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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
29/62

スルメが食べたい

石けん完成〜ブロックドロフ村に行く前の話です。

マントを作っている間の話出来事です。


 

……スルメが食べたい……!


 この間料理を作ったとき、唐突にスルメを思い出した。脳内でぐるぐる同じ曲がループするかのように、最近スルメのことを毎日考えている。

 イカが取れないかなあと思った数日後、森でケバルトから耳寄りな情報をゲットした。


 話の内容はケバルトがクラクポーテという魔物を鳥と間違って取ってしまい、鳥肉にありつけずいつも通りの晩ご飯だったいうもの。で、そのクラクポーテというのがイカの魔物らしい。ヌルヌル動く足が九本生えている時点で俺が知っているイカではないのだが、なんと魔物になると空を飛ぶらしい。びっくり進化である。

 ケバルトは、クラクポーテなんて気持ち悪くて食べられないと言っていたけど、俺からしたらもったいない。「料理できるかもしれないから、次に取れたらもらう」と約束をし、その代わり調理法がわかったら教えることになった。


 クラクポーテを貰う約束をしてから数日後。

 俺とカーリンが森から帰ってきたら、ニクラスとライナーが一匹のクラクポーテを持ってきてくれた。貝殻の粉末もおまけでくれた。

 カーリン目掛けてクラクポーテを渡しているが、それがほしいのは俺だ。引き気味のカーリンの前にずずいっと出て、盥に入った中型犬コパンくらいの大きさのクラクポーテを受け取る。


「ありがとう。ニクラス、ライナー」


「あれ? なんか今日いつもより綺麗じゃないか? 髪なんか特に……」


「えへへ。わかる?」


 二人の視線はお礼を言った俺じゃなくて、カーリンに注がれていた。カーリンが髪をさらさらーっと手で弾くとふわっとオーランの実の香りがする。ライナーはクンクン匂いを嗅いで、驚いたような声を出した。ニクラスも食い入るようにカーリンを見つめている。


「オーランの実みたいな匂いがする! すげえ!」


……そうでしょう、そうでしょう! ナイスリアクションだよ君たち! ……いやニクラス、見つけ過ぎだから。目が怖いよ。


「オリバーと一緒に髪をサラサラにする液を作ったの! 使ってみる?」


 絶対ほしいだろ! という俺の予想に反してニクラスとライナーは苦笑いしながら首を横に振った。


「いやあ、俺たちは別にオーランの実の匂いがしなくてもいいから……なあ?」


「ああ、ライナーの言う通りだ。髪をさらさらにするよりも、腹いっぱい飯が食いてえや」


 なんとシャンプーはいらないと言われてしまった。しかもそれよりも食べ物だと言われた。残念である。


……まあそれもそうか。男三人だったらうちよりも食べ物争奪戦になってそうだもんな。


 ニクラスたちの家庭は、タギノさん、奥さんのギルダさん、引き取った孤児たち信号機チーム三人の計五人だ。我が家と人数は一緒だけど、男ばかりの家庭だからきっと食べる量はうちより多いだろう。


「今日も美味しい料理作るのか? 何か手伝うか?」


 俺が以前二人の前で料理を作ってから、手伝いを申し出てくるようになった二人は、ソワソワしながら俺の言葉を待っている。


「……このクラクポーテの捌き方って、わかる?」


「「……わかんない」」


 カーリンも首を横に振ってるし、やっぱりだめか。


……うずうずとしている二人には悪いけど、失敗すると気まずいから今日はお引取り願おう。


「ごめん、今日はこいつの料理の仕方を考えるから」


……イカは捌いたことがあるけど、クラクポーテは初めてだからね。


 残念そうに肩を落とす二人を見送り、俺はクラクポーテと対峙(たいじ)する。折りたたまれた耳を広げると、大きい鳥くらいの大きさになりそうだ。


……イカに似てるけど、耳がなげえ! これで飛んでるのか!


