幼馴染に耳掃除してもらったけど、下手すぎたので俺が代わりに幼馴染の耳を掃除してあげた
「せ~ので、一緒に捲るのよ? 良いわね?」
「ああ、問題ない」
プライドを賭けた闘いが今始まろうとしていた。決着は一瞬でつくだろう。
ふふふ、残念だな我が幼馴染よ。俺に敗北はない!
「「せ~の!」」
お互い勢いよく答案用紙を捲る。
「うそ……でしょ……」
幼馴染が目を見開いていた。
無理もない、俺の答案用紙に記載されている数字は三桁なのだから。いくら点数が良くても引き分けにしかならない。
一方、幼馴染の答案用紙には記されているのは二桁数字の98、これにより俺の勝利は確定した。
「ハッハッハッー! 俺にテストで勝負挑もうなんて百年早い」
「もう! 絶対勝てると思ったのにぃ~」
「約束、覚えてるよな?」
「うぅ……わかってるわよ…」
「お前が言い出したんだぞ? テストの点数が高い方の言うことを低い方がなんでも聞くって」
「……」
幼馴染は顔を真っ赤っ赤にして俯いている。よほど負けたことが悔しいのか、ブルブルと小刻みに体を揺らしていた。
だめだめ、いくら悔しがったって敗者の屈辱はしっかりと味わってもらわないとな!
「ねえ、どんな気持ち? 自分からふっかけておいて返り討ちにされるのってどんな気持ち?」
俺は幼馴染の顔を覗きこみ、煽りの文言をふんだんに使ってこれでもかと焚き付ける
「……」
ちっ、無反応か。まあ、いい。何たって本番はここからなんだからな。
「さて、どんなことをしてもらおかっかな~?」
実はしてもらいたいことはもう決まっている。だが敢えて、顎に手を当てあたかもまだ考えているような仕草をする。
だって、すぐに言ってしまったらつまらないだろ?
普段俺に対してツンツンしてる幼馴染様を屈服させるいい機会なのだ。思う存分楽しませてもらおうじゃないか。
「はやく言いなさいよ。白々しい」
「おやおや? 負け犬ちゃんのくせにいい態度だなぁ。一生俺の奴隷になってもらってもいいんだぜぇ?」
「……いいわよ……それくらい……。あんたと一緒に居られるならむしろ望むところよ」
「あ? なんか言ったか?」
「な、なんでもない!」
最後の方に何か小声で言っていたよう気もするが……ま、焦らしてもしょうがないか。
「敗北したお前には俺の……」
「俺の?」
幼馴染が俺の次の言葉を待っている。ゴクリという唾を飲み込む音がこちらにまで聞こえそうだ。
「耳を掃除をしてもらう!」
「………………は?」
幼馴染が口を開けてポカンとしていた。
「いやだから、耳垢を取ってくれっていってんの!」
「それはわかってるわよ! そうじゃなくて、そんなことでいいの?」
そんなことだと? あぁ……嘆かわしい。
こいつは安眠をもたらしてくれる耳掃除の素晴らしさを何に一つわかっていないのか。
知ってるか? エステで耳掃除してもらうと結構高いんだぜ? 下手したら回らない寿司屋と同じかそれ以上の金額か請求されるんだぞ?
それなのにこいつときたらまったく……。
「いいんだよ。俺はこれが楽しみで昨日は寝れなかったんだ」
「……なによ……言ってくれればいつでもやってあげるのに……」
「え? なに?」
「うん、あんたには耳掃除が必要かもね」
さっきからブツブツとなんなんだ……。
「それより早く、ほら」
幼馴染がベッドに腰かけて、膝をポンポンと叩いていた。
あ、こいつだめだ。やっぱりわかってない。
どうせ膝枕で俺の耳垢を取ろうとしてるんだろ?
だいたい、横向きに寝たら耳垢が穴の奥に入っちまうじゃねーか。
せっかく痒みを取るための耳掃除なのに、そんなことをしたら余計に痒くなってしまう。
何より許せないのが、耳掃除を膝枕のおまけにしようとしている点だ。
確かに、女の子が膝枕で耳掃除してくれるサービスは存在する。
だが、そういったサービスを提供する店には耳掃除が目的で行くものではなく、膝枕をしてもらうために行くものなのだ。
エステに比べ大分安いものの、耳掃除の快感味わうことはできないだろう。
ちなみに俺はそういう店には行ったことがない。ないったらない!
