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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
33/62

疑い

 看板らしきものがかかっている、木造の宿屋の入り口の近くには大人が立ち食いできそうな、質素な木製のテーブルが複数あった。料理の提供もしてるのかな、と横目で見つつ宿屋の中に入り、カーリンもあとに続く。コパンはとりあえず外と言われたので、イェンスの隣にお座りしていた。


「ツァールト、いるかー?」


 シュティローおじさんの呼びかけに「はいはーい」と返事をしたツァールトと呼ばれた人物は、カウンターの奥の扉から出てきた。シュティローおじさんより若い青年だ。小綺麗な身なりで動きやすそうな格好をしている。さっきの村長よりはシンプルな服装だ。


……寝癖なのかな? それとも髪の癖が強烈なの?


 その人の見た目で何よりも気になったのは、髪型だった。跳ねっ返りが強いのか寝癖のように見える金髪を手ぐしで直しながらカウンターから出てくる。手ぐしで太刀打ちできておらず、強烈にびょんびょん跳ねている髪の毛に思わず目線がいってしまう。小綺麗な身なりをしているため、余計に目立つ。


「お、きみがオリバーだね。で、こっちのカルツェ族の女の子がカーリンちゃんかな?」


 ツァールトはカーリンの頭をじぃーっと見つめた後、俺とカーリンの足元を興味深そうに交互に見ている。終始、検分するかのような目つきだ。


「ああ、そうだ。今日からよろしく頼む。二人とも、挨拶しなさい……それにしてもいつ見ても豪華な頭だな」


 俺とカーリンの挨拶が終わると、笑いながら冗談を言うシュティローおじさんに、ツァールトも笑いながら「水で濡らしたのにこれだからね」と答えていた。寝癖じゃないらしい。


「ミルテは? 一緒に挨拶しようと思ったんだが……」


 カウンター横の階段を見たり、俺たちから見て左の通路の先に広がるテーブルや椅子が並ぶ部屋を覗き込むシュティローおじさんに、ツァールトが返事をする。


「ミルテへの挨拶は後でいいかな?今仕込みが忙しいみたいなんだ。」


「俺は街に行かなきゃいけないから先にと思ってたんだが……仕方ないか。オリバー、カーリン。あとでツァールトの奥さんのミルテにも挨拶しておくんだぞ」


 どうやら俺たちは忙しい時間帯に来てしまったようだ。挨拶で作業を中断させるのも悪いし、あとで挨拶で全然いいので、了承の返事をしておく。


「今日から早速字を書く練習をするのかな? カーリンちゃんも字の練習をしたいの?」


「わたしは……」


 屈んで俺たちに質問をしてくれたツァールトに、なんて答えたらいいのか悩んでいる様子のカーリンの代わりに、俺が答える。


「俺、カーリンと村を見て回るから、今日は字の練習はいいです。カーリンは字の練習は、まだいいんだよね?」


「うん、字の練習は、いいです」


 カーリンの目的はこの村で色んな仕事を見ることだ。俺の字の練習よりも先にカーリンと村をぐるぐる回っておきたい。明日以降もカーリンが村を見て回るのが自然になるようにしておきたいのだ。


「そうかい。二人にとって初めてのよその村だもんね。じゃあ、ひとまずお昼まで村を歩いて見ておいで。お昼はここで一緒に食べよう。俺の奥さんのご飯、美味しいよ」


 にこっと笑いながらいきなり惚気けたツァールトはきっと愛妻家なのだろう。

 でも、昼ごはんがごちそうになれるとは思っていなかったから純粋にありがたい。


「うん。お昼に帰ってきます」


 昼までの予定が決まったところで、シュティローおじさんが俺たちに向かって話す。


「今日はイェンスがこの村で仕事をするために残るから、帰りは一緒に帰ってきなさい。今日の晩ご飯は、エイミーとディータが作るから急がなくて大丈夫だ」


 俺とカーリンはこくんとうなずき、またあとでこの宿屋に戻ってくることになった。外に出ると、イェンスとシュティローおじさんが申し送りをしている。隣りにいるカーリンはやっぱりちょっと伏し目がちだ。


