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Shikigami Online  作者: 九尾
9/15

始まりの町3

今回、母親とお母さんや父親とお父さんといった違いがありますが、わざとです。

読みずいかもしれませんがご了承ください。

いつものことですが、誤字脱字などありましたらご報告お願いします。

 両親が死んだ。雨が降りしきる夜。従妹と遊んでいた俺の下に泣きながら、父親の姉である由美おばさんが走ってきてそのことを伝えた。

 父親の親戚の家に遊びに行っていた俺の下にその知らせが届いた。当時小学生だった俺は何を言われているのかわからなかった。


「おばさん。何言ってるの?」


「お父さんが、勇一朗が事故で亡くなって……」


 おばさんはそこまで言うと顔を手で覆って泣き崩れた。立ち上がった俺は座ることもできずただ茫然としていた。なぜか涙は流れなかった。



 しばらくして少し落ち着いたおばさんから話を聞いたが、両親が崖から落ちて亡くなったことだけしか当時の俺にはわからなかった。正直あの時のことはあまり覚えていない。気づいたら俺は礼服を着て両親の葬式に出ていた。二人のために集まった人は多かった。

 崖から落ちた車から両親は発見された。しかし、その時には二人ともなくなっていた。車からは俺のために買ってきた遊具が積んであったみたいだった。


「おかあさん、おとうさん……」


 葬式の時二人が並んで棺に入っている様子を見ても、涙は流れることはなかった。すべてが終わり二人は遺骨になり、俺と叔母が何年か前に亡くなっていた祖父母と同じ墓に二人を入れた。

 自分の家に帰ったとき、ただいまと言っても誰も返事を返さなかった。この時俺は初めて両親が亡くなったことを理解した。この時ようやく涙が出た。俺は泣き疲れて眠るまで泣いた。


 次の日、部屋から起きた俺を迎える人はいなかった。俺はまた泣いた。母親が使っていた布団を抱きかかえ、俺は閉じこもるように両親の部屋に引きこもった。布団には母親のにおいが残っており、布団にくるまると母親に抱かれているように思えた。

 どれくらいそうしていたかはわからないが、泣きすぎてのどが痛くなってきたときインターフォンが鳴った。俺は両親が帰ってきたと思った。きっと帰ってきたんだとおもった。

 何度も転びながら走って玄関へ向かい、ドアを開けた。そこには由美おばさんがいた。


「悠斗君少し出かけるわよ」


 そういって車に乗った俺は由美おばさんに連れられおばさんの家に行った。家の中からは複数の大人たちが怒鳴りあっているのか、家の外にまで聞こえる声で話し合っていた。


「あれは私が引き取ります!」


「いや、お前さんの家には大学生と高校生がいる。さらに負担をかけることもない。あれはわしが引き取ろう」


「あなたの家は田舎過ぎてあれを育てるのにも不便でしょう。私が引き取ります」


 中からは俺を誰が引き取るのかの話をしていた。おばさんに手を引かれ家の中に入った俺に、大声で話していた三人からの視線が突き刺さった。三人とも目は充血しており、前のめりで話している。どうしてか俺には三人の目が恐ろしく見えた。

 三人の中で一番若い男性が話しかけてきた。


「ああ、君が悠斗君だね。私は君のお父さんの従兄弟の健一と言ってね、君にとっては叔父にあたるんだけど。どうだろううちに来ないか?」


「抜け駆けは許さんぞ。悠斗、わしはお前の祖父の弟の玄という。お前わしの家に来んか?」


「あらあら、抜け駆けならあなたもしているじゃないですか。悠斗君私はそこにいる由美の姉の雪よ。こんな人たちはほかっておいて私のところにおいで?」


 三人は俺に向かって自分のところに来ないかと言った後、それぞれが自分の家や家族がどれほど素晴らしいかを俺を見ながら必死に語った。でもどうしてかその目は俺ではないところを見ているような気がした。

 三人の必死な様子を恐ろしく思った俺はその場から逃げ出した。訳が分からなかった。外に出てもまだ走った。あの三人から距離を取りたかった。走って、走って、走って、気が付いた時には近くの神社にいた。ここは両親とこっちに来るときは毎回訪ねていた神社だった。

 一人で鳥居をくぐるとお父さんを思い出した。


「悠斗、鳥居は神様にとって玄関なんだ。だから入るときはちゃんと神様にお邪魔しますって挨拶するんだぞ」


 お父さんはそういうと頭をガシガシとなでてくれた。あのごつごつして大きな手を思い出し俺は泣いた。泣きながら歩くと本殿に着いた。本殿の前に立つとお母さんを思い出した。


「悠斗。ここに来たらあの鈴を鳴らすの。すると奥から神様が来てくれるから二回お辞儀して、二回拍手をしてからお願い事を言うのよ」


 そういうとお母さんは僕の手に十五円を握らせた。白く細くて、なのに頼りがいのある手で。自分の手を隣に差し出しても誰も十五円を渡してくれない。俺はより一層泣いた。


 本殿のお参りが終わると、俺と両親は決まって神社の敷地内にある鳥居が並んだ場所へ行った。そこには三人の名前が書かれている鳥居が立っていたからだ。いつも三人で鳥居がそこにあることを確認してから帰るのだった。

 一人で鳥居を見に行った。何本も並ぶ鳥居の中に俺と両親の鳥居はあった。『上田勇一朗』『上田琴音』『上田悠斗』。去年来た時と変わらずそこに鳥居は立っていた。何も変わらず……


「なんだお前?泣いてるのか?」


 鳥居を見ながら泣いているおれに、声をかける人がいた。振り返ってみるとそこには体格の良い若い男性がいた。

 男性はこちらに近づくと近くの段差に腰を下ろした。


「ほら、そこで泣いてないでこっちにこい。それで、どうして泣いているのか話してみろ。話したら楽になることもあるぞ」


 俺は男性の隣に座り、今まであったことを話した。初めてあった人に話す内容ではなかったかもしれないが、どうしてかその時の俺は泣きながら男性に両親が亡くなったことを話した。


「そうか、両親が。たしかに両親がいなくなったことは悲しい。でもな、坊主。いつまでもそうやって泣き続けるのか?お前の両親は坊主が泣いているのを望んでいるのか?泣き続けてたって亡くなった人は生き返らねぇ。ならな、未来に向かって生きるのが坊主のすることなんじゃないのか?俺には坊主の悲しさはわかんねえけど、泣いてるだけじゃダメだってことはわかる。亡くなった親によくやったと言われる人間になれ。胸を張って前を向いて歩け。そうすれば多少は悲しみも薄れると思うぜ」


 俺はその時どうしてかその男性に、お母さんを重ねた。いつもお母さんは俺に言っていた。


「悠斗、胸を張って前に進みなさい。誰に何と言われても、後ろに下がるんじゃありません。過去を後悔するよりも、そのことを反省して前に進みなさい」


 俺は男性がいることを忘れて泣いた。泣いて、泣いて、これ以上泣けなくなるまで泣いて、泣き止んだとき少しだけ胸がすっとした。

 男性にお礼を言いおばさんの家に帰った。おばさんの家に着くと、家の中からおばさんが出てきて俺を強く抱きしめた。おばさんはごめんねと何度も言いながら泣いていた。俺は大丈夫と言って笑った。すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「よう坊主。ちゃんと笑えんじゃねえか」


 神社にいた男性が黒塗りの大きな車から出てきた。


「あいつらの結婚式以来だな、由美さん」


「ええ、よく来たわね。樹さん」


 これが俺の将来の父親になる人と俺が初めて会った瞬間だった。


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