協力の取り付け
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昨日の靴作り後に、靴下の素材だけできあがったので、一足分だけ作った。頑張って早起きをして。
大和時代も早起きがとにかく苦手で、社会人になってからも妹の陽菜や母さんに起こしてもらっていたほどだ。
それは今も変わらず、俺はカーリンに揺さぶられてから起きている。命の日も早く起こされるのはなんとかならないもんかなあ、と思っているが、この家で俺が一番役に立っていないので文句は言えない。
……あー、昼まで寝てたいなあ。
そんな俺が積極的に大嫌いな早起きをして出来上がった靴下は、大和時代によく見かけた、何の変哲もない脛丈の靴下だ。履き心地もあの頃のままですごく懐かしい気がした。そして、この靴下はゴムが効いているので脛から落ちない。
「そんな中途半端な長さだと、落っこっちゃうよ?」
「大丈夫、ここにはゴムが入ってるから落ちないよ」
「へー……あの靴裏の素材がこんなところにも役立つんだね」
みんなでシュティローを見送った後、俺は靴下と靴を履いた。何年も履いていたかのように履き心地が良く、足馴染みが良かった。靴下を履いたらジャストフィットだ。
ディータおばさんも見送った後、外に出ると、初夏らしい澄みわたる空が広がり、少し冷たい風が気持ち良かった。
今日は身体強化の練習のために森に行くのだが、俺とエイミー以外にもコパンとカーリンも一緒に行く予定だ。コパンには今朝、早速魔力コントロールの練習の一環として魔力を与えたので、中型犬サイズで玄関から出てきた。
カーリンは若葉色の髪をふわふわさせながら、背負籠を背負って歩いていく。身体強化ができるから練習はしないが、森で今晩の夕食に使う山菜や、木切れを集めるのだ。
ちなみに他の家の子供達も森に行くようで、何人かが集まったかたまりがいくつか先に向かっているのが見えた。
「今日はオリバーも一緒なんだな」
突然後ろから、男の子の声が聞こえた。振り返ると、エイミーよりも身長が高いオレンジ髪の優しそうな感じ男の子がいた。俺より歳上なのは確かだけど、カーリンもエイミーも俺より大きいので正しい年齢を言い当てる自信がない。自信を持って言えるのは、彼が狼の耳と尻尾を持ったトゥルフ族ということだ。
オリバーの記憶では彼はモヤモヤ~っとしているので、あんまりしゃべったことがないみたいだ。
「誰だっけ?」と思い出そうとしていると、その男の子の視線の先にいるエイミーが答える。
「そうよ。オリバーは身体強化の練習をするの。危ないかもしれないから今日はレーゲンたちとは離れて採集するわね」
「練習……? ま、別行動ってことはわかったよ。頑張れよ、オリバー」
「うん、ありがとう。レーゲン」
オレンジ髪はレーゲンというらしい。エイミーと同い年らしい。それにしてもオリバーはどんだけご近所付き合いしてなかったんだ……
村からそう遠くないところにある森まで歩く道中、その後もちらほらと名前があやふやな子供たちに声をかけられては説明し、「身体強化って練習するものなの?」という顔をされては激励の言葉をかけられた。
コパンは俺のやや後ろを歩き、子どもたちには吠えたり噛み付いたりしなかった。まじでコパン偉い。
「さ、この辺りで始めましょうか」
「はい、よろしくお願いします! エイミー先生! あ、コパンはカーリンと一緒に森の中に行っておいで。何かあったら吠えて教えるんだぞ」
言って伝わるかな?と不安だったがコパンは尻尾を数回降ると、カーリンの方へ走っていった。感動するくらい頭が良い。
コパンは俺の隣で座ってるだけではきっと暇だと思う。それだったらカーリンと一緒に歩き回った方が楽しいだろう。それに、貧困な我が家はコパンのご飯が後回しにされてしまう。日中に森の実りを食べ、お腹を満たしてもらいたい。
「じゃあまずは魔力を練り込んで、身体全体にまとわせるところからね。それはできる?」
俺は言われたとおり、魔力を練り込んでみた。コパンの傷を癒やすときに魔力を練り込んだから、それはできた。
そして、練り込みが終わったら身にまとわせるのだが、これが大変だった。薄赤いオーラみたいなもやが俺の拳を包むけど、そこから全身にいかないのだ。
「うぐぐ…………身にまとわせるのが……難しいっ…… ハア……ハア……」
「そうじゃなくて、グググって魔力を練り込んだら、ビューン! って出すのよ」
いつものクールな物言いからは想像できない7歳の年相応な説明に耳を疑ったが、本人は至って真面目な表情だ。擬音ばかりの説明に俺が首を傾げると、エイミーも困ったような顔になった。
「身体強化って気づいたらなんとなく出来てたから、説明が難しいのよね。練習なんてしたことないし……」
「え、そうなの?もしかして、みんなはなんとなくできるの?」
「そうだと思うわよ。練習してる姿なんて見たことがなかったわ」
「こんな大変なのに……」
エイミーは実際に身体強化をやってみせてくれたり、擬音多めの説明を繰り返してくれた。何度もトライするが魔力を身にまとわせる感覚がわからず、そしてエイミーの説明では理解しきれず、俺は溜息を吐くと、エイミーが昼食休憩を提案してくれた。
「もうお昼ね。一旦、何か食べよっか。 あ、カーリン!こっちよー!」
カーリンとコパンも合流し、カーリンが取ってきた木の実を分け合って食べる。
……はあ。全然できない。身体強化ってすんごい難しいじゃん!
