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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
34/62

初日終了

 

 カーリンとの話の後、俺たちは村を見て回り、鍛冶職人、酒職人が働く場所を見つけた。鍛冶職人が働く場所は広場の近くにあり、酒職人は農家の近くで働いていた。場所がわかったのでこれでカーリンもいつでも来れそうだ。


 初めてのよその村を楽しく回っていると突然カーリンが鼻をクンクンと動かし、「お昼だから戻ろう」と言い出した。なぜ昼とわかったのか、俺にはよくわからない。


「え? ご飯を作る匂いがしたから、もうそろそろかなって思ったんだよ」


 カーリンは平然とそう言うが、俺の鼻は何も感じ取らなかった。強いて言うなら、どこからか漂ってくる家畜の匂いがする。まだ俺たちがいるここは村の奥の方だから、この辺りに家畜を飼ってる家があったのかもしれない。獣人は耳だけじゃなく鼻も良いようだ。


「戻りました」


 俺が宿屋の扉を開けて、癖の強い髪をいじりながらカウンターに座っているツァールトに声をかける。


「おかえり。奥の部屋においで。一緒にご飯を食べよう」


「あの、コパンって入れても大丈夫ですか?」


 俺は宿屋の玄関でひょいっとコパンを見せると、ツァールトが「粗相をしなければいいよ」と許可を出してくれた。


「よかったなあ、コパン。おとなしくしてるんだぞ」


「ワンッ」


 ちょっと控えめに返事をしたコパンを抱きかかえたまま奥の部屋の入り口に踏み入ると、俺の家の居間と同じくらいの空間が広がっていた。家具類はもちろんボロいはずがなく、質素ではあるが一目で作りがしっかりしているのがわかった。

 丸いテーブルに背もたれのついた椅子が4脚あり、そのテーブルに、可愛らしい女性が料理をテキパキと運んでいてお肉の焼けたいい匂いが俺の空腹を刺激して、思わず唾を飲み込む。俺たちが部屋に入ってきたことにその女性が気づくと、ニコリと微笑みかけ、挨拶をしてくれた。


「はじめまして、ミルテよ。ツァールトの妻です。朝に挨拶ができなくてごめんねー」


 さっぱりした口調の女性で、ツァールトより年下に見える。オレンジ色の癖のないストレートなボブ、大きな瞳、ケバルトみたいに口を横に開いて笑う感じがまだ幼さを感じさせた。


 俺とカーリンも挨拶をすると、ツァールトが席を勧めてくれた。どうやら店番を他の従業員と交代したようだ。俺たちは大人用の椅子によじ登って席につき、コパンには椅子の下で待っててもらおう。


「オリバーくん、マントは取っても大丈夫だよ。シュティローから事情は聞いてる。ここは俺の執務室だから従業員が入ってくるときは必ずノックをするんだ」


……ノック音がしたらマントを被れってことだな。でもマントを取ってご飯が食べれるならありがたいや。


 俺がマントを取ると、二人は特に何も言わないでいてくれた。頭が涼しくてとても気持ちがいい。


 なにかテーブルマナーがあるのかと、ひとまず座って待っていると、ナイフを持ったミルテが大皿に乗った肉を切り分け、まずツァールトの皿に置き、その後に俺とカーリンの皿に肉が置いていく。サラダも同じ要領で取り分けられていった。

 スープを受け取ると、大皿の脇に塩が入った器と、黒い液体が入った器がことりと並べられた。


「さあ、召し上がれ。塩とソースは自由に使ってね」


……ソースなんてあるの?!


