潮干狩りへGO 後編
「おー、エイミーじゃん。あとカーリンと……オリバーか?」
「あら、ケバルト。それに、ニクラスとライナーじゃない」
エイミーが振り返りそう言うと、表情を一気に険しくして立ち上がった。コパンはエイミーの雰囲気が変わったのを察知したのか、掘るのを辞めてカーリンの前に出た。
俺とカーリンも声のした方へ振り返り、俺はコパンの横に並ぶように前に出る。ケバルトの後ろには森で会ったあの二人もいた。
ケバルトの後ろに隠れるように俯いたニクラスの顔の右側と右腕にはひどい擦り傷があり、その隣のライナーはオドオドしながら俺と目を合わせない。
「よう、オリバー。頭の傷大丈夫か?」
ケバルトが言ってるのは、多分俺がオリバーとして目覚めたときに出来た傷のことだろう。
俺が二人を警戒するように見つめていると、ひょいっとケバルトが俺と目線を合わせるように中腰になった。煉瓦色で短髪のオールバックの髪が、日本によくいたヤンキーを思い出させた。
……子分たちの仕返しでもする気か?
俺はいつでも攻撃に反応できるようにケバルトの動きをよく見ると、ケバルトは口を開いた。
「その……前は突き飛ばして悪かった。ごめん」
……え? 謝るの?
手を出されると思っていた俺は拍子抜けした。猫の耳と一緒に、申し訳無さそうに眉尻も下げたケバルトは話し続ける。
「俺、オリバーになんで俺達獣人と同じ耳がないのか、知りたかったんだ。でも話しかけても無視されるし、ついムカついて肩を押したらオリバーが倒れて……いや、言い訳になっちまうな。その、俺が悪かった!」
俺の目をまっすぐに見るその瞳から、真剣に謝っているのが伝わった。
……なんかイメージと違うような。こんな素直なやつだっけ?
俺がオリバーになる前、強制映画鑑賞で見たケバルトはもっと意地悪そうな印象だった。自分から謝るなんてしなさそうな感じだったのに……こんなに短期間で人って変わるもの?
あまりの印象の変化に俺はぽかんとしていると、ケバルトは「聞こえてるのか?」と俺の顔の前でひらひらと手を振った。
「あ、ああ、聞こえてるよ。俺も無視してたのは悪かったし、怪我ももう治ったから、大丈夫。その……」
……謝ってくれたし、許してやるか。
「許すから、もう気にしないで」
……もしかすると、あの映画鑑賞はオリバーの感情フィルターを通した映像だったのかもしれない。
ニカッと笑ったその顔には意地悪そうな感じは微塵もない。オリバー越しに見ていた映画鑑賞なら、感情フィルターでケバルトたちの印象が歪んで見えていたのかもしれないな、と直感的にそう思った。
「サンキュ、オリバー。 今度魚取れたら一匹持ってってやるよ! なあ、エイミー……」
ケバルトはとても良い笑顔から驚きの表情に変わり、俺の後ろを二度見した。
腕を組み、眉間にシワを寄せてケバルトの背後にいる二人を睨みつけているエイミーは、ゆっくり、はっきりと怒りの感情を乗せて言葉を発する。
「あ ん た ら も、 言 う こ と が、 あ る で しょ う ?」
ケバルトはエイミーの表情に頬を引きつらせながら、「こいつらもお前に何かしたのか?」と小声で俺に聞いてきた。
「俺にじゃなくて、カーリンとコパンにだよ。何も聞いてないの?」
ふるふると首を横に振るケバルトに、俺はニクラスとライナーが何をしたか、淡々と説明する。エイミーの眼力に怯えきっている二人を尻目に。
「そういうわけで、うちのエイミーがお怒りです」
「ニクラス! ライナー! お前ら、その怪我は森で転んだだけだって言ってたろ!!」
ケバルトは俺の説明を聞き終える直前から、目がだんだんと吊り上がっていき、話し終えると二人を怒鳴りつけた。確かケバルトはエイミーと同い年の七歳だ。俺と二歳しか違わないのに、大人ばりの声量だ。俺も二人と一緒にビクッと萎縮した。
「だって、オリバーに殴られて負けたなんて言えねえよ! それに子分ができたら潮干狩りも木切れ拾いも楽になると思って……」
……俺に負けるってそんなに屈辱的なことだったんだ。 って俺に負けてお前ら逃げてたじゃねえか!
「そんな理由で人の物を奪うな! カーリンにもオリバーにも謝れ!」
ケバルトはニクラスとライナーの首根っこを掴んで俺とカーリンの前に並べた。ふてくされた表情の二人は、跪いている。どうやら跪くのが、謝るときのポーズらしい。
コパンはと言うと、唸り、威嚇の姿勢のまま、二人を睨みつけていて今にも噛みつきそうだ。俺はぐいっとコパンを引き寄せ、俺の隣に座らせた。
「俺達が悪かった、ごめん」
「ごめん」
俺に届かないくらいの声量で、ニクラスとライナーがぼそぼそっと何か言葉を発する。口にしたのが謝罪の言葉なら、謝る気を全く感じない。
だが、俺はこの二人にもう興味がなくなっていた。俺の家族に手を出した時点で敵だと認識したし、更生してほしいとか、改心してほしいという気持ちが全然浮かばなかった。
声が小さすぎて聞こえなかったことに苛立ったのか、俺たちの後ろに控えていたエイミーが貧乏ゆすりをし始めたとき、カーリンが「大丈夫だよ!」と大きな声を出した。
「もう怪我も治ってきたし、コパンも無事だったし、大丈夫だよ! あ、わたし、シュティローおじさんに言う気ないから安心してね! ね、この件はもう終わりにしない? オリバーももういいでしょ?」
カーリンは言い争いや揉め事が苦手なんだろう。この空気を早く終わらせたい、という気持ちが伝わってきた。
「俺はカーリンがいいなら、それでいい。あと、もうコパンに手を出さなければ」
この件は、三人の中で子供の喧嘩で終わらそうという話になっていた。カーリンがそれでいいなら俺もこれ以上話を広げたくない。コパンをちらっと見ると、俺を見上げていた。「一発、噛んでおきます?」みたいな顔で見てるが、頭を撫でてなだめる。
「わかった。もう二度と手を出さない」
「聞こえない! もっとはっきりと! ライナー声出せ!」
「「もう二度と手を出しません!!」」
ケバルトに頭をガシッと掴まれた二人は大声で宣言し、俺達の前から開放された。
「じゃあ俺達、あっちで潮干狩りするから! 邪魔して悪かったな。今度、魚持ってくから!」
ケバルトがそう言い残し、潮干狩りに戻ってしばらくした後、まさかこの日のうちにまた三人に会うとは思っていなかった。