「じゃあ、二人とも。俺は仕事に行ってくる。いい子にしてるんだぞ」


 シュティローおじさんは俺とカーリンの頭をポンポンと軽く叩くと、「何かあったらよろしく」とイェンスに言い残し、颯爽と村を出ていった。コパンもシュティローおじさんを見送ると、俺の近くまで駆け寄ってきた。

 イェンスは俺たちが辺りをキョロキョロしているのに気づいたのか、声をかけてくれた。


「俺、村の奥のオリンバ園に行くんだけど、途中まで一緒に行くかい?」


「カーリン、どうする?」


「うん、イェンスさんと一緒に行く」


「じゃあそうしよっか。俺たちも途中まで行くよ」


 イェンスとともに村の中を歩き回ると、俺の家とそう大差ない家が多く立ち並ぶゾーンに出た。


「この辺りは農民の家だね。今はみんな畑にいるころかな。今日この村に来るまでに麦畑があっただろ? あれがここの村の人達の畑だよ」


 イェンスの話を聞きながら、さっき言っていたオリンバ園というのが気になった。


「イェンスさんは今日、オリンバ園で働くの?」


 イェンスはキョトンとした顔をしたあと、「違うよ」と笑いながら説明してくれた。


「今日はオリンバ園の護衛だよ。もう夏の終りで、魔力の加護が切れる頃なんだ。オリンバ園が一番村から遠いところにあって魔物が出やすいから、そこを重点的に護衛するんだ。魔物が人に悪さをする前に退治するのさ」


「……魔力の加護ってなに?」


……夏の終りだと切れるもの? 初めて聞くんだけど。


「あ、そうか。俺らの村だと海と浜に撒くもんね。魔力の加護っていうのは……」


 イェンスの説明によると、春には豊穣祭、秋には収穫祭という儀式をやるらしく、そのときに貴族の魔力がこもったありがたい水を畑に撒くらしい。この水が魔力の加護というもので、これを畑に撒くことで魔物が寄り付きにくくなって農民は安心して仕事に専念できるようだ。カーリンも興味深そうに聞いていたので、初めて知ったのかもしれない。

 まるで虫除けスプレーだな、という感想を抱いていると一つ気になることが浮かんだ。


「俺らの村だと海に撒くんでしょ? たくさん魔物がいると思うんだけど……」


 ニクラスはでかいアワフキ貝の魔物に襲われたし、ケバルトはイカの魔物のクラクポーテを捕まえてきた。虫除けスプレー……じゃなくて魔力の加護が効くのは特定の魔物だけなんだろうか。


「海は広いし、拡散されるから魔物除けの効果が薄まってるんだと思うよ。浜にはあんまり魔物が出ないだろ?」


 なるほど。アワフキ貝が出たのは波が引いてて魔力の加護の効果がもう薄れている部分だからだったのか。確かに言われてみると森には魔物が出るけど、浜ではあまり見かけない。


「そんなすごい水があるんだ……俺たちも魔力を持ってるんだから、その魔力の加護を作れないの?」


「貴族から与えられるものだから、無理だろうな」


……貴族ってそんな力も持ってるんだ。すげえな。


「お、結局ここまで来ちゃったね。ここがオリンバ園だよ」


 そうこう話しているうちに、大きな木がお行儀よく並んでいる場所が目の前に広がり、草刈りやオリンバの実を摘む仕草をする人の姿がちらほらと見える。


「じゃ、俺仕事するから。帰りに宿屋に寄るね」


 そういうと、背中に携えていた槍を取り出し、ガキンと音を立てながら(つか)を1本にした。今までイェンスの背中を見ていなかったが、どうやら折りたたみ式の槍だったらしい。


「はい! いってらっしゃーい。よし、村を見て回ろうよ、カーリン」


「……うん」


……やっぱり疲れてるのか?


「今日は朝から初めて会う人ばっかりで緊張したよね。どこかで休む?」


「んーん、村の中を歩くよ。わたしも早く慣れたいし」


……なんかカーリンの反応悪くない? どうしたんだろう?