 確かに遠くから見たら鳥と見間違えるかもしれない。ケバルトが見間違えて撃ち落としたのがなんとなくわかった。

 そして魔石は見えないけど、このイカは魔物らしい。アワフキ貝のような毒は持っていないと言っていた。イカでいう胴部にケバルトが射止めたであろう真新しい傷があった。

 見た目はイカに似ていて白く、触腕二本とゲソ七本、そして耳が鳥の翼のように長く発達していた。胴体と同じくらいの長さがある。

 もう死んでいるのか動いておらず、俺が耳をパタパタさせてもびくともしない。


……日本で見てたイカに似てるし、いけんじゃね? 捌いてみよう、そうしよう。


「よく触れるね、オリバー。そんなに足がいっぱいついてるやつ、気持ち悪くないの?」


「気持ち悪くないよ。この足も美味しくなるからね。なんでカーリンはそんなに嫌ってるの?」


「ぬめぬめするし、見た目が無理! あと目が怖い! ……やめて! こっちに目向けないで!」


 俺がクラクポーテの顔の位置をずらしてイタズラすると、カーリンは小型犬サイズのコパンを盾に後ずさりした。


「ごめんごめん、もうそっち見てないからさ」


 俺はクラクポーテの胴体、頭部、ゲソの部分に切り分ける。

 魔物の解体は苦手だが、こいつはイカだ。大和時代にも魚介類は捌いていたから何のためらいもなく切っていける。

 その様子を見て「うひぃ」と怯えながら、コパンを抱き上げたままのカーリンは部屋の隅っこの方で固まっていた。


……魔物とか動物の解体はできるのにイカは無理なんだ。


 と不思議に思いつつ、クラクポーテの墨袋を切り離し、目玉を取り出そうと眉間に包丁を入れたら、頭部だったものが緑色の魔石になってしまった。俺の小指の爪くらいの大きさだ。


「あれ? 首を落としたら魔石になるんだよな? 目玉を取ろうとしたんだけど……」


……そーいやイカの首もどこだか知らないや。こいつは眉間が首だったのかな? ま、ゲソと胴体が残ってるなら良いだろう!


 俺はこのとき、スルメを食べたくて仕方なくなっていた。だから、たいして食えないところが魔石になっても別にいいやと、難しいことを考えるのは放棄した。

 それよりも噛みしめれば旨味を楽しめ、炙ればさらに香ばしいあの素晴らしき食べ物を味わいたい。


……腹も膨れるし、出来上がったらケバルトに料理法を教えるって言ったけど、これは結構喜ばれるんじゃないか?


 胴部を切り開いて皮を剥がし、塩をぶっかけゲソの処理をする。胴部は肉厚でステーキにもできそうだ。

 カーリンがおずおずと「なにか手伝うことある?」と声をかけてくれたが、目はクラクポーテを見ていない。俺は苦笑いしながら、細くて固い枝を拾ってきてほしいとお願いすると、カーリンはコパンとともに勢いよく外に出ていった。


「よし、あとは水洗いして塩水につけるだけー」


 塩水がどのくらいの塩梅がいいかは、正直良く覚えていない。おばあちゃんちで作ったスルメを思い出しながら現在鋭意製作中だ。石けん作りと同じく失敗覚悟で、作ってみよう。


 俺がクラクポーテを塩水に漬け込んでいると、カーリンが帰ってきた。


「おかえりー。漬け込みが終わったら、枝を刺して干すから先端を削ってくれる?」


 一緒に枝を削り、クラクポーテの胴部に横に向かってぶっ刺していき、ゲソは触腕を枝に絡みつけた。耳は大きすぎて枝の長さが足りなかったので、急遽耳を切り落とし、個別に干すことにした。


