潮干狩りへGO 前編
一昨日、エイミー、カーリン、コパンのいつものメンバーでハイス山に行き、苦結晶を手に入れた。正確にはエイミーとカーリンに取ってきてもらった。
俺は森でニクラスとライナーとやりあったとき、全身の身体強化をしたせいか、その日のうちに強烈な筋肉痛に襲われた。カーリンの怪我の件もあったし、できればハイス山に行く日をずらしてほしかったが、鬼軍曹・エイミーにその思いは通じなかった。
赤い瞳に睨みつけられながら「あたしとカーリンだけに行かせるわけ? あんたが苦結晶欲しがってるのに?」と言われたら、断れるはずがない。
エイミー軍曹の指示の下、ハイス山への行軍は決行され、そして俺とコパンは道中に置いていかれた。正直、ついて行けなかったから助かった。
だけど、そんな俺でもシュティローとハイス山に行ったときよりは長い距離を走れた。体力はついてきていると思う。
……俺が作った靴、マジ優秀。疲れにくいもん。
一方、森で怪我をしたカーリンは、寝たら体力は回復したようだった。右肩はまだ少し痛むと言っていたのに、ハイス山までエイミーと走れていた。
獣人の回復力ってすごいなーって感心しながら、カーリンの首の傷に癒やしをかけていると「そろそろ行くよー」とエイミーから声をかけられた。コパンも玄関で待機していた。
さらわれそうになった悔しさか、はたまたカーリンを守れなかった悔しさかわからないが、強くなろうとする意思を感じた。魔力をいつもより多めに与えられ、中型犬と大型犬の間くらいの大きさになったコパンは、「俺はやるぜ!」と今にも言いそうな顔だ。
……今日こそ浜に行ける!
いつもは森に向かう時間帯に、今日はみんなで潮干狩りに行くことになった。
ハイス山から帰ってきたその日に「浜へ行きたい」と言ったら、「エイミーと行くなら行ってもいい」とディータおばさんから条件付き許可が出た。俺が浜に行ったことが少ないから、浜に慣れているエイミーがいないと駄目らしい。
今日は快晴だが、昨日は雨が降り、浜には行けなかった。
その代わり、食べ終わった貝殻をキッチンで焼き、カスカスになった貝殻を粉々に粉砕していった。「これも石けん作りに必要なんだ」と言うと、「わたしも手伝うよ」とカーリンが一緒にやってくれたが、石けん作りにはまだまだ足りないと思う。俺の顔と同じくらいの大きさの革袋に、半分程度しか集まらなかった。
……石けんの作り方はわかる。でも、何がどのくらいの量必要か、ざっくりとしかわからないからなるべく多く確保しておきたいな。
あ、そうそう。そう言えば昨日、エイミーが靴下を真似させてもらったお礼と言って俺に荷物籠を作ってくれたのだ。ずっとベッドの枕元の方に荷物を置かせてもらっていたので、ありがたく頂戴した。
俺が作った靴下は「砂浜で靴に砂が入ったとき、足につかなくて良かった」と褒めてくれた。
エイミーは天然ツンデレなのかな? 聞いたらぶっ飛ばされそうだから聞かないけど。
「ねえ、オリバー。本当に浜に行くの?」
「もちろん行くよ。貝殻全然足りないし」
……それに自分の目で見ないと、オリバーの感情に囚われそうだし。ちょうどいいタイミングだ。
汚れても良い木靴で、カランコロンと浜の方へ歩いている道中で、カーリンにそう尋ねられた。そわそわと心配そうな目つきで俺を見ているが、これには心当たりがあった。それは、オリバーの浜に関する記憶だ。
浜に関する記憶は、両親との別れの思い出と、大人からの悪意ある視線の思い出がほとんどだった。楽しい思い出がない。浜のことを考えると暗い感情が襲ってきていたので、カーリンも何か知ってることがあるのかもしれない。
そのネガティブな感情のせいで、浜に行くのを躊躇していたが、エイミーによると昨日の雨のせいで今日は塩田の採かんという作業をしているだろうから、俺らに構う暇はないだろうとのことだった。ナイスタイミング!
「あれが塩田よ」
誇らしげな顔でエイミーが指差す。
指された方を見ると、浜の手前の地面に、平坦に均され四方が盛土してある、大和時代の田舎で見た田んぼのような土地がいくつも広がっていた。これがどうやら塩田と言うものらしい。塩田の真ん中には小屋の屋根より高くて細長い棒が付いていたが、何に使うか想像がつかない。
塩田には水が入っていて、大人たちがその水をばしゃばしゃと盛り土の外に出していた。
「ほら、みんな仕事に集中しているでしょ? あたしたちにかまう暇なんてないから、頑張って貝を取るわよ」
塩田で作業している人たちの近くを通るときは心臓がドクドク言っていて、思わず背負籠の肩紐をギュッと握りしめたが、特に何も言われなかったしこちらも見ていなかったように思う。
……良かった、全然大丈夫じゃん! これなら明日からも来れそう!
俺は胸をなでおろし、それから自分でも頬が上がったのがわかった。コパンと浜へ走っていくと、磯臭いにおいが鼻をつーんと刺激する。
「おおー! 海だー!」
光が反射してキラキラ光る海が、俺の目の前には広がっていた。スライムが波に乗って浜に打ち上がるのが、いかにも異世界って感じでおもしろい。
……あぁ! 海って感じの匂いだ! 生臭い! でも今日は良い!
