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11月(中)--お土産、またの名を密輸品


希少種アイスドラゴンの鱗

真っ白な雪豹の毛皮

透明感のあるブルーカルセドニーの原石

透明度の高いスノークウォーツを連ねたブレスレット

神秘を秘めた雪晶洞

氷雪砂漠に落ちいている謎の物質アイス・キューブ

幸運を呼ぶケルピーの金蹄

北方帝国定番のお土産! 貴婦人に人気のオーロラ布

かわいい名前のわりにえげつない威力を誇る〈雪の贈り物(スノーレガーロ)〉の短杖



 出るわ出るわ。昼食後、マリーはトランクから次から次へとお土産を取り出して私に見せてくれた。机の上に並べられていく北方帝国原産の珍しい素材とアイテムの数々。私の目も釘付けになるってものだ。


 おっと、中には普通のお土産もあるね。例えば、このアイス・キューブ。魔力を秘めているのは間違いないのだが、有効利用する方法が解明されていない。なので、氷雪砂漠を訪れた記念品オブジェ以外のなにものでもなかったりする。


 けれども、触ってみると、ひんやりと冷たく、固いんだけど柔らかい、柔らかいんだけど固いという不思議な感触だった。あとで冷蔵庫にでも入れておこうかな?


 オーロラ布は、定番のお土産といえばお土産だけど、魔力観測を妨害する効果がある。それから、こちらの雪豹の毛皮は、氷雪系の魔法耐性がとても高く、しかも保温性にも優れているので、北方帝国ではローブやコートの裏地にしたい毛皮ランキング1位に輝く素材だと聞いたことがある。


 しかし、なんといってもすごいのは、希少種アイスドラゴンの鱗だ。


「これ、輸出許可申請書類書くの大変だったんじゃないの? アイスドラゴンの鱗でしょう? よく許可がおりたね」


 アイスドラゴンの鱗は、他の竜種のそれと比べると薄く、透き通るように透明だった。コレクターとしては、何時間でも見ていられそうだ。


 しかし、続く妹の言葉に、私は素材を堪能するどころではなくなってしまった。


「えっ? アイスドラゴンの鱗ってやっぱ許可が必要なの? なんの許可?」


「えっ? 許可とってないの?」



 脳裏に鮮やかに浮かぶ「密輸入」の3文字を見ないようにしながら妹を見ると、「もしかして、ヤバい?」みたいな顔した妹と目があった。


「確認しよう。アイスドラゴンの鱗の輸出許可証って持ってる?」


 ぶんぶんと音が出そうなくらい妹が首を横に振った。


 ほぅ、持ってないと。脳内に浮かぶ「密輸入」の3文字に派手なネオン装飾が施され、存在を激しく主張してくる。仕方ない。レクチャーしてしんぜようではないか。


「……大量破壊兵器及び魔法の開発・製造等に関連する資機材並びに関連汎用品の国際取引等の規制に関する条約って知ってる?」


「もう一回お願いしても?」


「大量破壊兵器及び魔法の開発・製造等に関連する資機材並びに関連汎用品の国際取引等の規制に関する条約!」


「もう一回!」


「早口言葉じゃないんだから!!」


 とんでもなく長い条約名を2回も言わされれば息も切れるってものだ。コップに残っていたジンジャーエールを飲み干し、息を整えてから説明する。


「簡単に言うと、危ない魔道具とか魔法の材料とか技術を国外に持ち出そうとしたり、持ち込もうとしたりするときには、許可をとってねっていう法律だよ」


 ちなみに許可が必要になってくるのは、第8階位魔法くらいから上。規制にひっかかるかもしれないと思ったら指定リストをチェックしよう! 国によって指定リストが違うから注意が必要だよ。ちなみに、素材を集める錬金術師なら、親の顔よりも見た指定リストだ。

  


「あ! 幻獣及び魔獣の国際取引の規制に関する条約みたいなものか」


「そう! そんな感じ!!」


 さすがにそこは獣医のたまご。幻獣や魔獣を勝手に輸出入してはいけないという知識はきちんと持っていたらしい。ちなみに、こちらも許可が必要な幻獣・魔獣がリスト形式で指定されている。



