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獣人村で目覚めたら  作者: ニガヒジキ
第1章 獣人村のオリバー
14/62

覚醒 前編

 

 今日は命の日なのでディータおばさんが休みだ。シュティローおじさんは命の日に必ず休めるわけではないので、今日も仕事に行く物音がした。

 居間に行くとエイミーとディータおばさんの姿はなく、カーリンが一人靴下を作っていた。俺の作った靴下を真似て。どうやら履いてみたくなったらしい。


 コパンが見当たらないのでカーリンに尋ねると、ディータおばさんたちと一緒に潮干狩りに行ったとのことだった。

 カーリンの靴下完成後、家の手伝いを終わらせた夕方ちょっと前くらいに、エイミーたちがたくさんの貝と共に帰ってきた。


「うわ! コパンドロドロだな!」


 掘り出し要員として連れ出されたコパンは、真っ黒な体の上からもわかるくらい全身泥だらけだった。

 とても満足そうで何よりである。


「コパンは洗ってから家に入りましょうねー。晩御飯の準備をするから、オリバー洗ってきてくれる?」


 俺は広場にある井戸で水を汲み、コパンを洗い終わるとご近所さんも外で砂抜きをしていた。もちろん我が家も。

 夜ご飯は茹で貝と焼き貝だった。今回は海水を使って茹でたようで、いい具合に塩味がついていた。焼き貝はいつもどおり塩だけで食べた。醤油とバターがないのが悔やまれる。


 そして功労者のコパンも、たくさん貝をもらっていた。


……イヌ科って貝食べても大丈夫だっけ? というか俺たちも狼の血入ってんじゃないの? 確かイヌ科は貝類を消化する酵素を持ってなかったような……


 俺は怖くなってディータおばさんに聞いてみたら「去年も食べてたじゃない」とさらりと言われた。どうやら俺たちは大丈夫らしい。良かった。でも、コパンはどうなんだろう? 不安になった俺はコパンを見たが、もう食べきっていた。


……明日、何もありませんように。



 翌日。

 コパンは体調不良にもならず、お腹も壊さず、ピンピンしていたので安心した。魔物といえど、元は狼なんだけどなあ。

 元気なコパンとカーリンとともに、今日も森で身体強化の練習と、森の食材と木切れ採集だ。


 前回カーリンが森で取ったオーランの実という、オレンジに似た匂いと味の果物がとても美味しかったので、また欲しい。あの実は皮の部分が石けんの香り付けに使えると思う。

 そして森に行く道中、道行く子供たちに今日も笑われながら応援された。俺よりも小さい子も身体強化ができると知って軽く落ち込んだ。


……今日は拳以外も身体強化できるようにしなきゃ。


 俺は昨日の自分の出来なさっぷりを思い出すと、軽く溜息を吐いた。


「そういえばさー、人間は繊細な魔力の扱いとか、想像したものを魔力で作るのが得意で、魔力を纏わせるのが苦手なんでしょ? ということは、オリバーは人間的な使い方が得意っていことなんじゃない?」


 森に行く道中、思い出したかのように話を切り出したカーリンはなぜか期待の眼差しで俺を見ていた。靴作りのときにエイミーがそんなこと言ってたな、と思い出しながら、でもなんでそんな目で見てるの?とカーリンを見る。


「そうかもしれないけど、どうして?」


「人形を火で作れたりしないのかなって思って」


……それくらいなら確かにできそうだな。


 俺は周りに誰もいないのを確認し、俺は小さい火の鳥を想像し、魔力を流す。


 すると、掌サイズの火の鳥がそこにいた。と言っても、リアルな火の鳥ではなく、漫画に出てきそうなデフォルメされた火の鳥だった。俺の火はもう青で固定されてしまったのか、青い火の鳥が出てきてしまった。


「わあー! 青い! シュティローおじさんが言ってたこと、本当だったんだね!」


 気味悪がられず、綺麗綺麗とはしゃぐカーリンにホッとした。


「もしかして、飛ぶの?」


 カーリンとコパンが目をキラキラさせ、尻尾を振っているのを横目で見つつ、俺は掌をぶんぶん振ってみたが、一向に飛び立とうとしなかった。


……うーん、飛ばないっぽい? 飛ぶって言ったら風?


 俺は火の鳥を浮かせる想像をし、風を出してみた。すると、火の鳥がふわりと浮き上がる。


「お! やっぱり風属性が必要だったのか! もっと高く飛ばしてみよう!」


 羽ばたくイメージをしたまま、ふわりふわりと風を掌から出していると、火の鳥が優雅に飛び回った。次第に俺の頭上高く飛び上がると、次第に鳥の形を崩しホロホロと消えていく。持続時間は短いみたいだ。


