実力を見よ! 指先から水鉄砲を出してやるぜ!


 俺は魔力を指先に集めながら、陽菜に銃口を向ける。


……ん? あれあれ? 魔力が全然出ないぞ? っていうか、魔力はこの世界じゃ使えない? ってこの世界って、なんだ?


そうこう考えているうちに俺の息が持たなくなってきた。


……やばい! 溺れる!


 そう思った瞬間、俺は反射的に目と口を開き、大きく空気を吸い込んだ。水を飲み込む準備をしていた喉は空気をごくごくと飲み込む。


「……コパン?」


 陽菜の腕を掴んだと思っていたが、掴んでいたのはどうやらコパンの身体だった。どうやら俺が寝ている間に、小さくなったコパンが俺の上に乗り、鼻の下を舐めていたようだ。というか今も舐めてるけど。


「オリバー、ごめんな。コパンにいくらやめろって言っても聞かなくて」


 コパンを鼻の下から引き剥がすと、恍惚こうこつとした表情で舌なめずりしていた。俺に話しかける困った声色の主はケバルトだ。


「オリバーの鼻の穴をずっと舐めてたんだぜ? 抱っこしようとしても暴れて抵抗するし、なんとか引き剥がしてもオリバーにすぐ乗るから、もう放っておいたんだ。コパンもさっき起きたばっかりで、起きないオリバーの具合が心配だったんだと思う」


……そう言えば俺、鼻血出てるって言われてたような……獣は血液に反応するって言うもんなあ。それで俺の鼻の穴、舐めてたのかも。


 ケバルトに説明されていると、周りの風景が見たこともない場所だということに気づく。


「え……ここどこ?」


 石造りの壁。火のついていない立派な暖炉。大きな四角い木製のテーブルに背もたれ付きの椅子。俺が寝転んでいるところは固い。見た目的に長椅子だろうか。部屋の広さはうちの居間と同じくらいだけど、生活感はない。


 俺が頭をキョロキョロ動かすと、背もたれ付きの椅子からこちらを見るケバルトが笑いながら説明してくれた。


「ここは街の兵士たちの休憩室だよ。俺たち、今街にいるんだ」


「え?! 街にいるの?!」


……村に帰ったんじゃないの?! なんで街?!



ダンゴムシの魔物の名前は「ローセル」です。

シュティローのセリフの中にしれっと出てきました。

オリバーはスルーしちゃっていますが、ケバルトはしっかり魔物の名前を覚えました。

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