 俺はぎょっとして黒い液体を見る。


「ソースってなあに?」


 ソースを知らないカーリンが首を傾げながらミルテに質問すると、黒い液体を指しながらなるべくわかりやすく説明をしてくれた。


「この調味料のことよ。甘かったりしょっぱかったり酸っぱかったり……ま、色んな味がするのよ、これ。お肉に合うしかけてみる?」


「うん!」


 弾ける笑顔で返事をすると、ミルテはカーリンのお肉にとろりとソースをかける。


「とぉっても美味しいのよ。なんてったってこのソースもわたしが作ったんだから!」


 言葉だけじゃなくミルテの表情にも自信がにじみ出ている。とても期待感が高まり、俺もソースを使って食べてみたくなった。


「わぁ、本当だ! 色んな味がする! すっごく美味しい!」


「嬉しいわぁ〜。今日お肉焼いた甲斐があったわ」


 カーリンががっついて食べてる横で俺も器からソースをすくい、お肉にかけてはぐっとかぶりつく。


……んめえぇ〜〜。塩じゃない味がする!!


 俺が知ってるソースより野菜の酸味や甘味を感じたが、味は似ていた。この世界に来てから塩以外の調味料を初めて食した俺はじっくりと味わってお肉をいただく。


「すごく美味しいです、このソース! ミルテさん天才!」


 俺の叫びにツァールトが満足そうに頷いている。お嫁さんが褒められて嬉しそうだ。俺は肉を一切れ食べ終わり、次はサラダにも手を付ける。二人とも音をあまり立てて食べていないので俺も真似して、なるべくフォークと皿がぶつからないようにして瑞々しい野菜を口に運ぶ。カーリンは子供らしいというか、豪快というか、えーと、お肉に夢中になっていて音とか全然気にしていない。


……美味しい! サラダ、野草が入ってないんだな。


 俺の家では出ない野菜がたくさん入っていてとても美味しい。視線をちらっと上げツァールトの食べ方を見ると、ツァールトは俺が視線を上げる前にじーっと見ていたのか、視線がかち合った。とりあえず愛想笑いで「美味しいです」と言いながら、サラダとお肉を一緒に食べている様子を真似させてもらい、残ったお肉とサラダを合わせて食べ進めた。


 食事中、俺がツァールトに宿屋の仕事について聞くと、カーリンは食い入るようにその話を聞いていた。


「ツァールトさんは宿屋さんで、ミルテさんは料理人なんですか?」


「そうよ、宿屋の隣に大きい部屋があったでしょ? 日中はそこで料理を出してるのよ。夜は居酒屋になるけどね」


 俺が質問すると、ミルテはスープに塩をぱっぱと入れながら、でも俺の目をしっかり見つつ受け答えしてくれた。日中はミルテが店主として料理を出して、夜になったらツァールトの父が居酒屋の店主になるらしい。


 俺が最後に取っておいたスープは、野菜の味がよく出ている薄くて優しい味だった。どうやら塩を後入れするのは、この地域の伝統のようだ。野菜が美味しいだけにとても悔やまれる食べ方だなと思いながら塩を足してスープを飲み干した。

