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2月(中)ーー家具屋さん

 お昼は、以前にグアンちゃんから教えてもらった食堂でとった。今、この大陸では、「日本」から転移してきた女性が持ち込んだ料理がブームになっているのだが、そのうちの一つ「ラーメン」をいただきました。


 味噌ラーメンって素晴らしいね! 味玉サイコー! 


 どこの誰か分からないけど、「ラーメン」をこの世界に広めてくれた日本人に感謝である。


 我が家もそうだけど、この世界には、いろんな世界から人やモノが「落ちてくる」。そのせいか、いろんな世界の文化や技術が至るところに採り入れられている。

 統一感は無いけど、刺激的で面白いから、私は大歓迎かな?

 たまに他の異世界の人に会うこともあるけど、遭遇頻度は〈世界樹の葉〉よりも圧倒的に高い。



 さて、昼食を取ったら、今日のメインイベント「家具屋さんめぐり」だ!

 雪がちらつく中、一度、ギルド本部もある噴水広場まで戻ってから、職人街の方に向かう。

 

 リーンハルトの職人街は、同じ品物を取り扱う店が固まって一つの通りを形成している。王宮に近いお店の方が高級品を扱い、海の方に向かうにつれて、お値段がリーズナブルになっていく。


 ランプ屋の通り。

 絨毯屋の通り。

 薬問屋の通り。

 武具屋の通り。

 仕立て屋の通り。


 通りを横切るたびに、まったく違う商品が目に飛び込んできて、目を楽しませてくれる。

 

 それから、各店舗の軒下にかかっている看板も見応えがあった。

 看板は、そのお店が扱っている商品や縁のある工具などが描かれていることが多い。ランプ屋さんなら、ランプと星、本屋さんなら分厚い本とアザミの花といった具合だ。家の紋章を取り入れているお店もあるみたいで、どのお店も工夫を凝らしていた。


 リーンハルトは北海に面した街なので、オーデンよりも寒いし、風もきつい。ふわふわのマフラーに顔の半分を埋めるようにして、ウインドウショッピングを楽しみながら、家具屋さんが集まる通りに向かって歩く。


 けれども、どのお店のショーウインドウも魅力的で、ついつい覗いてしまう。


 さっきから、「あっ、あのフラスコ便利そう!」「カーテンも欲しいなぁ。」といった感じでフラフラしてばかりだ。


 このままだと家具屋街にたどり着く頃には日が暮れてしまいそうだ。


 よし、決めた。次の休みには、薬問屋街4番エリア角のお店とカーテン街5番エリアの真ん中のお店に行こう!


 自分で自分を宥めつつ、歩みを進める。



 さて、予定外に時間がかかってしまったけど、ようやく家具屋の集まる通りにやってきた。

 リーンハルトの大通りは煉瓦造りの建物が多いが、家具屋街には、木造のお店も多い。


 まずは、3番エリアと4番エリアのお店のショーウインドウを順に見て回る。ショーウィンドウを見比べて、気に入ったお店に入ってじっくりと見て回るのが王都流らしい。お客さんの方は店員さんに気兼ねせずゆっくり比較できるし、店側も買う気があるのかどうかよく分からない客さんを案内しなくてよいので、双方にメリットがあると、愛読書の王都ガイドブックでは解説されていた。


 ショーウィンドウから眺めただけだけど、机と一口にいっても、シンプルで機能性を重視したものもあれば、見事な装飾の施されたものもある。磨き抜かれた深い色合いは素敵だけど、私の部屋にはちょっと高級すぎるかなぁ。机と椅子にお給料2か月分はちょっと無理だね。


 というわけで、私は5番エリアと6番エリアの方に向かった。しかし、5番エリアにも6番エリアにも「これだ!」という机と椅子はなかった。


 さて、7番エリアと8番エリアに向かうか、もう一度5番エリアと6番エリアを見てまわるか。


 7番エリアと8番エリアは若手の職人が店を構えているエリアらしい。6番エリアまでは店舗ごとに建物が分かれていたが、7番エリアからは、一つの建物に複数のお店が入っている。上階は職人さん達が住んでいるみたいだ。

 

 悩んでいると、8番エリアの真ん中ほどあたりにある店の軒下に「新規開店」と書いてある真っ赤な幕が目に入った。看板をみると、満月と藤の花が抽象化されて描かれている。ちょっとオリエンタルな感じだけど、とても目を引く意匠だった。

 

 だけど、月も藤も、アリーセ王国で一二を争う豪商のお店の看板に使われているモチーフで、普通は一族でもなければ使用を差し控えると聞いていたけど違うのかな? 

