始まりの町5
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にこやかに笑うジャックとは対照的に、ヴァルカンは引きつった笑みを浮かべていた。
「まあ、何だ……。仲間ができてよかったな」
「思ってねえこと言うな……」
「それよりもさっきは聞きそびれたが、あんな人気のない場所に何の用事だったんだよ」
「ああ、ヴァルカンならいいか。絶対にこのことは言うなよ」
俺はそういうとアイテムボックスからアストライヤーから貰った卵を取り出した。
「なんだそりゃ?」
「卵?」
二人とも興味深そうにまじまじと卵を見ている。
「召喚獣の卵だ。アストライヤーから貰ったんだ。ほかのプレイヤーにばれると面倒だと思ってな」
「アストライヤー様!お兄さんさすが!すごい!」
「はぁ!?アストライヤー様と言ったら十二神のなかの一柱じゃねえかよ。そりゃあ、ばれたら騒がれるか」
「まあな、ちょうどいいやここで孵化させてもいいか?」
「問題ねえよ。俺も何が生まれるか気になるしな」
「それじゃあ、孵化させるか」
そういうと俺は卵に触れた。すると『孵化させますか?yes/no』と書かれたボードが現れた。迷うことなくyesのボタンを押した。
「なんじゃこりゃ!光りだしたぞ!」
「こうやって生まれるんだな」
光が収まると卵があった場所には一人の少女が立っていた。中学生ほどの見た目で、髪の毛は鮮やかな緑色をしており、目は青色である。吊り上がった目からは気の強そうな様子がうかがえる。緑と青を基調とした美しいドレスは彼女の魅力を引き立たせ、すらっと長い足は背徳感さえ覚えさせるほどだ。
「へぇ、あんたが私の召喚主ね。私はデメテル」
なんだかそっけない態度であいさつをしてくる。
「ああ、俺はミクマリ。これからよろしくな、デメテル」
握手をしようと手を差し伸べるが、デメテルは俺が差し出した手を払った。
「よろしくするつもりはないわ。あんたは私を強くすればいいの」
デメテルはそういうと、ぶつぶつと俺に聞こえるように独り言を言い始めた。
「大体なんで男の召喚士に召喚されるのよ。それもこんなさえないやつに。あーあ、こんな奴に召喚される身にもなってよね。第一……」
まあ、この程度ならかわいいものだ。俺も特に気にしていなかったがどうやら気にした人がいたみたいだった。
「……そう、死ね」
ジャックはそういうと、いつの間にか持っていたナイフをデメテルの首に突き刺そうそうとした。
「ジャックストップ!」
慌てて俺が叫ぶと首筋ぎりぎりでナイフは止まった。気づいたらナイフを充てられたデメテルは、その場で座り込んでしまった。
「……え?……なにが?」
「……お兄さんのおかげで命拾いしたね。次おんなじようなこと言ったら……」
ジャックはそこで一度言葉を止めた。そして自分の顔をデメテルに近づける。
「本気で殺す」
その声は何にも関係のない俺が聞いても恐怖を覚えるほど恐ろしい声だった。
「もうしわけありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
デメテルはそれはもう綺麗な土下座をした。
「違う」
「え?」
「私じゃなくて、お兄さんに謝って」
そういわれたデメテルは慌ててこちらの方を向き、土下座をした。
「生意気なこと言ってすみません、私のすべてを差し上げますのでどうか殺さないでください!」
体中を震わせながらこちらに謝ってきた。まあ、俺もあんまり気にしていなかったので許そうか。
「気にしてないし、いいよ別に。それよりもジャック!勝手にあんなことしない!危ないだろ?」
「お兄さんごめんなさい」
「わかればいいから、次からは気を付けてくれな?」
「わかった」
そうして俺とジャックが話していると、土下座をやめ立ち上がったデメテルは俺の顔をじっと見つめ少しほほを桃色に染めると俺の後ろから抱き着いた。
「うわっ!何するんだデメテル!ほら離れて」
俺がそう促すがデメテルは離れようとせず、逆に強く握ってきた。それを見たジャックは真っ黒なオーラを背後からはなっている。
「デメテル?何してるんですか?」
ジャックはそういうとデメテルに近づこうとするが、デメテルは俺の体を盾にして逃げ始めた。
「……ここが一番安全だから、絶対離れない!主様の近くにずっといるの!」
なんだかデメテルの精神年齢が退行している気がする。どうやらさっきのジャックの行動が思ったよりもデメテルの精神にダメージを与えたようだ。デメテルの言葉を聞いたジャックは、顔に青筋を浮かばせながら大ぶりのナイフを取り出した。
「ほらデメテル、大丈夫だから離れて。ジャックもそんなのしまえって」
しかし、デメテルは離れようとせずジャックはナイフをしまおうとはしない。
「デメテル?もう一度言いますが、お兄さんから離れて?」
「主様、怖い鬼がいる。女の鬼だからきっと山姥だよ。ほらあんな怖い顔してる。あんな暴力女よりも私の方が何倍も使えるよ?だから主様はあたしと一緒にいよ?」
「はあ!?あなたみたいな女に何ができるんですか!お兄さんには私が必要なんです!」
「主様に必要なのは私です!」
「いいえ、私です!」
そういうと二人はにらみ合った。
そんな二人を見ていたヴァルカンは、小さな声でつぶやいた。
「女ってこっわ」
二人の能力は次回あたりに発表するのでしばらく待ってください