「これ、外に干したいんだけど、玄関に干したら怒られるかな?」


「絶対ダメ! ディータおばさんが良いって言ってもわたしが許さない!」


「そう……じゃあ、オリバーの家の方に干してくる」


 石けん作りで俺と一緒にオリバーの家に出入りしているカーリンはすごく嫌そうな顔をしているが、他に干せる場所が思いつかない。


「他に干すとこないじゃん。それにこれ、美味しい食べ物になるから! 大丈夫! でも、外に干してたら誰かに盗られないかな?」


「そんな気持ち悪いの誰も取らないよ!!」



 オリバーの家の前に天日干しを開始してから、五日が経った頃。五日間雨が全く降らず、ずっといい天気だったので今日あたりには食べられるんじゃないかと期待している。


 獣人の耳付きマントも完成し、石けん作りをするためにオリバーの家に入り窓を開けると、室内にイカ臭さが漂った。

 あんなに大きかったスルメが縮み上がり、今となってはうちに来たときより小さい。胴部と耳は小型犬コパンサイズ、ゲソは俺の腕の手首から肘くらいまでの長さになっていた。


「……オリバー、やっぱりそれ腐ってない?」


「腐ってないってば。もうそろそろ食べられると思う!」


 この家に嫌そうに入るたびに「腐ってない?」と聞いてくるカーリンに俺は唇を尖らせ、俺はスルメの乾燥具合を確認する。


 ゲソを一本ちぎり、ぱくりと食べるとカーリンが信じられないものを見たという顔で俺を見る。コパンは逆に嬉しそうな顔で見上げている。コパンはこのイカ臭いのが平気なんだろうか。


「ちょ、オリバー! それそのまま食べるの?! 口からにょろにょろが出てる……!」


 恐怖のあまり口元を手で押さえるカーリンに見守られる中、ひたすら噛みまくる。なかなか固くて弾力があるが、日々固いパンを食べる鍛錬で強くなった俺の顎は、何度もスルメを噛みしめた。


……おお! ちゃんとスルメだ! ちょっと薄味だけど何回も噛めば美味しい!! あぁ〜、この味だよこの味! 日本にいたときと同じ味だー!


「美味しいよこれ! カーリンも食べてみなよ!」


「ほ、本当に?」


 猫耳は美味しいという言葉にピクリと反応したが、警戒するように俺とスルメを何度も見比べる。

 ゲソの見た目が苦手ならと、俺は胴部の一部を割いてカーリンに見せる。


「だめだったらコパンにあげるから。ほら、口開けて」


 口を開けるまでだいぶ時間がかかったが、これから毒を飲むかのような形相(ぎょうそう)で開けた口にスルメを入れてあげ、「何回も噛んでみて」とスルメの楽しみ方を教える。

 コパンは尻尾を振りながら俺を見上げていた。貝も魚も食べられたのだ。スルメもいけるだろう。

 コパンにもゲソを一つちぎってあげたら大喜びで食らいついた。すぐさまテーブルの下に潜り、スルメを手で押さえながら静かに堪能している。


 よく噛んで旨味が出てきたのか、ちょっとずつ強張りが取れていくカーリンの顔は次第に輝き始めた。表情筋が豊かだと思う。


「あれ? なんか噛むと味が出てくる……あと口に入れちゃえば臭くない……」


「だろー? 噛めば噛むほど美味しいんだよ。これスルメって言うんだ!」


「歯応えもあって楽しい! あんな気持ち悪いやつが、こんなに美味しくなるんだ……!」


「すごいだろー? 炙るとさらに美味しいんだよ」


「さらに、美味しい……」


 俺とカーリンは数瞬見つめ合い、うなずき合うと即座に火の準備に取り掛かった。俺が火をつけ、炙るためにイカを割いていると、玄関からカーリンじゃない声がする。


「おーい。カーリン、オリバー、いるかー?」


 ひょこっと顔を出したのは、信号機チームだった。今日はケバルトもいるのが珍しい。みんな鼻をクンクンさせて眉間にシワを寄せる。


「魚と貝殻の粉末持ってきたんだけど、シュティローさんの家に行ったらいなかったからよ。こっちかなーと思ってきたんだけど……なんか臭いな、この家……」


「お、ケバルト! クラクポーテを調理したから食べてみて!」


「本当か?! ……え? もしかしてこの匂い?」


 スルメを見た三人はさっきのカーリンのような嫌そうな表情だったけど、炙ったスルメを食べさせると目を輝かせて声を揃える。


「「「うまい!!」」」


「これ、保存もできるから捕まえて干すまでやっちゃえば、いつでも食べられるよ」


「すげえじゃねえか! あ、これってイカでも同じか?」


「クラクポーテと体の作りが同じならできるよ」


「そうなのか! これで食べられるものが増えるぞ! よっしゃー!!」


 大喜びのケバルトによると、どうやら魔物ではない魚は領地に納める税になるらしい。魔物じゃない魚が家に来るのは少なく、魚ではないイカやクラクポーテならいくらでも取って食べられるから、調理法が見つかって最高にハッピー! ということのようだ。

