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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
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強制映画鑑賞

 どこからか、女性と男性の話し声が大和の耳にうっすら入ってくる。まだ眠いから寝ていたいが、声が大きくなってるように感じる。


…なんだ?どこかで誰か喋ってるのか?家の外で喋ってるにはかなり大きい声に聞こえるけど…


 すると、どこからか赤ん坊の泣き声も聞こえ始めた。睡眠を妨げるくらい声が大きくなってきたので、外で何かあったのか?とさすがに気になり目を覚ますと、俺は椅子に座っていた。


「へ?ここどこ?」


 周りを見渡すと映画館のような場所だった。だけど、椅子は俺が座っている物以外はなく、黒い地面が広がっていた。そして目の前の大きなスクリーンには、女性と男性が映っていた。女性の方は髪が薄い黄緑の美人で、少し日焼けをしているのか褐色肌で顔立ちはきれいだが、少し小汚い。服や顔を十分に洗っておらず、髪もパサついている感じがする。

 一方男性の方はたくましくて、彫りの深いイケメンだ。髪はネイビーの髪色が毛先にいくにつれて赤色になっている。そしてなによりも特徴的なのが、男性の頭には獣のような耳が生えているのだ。こちらの男性は女性よりさらに汚れている印象を受けた。二人とも身綺麗にすればお似合いの美男美女になるのに、もったいない。

 どうやら映像は一人称視点で物語が進んでいくようだ。今スクリーンにはこの男女のドアップと、ちらちらと赤ん坊の手が映り込んでいる。どうやら赤ん坊に優しく微笑みかけたり話しかけている映像のようで、主人公は赤ん坊らしい。


「男の人のは犬の耳?それとも猫の耳?コスプレか?だとしたらすごいリアルな耳だなー。というか、なんて言っているのか全然わからない…」


 映像には字幕がついておらず、しかも日本語でも英語でもない。どこの国の言葉か聞いたことがない発音なので、赤ん坊の泣き声をBGMに男女が嬉しそうに笑いかけてくるだけの映像を見せられている。とてもカオスだ。

 しかし、唯一聞き取れる単語があった。何度も言っているので多分、この赤ん坊の名前だと思う。


「オリバー、@#$%^*#」


オリバーがきっとこの主人公である赤ん坊の名前だろう。


「というか、俺なんでここにいるの?」


 とりあえずこの一室から出てようと、立とうとするが首から下が金縛りにでも遭ったかのようにピクリとも動かない。


「全然体が動かない…すいませーん!どなたかいらっしゃいませんかー!」


 誰か近くにいたらいいな、と思いながら何度か叫ぶが反応がない。


…金縛りに遭いながらで、聞き取れもしない言語の映画を強制的に見せられているこの状況はなに?


 なんとか情報を集めようとスクリーンを見ていると、女性の手が頭を撫でるように動いている。女性が撫でると赤ん坊の泣き声が小さくなっていく。男性が頬の辺りを突くと、赤ん坊の泣き声が大きくなり、女性が男性を少しだけ睨んだ。また女性が頭を撫でると、次第に赤ん坊の泣き声は小さくなっていった。


 多分この二人は、この赤ん坊の両親だと思う。この穏やかな笑顔は我が子に向けるものに違いない。勝手にそう結論を出すと、強い睡魔に襲われた。どうしようもないくらい眠くなり、俺のは眠りに落ちていった。



 うわぁーん…… うわぁーん…


 子供の泣き叫ぶ声が遠くで聞こえる。喉が潰れそうなくらい泣いている。


「うるさいなあ」


 声の主から離れたくて寝返りを打とうとするが、体が動かない。ああ、そう言えば動けない状態だったな、と思い出したところで意識が覚醒した。


「はっ!また寝てたのか…なんで急に寝るんだろう。そんなに疲れてたっけ?」


 強い睡魔、もう来るなよ!と思っていると、スクリーンに映し出されているのは大荒れの海に向かって行く、オリバーの両親の後ろ姿だった。背景は台風が来たときのような荒れ具合の海で、天候も悪い。

 ちなみに鳴き声の主はオリバーだった。手の甲で涙を拭うシーンが何度もあった。


「あの二人、今からこの海に入るのか…?」


 何かに押さえつけられているのか、オリバーが泣き叫びながらしがらみを振り払おうとしているが、その場を動けないようだ。

 左上を見上げる映像になり、今度は茶髪でやや乱れた無造作な髪型の端正な顔立ちの横顔が現れた。この人にもオリバーの父親と同じような獣のような耳があった。オリバーは少し高めの少年の声で、何かを懸命に話しかけている。しかし、茶髪の男性は辛そうな顔で首を横に振り、まっすぐオリバーの両親の方を見ていた。

 オリバーは何度も何度も話しかけ、茶髪の男性は眉間に皺を寄せながら下を向く。すると、オリバーは両親の元へ駆け出し、二人がボートに乗る前に母親に抱きついた。

 両親は困ったような顔になり、オリバーと目線を合わせしゃがみ込む。遠くからでもわかったけど、かなりイメチェンしたようで、母は長髪だったのにボーイッシュなショートカットになり、父は坊主になっていた。

