vs.ダンゴムシ
目の前にいる10匹ほどのダンゴムシたちは完全に俺に狙いを定め、先を行ったコパンたちに見向きもしていないようだった。仲間によって跳ね上げられた3匹が俺に向かって飛んできたのでそう判断した。
属性鎧で全身を火で覆ったまま1匹、2匹を次々避け、3匹目をキャッチする。
……よし、このままさっきと同じように燃えカスにしてやる!
抱え込んだダンゴムシに火を流し込んでいるそのとき、両腕に鈍い衝撃が走った。
「がはっ!」
さっき避けた2匹が地面でバウンドし、両サイドから俺の両腕にぶつかってきたのだ。全く予想していなかった一撃に腕が耐えられず、抱えていたダンゴムシを放り出してしまった。
……くそ! バウンド攻撃すんのかよ! しかも火出してても攻撃してくるってどんだけ捨て身なんだ!
俺にぶつかってきた2匹には火が燃え移らなかったが、俺の腕から開放されたダンゴムシは背中が溶けて、歩きにくそうにしながらのそのそと右往左往していた。
「逃がすか! おりゃ!」
あと少しで絶命しそうなダンゴムシの背中目掛けて火の玉を放つと、何かが振ってくる風切音が聞こえた。ばっと空を見上げた視線の先にはダンゴムシの追加砲撃がすぐそこに。
「まじかよ!」
叫びつつも前に踏み込み間一髪で避ける。
火の玉を浴びせたダンゴムシが動かなくなったことをチラ見で確認し、俺の後方のダンゴムシ2匹にお見舞いしたのは火炎放射。さっきの仕返しだ。丸まってた体が徐々に開いていき、わらわらとした足が動かなくなるまで焼き切る。
顔を上げ次に飛んできたダンゴムシを目で捉える。
こいつは俺の腹に激突してきた。腹に力を込め離さずしっかり抱きとめ、俺は周囲を飛び交うダンゴムシの動きに注意しながら、暴れる黒い玉に熱を送り続けた。
「よし次!」
ぴくりとも動かなくなったことを確認したら地面に放り投げ、次々に俺目掛けて飛んでくるダンゴムシと対峙する。
……ずっと属性鎧を出しておくとやっぱり魔力消費が激しいな……ダメだ、温存しなきゃ魔力が持たないぞ!
俺は二の腕から指先までを火で纏い、飛んできたダンゴムシをがしっとキャッチ。
……他の突っ込んでくるやつらは避けるか耐えよう。これやると、火を纏ってない部分の身体強化がおろそかになるんだよな……
正直、火の玉を投げるのが一番魔力消費が少なくて楽なのに、ダンゴムシたちがそれをさせてくれない。ガンガン飛んでくるから俺の戦いやすい距離を取れないのだ。かと言って距離が離れすぎると今度は出した火の玉が消えてしまう。飛び込んでくるダンゴムシに火の玉を投げつけると、今度は捕まえる体勢が取れない。ゆえに、飛んできたやつを捕まえて燃やす方法が今のところ確実に仕留められる方法なのだ。
……あー、もっと風属性の扱いを練習しておけばよかった! 風属性なら火炎放射も遠慮なく出せる上に相手の攻撃威力も弱められるのに!
風属性はいわば空気を扱う属性だ。自分の周りの空気を操れば空気の盾ができると思う。風属性を上手に操ることができればこんな痛い思いをせずに済んだはずだ。最近ドライヤーでしか風属性を使っていなかったことを、後悔した。
……俺の苦手な間合いの敵だけど……エイミーの投げるスライムに比べたら、まだまだ遅い!