みんなが簡単にできるのに自分にはできないことに焦り、俺は早く練習に戻るべく手早く木の実を口に放り込んだ。
「身体強化の調子はどう? 順調?」
「全然だめだよ。身体に魔力をまとわせるのが難しい」
俺はうまくいっていないことに苛立ちぶっきらぼうに答えたが、カーリンは俺の態度を全く意に介さず、いつものトーンで会話を続けた。
「あれ? そんなに難しいっけ? 身体中から汗が出るときみたいに一気にぶわっと魔力を出すんだよ」
「え? 身体中から汗が出るみたいに……?」
そこで俺とカーリンのイメージが異なることに気づいた。
俺は練り込んだ魔力を掌から出し、自分の身体にまとわせるイメージでいた。しかしカーリンの説明だと、身体強化とは身体中の毛穴から魔力を吹き出すイメージのようだ。
「私はそんな感じでやってるかなあ。エイミーはどう?」
「うーん、言われてみればそうかも。全身からモヤーンって出てる感じ?」
「モヤーン? 汗をかくのとは違うの?」
「あたしはモヤーンよ」
何度もエイミーの口からモヤーンなんて擬音が出てくるのがおかしくて笑っていたら、焦っていた気持ちが少し落ち着いてきた。
「そうなんだ。俺、今まで手から出して身にまとわせようとしてたからダメだったんだな」
「それだと手だけが身体強化されてるんじゃない?」
カーリンにそう言われてハッとし、俺はまた魔力を練り上げ、手に薄赤いオーラをまとわせる。
「それであの木を殴ってみて」
エイミーが近くの木を指し、俺が殴ってみると木の幹が握り拳の形に少し窪んだ。
……あれ? できてんじゃね?
「次は身体強化しないで殴ってみなよ」
最初に殴った跡の近くを殴ると、さっきよりも軽い音が鳴り全く跡が残らなかった。拳がじんじん痛い。
「手だけ身体強化ができてたみたいだね。それを全身でやればいいんだよ」
「うん! ありがとう! ちょっと前進した!」
……良かった! 身体強化できてる!
拳だけでも身体強化ができることを確認できた俺は、さっきより晴れ晴れしい気持ちになっていた。
が。
その後、夕方まで練習をしても結局身体強化できたのは拳だけだった。
……一歩進んではまた壁にぶち当たってるよ。こんなんじゃいつまでもハイス山に結晶を取りに行けない……
「オリバー、なんでそんなに落ち込んでるの? すっごい背筋が丸まってるよー」
どうやら無意識のうちに俯いていたようだ。心配そうに眉尻を下げたカーリンにそうに言われ、そしてコパンに心配そうに顔を覗き込まれて、俺は頭をぶんぶんと左右に振った。
「身体強化を早くできるようになって、ハイス山に、あのエーバーを倒すのに使った結晶……苦結晶を、取りに行きたいんだ。石けんを作りたいんだけど、あの結晶が必要でさ」
そう言えば、二人には何を作りたいか話したことなかったな、と苦笑しながら話すと二人は顔を見合わせて首を傾げた。
「ああ、あの苦結晶ね。でも、石けんなんてどうして作るの? 家にあるものを使うのじゃだめなわけ?」
「あれは服を洗ったり、油で汚れた皿を洗うのに使ってて滅多に使えないだろ? それに全然いい匂いじゃないし……俺が作りたいのは、身体を洗う石けんなんだ」
家にある液体の動物性石けんは、きつい匂いがする。だから、それで身体を洗いたいとは思わなかった。
眉根を寄せ、「うちに何か不満でも?」と言いたそうな顔をしているエイミーにそう返答すると、今度はカーリンが不思議そうな顔で俺を見る。
「最近のオリバーってなんだかきれい好きだよね。どうせすぐ汚れるんだから別にいいのに」
可愛らしい笑顔でカーリンはそう言うけど、磨けばもっと可愛くなると思う。
強くて頼りになるエイミーも、いつも優しいカーリンも、元が良いのにもったいない。と考えているときに俺はあることを思いついた。
……この二人に取ってきてもらえれば早いんじゃないか?
