始まりの町4
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樹と呼ばれた男性、まあ今の父は由美おばさんの家に入るなりその場にいた三人をにらみつけていった。
「お前らはどうせ水神の名前が欲しいからこの坊主を引き取りたいんだろうが、こいつは俺が育てる。水上家の一員としてな。だからあきらめろ」
そういうと動けない三人を無視して俺の手を引き外に出た。
「悪いな悠斗。いきなりこんなことになっちまってまだ戸惑ってるだろうけど、お前は今日から俺の子供だ。と言ったって急に俺を親だと思えなんて言わねぇ。徐々に慣れていけばいいさ」
正直な話、この時点では俺はまだ話についていけてなかった。急に今日から俺が親だ、なんていわれてもこの人が誰かもまだよくわかっていなかった俺には理解できなかった。
「おじさんは一体誰?」
「そういえば自己紹介がまだだったな」
彼はそういうと俺の少し前で止まりこちらに振り向いてから言った。
「俺は水神樹。四季神グループを統括する四家の中の一つ、水神家の現当主でありお前のお母さんの琴音の兄だ」
当時の俺でも四季神グループの名前は知っていた。しかし、まさかお母さんがその血族とは知らなかった
樹さんは昔のお母さんについて俺に教えてくれた。話していると樹さんはやっぱりお母さんに似ていた。目標に向かって真っすぐなところとか、好きなことに熱中しすぎるところとかよく似ていた。いつの間にか俺は樹さんの話を聞きながら笑っていた。
「こうやって俺は悲しみから立ち上がったんだ」
俺はそういうと黙って話を聞いていた彼女を見た。
「あなたが悲しい過去を持ってるのはわかった。でも、私は裏切られたんだ!大切だと思っていた人に!お前に何がわかるんだ!誰にも裏切られてないお前に!」
彼女は泣きながら叫んだ。そんな彼女を見ながら俺はゆっくりとつぶやいた。
「……俺の背中と横腹には、刺し傷があるんだ」
「えっ?」
「俺は確かに恵まれてたよ。新しい家族ができたし、当時まだ独身だった樹さんは仕事の合間を縫っては遊んでくれた。でもな、みんなが俺が水神家に入ったことを喜んだわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
「樹さんの親戚には疎まれたんだよ。亡くなった母さんや父さんを馬鹿にされたこともあったし、陰口なんてそこら中から聞こえてきた。俺はそれに耐えた。樹さんに心配かけたくなかったし、自分が本来ならここにいるはずじゃなかったって言うのもわかってたから。でもあるとき俺は後ろから刺されたんだ」
「……誰に刺されたの?」
「庭師のじいさんだった。じいさんは水神家に入ったばかりのころにお世話になってさ、いろんなことを教えてくれたんだ。信用もしてたし、俺もじいさんを本当の祖父の様に思ってたんだ。でも爺さんは後ろから俺を刺した」
「……」
「なんでって思ったよ。あんなによくしてくれた人がどうしてって。俺は刺された後意識を失って、気づけば病院のベットで寝てたんだ。後から聞いた話だとじいさんは誘拐された孫を助けるために俺を刺したらしい。でもその時はそんなこと知らなかったから、樹さん以外の全員が敵に見えたんだ」
少女の方を見ると少女はもはやこちらをにらみつけていなかった。
「その事件の後いろんな人がお見舞いに来たけど、俺は誰とも会いたくなかった。誰かを近くにおいてまた裏切られたらどうしようと思ったんだ」
少女は目を見開いた。彼女が今感じていることと同じなのだろう。信じたくても誰も信じられない。彼女は人を信じることがトラウマになっているのだ。
「そんな中で、水神家が雇っていた一人の女性の使用人が俺によく話しかけてきた。初めは怖かったけどだんだんと彼女とよく話すようになったんだ。もう一回人を信じてみようかなと思えたんだ」
そこで一回俺は話すのをやめた。もしかしたらこの話をすることで、彼女は余計に人を信用しなくなるかもしれない。そう考えたからだった。
「……続きを話して」
俺は彼女に催促されて続きを話し始めた。
「ある晩のことだった。夜飯を食べた後、お茶を飲みながら彼女と話していると急に体が動かなくなったんだ。そんな僕を見て彼女はナイフを取り出して俺の腹を刺したんだ。その時偶然にも俺の口から叫び声が出たから俺は助かった。彼女は言ったよ。自分が水神家になるためにあなたは邪魔だって。俺はまた裏切られたんだ」
「でも、今のあなたからはそんな雰囲気が感じられない。どうして?」
「それはある女の子のおかげなんだ。この事件の後人が怖くなった俺は、家から出られなくなったんだ。でもそんな俺の下に一人の同い年の女の子が来て、俺を救ってくれた。俺は彼女に救われたから、こうして生きていられるんだ」
あの時のことは今でも鮮明に覚えている。彼女のおかげで俺はまた人を信用できるようになったんだ。だからこそ俺は彼女のために生きるって決めた。
「そう、なんだ。……さっきはごめんなさい。何も知らないのは私の方だった」
彼女はそういうと頭を下げた
「いいよ。裏切られたのはつらいけど、そこで立ち止まってはだめなんだ。僕は彼女からそう教わった」
「……わかった。もう一回人を信じてみることにする」
そういうと彼女は、僕へ向かって笑った。
【特殊クエスト】タイプ:ロア
『迷える魂と迷える少女』 クリア!!
僕の下にクエストをクリアした知らせが届いた。俺はすっかりクエストのことを忘れていた。
「まだ人は怖いけど、お兄さんだったら信用できる。だから私、お兄さんについていく」
「え?」
「私はお兄さんの言葉で救われたから、私のすべてをお兄さんにあげる」
そういうと俺の前にパネルが現れた。
【クエストクリア報酬として、特殊NPCジャックが仲間になります。特殊NPCはプレイヤーの様に経験値を稼ぐことで成長するNPCです。また戦闘を重ねることで、戦う技術も向上します】
「私はお兄さんにどこまでもついていくから、末永くよろしく」
ジャックはそういって満面の笑みを浮かべた。