「じゃーん! 羊さんの許可証です!」


 一枚の紙が私の目の前に広げられる。薄紙一面に精緻な雪の結晶模様の透かしが入った紙は、北方帝国チューンの公式文書、輸入許可証だった。


 まぁ、ここで輸入許可証以外が出てきたらさすがに怒るし。


―――――

輸出許可証

(幻獣及び魔獣の国際取引の規制に関する条約)


対象物:(仮称)スライム羊(未分類・未承認)

体高:70cm

体長:85cm

原産国:不明

危険分類:(暫定)E

許認可分類:指定リスト未掲載の新種


申請者:マリーセ・ジークリンデ・イーゲン(国籍:アリーセ王国)

輸出国:北方帝国チューン

輸入国:アリーセ王国

有効期限:発行日の翌日より起算して1か月以内


星巡歴1024年11月5日

北方帝国チューン 輸出管理局局長シェーン・クラート



上記、輸入を許可す。

アリーセ王国外務次官 テイラー・バートン

―――――


 

「この羊さん、新種なんだ……」


 人懐こくって温厚そうなので、新種でさえなければ輸入許可証は必要なさそうだなぁと思う。それにしてもスライム羊とはいったいなんなのだろう? ちょっと、研究させてもらえないだろうか?


 私がそんなことを考えているとも知らず、羊さんは私の部屋を探検中だ。()()()()()()ほとんど物を置いていないから、まぁ大丈夫だろう。


 「話を戻そうか。汽車に乗る前に荷物検査があったでしょう? 輸出許可証がなければそこで引っかかるはずだと思うんだけど?」


 私はまっとうな疑問を口にした。田舎のアリーセ王国ならともかく、あの北方帝国から密かに貴重な素材を持ち出すなんて、どうやったらできるのか?


「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました! なんと、この羊さんの毛はね、もこもこパワーですべての魔法を吸収してしまうのです! トリミングしたときに出た羊毛で包み込めばあら不思議、魔力が遮断されてしまうのです」



 なるほど~ それで出国時の検査でも見つからなかったんだね! じゃなくって!



「どどど、どういうこと!?」


「モフモフは最強ってことだね」


「……ごめん、意味が分からないわ」


 理解力の足りないお姉ちゃんを許しておくれ。


 すべての魔法を吸収するって、控えめに言って夢の新素材では? けれども、摩擦係数をゼロにする潤滑油、全反射を可能にするリフレクター、卑金属を黄金に変えるという賢者の石(頭のいかれた魔道具)、いかなる防御をも突き破るほこ、どんな攻撃をも防ぐ盾。夢物語だと思われていたものを作り出してきのたのが錬金術師なのだ。存在しないとは言えない。



「実際に見てみた方が早いよ。お姉ちゃん、測定器ってある?」

 

「携帯用の分ならあるわ」



 というわけで、眼鏡をかけて羊さんを観察してみました!


 

 羊さんに空中を散歩してもらおうと、〈浮遊〉の短杖を行使しようとしたところ、羊さんを中心に描かれようとした〈魔法陣〉がぐにゃりと崩れ、形をなさなかった魔力が毛皮の中に取り込まれてしまった。


「……!?」


 驚愕と納得がないまぜになった私をよそに、羊さんは上機嫌でしっぽを振っている。


 

「私には何がすごいのかよく分からないけど、アイスドラゴンも驚愕してたから、すごいんだと思う。魔法だけじゃなくて、物理攻撃も完全に吸収してくれるから、お姉ちゃんのライバルだね!」


 

 いやいやいや、こちらにおわす羊様はおそらく私の上位互換でいらっしゃいますよ。私は素早く白旗を上げた。


 


 






 あっ! アイスドラゴンの鱗を包んでいた羊毛は、私がありがたく頂戴いたしました!

誤字脱字を修正いただいた方、本当にありがとございます。

これだけあると読みにくいですよね。すみませんでしたm(_ _)m

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