 この話を聞いた俺は顔が引きつってしまった。


「もしかして今までもらっていた魚って、ケバルトたちの晩ご飯だったんじゃない?」


「俺たちは魔物の魚を捌いて食べてるんだ。捌くのが大変だと思って、普通の魚を持ってきてただけだから気にすんな。魔物の魚は大きくて食べるところが多いから、俺たちはそっちの方がいいんだよ」


 それを聞いて俺は胸を胸を撫で下ろす。

 確かに首を落としたら魔石になる魚は捌きづらいと思う。ケバルトたちは普通の捌き方じゃない方法で解体してるのだろうか。ちょっと気になる。


「それにしてもあんな気持ち悪いやつ、よく捌けたな。さすがオリバーだ」


「すげえよオリバー。俺いくらでも食えるわ、これ」


 ニクラスがスルメを咥えながら手に取ったスルメを見て、俺はビックリした。手にしたスルメは、もう半分以上胴部がなくなっていたのだ。

 信号機チームは遠慮という概念を持っているのだろうか。いや、魔物じゃなくて普通の魚を持ってきてくれているのだから概念は持っているはずだ。なのに、俺が作ったイカがもう半分以上食われている。きっとこんなの日常茶飯事なのだろう。これでは食卓はきっと苛烈な争いになっているに違いない。だけど……だけど……


……食べすぎぃ!!!!


「おい! すげえ食べてるじゃんか! 作り方教えるから自分たちで作れよ!」


 俺がぷんすか怒ると、信号機チームは顔を見合わせ「お前が捌き方覚えろよ」と言い合っている。よっぽどクラクポーテを捌くのが嫌らしい。三者睨み合っていると、可愛らしい声がこの空気をぶち破る。


「結構簡単そうに捌いてたよね。テキパキ捌いてるオリバーかっこよかったよ! クラクポーテもイカも捌けたらすごいなあ」


 カーリンのこの無邪気な発言がニクラスとライナーの嫉妬心を刺激したようで、ニクラスがシュバッと手を挙げた。


「俺がやるよ!」


「いや、俺がやる!」


 そんな二人を見て、兄貴分のケバルトは黙っていられなかったのだろう。


「いーや、オリバーにお願いしたのは俺だ! 俺がやる!」


「「どうぞどうぞ!」」


……お前らやらないんかーい!!


 日本を代表する素晴らしき芸人トリオの伝統芸が自然発生する瞬間を目の当たりにした俺は、思わず吹き出してしまった。「お前らなんで手挙げたんだよ!」と理不尽に殴られている二人を見てさらに笑った。

 その後は震えるケバルトにクラクポーテの捌き方とスルメの作り方をレクチャーし、食べすぎ注意の旨も伝えておいた。


 後日、クラクポーテのスルメをタギノさんも気に入って食べるようになったとケバルトが嬉しそうに報告してくれ、うちには二回に一回はクラクポーテが届くようになった。

 そして冬の間に食べられる保存食としてのちに大量に作られるようになることを、俺はこのときは知らなかった。


魚はこの村が納める税になっています。

なかなか浜に行かないオリバーの知らない世界です。

塩も領地に納めるもので、納める分以外から塩作り職人たちで分け合っています。

シュティローとオリバーが以前塩を取りにハイス山に行きましたが、あれは小屋でまだ塩が出来上がってなかったから。



それと実際のワンコには魚介類をあげてはいけません。体調を壊します。

コパンは魔物なのでスルメも食べられます。

絶対にあげないでね!

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