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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
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新しい生活(苦行)

 こちらの世界に来て、数日過ごし、たんこぶもまあまあ引いてきた。そして徐々に家族にも慣れてきた。

 だが、ここでの生活は、日本で生活していた俺からすると苦行だった。


 シュティローの家は、はっきり言って貧乏だ。服はお下がりが当たり前。なければご近所さんが使っていないボロボロの古着をもらい、穴が開いていたら修繕して使う。食べ物は森で取ってくるか、たまにディータが魚をもらってくるか。話を聞く限り物々交換で成り立っているようだった。

 ちなみに俺の上の服はエイミーのお下がりが一枚、もう一枚はご近所さんのお下がりだ。継ぎ接ぎされて着古された服を着ている。ズボンはご近所さんのお下がりが二枚で、尻尾を出す位置が微妙に合っていない。


 そして、風呂はオリバーの記憶通り数日に1回だった。しかもみんなで使い回す水風呂だ。最後の人はとても汚れた水を使う羽目になる。


 ちなみにこの水は井戸から汲んできている。

 水属性を持つカーリンが水を出すのか、と思ったので聞いてみたら「こんなに水出したら疲れちゃうからね」と少し睨まれた。


 地味にきつかったのが、世話を焼きたがるカーリンが一人で入らせてくれなかったことだ。オリバーが以前、すっ転んで盥の水をぶちまけて以来、見張りとしてカーリンが一緒に入ることになったようだ。だが俺に幼女趣味はないし、一人で入れる。いや、一人で入りたい。


……だって……彼女いない歴=年齢の俺には女の子の裸は刺激が強いんだよ!

 

 懇願しまくって、絶対に水をぶちまけないからと約束して一人で入らせてもらった。体はそれなりにさっぱりしたけど、水のみでは頭皮のベタつきが気になるところだ。


 風呂場?そんなものはない。物置に盥を置いて、水を浴びるのだ。ワイルドだろ?


 それとトイレの仕方は衝撃だった。今までとはまるで勝手が違ったのだ。

 なんと、スライムという魔物に排泄する。この世界には魔物というものが存在するらしい。

 水辺に生息し自我のない、中型犬サイズの水風船を楕円形にしたような水色の物体、それがスライム。


 俺が住んでいる村は、海がとても近い。歩いてしばらくすれば海が見える。水を好むスライムをそこで捕まえてくるのだ。そして、子供はスライムに直でするが、大人は壺の中にスライムを入れて排泄する。大人が座ると、スライムが潰れて弾けるらしい。


 トイレ用の個室があるはずもなく、もちろん物置だ。鍵なんてない。

 いつでも誰かが入ってくる可能性もあればその逆もあるのだ。ワイルドだろ?


「なんでスライムにするの?」と、聞いてみたら「スライムは肥料を作ってくれるでしょ?まさかまた、忘れちゃったの?」と言われたので笑ってごまかした。

 スライムはトイレ以外の用途もあって、ゴミをぶっかけて肥料を作らせるらしい。家のそばにある畑に水たまりを作っておいて、スライムをそこに入れておく。トイレをしたいときは物置に連れて行ってして、終わったら畑に戻す。すると、肥料を生み出してくれているのだ。

 ちなみに、大人用のトイレは、朝畑に壺をひっくり返して中身を出していた。一晩もすれば、肥料になっているらしい。


…スライム便利すぎっ!すごすぎだろ、スライム!


 だが、日本で暮らしていた俺にとって、鍵のかからない物置でするトイレや風呂は羞恥の念がたまらなかった。

 この数日の苦行で俺は精神的に強くなったと思う、まじで。



「オリバー、家にお母さんたちが帰ってきてるか見に行こっか?」


「ああ、うん、行く」


 オリバーと呼ばれるのにはもう慣れてきた。オリバーになって生活していかなければいけないのだから、さっさと慣れた方がいい。


 そして、カーリンから声をかけられた俺はこれからどこに行くかというと、オリバーの家だ。

 記憶によるとオリバーは自宅に両親が帰ってきているかを毎晩確認しに、シュティローおじさんの家と自宅とをカーリンと往復していたのだ。

 そんなことに付き合ってくれるカーリンは同い年なのにとても面倒見がいいと思った。オリバーは弟のように思われているのを嫌がっていたけど、俺はとてもいい子だと思う。


 今日は月明かりがいつもより明るくて辺りがよく見える。ライトなんかこの世界にはない。

 明かりと行ったらロウソクだ。でもロウソクは高価だから、いつも暗い道を月明かりを頼りに歩いているのだ。


 歩きながら俺はふと思った。


…両親、死んでると思うんだよなあ。


 こんなに長期間家に帰ってこない、ということはもう亡くなっているんだと思う。大和時代の父親が事故で亡くなったとき、妹はまだ4歳だった。

 そのとき、母親から口裏を合わせてくれと頼まれたのだ。長期出張に行ったことにして、もう少し理解できるようになってから死んだことを告げるから、と。

 なんとなく、そのときと同じような空気を感じた。両親に関して泣いている記憶が多いオリバーのことを、皆は多分気を遣っている。

 俺がわざと両親の話をしようとしたが、別の話題に変えられた。前に強制的に話を打ち切られた属性の話も、以前のオリバーが何か気まずい雰囲気にしたんじゃないかと予想している。そのときの記憶が浮かんでこないのでわからないけど。