ミミカキストである俺が求める耳掃除というのは、そんな性的に満足感を得るためものではない。
痒みから解放されると同時に耳穴の異物感が消えてスッキリする耳掃除だ。
「膝枕なんていらん。それは邪道だ」
「え? じゃあどうすればいいのよ?」
「俺がリクライニングの椅子に座って、お前が横から耳掃除するんだよ。これだからゆとり世代は困るんだ」
「うっさいわね。ゆとり世代関係ないでしょ。しかも私ゆとり世代じゃないし。……ていうか、耳かきどこにあるの?」
「ああ、そうか。ちょっと待っててくれ」
俺は勉強机の引き出しから耳掃除グッズを取り出す。スタンダードなものからマニアックな物まで。
まず、基本となるのが竹製の耳かき。
こちらは梵天が付いているごく一般的なもの。耳垢を取り終えた後の梵天は非常に心地よい。
竹製のものは大量生産された安物もあれば職人技が光る高級品まで様々なものがある。
しかし、耳垢を掻き出すという性能面ではそれほど差はないと言っていいだろう。
次は金属製の耳かき。
こちらは性能面を重視したものだ。この金属製には竹製の耳かきと同様の返しのついたベーシックなスプーン型、螺旋状になっているスクリュー型が存在する。
機能面では申し分ないのだが、金属製の大きな欠点が存在する。固い。とにかく固い。
耳の穴は非常にデリケートであるため、力加減には細心の注意が必要だ。力を入れすぎてしまうと、傷を付けて出血してしまうことだってある。
そして何といっても綿棒だ。これは欠かせない。
綿棒の種類は多様だ。凹凸のあるものや、赤ちゃん用で先端が通常より小さいもの、果ては綿の部分に糊が付いた粘着式と呼ばれるものまで存在する。
「好きなものを使ってくれ」
「ちょっと……なによこれ?」
幼馴染があまりの道具の少なさに困惑していた。
こればっかりは仕方がない。学生である俺にはこれ以上は無理なのだ。小遣いにもバイト代にしても限界がある。
「すまん、これしか取り揃えられなかった」
「いやだから、どれ使ったらいいか全然わかんないだけど?」
「何だって? もうちょっと大きな声で言ってくれないか?」
「あぁ~、もう!」
幼馴染は悩んだ末に、竹製の耳かきを手を伸ばした。
うむ、正解だ。ここで金属製の耳かきや綿棒を選んだら俺は幼馴染を怒鳴りつけていたことだろう。
金属製の耳かきを使うのは耳の穴の様子を見てからだ。
これは人によりけりなのだが、耳をかきすぎて炎症になっていることがある。
そんな人にいきなり金属製の耳かきで引っ掻いたりなどしたら激痛が走ってしまう。
そして綿棒だが、こちらは初っぱなに使用すると耳垢を奥に押し込んでしまうのだ。故に、使うのならある程度耳垢を取った後でないといけない。
「入れるわよ」
時と場所によっては変な妄想をしてしまいそうな言葉ではあるが、別に卑猥な意味ではない。耳かきを耳の穴に入れるという意味だ。
ゴソ……ゴソ……ゴソ……。
やはり人からしてもらう耳掃除はいい。
耳の穴は自分で見ることはできないし、痒みを頼りに自分でほじくるよりも断然精度が違う。
ゴソ……ゴソ……ゴソ……ガツッ!
「いって!」
「ご、ごめん!」
「気を付けろ、ヘタクソ」
「悪かったってば!」
次やったらたたじゃおかないんだからね!
ゴソ……ゴソ……ゴソ……。
ふむ、いい調子だ。このまま、このままでいい。
ゴソ……ゴソ……ゴソ……ガツッ!
「いぎゃああああああああああああ!!」
「うわぁ!」
おい! しれっと耳かきを離すんじゃない!