 二言三言、言葉を交わすと父、母が順番に映像主の額にキスをする。どこか悲しさを感じる笑顔の二人に、俺は違和感を感じたがオリバーはボートに乗り込む両親を見送った。


「両親は何か重要な仕事でもあったのか?何も今日のような天気の日じゃなくてもいいだろうに…ブラック企業すぎないか?」


 その後、オリバーは数人の子どもたちとともに村まで帰り家に入ると、椅子に座った。外はもう日が落ちているのに家の中は明かりをつけていないからとても暗い。


「おーい、電気つけようよー。監督なんでこんなのOK出したの?画面真っ暗だぞ!」


 オリバーは微動だにしない。このまま座って待つつもりのようだ。


「なんて映画だ。もう俺、本当に家に帰りたいんだけど…誰か金縛り解いてー!」


 誰にも声が届かないことは知っているが、思わず叫んでしまう。

 俺は黒の組織にでも攫われてしまったのだろうか?もしかして変な薬を飲まされて小学生にされるんじゃ…と変な妄想を強制ストップし、状況整理をすることにした。


 まず、今は何時なんだろう?と、全く動かない左腕にちらりと視線を向けるが時計はなかった。


…あれ?仕事帰りにここに寄ったんじゃないのか?


 仕事帰りなら必ずつけているはずの腕時計が、左腕にはなかった。


…ん?待てよ、そう言えば俺、寝る支度してなかったっけ?


 覚えている最後の記憶を思い出す。


「えーと、妹の卒業祝いをやって、風呂に入って、寝る準備をして… その後は… あ、胸が痛くてベッドに倒れ込んだ! ということは、これは夢なの?金縛りに遭いながら夢を見てる…?」


 不可解な状況に混乱していると、さっきの茶髪の獣耳男性が玄関から入ってきた。どうやら今晩、オリバーは茶髪の獣耳男性の家に泊まるようだ。オリバーの家もだが、この人の家も日本では滅多にお目にかかることのないレベルでボロい家だった。

 家に入ると、子供が二人、女性が一人いた。全員家族なのか、皆獣の耳がついている。オリバーはご飯を食べずにベッドですっぽりと全身毛布に包まりながら、膝小僧を見ていた。すると、水で濡れたように画面が歪んだ。両親と離れて寂しいのだろう、嗚咽を殺しながら泣いているようだ。


 たまにさっきの茶髪の獣耳男性が様子を見に来て何かを話しかけるが、その度に涙を拭いてから顔を毛布から出し、首を横に振る。

 すると、俺はだんだん眠くなってきた。


…これ、オリバーが眠くなると俺も眠くなるんじゃないか?


 主人公が寝るときに客も寝る。そういう仕組の新しい映画なのかな、と考えながら俺はまたもや意識を失った。



 今度は激しく言い争っているような声が聞こえ、うっすら目を開ける。森のような場所でやんちゃそうな煉瓦色の髪色の男の子と、その仲間だと思われる子どもたちがスクリーンに映っていた。

 残念ながらまだ夢の中のようだ。


「ふわぁ…まだこの映画なのかよ… あれ? オリバーが成長してる感じがする。あ、やっぱり! 手が少し大きくなってるな」


 前回よりも少し大きくなったオリバーの手足が映像の端に映り、成長を物語っていた。


「この正面の男の子はなんて言ってるんだ?全然わかんない…」


 オリバーはさっきから、やんちゃそうな男の子たちから何かを言われているようだ。オリバーに向かって全く聞き馴染みのない言語を発している男の子たちの顔つきは、なんとなく意地悪そうだった。

 そして、何かを言われたと同時に左肩を突き飛ばされた。煉瓦色の髪の男の子が右手を突き出していたので、そうだと思う。何も言わずに立ち上がるオリバーを、さらに意地悪そうな顔で突き飛ばした。

 倒れる!と思ったときには、もう天を見上げていた。そして、なぜか俺の頭に衝撃が走り、強制的に下を向かせられた。


「いて!」


 後頭部に突き刺すような痛みが走り、涙が出てくる。スクリーンを再び見上げると、まだ空を見上げていた。太陽が眩しくて思わず眉をひそめるが、映像はピクリとも動かない。


「オリバーは…大丈夫なのか…?でもなんで俺にまで痛みが…」


 痛みに悶ながら、オリバーを鼓舞する言葉をかける。


「おい!頑張って立て!なんかやり返してやれよ!」


 応援虚しく、映像は動かない。


「オリバー、このまま死んじゃうのか?!というか誰か心配しに来いよ!」


 誰も覗き込みに来ないことに苛立ちながら言葉を荒げた。

 そのとき、椅子がほんの少し動いた気がした。


「え?椅子、動いてる…?」


 最初は緩慢に前進していた椅子が、徐々にスピードを上げ始めた。そのままぐんぐんスピードが上がっていき、スクリーンめがけて突っ込んでいく。


「へ?!ぶつかりそうなんだが!!!」


 俺は金縛りに遭ったまま、スクリーンに映る青々と広がる空に突っ込んでいくのを止められず、「ぶつかる!」と思った瞬間意識を失った。


どうなる?!大和!

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