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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
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閑話 俺の料理

石けん作り中の料理の話です。


 

 石けん作りをしている間、ニクラスとライナーが頻繁に魚や貝を持ってきた。コパンはこの二人の足音が聞こえると吠えまくるので、すぐわかる。

 貝殻の粉末ももらうのだが、二人ともカーリンしか見ていない。貝殻の粉末は完全におまけだ。


 カーリンは相変わらず可愛らしい笑顔を振りまき、喜んで食べ物を受け取っている。小型犬サイズのコパンは「なになに?! 何もらったの?!」という顔でカーリンの回りをぴょんぴょん飛び跳ねていた。


「わあ〜、大きいボニート! 二人ともいつもありがとう! ……でも、こんな大きい魚捌いたことないから緊張しちゃう。今日わたしとオリバーが晩ご飯当番なのに大丈夫かな……」


 眩しい笑顔でお礼を言われ、デレデレしている二人はカーリンのちょっと強張った顔を見逃さなかった。

 二人とも「俺が捌いてやるよ!」と声を揃えて言う。譲らねえぞと顔を見合わせると、俺の方がこんな風に綺麗に捌いてみせると自己アピールを始めた。どっちが捌くのでもいいからとりあえず玄関を閉めてほしい。砂埃が入ってくる。

 ちなみに、ボニートはカツオのような味がする魚だ。結構大きい。ニクラスの身長の半分まではいかない大きさだけど、ライナーが両手で抱えていた。


 二人に一気に喋られ困ったような表情のカーリンはちらっと俺を見たので、俺が二人にこう言う。


「ニクラスはまだ腕が治ってないから、カーリンが捌くのを手伝ってあげてくれない? ライナーは俺と焼くのを手伝って」


 ライナーはあからさまにがっかりし、ニクラスはわかりやすく喜んでいた。


……すいませんね、俺で!


 大きい魚なので外で切ることにした。カーリンがニクラスにどこから切るか教えてもらいながら捌いた切り身に、俺とライナーは細い枝をぶっ刺している。コパンは大人しく俺のそばで伏せていた。


「せっかく新鮮なんだから刺し身で食えばいいんじゃないか?」


「俺、生魚が苦手なんだ。だから今日は炙る!」


 大和時代から刺し身などの生魚が苦手で、この家で刺し身が出るときも俺は自分の分の刺し身だけ焼いてもらっていたのだ。だが今日は俺が晩ご飯当番。俺の好きなように作らせてもらおう。


 とは言っても、この家にある調味料は塩と森で取ってきたハーブ類だ。

 醤油、味噌、胡椒、みりんなんかもない。

 俺が持つ料理に関する知識は和食が多い。もちろん日本の幅広い料理文化のメジャーなものも作れるけど、頑張ってこの家にあるものを使っても、ほとんどそれらは再現できないと思う。


……あ。でもカツオのたたきなら塩で食べれるかも? いつも刺し身も塩で食べてるから行けるっしょ!


 みんなの分はカツオのたたきならぬボニートのたたきにして、俺の分は焼いてソテーにしようと思う。

 カツオのたたきは大和時代の母さんが好きだったので、作っていたのを手伝ったことがある。どうしても生感(なまかん)があって俺は好きにはなれなかったが、作れないことはない。

 あとは畑で取れたライチェという、トマトの味に近い野菜を使ってスープを作る予定だ。


……今日の晩ごはんは美味しいぞ!