これまで飛んできたダンゴムシのスピードは、フェルカの鬼コーチ・エイミーの剛速球よりも遅い。これなら俺でも避けられそうだ。
突っ込んでくるダンゴムシをさらに数匹倒すも、道後方から群れに追いつくダンゴムシが増え、総数がなかなか減らない。
「はぁ……はぁ……全部で何匹いるんだ? まるで1匹いたら100匹以上いるあいつみたいじゃないか……」
大和時代に見た茶色のテカテカしたあの虫みたいだなと額の汗を拭いながら、数匹がかりで飛んでくるダンゴムシ避けては掴み、燃やしていく。避けきれずぶつかられることも何度かあったが、マントに覆われている部分だと摩擦の痛みがないのが唯一の救いだ。
10匹ほどの死骸が道に転がる。周囲を取り囲んだダンゴムシたちの猛攻が止まり、その隙に俺は呼吸を整える。お互い様子を見るように睨み合っていると、ダンゴムシたちが図ったように一斉に跳ね上がった。その数、5匹。今できる最大数の攻撃だろう。
……あれを避けきるのは無理だ!
俺は一気に魔力を吹き出し、全身を火で包む。飛び込んでくる5匹の衝撃を少しでも和らげるために、さらに火と風の属性を合わせて出し、頭を抱えて土下座するような体勢になる。
風属性で空気の層を作り俺への衝撃を減らして、火がより燃え盛るようにイメージしながら。
まだ扱いに慣れていない風属性は、魔力消費が多いが背に腹は代えられない。
ガガガガガ!!!
背中に物がぶつかる衝撃が走ったが、拍子抜けするくらいさきほどまで受けていた痛みはなかった。地面にどさどさと落ちる音が聞こえ、すぐさま周囲を見回すと燃え盛る青い火越しに、足を動かしながら腹を出すダンゴムシが見えた。ぶつかってきたやつら全匹、仰向け状態だ。
……よし、今のうちに倒すぞ!
俺は全身鎧を解除すると即座に立ち上がり、魔力を手のひらに込め始める。
飛びかかってこなかった5匹が次の攻撃のため移動している隙に、近くに散らばる仰向けの腹に向かって火炎放射を浴びせた。
仲間のもとに戻られ、再度攻撃に転じられると面倒なのでここで絶命させておきたい。
「はぁ……はぁっ……! 5匹一気に殲滅完了! 次!」
腹側は弱いようで、抱えて熱するよりも早く息絶えた。5匹とも動かなくなったことを確認し残りの5匹へ目を向けるが、俺は顔を歪めた。
俺の目に飛び込んできたのは、さっきより数の多いダンゴムシの群れ。膝に手をつき、息を切らしながら数を確認し、自分の残りの魔力量でギリギリ倒せるかどうか計算する。
……15匹くらいか? ……しかも大きいやつもいるぞ。あいつがこの群れのボスっぽいな。
他のダンゴムシは丸まっているが、群れのボスらしきダンゴムシは丸まらず最後方にいる。大きさは大型犬サイズのコパンくらいありそうだ。後方から転がってきているときに見た、丸まった姿は小さめのバランスボールのようだった。
その大きいダンゴムシの後ろを確認すると、追ってくるダンゴムシはいない。こいつらが最後の追加のようだ。
……頑張って足止めしないと、2人を先に行かせた意味がなくなる。
それにシュティローおじさんはこの道を通るはずだ。そのときこいつらが残っていたら、シュティローおじさんが獣人村に帰るのが遅れてしまう。もし少しでも到着が遅れて、俺たちの村が壊れていたらと思うと不安でたまらない。
……ケバルトとカーリンも不安そうだったな。
俺の脳内にはブロックドロフ村でのカーリンやケバルトの不安げな表情が浮かぶ。今まで漁師だけで倒していた海の主を、今年はシュティローおじさんの力を借りて倒さなきゃいけないのだ。今までを知っている2人の方が不安なのは当たり前だ。
こめかみに流れる汗を拭いながら俺はダンゴムシの群れを睨んだ。
……こいつらを倒しておけば、シュティローおじさんは体力を温存したまま村に帰れるんだ! 村のために頑張らないと!
俺が覚悟を決めると同時に一匹のダンゴムシがボスダンゴムシに猛突進していく。ボスダンゴムシは丸まると、その場でバッグスピンをかけ、突進してきたダンゴムシを俺の方に吹き飛ばしてきた。
……はやっ!! 間に合わない!