大和時代に生魚が苦手で、海も苦手なイメージがあった。それでも懐かしいと感じるものなんだなーと、胸の前で合掌したまま海の匂いをクンクン嗅いでいたら、カーリンとエイミーに変なものを見る目で見られた。
「オリバー、何してるの? ここから少し離れて作業するわよ」
そう言うと、海を左手側にずんずん直進していく。浜の入り口からずいぶん歩いたところでエイミーが荷物を降ろし始めた。
「この辺りはあんまり人が来ないから、結構残ってると思うのよね。 さ、始めよう。コパン、掘る!」
「ワン!」
元気よく返事をしたコパンは、エイミーが指差したところをババババッ!と楽しそうに掘り始めた。どうやら前回の潮干狩りのときに新しい芸を仕込まれていたらしい。
今のところコパンの方が鬼軍曹の役に立っている現状に焦りを感じた俺は、負けじと木のスコップでガスガス地面を掘り進めた。
しばらくして、「いっぱい取れて偉いねえ」とカーリンに褒められ、尻尾をブンブン振っているコパンをボーッと見ながら、俺は休憩していた。勝手に勝負していたがコパンの圧勝だった。
……木のスコップ、マジ掘りにくい。金属のスコップが欲しいー!!
作れるものなら作りたいが、流石に無理だ。まずどんな金属がこの世界にあるかわからん。考えるのはやめとこ。それより、こっちの貝をちょっと見てみよう。
潮干狩りで手に入る貝の中には、食べられる貝と毒がある貝があるらしい。俺とカーリンの前に貝を並べて、エイミーがさっき教えてくれた。
五つの貝は左から順に、ミム貝、リーア貝、マグ貝、ホテ貝、シャム貝という名前だ。
ミム貝が一番小さく、シャム貝が一番大きい。一番大きいと言っても、ホテ貝とシャム貝は大きさがほぼ変わらない。
左から四つまでは食べられる貝らしく、実際に俺も食べたことがある。ホテ貝は形も味もホタテによく似ている貝だ。この間晩御飯で出た焼き貝の中に、このホテ貝が出たのは記憶に新しい。
そして、唯一食べられないシャム貝は俺の前に並べられた時点で貝殻だけになっていた。これは神経毒の泡を吹く貝で、別名アワフキ貝と呼ばれているらしい。見た目はほぼホテ貝と一緒で、ホテ貝より貝殻が若干膨らんでるだけだ。
アワフキ貝は、ハズレの貝らしく、「殻が固くて頑張って開けても貝柱しか食べれないし、ホテ貝かどうか見分けなきゃいけないのがめんどくさい」とエイミーは言っていた。
俺は、雑談のつもりで、作業中のエイミーにアワフキ貝について聞いてみた。
「アワフキ貝ってそんなに危ないの?」
「その泡の神経毒を浴びて動けなくなったヒトデを見たことがあるわ。こっちが攻撃すると泡を出して反撃してくるの。アワフキ貝に触ると、指がビリビリはするわね」
「そんな貝いたんだ……わたし知らなかった。ねえ、そのヒトデってどうなったの?」
「ヒトデの腕をゆっくり一本ずつ貝の中に入れて、食べてたわね。毒が切れるタイミングにまた泡を吹いてしびれさせてって、動けなくさせてる間に食べてた感じかな」
エイミーがそう答えると、俺とカーリンは苦虫を噛み潰したような顔になっていた。
……そんな貝いんのかよ! やばすぎだろ!
異世界らしさ満載の貝に出会ったらどうしようと震えていると、得気なエイミーが対処法を教えてくれた。
「攻撃すると貝殻の間から泡が出てくるから、後ろから叩いてホテ貝かアワフキ貝かを確認すればいいのよ。というかオリバー、この程度でビビってたら冒険者になんかなれないわよ?」
絶対俺より冒険者に向いているであろうエイミーに鼻で笑われ、でもビビってたのは事実なので言うに言い返せず「ぐぬぬ……」と唸っていたら、カーリンが笑顔で間に入ってくれた。
「まあまあ。オリバーは初めての潮干狩りだし、アワフキ貝もまだ見たことなかったんだから。エイミーもオリバーが心配だから、対処法を最初に教えてあげたんでしょ? 本当は優しいくせに〜」
……え、そうなの?
カーリンに指摘されるとフン!と、後ろを向いて作業に戻った。でも、耳が赤くなってるのが見えた。
……優しさがわかりにくいわ! でもありがとう、エイミー!
カーリンとへへっと笑い合い、気を取り直して掘り出し作業を再開していたら、その雰囲気をぶち壊す奴らがやってきた。
「おー、エイミーじゃん。あとカーリンと……オリバーか?」
「あら、ケバルト。それに……ニクラスとライナーじゃない」
ディータおばさんは浜に行きたいと言ったオリバーに対して「オリバーは浜にあんまり行ったことがないから」という理由で、エイミーと一緒に行かせようとします。
ですがこれは、トゥルフ族族長の娘であるエイミーが一緒の方が悪意ある言葉が防げるから、という親心からです。
オリバーの記憶にあった通り、浜の方ではオリバーへの悪意ある言葉がまだ、出てきている状況です。
長くなりましたので、後編と分けました。