 俺はニンマリしながら枝を刺し終わった切り身に塩をまぶしていると、ライナーは目を丸くした。


「えぇ?! 今塩を使うのか? 食べる前に使わなきゃもったいないじゃないか!」


 ここでの調理法は、スープでも肉でもなんでも食べる直前に塩を使うスタイルだ。

 出来上がった料理に自分好みの量の塩をぶっこむここの食べ方では、塩の味と食材の味が分離してしまってもったいない。ただ塩辛いだけで、おいしさ半減だ。


「これはこれでいいんだ」


「せっかくいい魚なのに……」


「大丈夫大丈夫! ほら、この枝持って! 今から炙るからちゃんと持ってろよ!」


 俺はライナーにボニートの切り身を持たせると、手からバーナーをイメージし細長い強火を出しじっくり炙っていく。


「わわ!」


 あまりの強火にびっくりしたようだが、しっかり枝は持ってたライナーは鼻をクンクンさせてゴクリと喉を言わせた。


「うまそうな……すげえ香ばしくて良い匂い!」


 俺はバーナーから目が離せないが、魚を切っていた二人もこちらを見ている気がする。あと足元からもめっちゃ視線を感じる。

 どうやら最も熱い視線を送っていたのはコパンだったようだ。ちらっと足元を見ると、尻尾を振り唾を飲み込み、炙られているボニートの切り身を食い入るように見つめている。


……貝も食べられたことだし、あとで切り分けてあげよう。


 表面が全体的に白くなったのを確認すると、ひっくり返してもらい皮面を炙っていく。

 バチバチと脂が弾ける音が心地良い。皮がしゅんと縮み、焦げがつくまで焼いた。


「よーし、こんなもんかな! 冷たい水があればいいんだけど……」


 氷水などで冷やさないと切り身を切ってる最中に、炙った部分がボロボロに崩れてしまう。


「な、なあ! 俺が水を出すからそれちょっとくれよ!」


「おい、ライナー! ずるいぞ! 俺だって食いてえ!」


……ただの水でもいいか。きれいな身じゃなくても大丈夫だろう、みんな。


 特に今すぐにでも食べたいと顔に出ている二人は見た目などどうでも良さそうだ。


「わかった。じゃあ桶持ってくるから、それに二人とも水を入れてくれよ。あとニクラス、魚を切り終わったらまな板を綺麗にしておいてくれ。その上でこれを切るから」


「おうよ! 任せろ!」


「あ、カーリン。この間取ったリモーネの実ってまだあったっけ?」


 リモーネの実とはレモンに似た味がする実だ。母さんがレモン汁をかけてよく食べていた気がする。


「うん、あるよ! 持ってくるね」


 桶に水を入れてもらい、俺は炙ったカツオを洗い、粗熱が取れたら水から出す。

 張り切っているニクラスは手早くまな板と包丁を洗い終わると、カーリンが先にリモーネの実を切っていた。

 俺はカーリンから包丁を借り、カツオのたたきを切っていく。コパンの鼻息がかなり近い。


「はい、完成! 【カツオ】……じゃなかった。ボニートのたたき!」


 塩をパラパラとかけ、カーリンが切ってくれたリモーネをキュッと絞った一切れを三人に差し出す。ずっと俺の手元を見ていたコパンにはただの切り身を一切れ食べさせた。


「うまい! なんだこれ! 炙っただけなのに……」


「香ばしい香りがあって美味しい! リモーネの実の果汁も合うね!」


「焼いてるときからいい匂いだったんだよなー! ……うま! 刺し身より好きかも!」


 コパンは声も出さずに味わっている。みんな幸せそうな顔だ。


……そんなに美味しそうなら、俺も食べられるかな?


 大和時代に母さんお手製のカツオのたたきを食べたことはあったが、「やっぱり生じゃん!」と一切れで断念した。みんながそんなに美味しそうに食べてるなら、俺も食べられる気がした。恐る恐る一切れ食べてみる。