 食べ残した肉は下げられてしまい、コパンにはあげられなかった。


……これからは毎日干し肉とスルメを持ってきてあげた方が良いかもしれないな……今日はおやつに持ってきたスルメを後であげよう。


 俺がコパンへあげるスルメの量を考えていると、ミルテは食後の飲み物まで持ってきてくれた。

 食後にツァールトとミルテは紅茶を、俺たちはオーランの実を絞ったジュースをいただくと、カーリンが大歓喜。その嬉しそうな顔を見てミルテも嬉しそうな顔をしていた。


「こんなに喜んでもらえると作った甲斐があったわ〜。お店でも出せそうね、これ」


 俺とカーリンの反応を見て、お店に出せるか確認していたらしい。


「へぇー! こんな美味しい料理がお店に出るんだ……ミルテさんすごい!」


「そうだろう? ミルテの料理はすっごく美味しいんだ。それにこんなに可愛らしくてうちに来てくれたことが奇跡としか思えないくらい……」


「ツァールト、子どもたちの前でやめて」


 ぴしゃりとツァールトの惚気をシャットダウンしたミルテに、カーリンはキラキラした顔である申し出をする。


「あの、ミルテさん。どんなお仕事してるか、わたしに見せてくれない? 絶対に邪魔しないから!」


 ミルテはカーリンの顔を一瞬、真剣な目で見たような気がした。だが、すぐ明るい笑顔に戻ったミルテは速攻了承の返事をする。


「えぇ、いいわよ。カーリンちゃんは村の中を見たいんだっけ? カーリンちゃんが帰るまでは料理屋として開いてるから、いつでも見に来ていいわよ」


「本当に?! やったあ!」


「宿屋の仕事も見てくれていいんだぞ? 俺がかっこよく、かつ華麗に働く姿を見たくないか?」


「ん? うーん、ツァールトさんの働く姿はいいけど、宿屋の仕事は見てみたいかも」


「そうよねえ、こんな癖毛おじさんの働く姿なんて別に見なくていいわよ。ま、でも宿屋の仕事も見てみると面白いかもよ」


「うん! 見てみたい!」


……ミルテさん、カーリンが見習い先を探してるの、勘づいてるのかな?


 笑顔で話すカーリンとどこか探るような目つきのミルテの態度をチラチラ見ながら、俺は協力者になってもらえますようにとこっそり祈っておく。


 昼食後、俺とカーリン、コパンは日が暮れるまで村の探索をし、宿屋でイェンスと合流した。野菜などが詰んである荷車を引くイェンスの左右をコパンとカーリンが走り、俺は荷台の後ろを必死でついていく。


「イェンスさん、ちょっと待って……コパンに乗ります……」


……全員体力ありすぎだろ! なんで息も切れてないんだよ!


 荒い息遣いの俺を見たイェンスは涼しい顔で荷台を停め、俺はコパンに乗せてもらう。とてもふわふわで気持ちが良い。まだ息を合わせて乗れるレベルではないので、走り出したら振り落とされないようにしがみつくのに必死だった。


……まだまだ練習が必要だな。帰りにコパンに乗せてもらうなら、干し肉も昼に持ってった方が良さそう。


「はい、到着ー。今日は一日お疲れさん。明日も頑張ろうな、二人とも!」


 獣人村に着き、イェンスさんが村の入口に荷車を置きながら言う。


「野菜はここに置きっぱなしなの?」


「今朝魚や塩を置いてった人が後で取りに来るんだよ。だからこれで俺たちの仕事は終わりだよ」


 なんと、村人の善意に任せて置きっぱなしにしているらしい。誰かが多く持って帰るかもとか、考えないのだろうか。


「誰かが多く持って帰ったら、後日そいつは少なく取るから帳尻が合うんだ。それに狭い村だから、そんなズルを日常的にやってたらみんな気付くよ」


 とてもゆとりのある考え方で経済が回っていて、日本人思考の俺からしたら目からウロコだった。


……この世界、貨幣ってあるのかな? どこ行っても物々交換なのか? 俺が作った石けんも物々交換できるかな……


 そもそもまだ数が少ないから交換に出すに出せないか、と考え直してる俺に、コパンが「早く帰ろうよ」とでも言うように、家の方に向かって背中を押した。額でぐりぐりされ急かされる。


「イェンスさん、今日はありがとうございました! また明日ー!」


 俺はぐいぐい押されながらイェンスに礼を言うと、カーリンとともに帰宅した。

 コパンは俺のおやつのスルメだけじゃやっぱり腹ペコだったようで、家に帰ってからたくさんご飯を食べていた。俺の分もちょっとあげた。


……明日以降はもう少し早めに帰れるから、コパンのために干し肉作んなきゃなぁ。解体をカーリンに教えてもらわなきゃいけないや。その後晩ご飯の準備して、その後は……


 ついに解体を頑張らなければいけないのか、と気持ちが重くなったが初めて村の外に出た嬉しさと達成感と疲労感が勝り、すんなりと眠りについた。




ブロックドロフ村の子供達は畑の手伝いをしたり、家の手伝いをしていたりで、出会えませんでした。

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