顔面と同じ高さに飛んでくるダンゴムシを、とっさにクロスした腕で弾く。今までよりも断然速いスピードに身体強化も属性鎧も間に合わなかった。どうやらスピンがかかっていたようで、マント越しでも腕が熱い上に骨に来る衝撃だ。
痛みを感じたのも束の間、すぐさま次のダンゴムシが飛んできた。
……さっきのダンゴムシたちよりも攻撃が重い!
属性鎧で再び二の腕から指先までを火でまとう。次の攻撃に備えていると、ダンゴムシは俺の腹めがけて飛んできた。
体勢を取るのが遅れ威力を殺しきれず吹き飛ばされ、強制的に後ずさる。
こみ上げてきた胃液を吐き出すと、地面にべちゃべちゃと落ちて広がった。
……ツァールトさんがくれた昼食、食べてなくて良かった。でも、腹に来たおかげでしっかりキャッチできたぞ。
口の中に広がる酸っぱさを飲み込みながらキャッチしたダンゴムシを燃やし、焦げた死体を地面に投げ捨てる。間髪入れず仲間に跳ね上げられたダンゴムシたちが一斉に襲いかかり、俺は避けながら捕まえるタイミングを窺う。
……あのボスダンゴムシに跳ね上げられたやつが一番速くて、他のやつらはエイミーの球より遅い。バウンドすると徐々に速度も威力も落ちるのね。なんとなくわかってきたぞ。
何度か攻撃を喰らい、ダンゴムシたちの攻撃の強弱に気付いた俺は、取りやすいところにきたバウンドダンゴムシを掴む。
2匹がいっぺんに俺の頭上に来たところで、手持ちのダンゴムシで跳ね返すと思いの外遠くに飛んでいった。そのまま帰ってこないでほしい。
その後も数が減ってるうちに威力の落ちたダンゴムシをキャッチしては跳ね返し、用済みになったら燃やす。
俺のそんな扱いに苛立ったのか、続々と勢いよく砲弾が飛んでくる。が、飛んでくる数が多すぎて、俺に到達する前に仲間同士でぶつかり弾けあった。
……いいぞいいぞ! 威力が弱まればこっちのもんだ!
ボスダンゴムシから弾け出すダンゴムシに気をつけながら、俺は着々とダンゴムシを燃やしていった。
……こいつらと戦い始めてから何分くらい経ったんだろ? そろそろコパンたちは街に着いたか? 俺もこいつらを早く倒さないと魔力が尽きそう……!
俺の目の前には残り5匹。向こうも疲れが溜まっているようだ。目に見えて転がるスピードが落ちていた。
ダンゴムシたちにも知性があるようで、俺が1つしかキャッチできないことを見抜かれたっぽい。今度は2匹連続でボスダンゴムシから弾き飛ばされ、俺まで一直線に向かってくる。頭と腹に1匹ずつの弾道が見えた。
どうやら2匹中1匹は是が非でも当てて、もう勝負を終わらせたいらしい。
俺は迷わず腹に来たダンゴムシをキャッチし、前に出る。頭の方に飛んできたダンゴムシには頭突きで応戦だ。確実に燃やせる方から処理していく。
頭のてっぺんから腰までビリビリと痛むが骨は折れていない。大丈夫。額から液体が滴り落ちる感覚があるけど、視界は良好。まだいける。
次のダンゴムシは俺にぶつかる直前でバウンドし、顎を狙ってきた。
間一髪右手を間に入れ込む。間に合ったと思った瞬間、さらに下から腹に一撃が入る。
「うぐぅっ!」
内臓が突き上げられる感覚を堪え、顎に攻撃してきたダンゴムシを震える両手で抑え込むと、どろどろになるまで燃やす。
残り3匹。
俺がフラフラになりながら立ち上がると、ボスダンゴムシを2匹がかりで跳ね上げているところだった。
スピードは遅いが、少しでかいだけでかなり威圧感がある。
……取れるか?! いや、やばい!