 そうこう考えながら歩いていると、オリバーの家についた。シュティローの家もだが、玄関に鍵などついていない。この村は防犯意識が薄そうだ。

 ドアを開けると、真っ暗な室内を月明かりが照らし、生活用品が片付けられてひっそりとした室内が目前に広がる。


 カーリンは今日も気遣わしそうな態度で接してくれるが、正直俺はそんなに悲しくない。映画の中でオリバーの両親の顔は見たし、オリバーの記憶が混じって慕わしい感情も湧いてくるが、俺の両親ではない、と割り切っているからだ。

 だが、以前のオリバーを装うために一応悲しい表情をしておく。


「…今日も帰ってきてないみたいだね」


「そうだね」


「…もう、帰ろっか」


 こくりとうなずき、ドアを締めて来た道を帰る。

 そういえば、カーリンも孤児だ。カーリンは寂しい気持ちにならないのだろうか。


「カーリンは、お母さんやお父さんに会えなくて、寂しくないの?」


「そりゃ寂しいけど、私のお父さんとお母さんは、闇の霧からこの村を守るために亡くなったんだって」


…またわかんない単語が出てきたよ。闇の霧って何だ?


 話を遮ってしまうのも申し訳ないので、質問したい気持ちを堪えたまま、話の続きを聞く。


「お前の両親は英雄だよ、って村の人に言ってもらったし守ってもらったんだから、弱音を吐かずに生きよう!って思ってるんだ」


 カーリンはとても前向きで素晴らしい考え方の持ち主だった。妹だったら撫でてやりたいくらいに気持ちが強くて良い子だ。


「そうなんだね…教えてくれてありがとう、カーリン」


 えへへ、と笑う横顔とシュンと下を向いた耳と尻尾がどこか悲しそうだった。

 お姉さんぶっているけど、カーリンも寂しいのかもしれないな、と思いつつ、掛ける言葉が見つからないまま、そのまま俺たちはシュティローの家に帰っていった。


…闇の霧についての質問は今度にしよう。



「おお。おかえり、オリバー、カーリン」


 家に帰ったらシュティローが夕飯を食べていた。いつもはもう少し帰宅は遅くて俺が寝た後に帰ってくるか、そもそも帰ってこない人がいるので、なんだか珍しい人にあった気分だった。

 夜遅くまでお疲れさん、とねぎらいの意味も込めてにっこりしながら「シュティローおじさんもおかえり」と声を返す。


「今日も様子見に行ってたんだな。いつもありがとう、カーリン」


 シュティローはそう言うと、大きな手で俺とカーリンの頭をわしわしと撫でてくれた。この人はとても良くできた人で俺とカーリンに、実の娘であるエイミーと別け隔てなく接してくれているのだ。オリバーの記憶を、そう解釈した。

 普通どこかで対応に差が出そうなものだが、叱るべきところは叱り、良いことをしたときには褒める。

 たまに暑苦しいときがあるが、きっと子供好きなんだろう、と思いながら撫でられている。


「あ、そう言えばオリバー」


 ボサボサになった髪を直しながら「なに?」と返すと


「明日、休みの日だろ?オリバーの家を掃除した後、塩を取りにハイス山に行ってもいいか?」


…何の行事だそれ?あの家を掃除??


 俺は「ああ、塩ね。いいよ」と平静を装いながら返事をし、脳内では必死で記憶を探る。


 どうやらシュティローが休みの日はオリバーの家の掃除をすることになっているようだ。どんだけ付き合いの良い人なんだろうか。

 日本だったらすごく上司に可愛がられる存在だったに違いない。塩取りについても記憶を探るが、それはオリバーの記憶にはなかった。


…まあ、ただ塩を取りに行くだけだろ、多分。行けるっしょ!


 でもちょうどよかった。明日シュティローに俺の属性と、闇の霧について聞いてみよーっと!

 数日家の周りをウロウロしていただけだった俺は、山に行けると聞いて少しテンションが上がった。


「ん?そんなに嬉しいのか? あ、オリバーはハイス山に行くのははじめてだったもんな」


…あれ?そんなに表情に出してたかな?


 俺は自分の顔を真顔に戻そうとするが、元から真顔だった。強いて言うなら少し見開いた目を元のサイズに戻したくらい。でもそのくらいの表情で嬉しいと判断されるものなのかな?

「なんで俺が嬉しいってわかったの?」とシュティローに言いかけたとき、目線が俺の後ろを見ていることに気づいた。その視線を追うと、左右に振れていたのだ、俺の尻尾が。


…え?! これ勝手に感情出るの? 無意識だったぞ今!


 俺はガバっと自分の尻尾を握り動かないようにし、さっきのことを思い出した。そういえばカーリンの感情も尻尾に現れていて、それを見て悲しそうだと俺は受け取ったんだった。


「何も隠さなくてもいいじゃないか。楽しみなんだろ?」


 シュティローは笑顔で俺に言うが、俺の日本人らしいというか、感情を出すのが苦手というか、そういう部分が出てしまった。


「なんかちょっと恥ずかしくなって…」


「そうか? 俺は良いと思うけどなあ。それに大人になるにつれて、尻尾の感情コントロールもできるようになるから今はまだ子供らしくいてくれ」


 そう言われ、俺はホッとした。徐々にコントロールできるようになるならありがたい。


「うん、わかった。明日楽しみにしてるね」


 俺は心からの笑顔でそう答え、明日に備えて眠りについた。


シュティローはとても面倒見の良い、素晴らしいお父さんです。


設定をかき忘れていましたため追加しました。

大和は童貞です。

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