……おお! 香ばしい香りもあっていい! けど……やっぱり生臭い……


 炙ってあるところは美味しく感じるが、中心の方を噛むと早く飲み込みたくなってしまう。

 大和時代にも「何がダメなの?!」と妹に散々言われていたが、苦手なものは苦手なのだ。


「うぅ……やっぱり生じゃん! 俺はいいや」


「こんなに美味しいものを作れるのに、食べられないのか?!」


 ライナーに驚かれたが俺はちゃんと火が通っているものが好きだ。

 むしろ獣人のみんなの方が鼻がいいのに、なまものを美味しく食べられていることの方が俺にとっては驚きだった。


「うん、生のものはやっぱり苦手なんだ。これは家族の分にして自分の分はまた作るよ」


 ライナーが不思議そうにしている後ろで、ニクラスはまだ食べたりないという顔をしていた。


「二人が持ってきた魚だし、切り身持って帰る? 料理手伝ってくれたし……」


 俺の提案に二人は「どうする?」と顔を見合わせたが、カーリンも加勢してくれた。


「二人が持ってきてくれなきゃこんなに美味しい魚、手に入らなかったんだから持って帰って! おうちでボニートのたたき、作りなよ!」


(わら)で焼くともっと香りが付いて美味しいらしいよ」


「藁……試してみたい! でも本当に良いのか?」


「いつも美味しい魚たちを持ってきてくれるからいいよ! それに捌くのも手伝ってくれて助かったんだ。持って帰ってくれ」


 二人は嬉しそうに破顔すると、脱兎(だっと)のごとく走って帰った。


「今日は、このボニートのたたき以外にも作るの?」


「うん、俺の食べるものを作るよ。あとは家の中でもできるから」


 片付けをして、家に入ると俺はボニートの切り身を一センチ幅に切っていき、塩をすりこんでいく。

 カーリンに「わたし臭み取りしたのに、なんで今塩かけるの?! ありえない!」と塩を使うのを止められそうになったが、強行突破した。このまま味を染み込ませておくのだ。


……美味しくするためには必要なことだから! ここの調理法だと美味しくならないから!


 味を染み込ませている間、見た目はパプリカ、色は黄色、味はトマトのライチェを使い、トマトスープならぬライチェスープを作る。

 カーリンにいつも通り野菜を切ってもらい、ライチェは潰してもらった。

 ボニートのアラに熱湯をかけていき、血合いや汚れを落としていく。冷水で洗ったら小さい鍋に水を入れ、じっくりと火にかけていく。


「カーリン、アクが浮かんできたら取ってね。目玉が白くなってきたら教えて」


 俺はスープに入れる野菜を大きめの鍋に入れ火を通し、潰したライチェと水を加えて煮立たせる準備を始めると、困惑の声が聞こえた。


「え? こんな骨も一緒に煮込むの……?」


「そうだよ? やったことない?」


「骨なんか茹でても食べられないもん、見たことないよ?」


 この辺りではどうやらアラを使って出汁を取ることはしないのかもしれない。

 でも、まともな調味料がないここでは貴重な旨味なのだ。絶対に美味しくなるはず!


「骨は食べないから大丈夫。ただ、後で身をほぐしてほしいんだ」


 とても不安そうな顔のカーリンは「骨を食べないなら……まあ」と、アク取りに専念してくれた。


 野菜を炒めていると、目玉が白くなってきたとカーリンから声がかかる。味を見ながら塩を鍋にパラパラと入れていくと、またカーリンが尖った声を出す。


「スープにも塩を入れるの?! 塩を入れるのはご飯を食べるときだよ? 今入れたらだめ!」


「スープを飲むとき、みんな塩入れてるんだから今入れても大丈夫でしょ? ほら、飲んでみて?」


 俺は小皿にスープを入れ、怪しんでいるカーリンに飲んでもらう。


「あれ? 美味しい……かも」


「でしょ?」


 俺が得意げに言うと、カーリンは小皿のスープを飲み干した。驚きながら声を出している。


「お魚の味もして美味しい! 塩を入れるのは変わらないのに!」


 ザルにアラを出し、魚介の旨味が詰まった煮汁を野菜が入った大きい鍋に移すと、風味豊かな美味しいライチェスープになった。しっかり味が付いていて我ながら美味しいと思う。


 カーリンには骨から身を取り、ほぐしてもらっている間に俺は自分の分のソテーを用意した。

 塩をすり込んだ切り身に雑穀粉をまぶす。小麦粉は高いようで、貧乏なうちにあるのは質の良くない雑穀粉というものしかなかった。

 平鍋にパルメの実の油を入れ、雑穀粉をまぶした切り身を投入していくと、焼ける良い匂いが俺の鼻を刺激する。早く食べたい。お腹を鳴らしながら、片面ずつしっかり火を通して焼き色をつければ、ついに完成だ。


「完成! 俺の晩ご飯! ボニートのソテー!」


 一応ソテーもみんなが食べられる分を作った。大皿に盛り付けている間に、カーリンがほぐしたアラの身はライチェスープに入れてもらった。ボニートのたたきはカーリンがスープをよそった後に切ってくれたので、もうすでにテーブルに並んでいる。