一瞬の逡巡後、正面に飛んできたボスダンゴムシをすんでのところで身をかわし、捩るような体勢になった。
俺の真後ろの地面に突撃したボスダンゴムシはドシンと重い音を響かせ、土埃を舞わせる。
……あれくらったら骨折れるんじゃない?
冷や汗をかきながら、早くボスダンゴムシを倒したい一心で、身を捩ったまま火炎放射を浴びせようと火を出すが、一足先にバウンドでかわされてしまった。
……魔力が無駄になった……! 焦ってタイミングがずれた!!
ボスダンゴムシの動向を目で追っていると、今度は背中に衝撃が走った。
「かはっ……」
……しまった。残り2匹も注意していなきゃいけなかったのに……!
ボスダンゴムシを送り出した2匹のうち、1匹が俺に向かって飛んできていたようだ。大きい方に気を取られ、残りの2匹を見てなかった。
……呼吸がしにくい……息が吸えない……
当たりどころが悪かった。
その場で膝から崩れ落ち、自分の意志通りに動いてくれない身体が力なくそのまま地面に突っ伏す。
……動け! 俺の身体! 息を吸うんだ! じゃないと次の攻撃が来るぞ!
「がはっ! はっ……はっ……すぅー……ふっ……ごほっ……」
うまく呼吸ができない俺の視界には地面と草むらが広がる。ダンゴムシがどこにいるか音で探ると、頭と足の方からゴロゴロと転がる音が近づいてくるのが聞こえる。
「カチカチッ カチカチッ」
転がる音から地面をわさわさと這う音に切り替わり、ペンチを握り込んだときに鳴るような音も聞こえ始めた。俺は恐怖に駆られながらかろうじて動く首を動かし、前方に視線を動かすとボスダンゴムシが顎をカチカチ鳴らしながら迫ってきていた。
口の左右から鎌のようなものが生えた顎を、まさにペンチのようにかみ合わせている。
車のサイドミラーのように生えているカタツムリの目のような触手は、ぬらぬらと動きながら俺という獲物をまじまじと見つめているように感じた。
俺の足元からも、こいつの口から出る音と同様のカチカチという音が聞こえてくる。
……こんなところで……食われてたまるか!!
俺の顔の前に触手が伸びた瞬間、最後の力を振り絞り属性鎧を発動させ、全身を青い火で包む。
「!」
ボスダンゴムシが驚いたように体を飛び上がらせる。
俺の青い火でボスダンゴムシの触手が一瞬で焦げつき、しなしなと力なく項垂れる。
このまま燃やしてやる!と意気込んでいるとボスダンゴムシが後ずさり、悶え始めた。のそのそと右往左往していて、パニック状態になってる気がする。
「カチッ カチカチッ」
ボスダンゴムシは顎を鳴らし、意思疎通をするかのように他の2匹も呼応して顎を鳴らし始める。
さっきまで俺の身体まで悠然と一直線に来ていたのに、今は無数の足を蠢かせて探るようにゆっくり近づいてきている。
……あの触手、もしかして目だったのか? ……わからないけどとりあえず立ち上がらなきゃ! このままじゃ遅かれ早かれ食われる!
必死で手足に力を入れてもまるで金縛りにあっているかのようにぴくりとも動かない。呼吸も上手くできないまま必死に身体強化を試すがさっきの属性鎧で使い切ってしまったようだ。
……俺の身体動けぇぇぇ!!!!
ボスダンゴムシの顎が目前に迫ったそのとき。後方から黒い影が突如、ボスダンゴムシに覆いかぶさった。
「ヴァウー! グルルルル!!!」
ダンゴムシが回転するときは、触手が横に出るので
持つところが激細の腹筋ローラーみたいな見た目になります。
腹筋ローラーの真ん中のところがバスケットボールに置き換わった感じの見た目です。
オリバーはダンゴムシに集中しすぎて、頭にぶつかってきたときに鼻血が出ていることに気づいていません。
【お知らせ】
今後の更新頻度について活動報告を更新しました。