「どうしたの? なんかあった?」


「……んー」


 物々交換をするときや挨拶のときはちゃんと顔を上げていたのに今は下ばかり向いている。これでは村の中を歩いても何も記憶に残らないのではないだろうか。


 カーリンと向き合い少しばかり無言の時間が続くと、いざ顔を上げたカーリンは困り顔で俺にこう問いかけた。


「……オリバーはどこで話し方を学んだの?」


「え……?」


「村長に挨拶するときも、宿屋の人に挨拶するときも、なんで話し方を変えられたの? なんでオリバーは大人との話し方がわかるの? わたし、いつも一緒にいたのに……今日全然喋れなかった」


 俺の心臓がバクバクし始めた。常にカーリンと一緒にいるのになぜ俺が、カーリンが話せない敬語を話せるのか知りたいんだろう。


「それに、魚と野菜を交換するときも全然間違わないで渡せてたし……数もすぐ数えられてた。どうして?」


 胸の前でぎゅっと指を絡め、不安そうな顔をしている。カーリンは野菜を8つ渡されたときは、野菜2つと魚1匹を交換するのを4回繰り返していたが、俺は一気に魚を4つ渡していた。そういうところも違和感があったらしい。全く意識していなかった。


……やっちまった。


 カーリンに俺が異世界での記憶を持っているとばれてしまったらどうなるんだろうかと、考える。

 もし俺が打ち明け、俺に異世界の記憶があると知ったカーリンが今後どういう態度を取るのか、正直わからない。打ち明け話を一人抱えきれずに家族に報告するかもしれないし、優しい性格の子だからもしかするとこの世界に疎い俺をサポートしてくれるかもしれない。


 だがもし家族に報告されたら、俺の扱いがどうなるか全く読めない。混血児はこの世界に溶け込みにくいようだし、追い出されでもしたら俺は多分野垂れ死ぬ。コパンと家を出られたとしても野生で行きていける気がしない。追い出されなくても混血児でかつ異世界での記憶持ちとなれば、気味悪がられるかもしれない。


……やっぱりバレるのは怖い。


 カーリンの優しい性格を加味しても今バレるのはリスクがでかいと判断した俺は自分の保身のために、なるべく平静を保って、困り顔のカーリンに向き直る。


「俺も今日、全然喋れてないよ。大人と話すときの話し方はシュティローおじさんの真似をしたんだ。前にシュティローおじさんが使ってた言葉遣いをマネしただけ。イェンスさんには使えてないときもあっただろ? あと数の数え方は、ケバルトと矢を作ったときに教えてもらったんだ」


 シュティローおじさんの話し方を真似したのは嘘だ。あの獣人村で、敬語なんて使っているのを聞いたことがない。みんな年に関係なくタメ口で喋っている。だけど、ケバルトと弓矢の矢を作ったときに数え方を教わったのは本当だ。

 これでなんとか納得してもらえないだろうか。


 俺は緊張のあまり空気を飲んで喉がゴクリと鳴り、指の先端が冷たくしびれているように感じた。

 自分の緊張を隠すために「どうしたの?」という顔で俺とカーリンを見上げているコパンを抱き上げる。


「そうなの? わたし、置いてけぼりになったかと思って……ちゃんとお手伝いできるか不安になって……変なこと言ってごめんね」


 カーリンはふはぁと息を吐き、安心したような顔で俺を見た。

 どうやら俺の対応と自分の対応を比べて、不安を感じてしまっていたらしい。

 俺もカーリンに気付かれないように、コパンに隠れて「ふぅ」と息を吐く。


「そんなことないって。いつも通りの笑顔でしっかりおじさんたちと喋って交換できてたよ」


「本当に? はぁー……人間と話すの初めてだったからすっごい緊張したぁ。わたしもシュティローおじさんの喋り方、ちゃんと聞いてればよかった!」


 ギクッとした俺は話題をそらすために、カーリンに見習い仕事の話を振る。


「話し方はそのうち身につくさ。それより、あとでツァールトさんにも仕事のこと聞いてみようよ。ツァールトさんの奥さんってどんな仕事してるんだろうね」


 俺は嘘をついてしまった罪悪感から、宿屋に向かうまでカーリンを直視できなかった。



オリンバ園の護衛と言っていますが、全体的に村の護衛をしています。

村に入ってくるとしたらオリンバ園側からが多いので、そっちに立って警備しています。

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