女の子にあんなに遠い山に行かせるのは申し訳ないが、正直、この二人の方が俺より強いし体力もある。石けんの素晴らしさを伝えれば、協力してくれるかもしれない。ここは恥を忍んで駄目元でお願いしてみよう!
「今でも十分可愛いけど、カーリンもエイミーもさらに可愛さに磨きをかけたいと思わないかい?」
二人はきょとんとした顔で俺を見ているが、怯まず畳み掛ける。
「水浴びだけだと、どうしても身体にベタつきが残るでしょ? それに汚れも取れにくいし。でも石けんを使えばツルツルになるんだ! エイミーもカーリンも、もっともっと可愛くなるよ」
照れ笑いをが浮かべたカーリンは、笑うのを我慢している顔になってるエイミーと顔を見合わせた。彼女たちの背後では尻尾がふわふわと嬉しそうに揺れているのが目に入る。
……よしよし、ちょっと心が揺らいでるぞ。
「それに、俺が作ろうとしている石けんから、髪をツヤツヤにする液が作れるんだ! カーリンのその若葉色の髪も、エイミーのその濃いクリーム色の髪も、ツヤッツヤに艶が出て! サラッサラになるのさ!」
俺が笑顔でそう言い切るとカーリンとエイミーはお互いの髪をじーっと見合って、「これがサラサラに……?」「これがツヤツヤに……?」と言い合っている。
きっと二人とも、パサパサな髪で今まで生きてきたから、どうなるか見当がついていないかもしれない。だけど、使ったらきっとシャンプーなしの生活はできなくなると思う。
「もしよければ、ハイス山で結晶を取ってきてくれない? もちろん二人の分も石けんを作るからさ!」
そう言い切ると、カーリンは勢いよく手を挙げた。
「わたし、取ってくる! ツヤツヤサラサラになりたい!」
「そ、そこまで言うなら良いわよ。まあ、まだあんた一人には行かせられないし? あたしとカーリンで行った方が早いし? 別におだてられたから行くわけじゃないからね!」
カーリンは目を輝かせ尻尾をブンブン振り、一方でエイミーは毛先を指でくるくるさせながら了承の返事をくれた。エイミーの尻尾もふわふわ動いている。結構乗り気なようだ。
「ありがとう、二人とも。俺も頑張って作るよ!」
……ご協力、ありがとうございます!
これで苦結晶は近いうちにゲットできるだろう。そして今日、小休憩しているときにエイミーから、油の取れるパルメの実の場所を教えてもらった。これでいつでも取りに行ける。さあ、あとは消石灰か貝殻だけだ。
……貝殻なら砂浜に行けばあるかな? でも砂浜かあ。
むーんと頭を抱えていると、隣で二人が山に行く日取りを決めていた。どうやら3日後のエイミーの休みの日に行くことにしたようだ。
「オリバー、あんたも一緒に来なさい。どっちにしろ体力を付けなきゃいけないんだし、あたしたちに遅れても良いから行けるところまで走ってみなさいよ。一本道だから帰りに合流できるしね。あたしたちだけに行かせるつもりじゃないわよね?」
森で身体強化の練習をするつもりだったが、こちらを向いたエイミーの赤い瞳が俺を逃さないと言っていたので「もちろんですぅ!」と答えるしかなかった。
……はあ。でも良かった。これでそんなに焦らず身体強化の練習ができるよ。石鹸作りと身体強化の練習、両立できるかな?あ、家の手伝いもやらなきゃ。コパンの魔力コントロールもあるし……俺、結構忙しいかも?
つやっつやのさらっさらになりたいカーリンとエイミー。
彼女たちもノリノリです。




