1話:真夜中の声
こんにちは、よろしくお願いします。
真っ先に家に帰ってアイスを食べるつもりだった。
冷たい乳脂成分多めのバニラアイスを頬張り、至福のひとときを過ごす。
のはずだったのに…。
天津響は自分はビル陰に座り込むように頭を抱え、状況を整理していた。
☆☆☆
その日は予想以上に仕事に時間がかかってしまい、気づいたら月が空高く、明るく輝いている時間だった。
「こんな遅くまで残業なんて」
トボトボと乳脂肪分多めのバニラアイスの入ったコンビニのビニール袋を片手にアパートへと向かう。
明日も仕事だと思うと憂鬱だ。
だけど気持ちは前向きに、明日はなんて言ったって華の金曜日!
薄暗い夜道を歩くと、微かに歌声が聞こえてきた。
「~月が満ちるころ、星たちは君だけを照らす♪」
こんな真夜中に声がするなんて、恐怖案件だが、ふしぎとその声を聞くと落ち着く。
響は思わず目を瞑り、耳を澄ました。
そしてコンビニのビニール袋を片手に、耳を頼りにしながら声のほうに近づいて行った。
こんな真夜中に、こんな綺麗な歌を歌うのはどんな人だろう?
ふらり、ふらりと声をもとに歩いて行けば、徐々に声の音量が大きくなっていく。
先ほどの声はどうやら二人組だったようだ。
声が重なり、さらに美しい音色を奏でていた。
あまりに夢中に聴いていたから目の前のものに気づかなかった。
『むにゅっ』
変な効果音と感触で目が覚めた。
「へっ?」
異様だ。
半透明の壁のようなものが目の前にある。
思わず壁を押すと、むにゅっと反発するようだ。
ーおかしいな…。今日はお酒飲んでいないと思うんだけど。
響は思わず自分の額に手を当てたが、当然熱もない。
とりあえず、壁の不思議な感触と堪能しながら、耳を澄ます。
どうやら、この奥に声の持ち主がいるそうだ。
だが…
「ふー、とりあえず行けるのはここまでね」
おもしろい感触の壁も触れ、帰ろうとしたところ、触っていた壁の手がズボッと呑まれた。
「ギャッ!?ちょっと待ってー」
足を踏ん張り、呑まれた手を引き抜こうとしたが、徐々に腕まで引き込まれている。
グググッと身体は力に対抗できず、響は諦めた表情で壁を見た。
もうどうにもなれ!と響花は目を瞑り、全身を壁を預けた。
☆☆☆