……なんか一気にお腹が空いた気がする。魔力ががくんと減った感じ。


 もしかすると、複数の属性を一緒に使うと、一気に疲れるのかもしれない。


「すごく綺麗だった! わたしもできるかな? ちょっとやってみよー!」


 カーリンが目を瞑り掌を出すと、数秒後に水の玉が浮かんできた。

 よく見ると水の玉の横に、角のような物が生えている。モニョモニョ動いて、なんだか気持ち悪い。


「カーリン、それ……なに?」


 カーリンは目を開き、ぱちくりさせると、途端に笑い出した。


「あはは! 私もオリバーみたいに水の鳥を出そうと思ったんだけど、こんなのがでてきちゃった!」


 どうやら思ったものとは違ったらしく、自分で自分が生み出した水の鳥にウケていた。泣くほど面白かったらしく、一向に引っ込まない笑いにつられて俺も笑っていると、カーリンは涙を拭いながら話しだした。


「でもオリバーが苦労してるのがわかったかも。私は自分の鳥に大笑いしちゃったけど、思ったように身体強化が進まないってこんな感じなんだよね、きっと」


 俺は何の苦労もなく想像した火の鳥を出せたが、カーリンにとっては難しかったのだろう。きっと俺が身体強化で苦戦したのと同じような感覚だったに違いない。


「できるようになるまで時間がかかって当たり前なんだからさ、気を落とさず訓練しようよ。苦結晶を取りに行くのだって、また代わってあげるからさ」


 落ち込んでいた俺を励ましてくれるカーリンの笑顔に俺は癒やされた。


……なんて優しいんだ、カーリン!


「ありがとう。でも冒険者になるために俺は頑張るよ!」


……今日こそはコツを掴んでやる!




「うう……だめだ……」


 意気込みに反して練習の成果は良くなかった。腹時計的に昼頃、俺はがっくりと地面に両手を付いている。拳の身体強化から一向に進歩がないのだ。


「カーリンが言ってた、身体中から汗が出るときっていうのを意識してるんだけどなあ……何がだめなんだ? それにしても、カーリンとコパン遅くない?」


 昨日と同じく、カーリンとコパンが食材と木切れ採集担当をしてくれている。昨日はこのくらい練習したときに合流したんだけどな……と周りをキョロキョロしていると、かすかにコパンの鋭い吠え声が耳に入った。


「え? コパン?」


 俺は異常事態を察し、しばらく耳をすませているとコパンが威嚇するような吠え声と、カーリンの悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「こっちか?!」


 コパンの声がする方へ慌てて走り出し、茂みを抜けると開けた場所に出た。どうやらコパンとカーリンはこの辺りで採集をしていたようで、果実や山菜が飛び出した背負籠だけがそこにぽつんとあった。


「これ、カーリンのだよな……?」


 カーリンの姿がないか辺りを見回したその直後、甲高い悲鳴のようなコパンの鳴き声と、子供が言い合っているような声が俺の右後ろから聞こえた。声の聞こえた方にすぐに身を捩るが、視界には動く物体はいない。まだ場所がわからないことに苛立ちながら、大声で呼びかける。


「コパン! カーリン! 返事してーーー!!!」


「オリバーー!! こっちだよー! ……きゃあぁぁ!!」


 カーリンの声が聞こえた方に即座に走り出す。速く速くと焦る気持ちはあるのに、自分の足が遅いのがもどかしい。


……落ち着け、俺。声は思ったより近かった。すぐに見つけるからな、カーリン! コパン!


 開けた場所から獣道に入り、声がした方へ走り続けていると、倒れているカーリンが目に入った。


「カーリン!」


 カーリンを抱きかかえると、小刻みに震える身体には細かい切り傷がついていて、服には人間の靴跡のような汚れがあった。涙を浮かべた目は怯えており、震える声で謝罪を繰り返す。


「オリバー、ごめん……コパン、取られちゃった……ごめん……コパン……うぅっ……」


「あいつらか……!」


 カーリンが指差す先を振り向くと、黃色と青色の小さな頭が獣道を走っていくのが目に入った。小さくなっていくその背に俺は大きく目を見開く。

 俺は、その髪色と獣人の耳には見覚えがあった。あの二人は俺がオリバーになる前に見たことがある。

 あの強制映画鑑賞のとき、スクリーンに映し出されたいじめっ子の後ろにいた二人だと瞬時に判断した。あの意地悪そうな二人の髪色を、俺は忘れていなかった。


 先頭を走り、バタバタと暴れるコパンを抱えているのは黄色の頭のニクラス。コパンの黒い足が見え隠れしているから間違いない。

 一方、ニクラスの後を追っかけている青の頭はライナーだ。後ろをちらりと見てニヤッと笑ったのを俺は見逃さなかった。


……俺の可愛いコパンをさらいやがって! しかもカーリンに手を挙げるとはどういうことだ! ぜってえ許さねえ!


 見開いた目がやつらを捉えて離さない。俺は一瞬で全身が怒りに染まり、歯を食いしばると髪が震えているように感じた。


「わたしは大丈夫だから……コパンを連れ戻して……!」


 カーリンの焦りと悲愴がこもった声に促された。「ここで待ってて」とそっと身体を下ろしている最中、カーリンの震える唇が息を呑んだことには気づかないまま、俺は怒りに満ちた左足を地面に叩きつけた。



オリバーになった大和にとっては、もうシュティロー家のみんなは大事な家族です。

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