 それに月のファーブル家と藤のフェルラン家は、商売敵なので、月と藤を一枚の看板に納めてしまったら、両家に喧嘩を売っているようなものではないのか?


 私は、ひかれる様に真っ赤なタペストリーがかかっているお店に向かった。



「いらっしゃいませ!」


 とび色の髪の女性が元気よく歓迎してくれた。20代半ばくらいかな? 通りに面した壁は全面ガラス張りだったので、外から店内を覗いていたら、「是非中に入って見て欲しいの」と店内に連行されてしまったのだ。なかなか推しの強い女性だが、しょうがないなぁと思わせてしまう誘い方で敏腕店員という感じだ。


 女性の元気な声が届いたのか、奥から作業用エプロンをかけた男性が出てきた。女性とは対照的に落ち着いた雰囲気だが、この人も20代後半くらいかな?

 男性の方は、私が女性に連れ込まれているのをみて、全てを察したようだった。



「妻が強引に連れ込んでしまったようで申し訳ありません。特別なおもてなしはできませんが、ゆっくり見て行ってください。」


 本当に申し訳無さそうにしている。


「もう、そんなんだったら、誰もお客さん来てくれないよ! ちゃんと家具をみてもらわないと、良さも分かってもらえないと思う。」


 女性がプンプン怒っている。でも、女性のいう事にも一理あるかもしれない。家具について言えば、実際に座ってみたり、木の質感を肌で感じることは大切だ。

 

 これも何かの縁だから、家具を見せてもらおうかな?


「どうぞお気になさらないでください。家具を近くで見せて貰えて嬉しいです。」


 私が言うと、女性が勝ち誇った顔で男性を見上げた。


「ほら! やっぱり間近でみたいって!」


「店員がお客様に社交辞令を言ってもらって喜んでいるのはおかしいからね。」


 男性が冷静に指摘する。なかなか愉快なご夫婦だね。

 奥様がミアシャムさんで、旦那様がアランさんとおっしゃるらしい。性格は全然違うのに、うまくバランスがとれている。雑談を交えながら、お二人に店内を案内してもらうことになった。


 「今店内にある家具は、ウォルナットのものが多いです。」


 まず見せてもらったのは、収納棚。大きな正方形の棚で、4例4段に仕切られている。奥行きもあるので、辞典や学術書もしっかりと収納ができそう。


「普段使うものですので、機能性を大切にしています。妻には遊び心が足りないと言われてしまいましたがね。」


「妻には内緒ですよ」と奥様の前で澄ました顔で付け加えるアランさん。これは、ミアシャムさんを揶揄っていますね。

 

 ミアシャムさんがアランさんをにらんでいるが、かわいらしすぎて全然怖くない。

 アランさんはそれ以上ミアシャムさんを揶揄うことなく、次の家具を紹介してくれたけど、目が笑っていた。ご夫婦仲良しさんで何よりです。

 

 

 次に見せて貰ったのは、コーナーラック。これもウォルナット。高さは私の腰くらいで、3段共に、扉がジャバラになっている。


 扉が付いていると、埃が溜まらないし、お客さんが来たときにもなにかと良いよね、と思っていると、アランさんがジャバラを開け閉めして、解説してくれた。


「ジャバラ扉なので、スペースを使わずに棚を全て開くことができるんです。出し入れもしやすいですよ。」


 アランさんの横でミアシャムさんもニコニコと頷いている。


 あれ? 棚に埃が溜まるのは私だけ? 

 もしかして、整理整頓と掃除が苦手なのはこの中では私だけ?


 「埃が溜まらなくて、いいですよね」なんて、言わなくてよかったー!



 私はごく自然に次の家具を見せてもらうことに成功した。アランさんは、他にも箪笥や本棚、それから鏡や食卓用のトレーなども見せてくれた。


 トレーはとても素敵だった。真ん中はくぬぎで、両サイドが樫らしく、釘を使わずに、木と木を組み合わせているんだって! 

 お目当ての品とは違うけど、とても欲しくなってしまった。


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