「ただいまー。お、晩ご飯美味しそうじゃない! なにこれ? 見たことない料理!」


 テーブルに並べているうちにエイミーが帰ってきた。初めてのボニートのたたきをまじまじと見つめている。


「エイミー、それすんごく美味しいの! わたし味見しちゃった!」


「ってことはオリバーが作ったの? 料理できたの?」


「俺だって料理くらいできるよ!」


 以前のオリバーは料理の手伝いもしていなかったようで、料理ができると思われていなかったのだ。

 だからカーリンは料理のお手伝いをしていても、俺は任されなかった。ここで名誉を挽回して俺にも料理をさせてほしい。そして塩を後入れする料理ではなく、塩を上手に使った料理を作りたいのだ。


「あら、いい匂いねー。このスープの匂いはうちからだったのね」


 エイミーと睨み合っているとディータおばさんが帰ってきた。どうやら外までボニートの出汁のいい匂いがしていたらしい。


 今日の食卓には、ボニートのたたきと、できたて熱々のボニートのソテーが中心に並び、それぞれのスープの器にはライチェスープが入れられている。今日はボニート祭りだ。リモーネの実も大皿に添えられている。

 二人とも期待に目を輝かせながら、席につく。シュティローおじさんはまだまだ帰ってこないので、あとで食べてもらおう。


「今日のスープ、魚も入ってるの? すんごくいい匂い!」


「今日はニクラスたちからボニートをもらったから、出汁を取ったんだ。美味しいはずだから、食べてみて。あ、今日の料理は先に塩が入ってるから、とりあえずこのまま食べてね」


 俺がドヤ顔で説明すると、エイミーは輝かしい顔でスプーンを手に取る。


「美味しい! もう塩を入れなくていいくらい味がついてる! なんかいつもより色んな味がする!」


……エイミーから美味しいいただきました! やったぜ!


「塩を自分で入れるのと料理中に入れるのとでこんなに味が変わるのかしら? すごく美味しいわ、オリバー、カーリン。二人とも上手に作れたわね」


 ディータおばさんもスープを満足そうに飲み、にこやかに褒めてくれた。


「塩は出来上がった料理に自分で入れるものだから、料理中にオリバーがどんどん塩を入れてびっくりしたんだよ。でも……このスープは塩辛くなくてわたしもこっちの方が好きかも!」


 カーリンも美味しそうにスープを食べている。塩に関して色々言われたが、美味しいと言ってもらえて良かった。


「オリバー、このたたきって料理は塩を自分でつけていいの?」


「うん、いいよ。エイミーもリモーネの実好きでしょ? 絞るとさらに美味しいよ」


 パラパラと塩を振り、一口でパクリと食べるととろけるような顔で美味しさを噛み締めているエイミーは、二切れ、三切れと勢いよく食べ進めた。

 一方ディータおばさんは、ソテーにかぶりつくとほわほわと口から熱を逃している。


「ただ焼いたんじゃなくて、この回りについてるサクサクが美味しいわね。ほんのり塩味がするけど、もう少し塩をつけようかしら?」


 みんなの反応を見ていたけど、ソテーが皿からなくならないうちに俺も食らいつく。ほんのり塩味が俺は丁度いい。ずっと腹ペコだったのだ。スープも我ながら美味しかった。特に魚の出汁が良い仕事をしていた。旨味が出ていていたのでまた作りたい。


……シュティローおじさんの分は別にしておいてよかった。


 皿からみるみるうちに料理が減っていっている。エイミーの勢いに隠れてディータおばさんの食べるスピードもいつもより早かった。



 後からディータおばさんに聞いた話だが、俺が寝た後、シュティローおじさんに今日の晩ご飯を出したところ、すごい速さで料理を平らげたそうだ。子どもたちを起こさないように大声は出さなかったが、「うまい! うまい!」と顔を輝かせてスープをかきこんでいたらしい。特に「ボニートのたたきが酒に合って最高だ」と言っていたとのことだ。満足してもらえて何よりである。


……みんなに美味しいって言ってもらえてよかった。イカとかタコなら揚げ物に使えて良いんだよなー。あ、イカならスルメにできるかも。なんかスルメが食いたくなってきた。でも、イカなんてこの世界にもいるのか?


 みんなで賑やかな食事を楽しみ、今後も料理を任せてもらえるようになったが、この日からスルメの味を思い出し、スルメの幻影が脳内ループするようになってしまった。



生が苦手なオリバーくん。

これから先も料理をアレンジします。


ちなみに犬に海産物はあげてはいけません。コパンは魔物なので海産物がたべられます。

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