「ひぃいいいいい!」
幼馴染の手から放たれた耳かきは、俺の耳穴深くに侵入してきた。
慌てて耳かきを掴み、耳穴から摘出する。
危うく鼓膜に穴が空くとこだった……。
「気を付けろって言っただろうがぁ~!」
「ホントごめん!」
「もういい!」
まだ耳穴がジンジンする……。
こいつには耳掃除の真髄を教えてやらねばなるまい。話はそれからだ。このままでは聴覚を失いかねない。
「ね、もっかいやらせて? 今度は先っちょ、先っちょだけしか入れないから!」
この期に及んでまだそんなことを……。
「座れ……」
「え?」
「いいから座れ!」
俺はさっきまで自分が座っていたリクライニングの椅子に幼馴染を座らせる。
「お前が耳掃除のハイパーウルトラ初心者であることは理解した。よって俺が手本を見せてやる」
「耳掃除ぐらいで何熱くなってんのよ。馬鹿じゃないの?」
「馬鹿は貴様だ! よしわかった、お前を耳掃除の虜にしてやる!」
「私はあんたの虜だけどね」
「ん?」
俺は洗面所に行き、タオルを取り出す。そして、人肌より少し暖かい温度のお湯でタオルを濡らした。
濡らしたタオルは固く絞る。万が一耳穴にお湯が入ってしまったら大変だ。
幼馴染のいる部屋に戻り、幼馴染の耳にタオルを当てた。
「ふぁ、あったかい……」
まずは耳を暖めて血行を良くする。これは重要な作業だ。円滑に耳掃除をするためにリラックスをしてもらうのだ。
それだけではない。耳垢というのは、耳穴だけではなく穴の周りにも溜まる。タオルは周りの垢を拭き取る役割も兼ねている。
一通り拭き終わった後は、竹製の耳かきで耳のツボを押す。
耳はツボの宝庫と言っていい。身体のあらゆる部分に効くツボが集まっているのだ。
自分でそのツボを押すのは難しいが、こうして第三者に耳掃除してもらう時に押してもらうのが丁度いいだろう。
「あんたさっきから何をやってんの?」
「ツボを押してるのさ」
「ツボ?」
「そら! ここがダイエットに効くツボだ」
「マジ! もっと押して!」
「まあ、お前はモデルみたいにスラッとしてるから必要ないとは思うけどな」
「なによ……照れるじゃない……」
ツボ押しの次は皆さんお待ちかねの耳垢取りだ。
気持ち良く耳垢を取るコツはひとつ。耳穴の奥にある耳垢は取らない。取ろうとしないだ。
耳垢は全て取り除かなければならないと思われがちだが、そうではない。
耳穴はベルトコンベアのようになっており、奥にある耳垢は新陳代謝よって自然に排出される。つまり、取る必要は全くない。
耳垢は耳穴の入り口近くのものだけ取ればいい。むしろ奥の部分は神経が集中しており、変に刺激すれば耳を痛めてしまう。さっきの俺の様にな!
「入れるぞ」
またしても、時と場合によっては……以下略。
ゴソ……ゴソ……ゴソ……。
「ひぁ、なんかくずくったい!」
ゴソ……ゴソ……ゴソ……。
「ふぁ~、なんか眠くなってきちゃった」
「いいぞ、そのまま寝て」
「嫌よ、あんた寝てる時に変なことするでしょ」
「しねーよ」
「したっていいのに……」
「寝ぼけるのはまだ早いぞ」
「聞こえてたの!?」
幼馴染の耳はイケイケの女子高生ということもあって綺麗に手入れされていた。
しかし、粉上の耳垢はまだ残っている。これは取っておかなければ後々痒みの原因となってしまうだろう。
ゴソ……ゴソ……ゴソ……ゴソ……ゴソ……ゴソ……。
右耳完了っと! えっと次は左耳だな……。
「すぅ……すぅ……すぅ……」
うわ! こいつさっきまで寝るのが嫌とか言っときながらもう寝てやがる。
ハハハハハハ! どうだ俺の耳掃除テクを思い知ったか! あまりの凄さに言葉も出ないみたいだな!
まぁ……寝てるんだから当然なんだけどね。
幼馴染には起きる気配がない。まったく……しょうがないやつだな。
幼馴染に毛布をかけてやる。まだ耳垢が取れていない左耳も起こさないように静かに掃除してやった。
………………
…………
……
「むにゃ……もう終わったの?」
「ああ、お前が寝てるうちにな」
「それで、私に何かした?」
「してねーよ!」
俺のことどんな奴だと思ってるんだこいつ。
「ねえ、これじゃあ私だけが得しちゃってるじゃん?」
「まあ、そうだな」
実際、俺がこいつを極楽へ導いただけだしな! えっへん!
「このままだと私の気が済まないから、私が耳掃除より気持ち良いことしてあげる」
「へ?」
「でもね、それはあんたの協力があればもっと気持ち良くなれるものなの。ねぇ、今から二人でしてみない?」
ほう、そうきたか。
最後まで読んで頂きありがとうございました。