11月(上)ーー妹の襲来
お客様の中に、10月(中)を見かけられた方はいらっしゃいませんでしょうか〜?
どこいった!?
11月。季節は秋から冬へと差し掛かかり、木枯らしと共に妹のマリーがやってきた。
「お姉ちゃん! 久しぶり! 迎えに来てくれたの?」
汽車が空いていたのもあるけれど、マリーは一番最初に汽車から降りてきて、私を見つけるや感極まったように抱きついてきた。超高速で〈全自動迎撃装置〉のスイッチを切ったけど、そのせいでよろめきそうになってしまった。
おぉ、妹よ。すこしばかり目方が増えたのではなかろうか……。
しかし、北方帝国に留学している末の妹に会うのは久しぶりで、こんなに喜んでくれるなら、寒い中わざわざ王都の外れの〈駅〉まで迎えに来た甲斐があるってものだね。
そして、妹のため、お姉ちゃんはなんとかその場に踏ん張ってみせた。お姉ちゃんというのは、なかなか大変な職業なのだ。
「久しぶり。よく来たね、疲れてない? あれ、なんか荷物多くない?」
久しぶりの再会を喜び、長旅を労ろうとしたら、汽車から降りてきた〈人形〉達が次から次へと妹に荷物を渡しにやってきた。ひ、ふ、み、よ。トランクが4つもあるし、それとは別にもこもこの羊が入ったケージもある。
随分と大荷物だなぁ。あのトランクにはいったい何が入ってるんだろう?
疑問が顔に出ていたのか、ちょっと目を逸らしながらも、マリーは白状した。
「えへへ? お土産買いすぎちゃった」
「えっ? これ全部お土産なの?」
さすがに散財しずぎでは? ジトっとした目つきで荷物の山を見てしまうのは許してほしい。なんせ、目の逸らし具合からするに、6桁は使っているとみた。私が仕送りした〈聖印石〉を換金したことは調べがついているのだよ。
「いや、さすがにお土産はこっちの2つだけだよ。お姉ちゃんのもあるから楽しみにしててね。あとは私物と預かり物と抱き枕」
「メエェェェェ!」
妹が言った瞬間、もこもこの羊が存在を主張する様に鳴いた。
「抱き枕……」
羊を見ながら思わず呟くと、妹は慌てて否定した。
「違う違う、その仔は預かり物だよ! ほら、前に同室のメリーさんのこと手紙に書いたでしょう? あのメリーさんから預かったの」
「あぁ、あの羊かぁ~って、やっぱり抱き枕じゃん!」
しかし、困ったな。本当はこのまま昼食をとってからあすこと荘に向かおうと思っていたのだが、これだけの量の荷物──しかもメェメェ鳴いてる羊までいる──を持ってレストランには行けない。目星をつけておいたレストランは、確か食材の持ち込みアリだったはず。確実に食材に間違われる気がする。
「お昼はレストランにでも行こうかなって思ってたけど、荷物を家に置きに行った方が良さそうだね。そうすると、お昼も家で食べた方がいいかな?」
腕時計の針と睨めっこしながら予定変更を告げると、妹は賛成してくれた。
「ちょうどお姉ちゃんの料理を食べたいなぁって思ってたところなの!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね、今からだと買い物に行ってる時間はないから、あるもので間に合わせるよ?」
けれども、妹は無邪気に喜んでくれた。
「よっしゃー! お姉ちゃんの気まぐれサンドイッチだ。」
「気まぐれって……やめなさい。とんでもなく不味そうな響きだわ」
「ええー? お姉ちゃんのサンドイッチは美味しいよ? あれより美味しいの食べたことないもの。で、何のサンドイッチになるの?」
うきうきという感じで尋ねられ、冷蔵庫の中に何が入っていたかなと考える。チーズはあるけど、ちょうどハムを切らしていたような。トマトも鶏肉もないなぁ。なんなら野菜も卵もなかったはず。妹がいる間は外食しようと考えていたからね。
しかし、ローストビーフの切れ端は残っていたはず。ということは……
「ローストビーフサンド?」
というか、選択肢がこれ以外にない。
「やった!!」
妹はガッツポーズをして喜んでくれた。
妹よ、さっきから喜びすぎである。ちょろすぎないかい? ローストビーフっていっても昨晩ちょっとしたお祝いで作った残り物だからね。端のところしか残ってないよ!
そのあたりを説明しても妹のテンションは変わらなかった。いったい普段何を食べているのか、少し心配になってくる。妹の学校って、確か、学生食堂あったよね? あぁ、学生食堂でローストビーフは出ないからか。
「普通にローストビーフとしてつまんでもいいけど、どうする?」
「絶対にローストビーフサンド!」
妹はキッパリと言った。まぁ、作るのは楽だから構わないけどね?
というわけで、4つのトランクを〈浮遊〉させ、辻馬車に乗り込むと、私たちはそのまま「あすこと荘」に向かうことにした。
◇◆◇
さぁーて、お料理の時間ですわよ! 本日のメニューは、ローストビーフサンドです!!
まず、あまりもののローストビーフを用意します!
はい、「ローストビーフが残るわけないだろう!」と心の中で吼えたそこのアナタ。正解です!
普通に食べていて、ローストビーフが残るわけがないのです。なので、食べる前に残しておきたい分を別のお皿に取り分けておいてください。それを「あまりもの」と呼べば、あまりもののローストビーフが用意できるのです。
次に、マヨネーズとウスターソースを同じ分量くらい用意して混ぜ合わせます。マヨネーズ多い派とウスターソース多い派に分かれて争うような無益なことはせず、各自がお好みの割合で混ぜ合わせましょう。ちなみに、私はソース多い派です。
そして、ローストビーフに先程合わせたソースをたっぷりとつけて、バターを塗った食パンに挟んだら完成。食べやすい大きさに切っておくと、なお良いでしょう。
あっという間に出来すぎて、料理をしたといえるのかどうか疑問を感じるお手軽さだけど、残念なことに、料理は手間暇とおいしさが正比例するとは限らないのだ。素材大事。
そして、私たち姉妹はせっかくの再会だというのに、ローストビーフサンドを食べることに没頭し、昼食を食べ終わるまで終始無言だった。サンドイッチ頬張ると、喋れないもんね。
談笑しながら、お昼ご飯を食べるはずだったのに、なぜこうなった?
いや、弁解させて、欲しい。
お昼ご飯を食べ終わったあと、午後の紅茶を味わいながら、ちゃんと談笑したから!
妹に彼氏ができて2週間で別れた話とか、メリーさんがアイスドラゴンをバグらせた話とか、とんでもないイケメンがメリーさんを迎えに来たけど、メリーさんは、はじめそれが誰か分からなくて、クラス全員で不審者扱いしてしまった話とか、それはもう色々ちゃんと聞いたから!!
そして、ひとしきり話終えると、妹はトランクを開け、中から取り出したお土産を机の上に並べていった。
さぁ、お待ちかねのお土産タイムがやってきましたよ!




